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パリ オルセー美術館『3~5歳鑑賞会』ルポ

6月16日(日)午後。今回の旅の大きな目的の1つ、オルセー美術館への訪問の時間がやってきました。研究員のYannick Le Papeさん(ヤニックさん)とお会いします。
入口前の広場にある名物の彫刻、サイの前で待ち合わせ。
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(旅の発端や訪れた先のことなど下記に記しました)

アートケアだより7月号「ロンドンとバーミンガムの博物館のお話
https://note.com/artfriend_2525/n/n780d3c8de7ec

フォンダシオン・ルイ・ヴィトン『ファミリー・フェスティバル』ルポhttps://note.com/artfriend_2525/n/nda7a4b4cd3f2

オランジュリー美術館 『0~2歳鑑賞会』『3~5歳ダンス鑑賞会』ルポ
https://note.com/artfriend_2525/n/n12327df4d203  

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昨年、連絡をいただいた時は、遠い日本で小さな活動をしている私にオルセーの研究員さんが連絡をくれるなんてホントかしら…と慎重にやり取りを始めたのですが、とてもとても親切で丁寧な方でした。連絡をくださったこと、そしてお会いできたことに大きな謝意を持っています。

ヤニックさん「ようこそ、Megumi!ようやくお目にかかれましたね!」
冨田「メールではたくさんのやり取りをありがとうございました! 心配で色々お尋ねしてしまって…」
ヤニックさん「大丈夫ですよ。こちらこそやり取りに感謝します」
…挨拶やら何やかや…

ヤニックさんと!
奇しくも二人ともクリアブルーを身につけていました

ヤニックさん「オルセーは初めてですか?」
冨田「20年数年ぶりです」
ヤニックさん「オルセーも改装してどんどん変化しているので、また違った発見をしていただけると思いますよ」

広くて賑やか。館内の中央は大きな吹き抜け構造です。天窓から降り注ぐ陽光のきらめきが、館内を一層、華やいだ雰囲気にしています。
吹き抜けの周りをぐるりと囲む形で、何十室も展示室があります。

鑑賞会 天窓の光で明るいこの回廊を巡ります

オルセー美術館では『3~5歳鑑賞会』を見学します。
印象派の作品を展示している美術館で、子どもたちはどんな様子だろう?

オランジュリーとオルセーは系列の美術館です。午前、オランジュリー美術館で『0~2歳の鑑賞会』を担当していたSandra Beaufilsさん(サンドラさん)が、午後のオルセーの鑑賞会も担当していました。お互いびっくり、再会にハグ!

オルセーでは研究員のヤニックさんが、鑑賞会に同行して説明してくださったので、さらに詳しく知ることができました。
これら鑑賞会の内容はサンドラさんが考案されたのだそうです。

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『時間旅行』をテーマに展開

子どもたちと家族は、入口付近のソファスペースに集合。
そこにクラシックな大きい旅行カバンと時計を持ったサンドラさんが現れます。

カバンから、何が出てくるでしょう?!

ヤニックさん「ご存知の通り、オルセー美術館は『駅』を改造して作られました。そこでこの鑑賞会では『時間旅行』をテーマに構成しています」

0~2歳の鑑賞会も芸術的な展開でしたが、ここでのサンドラさんは、パフォーマーのごとき素養をさらに発揮されていて、ツアー自体が演劇的!
子どもたちを惹き込み、作品と連動した様々なヒントを投げかける力量は、本当に素晴らしいものでした。

子どもへおおらかな対応

世界中からたくさんの人が来館している、そして国宝級の作品が手の届くところにある。
そのような中で小さい子どもたちの鑑賞会を実施し、子どもたちに小物を渡す。
万一、投げて当たっても作品に影響しない素材で作られていますが、日本の美術館ではあまり歓迎されなさそうな方法です。
(実際、ご依頼いただいた鑑賞会で「子どもたちに小さなぬいぐるみを持ってもらって一緒に鑑賞させてあげたい」と提案した際「それはちょっと…」と。そんなこともありました)

さらに鑑賞会中、展示室で飲み物を飲んでいるお子さんが!
冨田「展示室で水分を飲んでOKとしているんですか?! 
ヤニックさん「子どもですからね、鑑賞会の時は良しとしています。それに、美術作品に異物がかけられる事件が多発して以来、オルセーでは国宝作品を保護する整備をしたので大丈夫です」

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小さな子どもたちが、作品に触ろうとしない

冨田「パリでいくつか見学した鑑賞会では、子どもたちが作品に触ろうとする様子がないのですが、それはなぜでしょう? 日本だと鑑賞前にガイダンスして、触らないよう伝えないと触ってしまう子が多いのですが」
ヤニックさん「そうですねぇ。特に注意しなくても、皆、さわらないということが当たり前になっていますので」
なんとなんと。美術鑑賞やマナーについてなど、幼少期から経験値が違うのでしょうか。それとも世界に名だたる美術館の鑑賞会に来るようなご家族だからなのか?! 

