学生時代の研究の話 〜大学院編〜
プロフィール(自己紹介)でも書いたが、私の学生時代は大学院まで続いた。正確には大学院(修士課程2年+博士課程1年)の計3年間である(訳あり博士課程を1年で中退した)。
高専(通常課程5年+専攻科課程2年)では、卒業研究として、有限要素法を用いた軟鋼特有の不均一変形のモデル化(評価)に取り組んだ。
今回は大学院(3年間)で取り組んだ研究について書くことにする。
研究テーマについて
大学院では、ナノスケール空隙(原子が数個無くなる程度の穴状の欠陥)の存在が金属結晶レベルの変形挙動に与える影響について調べた。
ここでも実験ではなくてコンピューターシミュレーションで研究を進めた。使用したのは「分子動力学法」と呼ばれるものである。
分子動力学法:
原子間の相互作用(原子間ポテンシャル)を利用して原子に対する運動方程式を立てて、それを数値的に解くことで、原子の運動を時刻単位で追跡する。
ナノスケールという微小な規模と言えど「欠陥」であることには変わりないので、物理的に悪影響を与えるのが通常の考え方である。
それに対して、脆性破壊が改善される(破壊挙動が脆性破壊から延性破壊に変わる)など、物理的に良好な影響を与える可能性があるというのが、今回の研究全体のストーリーだ。
研究背景について
この研究室は「微細粒金属」というものをターゲットにしていた。今回の研究における大前提の話である。
そもそも、金属には結晶構造というものがある(下記の図の通り)。微細粒金属とは、通常の金属に比べて金属結晶が微細化したものを指す。通常が数百マイクロオーダーであるのに対して、微細粒金属は数百ナノオーダーである。
この微細粒金属においては、従来の力学的な常識が通用しなくなる。微細粒金属の特有の傾向が現れるということだ。そのひとつが「転位」の運動である。
転位:
線状欠陥のひとつであり、これが結晶内部ですべることで、塑性変形(弾性変形が限界を迎えて不可逆的な永久変形を起こす)が開始すると考えられている。
微細粒金属では、金属結晶における転位の影響度が通常の金属に比べて相対的に高くなるため、本来の力学挙動とは異なる形で現れてくる。
それ故に、巨視的なスケールで変形を見る有限要素法ではなく、原子単位という微視的なスケールで変形を見る分子動力学法を利用する必要があるのだ。
ナノスケール空隙の影響の観察
金属は通常は多結晶構造であると前に説明したが、その破壊までの流れもいくつかのパターンがある。その代表例が「へき開破壊」と「粒界破壊」である。
これらの破壊は「脆性破壊」と呼ばれる類である。イメージとしては、学校で使われるチョークのように、外力を加えたある瞬間に一気に破壊するものである。
ここに前に紹介した「ナノスケール空隙」が存在することで、脆性破壊を抑える効果があることを研究を通して実証した。
ポイントは、ナノスケール空隙が転位の発生源・吸収源になることで、破壊の進展が結晶内部に分散されることである。粒界破壊やへき開破壊が支配的だった破壊挙動が、ナノスケール空隙の周りの変形が進むことで、結果的に破壊挙動のバランスが良くなるのだ。
ナノスケール空隙など、微小欠陥はほんの些細なことで発生する。その際の物理現象を知ることは、現実としてだいじな取り組みであると言える。
おわりに
今回は大学院時代の研究について紹介した。
鍵を握るのが「転位」の存在で、実は高専時代から名前には触れていた。当時から利用していた構成式の背景理論として理解していたが、その実態を見たくなり、転位に着目した変形理論を研究している大学(研究室)に進学した次第である。
大学院では研究発表の機会も多くあり、受賞もされたりしたので、紆余曲折ありながらも充実していた。研究以外では実験のアシスタントなど、様々な経験をさせていただき、現在に生かされている部分もある。
転位の説明はあまりせずに流してしまったが、この辺は話を始めると長くなりそうなので、また機会がある時に書くことにしたい。
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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。実際は非定期ですが、毎日更新する気持ちで取り組んでいます。あなたの人生の新たな1ページに添えるように頑張ります。何卒よろしくお願いいたします。
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