File.10 森泉智哉さん(絵画)インタビュー
――現在の活動内容を教えてください。
絵を描いて生活しています。
最近はポップなイラストっぽい作風で描いているので、マーカーみたいな誰でも手に入るような材料を敢えて使って描いています。以前はテンペラや油を使って描いていましたが、今は美術の時間で使うようなものはあまり使わないですね。
――それはなぜですか?
例えば自分の実家って選べないじゃないですか。自分が選んだ場所じゃない、本当は洋風の家が好きだけど実家は和風で、でもたまに帰ると落ち着くみたいな。今の画風はそれと同じで、居心地が良いというか、実家のようなものですね。
あちこち興味が移ってしまうタイプなので、他の良い作家さんを見て別の方法にアプローチしたりもするんですけど、結局なんか違うなと思ってまた戻ってきてしまう。その繰り返しの中でたまたま見つけた作風なんですけど、自分の好きなものやことが詰まっている場所なんだろうなと思います。
――表現の中で大切にしていることはありますか?
年齢等で変わってくるとは思いますが、今だとやっぱり自分が楽しいことですかね。
アートフェアとかに出すとやっぱり競争みたいな側面もなくはないので、ちょっと人と違うことをやらないと面白くないとか、気を遣っていた時期もありました。ただ今は、自分が好きでやっていることなので、まずは好きという部分を最大限生かすことを大事にして活動しています。
――ワークショップに参加した子どもたちも楽しそうに絵を描いていました。
子どもの頃の体験って、やっぱり大きいですよね。僕も、もともと漫画が好きということもありましたが、直接的なきっかけは小学校1年生のときに「信州子ども絵画100年展」に入選したことがすごく自信になって、絵を描き始めましたからね。
――長野県で活動されている理由を教えてください。
東京で活動していた時期もありましたので、作品を発表するという観点では長野は不利だと感じることもあります。ただ僕の場合、発表することと同じくらい制作することに比重を置いているので、制作しやすい環境というのはメリットとして感じていますね。
あと長野県はものづくりをしている方が結構いて、僕の住んでいる地域も芸術村みたいなものがあって、戦後の美術史を彩ったような方たちが沢山住んでいるんです。僕もものづくり全般が好きなので、出会いや交流の機会に恵まれていて楽しいですね。
交流の一つを通じて絵本を出版させていただいたこともありました。佐久市の仲良くしているギャラリーで、イラクの子どもたちが描いた絵を使ったチョコレート缶の展覧会を一緒に企画したのですが、そこへ来てくれた方々に読んでもらうために絵本を作り、それをたまたま見てくださった方が出版社に知り合いがいるからということで、「サラと魔法のチョコレート」という絵本を、長野市のほおずき書籍(株)さんから出版していただいたんです。
絵本自体にはすごく憧れがありますね。普通の1枚絵とは表現の仕方も全然違いますし、対象となる、自分の絵の行先みたいなものがアートとは全然違う。ギャラリーで作品を展示するよりも名前や作品が広がっていく影響力があると思います。子どもが結構好きなのでいつかはまたやってみたいです。ただ絵本は自分で出版できないので、夢の一つではありますね。
――nextには今回のワークショップがきっかけで登録されたと伺いました。
next事業が始まったばかりの頃チラシを見たことがあり、事業自体は以前から知っていましたし、すごく興味はありました。ただ、登録には至りませんでしたね(笑)
ちょっと辛口かもしれませんが、すぐに飛びつきたくなるような、例えば身近でnext展覧会のようなイベントがあるとか、そういった成果が見えていたらすぐに登録していたかもしれません。
――nextに期待することはありますか?
今回のような公共性の高いイベントはいろんな方にお会いできるし、個人で何かやるよりも影響力があるので、その辺はありがたいなと思います。ギャラリーや美術館は特定の関心のある人たちが来てくださるのですが、そうじゃない人にも触れ合えるのは楽しいですね。
期待していることは、広範囲に多様な作家を抱えていて、民ではなく官であることがnextのストロングポイントだと思うので、それを最大限に使ったイベントをやってもらいたいです。nextといえばあのイベント、というような顔になるイベントがあるといいですね。
例えば演劇公演をやるとしたら、衣装はイラストの人が描いて、音楽は演奏家が担当する、そういったいろんなジャンルの人たちで創り上げる公演になるといいですね。他にも例えば野外の芸術祭とかに行くと、作品って必ず点在しているじゃないですか。作品って一箇所で見なければいけないわけではないと思うので、nextのネットワークを使って長野県内全域で展示を行うといった可能性もあると思います。普通のギャラリーではまずできないですからね。
民間ではないから企業とのタイアップのような、企業と若手作家を結びつけることもできるかもしれません。企業さんのロビーに飾るのもかっこいいとは思いますが、商品やラベルとのコラボとか、もう少し突っ込んでもらう方が魅力的じゃないかなって気はしますね。もし作品を飾るのであれば、個人でやっているイタリアン料理のお店に月替わりでアーティストさんの作品を飾っていくとか、小さいところの方が面白いと思います。そこにアーティストさんが友達と食事に行けば、小さな交流が生まれる気もしますしね。考えればいろいろなやり方があると思います。あくまでも妄想ですけどね。
――最後に今後の活動予定とこれからの目標を教えてください。
一つは絵を描き続けて発表していくこと、これはライフワークなので継続してやっていきたいです。あとこれは絵を描くこととは別なんですが、長い間福祉関係の施設に絵画指導で携わっていて、今年も障がいのある人の作品展である「信州ザワメキアート展」のキュレーションをやらせてもらうことになっていまして、そういう発達障害とか不登校の子どもたちのアート指導にも少し力を入れていきたいと思っています。
あとこれは形になるか分からないんですけど、小諸の方で空き家を提供してくださるという方がいらっしゃって、障害のある子とか不登校の子と、そうじゃない子がいてもいいんですけど、アートやクラフトを通じて社会と繋がりを作るっていう場所を作りたいなと思ってます。そちらもこれから頑張って形にできたらいいですね。
(取材:「信州art walk repo」取材部 倉島和可奈・柄澤志保・杉木有紗・香山羊一・白澤千恵子)