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「UXリサーチのAI化」について考える

近年、人工知能(AI)技術の飛躍的な進歩により、多くの分野でAIの活用が進んでいます。特に、UX(ユーザーエクスペリエンス)リサーチの領域でも、AIを用いた新たな手法が注目を集めています。

しかし、この動きに対して業界内では大きな反発も見られます。一部の専門家は「UXリサーチは生身の人間との対話が不可欠であり、AIでは代替できない」と主張しています。

しかしながら、私は現在世の中で行われている"UXリサーチ"は完全にAIで代替が可能になると考えています。それがいつ実現するかは分かりませんが、そう遠くないうちにAI化できる日が来るのではないでしょうか。

また、本論は"UXリサーチ"そのもの定義に関する議論を避けては通れません。私たちはこれを機に「昨今のUXリサーチ界隈の事情」と、「それ以外のリサーチとの関係性」にメスを入れる必要があるかと思われます。

前提

本記事は、AIでUXリサーチができるかどうかについての抽象的な考察を述べるものであり、この記事は2024年のAIがどの程度の性能であるかという点には言及しておらず、よりプリミティブな問いとして、AIにUXリサーチが可能かどうかを考えています。

第二に、本記事では具体的な方法論については言及しません。
前述の通り、2024年のAIの限界の上でUXリサーチのAI化の話をすることと、UXリサーチのAI化の可能性について考えることは異なるからです。これはまた別途記事にします。

第三に、AIでUXリサーチができるからといって、必ずしもUXリサーチ自体が民主化されたり、難易度が下がったというわけではありません。依然として適切な問いを立てる技術や、人間の感性は重要であると感じています。
この点についても今回は言及しません。

UXリサーチのAI化に対する反発が起きている背景

冒頭にも述べた通り、AI技術の進歩により、さまざまな分野で業務の効率化や自動化が進んでいます。
UXリサーチの分野でも、AIを活用してリサーチプロセスを効率化しようという動きが出てきています。
例えば、AIを用いてペルソナを自動生成し、そのペルソナに対して仮想的なインタビューを行う手法などが提案されています。これにより、時間とコストを大幅に削減し、迅速にインサイトを得ることが期待されています。

しかし、このようなAI化の動きに対して、UXリサーチャーやデザイナーの中には強い反発を示す人々もいます。彼らは「UXリサーチは生身の人間との対話を通じてユーザーを深く理解することが本質であり、AIではその代替は不可能である」と主張しています。ユーザーの感情や微妙なニュアンス、非言語的なコミュニケーションを理解するためには、人間同士のやり取りが不可欠であるという考え方です。

「UXリサーチはAI化できない」という主張の根拠

この反発の背景には、AIに対する不信感や懐疑的な見方が存在します。AIは過去のデータに基づいて学習するため、未知の課題や新たなニーズを発見することが難しいのではないか。また、AIにリサーチを任せることで、ユーザーの真の声が反映されないのではないかという懸念があります。

「UXリサーチはAI化できない」と主張する人々は、いくつかの理由を挙げています。

第一に、ユーザーの深層心理や感情を理解するためには、人間の感性や共感力が不可欠であるという点です。ユーザーが何を感じ、何を求めているのかを真に理解するためには、直接的な対話や観察が必要であり、AIではそれが困難であるとされています。

第二に、信頼関係の構築の問題があります。ユーザーが自分の本音や深い感情を話すためには、リサーチャーとの信頼関係が重要です。人間同士の対話を通じて築かれるこの関係性は、AIとのやり取りでは形成しづらいと考えられています。ユーザーがAIに対して心を開くかどうかは未知数であり、その結果、得られる情報の質が低下する可能性があります。

第三に、創造的な洞察の必要性です。ユーザーの言葉の裏にある真のニーズや課題を見つけ出すためには、リサーチャーの直感や創造性が求められます。AIはデータに基づく分析は得意ですが、こうした創造的なプロセスには限界があると考えられています。

実はUXリサーチの目的はビジネス的なインサイトの獲得

しかし、私はここで一つ意見を投げかけたいと思っています。

もしかしてUXリサーチって、「ユーザーを理解すること」を目的にしてないんじゃない?

