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帆立貝と揚物と

「食材」との出会いに刺激を受けることがある。
普段、よく食べている食材でも、市場で出会ったりすると、その姿に身構えてしまうこともある。僕にとっては、しゃこがそのひとつだった。北海道の市場で、ザルに積まれたたくさんのしゃこを買ったのだが、持ち帰ってその姿をしばし見つめて、SF映画「第9地区」を思い出してしまった…
一方で帆立貝は、どの姿にもなれ親しんでいる食材のひとつだ。
それは、たくさんの帆立貝を自分でむいて料理した経験からだろう。
旅先の市場を歩く時間が、またやってくることを願いながら、食材との出会いに思いを巡らせた。

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 近年、僕の家には年に2回、生きた帆立貝がたくさん届く。お世話になっている弁護士のI先生が、青森産の新鮮な帆立貝を一箱送ってくれるのだ。先週もiMessageで「帆立貝が届いたよ」と知らせがきた。

 夜遅くに家に帰って早速、冷蔵庫から4つほど貝を取り出してむく。僕が使っているナイフは、8年ほど前にパリのレアールにある道具屋で見つけて購入した。18年前に丸元先生の料理書を撮影していた時に、先生が使っていたものと同じ形のナイフだ。帆立貝は、丸みを帯びた方を掌に乗せて、平らな面にナイフを滑らせていき、ヒモと貝柱の部分を貝殻から切断して外していく。3つ目を開けている時に、キッチンに置いてあった貝開け用のヘラに気づいた。どうやら帆立貝と一緒に送られてきたものなのだが、使ってみるとナイフよりも素早く貝をむくことができた。これ便利じゃん。

 まずは刺身で食べることにしている。新鮮だと、とてもおいしい。内臓もできるだけ無駄にしないようにしているが、この日はヒモだけ、さっと湯掻いて刻んだミョウガときゅうりの薄切りを梅酢で和えてみた。これがうまかった。おかげで、余計に酒を飲んでしまった。

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 さて、帆立貝の一番おいしいと思える料理がコロッケだ。刺身を食べた翌日は、インド人の友人が遊びに来る日だったので、貝柱6個を使ってコロッケをつくった。丸元先生のオリジナル・レシピでは、貝柱をフードプロセッサーにかけてクリーミーに仕上げているのだけれど、包丁で細かく切っても結構おいしく仕上がる。僕は、小さなボール型にして揚げるのが最近のお気に入りだ。揚物をするのに、小麦粉とパン粉を広げるので、もう一品ということになるとあじを選ぶことが多い。あじのフライは好物のひとつ。揚げたては、また格別においしい。

 いずれも、素材に塩で味をつけているので「ソースの味で美味しくなる料理ではまったくない」と丸元先生の著書でも釘を刺されているのだが、僕は、お客さんにはソースを添えて出している。丸元レシピの味わいは、素材を活かしたシンプルで滋味深いものなのだが、なかにはそれを薄く感じてしまう人もいる。そんな人には、ちょっとだけ足してもらえばいいかなと思う。しかし、ワインを飲むなら、やはりソースはなしで食べたい、香り高い味わいの揚物なのだ。翌朝、一緒に夕食とワインを楽しんだインド人の友人からメールが来たので「いま弁当作ってる」と返信したら「I bet it would have the delicious most, you have already proved your cooking skills.」とメールが送られてきた。なんだか気に入ってもらえたみたいでよかったと思った。

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丸元淑生 オリジナル・レシピ

帆立貝のコロッケ
(『丸元淑生のからだにやさしい料理ブック 家庭の魚料理』 1999年 講談社刊より)

[材料]
帆立貝の貝柱——4個
じゃがいも——4個
たまねぎ——1個
卵、薄力粉、パン粉、オリーブ油、塩——適量

 生きた帆立貝の殻を業者がはずして、貝柱だけをパックして比較的安く売っていることもあるので、それならば、じゃがいも四個に対して貝柱を六個使いたい。もっとやわらかくてクリーミーなコロッケになり、一層甘味が増す。

[つくり方]
1.塩を加えてフードプロセッサーにかける。
2.クリーミーなペースト状にする。
3.これに先行させてじゃがいもをオーブンに入れておく。じゃがいもに竹串が通ったら、とり出す。
4.皮をむいてつぶす。
5.たまねぎを数㎜幅に切る。(細かいみじん切りにしないほうがコロッケにしておいしくなる)
6.塩を加えてたまねぎを貝柱と混ぜ合わせる。
7.それをじゃがいもに加えて混ぜ合わせる。
8.よく混ぜ合わせる。
9.丸めてコロッケの形にする。
10.薄力粉をまぶす。
11.溶き卵の膜をつけ、パン粉の衣をつける。
12.ビタクラフトの最小の鍋にオリーブ油を1㎝くらい張って揚げる。
13.2〜3度返して両面がこのくらいの色になるまで加熱。
14.皿や容器を使わず、カウンターに新聞紙を敷き、その上にペーパー・タオルを敷いて油を切ると便利。


あじのフライ
(『丸元淑生のからだにやさしい料理ブック 楽しもう一人料理』 1999年 講談社刊より)

 基本処理したあじはすぐフライにしてもよいが、ピチットで少し水気をとってフライにしたほうがおいしい。時間のないときはピチットをしておいて翌日フライにしてもよい。
 塩をしてフライにするとソースの必要がなくなるので弁当に入れるのにも、冷めたものを食べるのにもよい。そのまま食べてもおいしいからだ。あじフライというとだれにもブルドックソースという連想があるけれども、ソースの味でおいしくなる料理ではまったくない。

[材料]
基本処理したあじの身※1——適量
小麦粉、卵、パン粉、オリーブ油、塩——適量
※1:ゼイゴ、腹のトゲを落とし、内臓、エラを取り除き、頭を落としてから三枚におろし、腹骨をとった状態

[つくり方]
1.基本処理したあじの身の指に触る骨を抜く。
2.適宜な大きさに切る(2つまたは3つに)。
3.塩をふって混ぜ、撫でつける。
4.小麦粉をまぶす。
5.溶き卵につけて膜を作る。
6.パン粉の衣をつける。
7.小鍋にオリーブ油を5〜6㎜の深さに張って揚げる。魚の身がかくれる深さでなくてよい。返して両面を加熱。
8.両面にこれぐらい焦げ色がつくまで加熱する。
9.新聞紙などの上にペーパー・タオルを敷いて揚げた魚をのせると、あと片付けの手間がかからず便利。

※こちらのレシピは、すべて著作権者の許諾を得てご紹介しています。

VOL.03 2ND.SEP.2016初出/28TH.JUN.2020 加筆

遠藤一樹(えんどうかずき)
株式会社イーター 代表取締役
プロデューサー、編集者、コピーライター、ライター

1961年、横浜市生まれ。桑沢デザイン研究所卒業後、デザイナーから編集者となる。『ホットドッグプレス』編集部を経て、いとうせいこう氏らとプロダクションを設立し、取締役を務める。多くの雑誌・書籍制作、広告制作を経て、1996年に制作プロダクションEater(www.eater.jp)を設立、代表取締役に。雑誌『asayan』を立ち上げ編集し、後に男性ファッション誌『HUGE』をプロデュースして創刊から10年間(2013年12月まで)制作を担当する。現在は、コミュニケーションツールやカタログ制作、ブランディングなどに携わる。もちろん編集と執筆も日々続けている。1994年から担当した丸元淑生氏の料理書、書籍は7冊。食に対する考えとライフスタイルに大きな刺激と影響を受け現在に至る。TCC会員(東京コピーライターズクラブ/1998年新人賞受賞)。


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