今回は何箇所かで30~40名ほどの子どもたちの様子を見ただけですが、フランスの子どもたちは1~2歳の頃から親子の間に程よい距離感が存在している、という印象を受けました。
以前に2度、フランスを訪れた時も(3歳から12歳の子が通う私立の学校の見学もしました)そのように感じました。今回は子どもたちの様子を、同じ「鑑賞会」という場で見ることで、より明確に日仏の子どもたちの違いを感じました。
ただ、参加者はフランス人とは限りませんよね。フランス語で実施されますが、旅行で来た家族も参加しているかもしれません。もっとたくさん見てみないと、はっきりしたことは言えないと思います。

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ヤニックさん「この鑑賞会は、混雑しない2Fの回廊エリアを回ることにしているんですよ」
冨田「そうでしたか。ここは明るくて開放感があるし、気兼ねなく歩いたり体を動かすことができて、子どもの特性に合っていますね

そう、子どもたちにとって、絵が並んでいる、暗~い部屋(作品保護上、照度を落とす必要がある)で長時間過ごすのは、結構しんどいです。でもここなら明るくて見通しがよく、ワクワクします。万一、触っても影響の少ない彫刻作品が多いのも安心です。

絵画を観る機会もしっかり入っていて、回廊エリアから絵画エリアへ入ってすぐの場所にある絵画作品を、前半と後半、3箇所で見る機会がありました。

絵画エリア

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鑑賞の手がかりは『五感』を軸に

たまたま鑑賞した美術館で共通していたのか、パリの美術館ではその傾向なのか、そこはわかりませんでしたが、この鑑賞会でも構成は「五感」を意識したものでした。

レリーフを前に、マラカスなど小さな楽器を子どもたちに渡し、音感と繋げて鑑賞する。
彫刻を見て、親子で手をつないでダンスする。
海の音は聞こえる? 聴覚との連動。
花の香りは? 嗅覚との連動。
彫刻の弓を射るポーズを模して、向こうへ移動させる楽しい展開。

レリーフ前で楽器
さぁ、弓を引いて・・ピューン!

『シェラザード』が描かれた作品の前では、絵のような衣装や宝石を身につけて、子どもたちを絵画の世界に誘います。
身につけたら「後ろを見て。鏡があるでしょう。見てみましょう」と、別な展示作品、19世紀の鏡台に自分たちを映し出して見るという、舞台のような場面もありました。
五感、絵画と彫刻、それらのバランスの良い構成、本当に見事です。

シェラザードの世界へ
宝石をつけ、布を身に纏って
鏡に映して見る

何より、作品がどれも本当に素晴らしい!!
それはそうですよね、天下のオルセー美術館ですもの。
鑑賞の観点をバランスよく構成できる、多彩で力がある作品ばかりなんです。

もちろん、作品の素晴らしさだけでは良い鑑賞会にはならないわけで、プログラムを考案し担当するサンドラさんの高い力量あってこその鑑賞会です。

子どもたちをどこに誘うか、何を経験してもらうか、作品を鑑賞するときに手掛かりとなる「観点」は何か。それらを明確に意識した構成でした。

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最後に、鑑賞会に参加した子どもたちに、見学させてもらったお礼にと、折り紙で作った「パタパタ鶴」をプレゼントしました。尻尾を引っ張ると羽が動く折り鶴です。
「オレンジをもらったんだけど、緑に替えてもらってもいいですか?」という子もいて、日本の子どもたちと変わらない~! ご家族も喜んでくださってよかった!嬉しく交流させていただきました。

パタパタ鶴
喜んでいただけました

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活動について、希望を持つことができました

私の活動についてここに書くのは失礼を承知で、感無量だったことがあるので少しご報告します。

冨田「私が手がける鑑賞会では、赤ちゃんと子どもたちが興味を示したアート作品について、発達と作品について解説します。つまり、あらかじめ実施者が決めた作品を観る、というスタイルではないのですが、そのような手法で鑑賞会を実施している方は他にいらっしゃいますか?」
ヤニックさん「いえ、いませんよ。どの美術館でも、あらかじめ決めた作品を鑑賞します。オーストラリアの大学と美術館が研究した鑑賞会のほかは、世界でそのような手法での鑑賞会はないようです
冨田「乳幼児の鑑賞会は、いつどこで開始されたのでしょうか」
ヤニックさん「2010年にアメリカで実施されたのが初めてです」

そうだったんですね。私が始めたのが2012年。比較的早い時期に実施していたんですね。
その頃は、鑑賞会について日本や世界でどんなふうに行われているか、全く知らずに、「子どもたちは赤ちゃんの頃から、見たことや自分の興味を周りの人に伝える。それを周りの人が適切に応答することで、赤ちゃん、子どもたちの育ちを後押しできる」という、ワークショップで確信していた経験をベースに鑑賞会を開始したのでした。

流れのままに干支一回り実施して、このようにオルセー美術館の研究員さんとお目にかかったり、海外の鑑賞会を訪れることになるとは、思いもよらなかった。
そして今回、その手法は独特な方法であると知りました。日本から世界へ発信し、何か貢献できるプログラムになり得るのでは。そんな展望、希望を持つことができました。

サンドラさん、エバさん、ヤニックさん、暖かく向かえてくださって、そして色々とお世話になり、ありがとうございました。とても有意義な時間でした。
日本の子どもたちに、どうアートと出会ってもらおうか、自分はどんな貢献できるか、また楽しみに励もうと思いました。

オルセーの大時計
これからも人々を見守り続けてくれそう
今年は印象派150年の記念年でした

オルセー美術館 https://www.musee-orsay.fr/fr

(写真撮影び掲載について美術館のご担当者様に許可をいただいております)


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