それは、現代のUXリサーチが実際には「ユーザーを深く理解すること」そのものを目的としていない場合が多いのではないか?という点です。

というも、多くの企業においてUXリサーチは「ビジネス的な蓋然性の高いインサイトを効率的に得ること」が主な目的となっています。つまり、ユーザー理解は手段であり、最終的な目標はビジネスの成功に寄与することです。

資本主義社会の中で、企業は限られた時間とリソースの中で、製品やサービスを市場に投入し、競合他社に勝つ必要があります。
そのため、リサーチにおいても効率性が重視され短期間で成果を出すことが求められます。
ユーザーの深い心理的な背景を探るよりも、多数のユーザーからデータを集めて一般的な傾向を把握しビジネスの戦略に活かすことが優先されるのです。

UXリサーチがビジネス的な蓋然性を追求するリサーチであることは何を意味するか

さて、UXリサーチが真に人間を理解するためではなく、ビジネス的な蓋然性の高いインサイトを効率的に得ることを目的とした場合、どのような差が生まれるのでしょうか?

人を理解するためのリサーチは、リサーチにかけた時間と理解度は比例する

まず、一人の人を完全に理解することを目指す場合、その人に時間をかけて深く話を聞くことで理解度を高めることができます。
時間をかければかけるほど、情報が集まり、理解は深まります。
かけた時間と理解度は比例します(徐々に勾配は緩やかになるかもしれませんが)
しかし、これは一人の人に特化した理解であり、他の人には当てはまらない可能性があります。

UXリサーチは、ある時点から時間をかけても”有効度”が上昇しなくなる

一方で、ビジネス目的のUXリサーチでは、多くのユーザーに共通するインサイトを見つけることが重要です。
UXリサーチはある程度したところで、それが個人特有の問題となり、大きい集団としての事実ではなくなってしまう瞬間が存在します。 一人の人間を理解することを追求していくと、個人の問題になった瞬間に、時間と有用性は反比例します。
そのため、ある程度の情報が集まった時点で見切りをつけ、一般化できる傾向やパターンを抽出します。
ここでは、一人のユーザーを深く掘り下げるよりも、効率的に多くのユーザーから情報を得ることが求められます。

リサーチの目的が理解度が有効度なだけで全然違ってしまう

UXリサーチは、一見個人の問題にフォーカスしているように見えるが、その実は統計的な趨勢を見据えています。このようなビジネス効率を重視するリサーチにおいては、一人の人間を深堀する必要がありません。
通常のリサーチではリサーチを続けるほど、人への理解度が深まるのに対し。UXリサーチはリサーチの質ではなくビジネス有用性を目的としているので、理解度がある一定の瞬間から意味を持たなくなってしまいます。

となると、これはAIの中にある膨大なデータから推論できる可能性は十分にあるのではないでしょうか。
近しいことは私だってできるわけで、たとえば経験したことないユーザーの考え方をある程度推論することは可能です。

おそらくAIが得意とする大規模データの処理やパターン認識によって十分に対応可能であり、AIによるUXリサーチの代替が可能であると考えられます。

統計的蓋然性を目指すリサーチはAI化が可能である

ビジネス的な目的を持つUXリサーチにおいて、AI化はむしろ自然な流れと言えます。具体的には、以下のような利点が挙げられます。

効率化:
AIは人間が手作業で行うよりも迅速にデータを処理できます。これにより、リサーチにかかる時間とコストを削減できます。大量のアンケートデータの集計や、ユーザー行動ログの分析など、時間のかかる作業を短時間で行えます。

客観性:
AIは感情に左右されず、一貫した基準でデータを分析します。これにより、リサーチャーの主観的なバイアスを排除できます。客観的なデータに基づいた意思決定が可能になります。

大規模データの活用
膨大な量のデータを扱うことが可能なため、より信頼性の高いインサイトを得られます。ビッグデータを活用して、ユーザーの行動パターンや市場のトレンドを把握できます。

反復可能性:同じプロセスを何度でも再現できるため、結果の一貫性が保たれます。定期的なリサーチやモニタリングにも適しています。

これらの利点を活かし、AIを用いたUXリサーチはビジネス効率を高める有力な手段となり得ます。実際、AIを活用したユーザーセグメンテーションや、チャットボットによる簡易的なインタビューなど、既に実用化されている手法も存在します。

昨今、ピュアなリサーチをUXデザインに活かそうという動き

一方で、最近ではビジネス的な効率性だけでなく、ユーザーを深く理解する「ピュアなリサーチ」をUXデザインに活かそうとする動きも見られます。これは、文化人類学や社会学の手法を取り入れ、ユーザーの生活環境や価値観、感情を深く探求するものです。

ピュアなリサーチの目的は、ユーザーの潜在的なニーズや未解決の課題を発見し、革新的な製品やサービスを生み出すことです。こうしたリサーチは時間と労力がかかりますが、その分ユーザーとの深い関係性を築くことができ、長期的なビジネス成果に繋がる可能性があります。

例えば、新興市場でのユーザーの行動パターンを深く理解し、その地域独自のニーズに応える製品を開発する。または、特定のコミュニティに属するユーザーの価値観を探求し、新たなブランド戦略を立案するなど、ピュアなリサーチは多様な可能性を秘めています。

UXデザインに⁨⁩⁨⁩活かすことを前提としてないリサーチと、活かすためのリサーチは、得られる結果が全然違う

しかしながら、これらのリサーチをUXリサーチと位置付けるには課題があります。なぜなら、ピュアなリサーチは必ずしも即座にビジネスの成果に結びつくわけではなく、インサイトを得られるかどうかも確実ではないからです。また、時間やリソースが多く必要であり、効率性を重視するビジネス環境では敬遠されがちです。

しかしながら、ピュアなリサーチの中でしか得られないナラティブに注目が集まっているのは、単なるUXリサーチでは辿り着けないインパクトを起こし得るからです。

ピュアなリサーチのAI化とUXデザインへの活用は議論の余地がある

深いユーザー理解を目指すピュアなリサーチをAI化できるか、またそれがどのようにUXデザインに活かしうるかについては、まだ明確な答えが出ていません。AIは大量のデータ処理やパターン認識に優れていますが、ユーザーの深層心理や感情、文脈を理解するには限界があります。

一方で、AIを補助的なツールとして活用し、リサーチャーの分析を支援することは可能です。例えば、自然言語処理を用いた感情分析や、ソーシャルメディアの投稿からユーザーの意見やトレンドを抽出するなど、AIはリサーチャーが見落としがちなパターンやインサイトを提示することができます。

しかし、最終的な解釈や洞察の抽出は、やはり人間のリサーチャーの役割が重要となります。ユーザーの言葉の裏にある本音や、非言語的なサインを読み取る能力は、人間ならではのものです。このため、ピュアなリサーチのAI化には限界があり、完全な代替は難しいと考えられます。

また、ピュアなリサーチをUXデザインにどのように活かすかについても、まだ十分に議論されていません。ユーザーの深い理解から得られる洞察を、具体的なデザインやビジネス戦略にどのように反映させるかが課題となります。

結論:リサーチの多様性を認め、適切に活用する道を模索する

UXリサーチのAI化に関する議論は、リサーチの本質や目的を再考する良い機会となっています。ビジネス効率を重視するリサーチはAI化によって大きなメリットを享受できますが、深いユーザー理解を目指すリサーチは、人間の感性や共感力が不可欠です。

私たちは、これら異なるリサーチ手法の特性を理解し、プロジェクトの目的や状況に応じて適切に選択・活用する必要があるのではないでしょうか。
ビジネス目的のリサーチではAIを積極的に活用し、効率的にインサイトを得る。一方で、革新的なアイデアや長期的な価値創造を目指す場合は、ピュアなリサーチを取り入れ、人間のリサーチャーがユーザーとの深い関係性を築くことが重要となります。

またAIと人間のリサーチャーが協働することで、新たな価値を創出する可能性も模索すべきです。AIはデータ分析やパターン認識でリサーチャーを支援し、人間はユーザーの深層心理や感情を理解して洞察を得る。このようなハイブリッドなアプローチによって、より質の高いUXリサーチが実現できるかもしれません。

最後に、UXリサーチの本質はユーザーのための価値創造にあると私は考えています。
ビジネス的な蓋然性を高めるためではない。そもそも真なるユーザーへの価値想像は、ビジネス的な蓋然性と同じ意味を持つのではないでしょうか?

AI技術の進歩は目覚ましいものがありますが、最終的には人間が人間を理解し、共感することによって生まれる洞察こそが、真にユーザーに寄り添ったUXデザインを実現する鍵となるでしょう。私たちは、AIの力を借りつつも、人間としての感性や創造性を最大限に活かし、より良いユーザー体験を提供する道を歩んでいくべきだと私は思います。

その他

この記事の派生とし、2つの記事を構想中です
1.AIでどのようにUXリサーチを行うか
2."ピュアなリサーチ"とは何で、それはどのようにAIで代替しうるか

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今思えば、この記事を読んだ時から始まってる気がします。

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