南樽市場とスルメイカ
初出の原稿を書いた2016年の9月、僕は好きなように移動をしていた。
北陸を車で走っていた。小松から金沢を経て能登へと旅していたようだ。思うように動けないでいる2020年の夏からは、考えられない時間を過ごしていたんだなとふと振り返ってみた。さて、この夏から秋をどう楽しもうかと考える。能登大橋を渡ってすぐのところにある「みず」での朝食に匹敵するような、楽しい朝食を作ってみるのもいいかもしれない。何よりも、止まってしまったSEASON2.を書く時間が与えられたのだと思えば、こんなに楽しいことはないだろう。
南小樽の駅から頑張れば歩ける場所に、南樽市場というところがある。古い歴史を持つ市場のようで、建物とともに年輪を感じさせる場所だ。鮮魚、青果、精肉など20数店が軒を連ねている。僕は、年に何度かここを訪れて、季節の魚介や野菜を買い求めて料理をつくったりする。
先日訪ねた時も、まずは本間水産に行って、いつも赤いシャツを着ている社長のところの魚介を見る。毛ガニや高級魚を中心に旬のモノを売っているのだが、この日は毛ガニとボタンエビ、天然の帆立貝、生の時鮭(ときしらず)を試食させてくれた。僕は帆立貝と生の時鮭とスルメイカ、ししゃもを買った。「ししゃも3連持っていってよ」というので、安くしてもらって全部買うことにした。「ししゃもも買ってもらったから、だるま入れとくね」と、試食で足を使った毛ガニの胴体を一つ包んでくれた。足のない毛ガニが“だるま”と呼ばれることを初めて知った。そのあとは、イワシなどを他のお店で買い足して、杉本商店で野菜を買う。夏場は地元の野菜が豊富で、いろいろと売っている。他のお店もグルッとひと回りして買い物終了。
まずはスルメイカを解体する。内臓を抜いて、耳(ヒレ)を外して皮をむく。寄生虫のアニサキスやニベニリアがいないかよく見てから、胴の部分を切り出して細かく切って刺身にして、耳と切り出した胴の残りと下足の部分は、酒と水と醤油でサッと煮て煮イカにして食べる。小樽の市場では、白わさび(山わさび)が安く手に入るので刺身はこれで食べる。簡単でおいしい一品、いや二品になる。酒のつまみに、ご飯のおかずによし、なのだ。イカは冷凍保存ができるのでいいものを見つけたら少し多めに買うことも。解体してしまっておくと、すぐに使える食材になる。それと冷凍すると(60度以上、数分の加熱でも)寄生虫のリスクはなくなるようだ。
写真のスルメイカは、冷蔵庫で1日寝かしてしまったので、色が変化してしまっている。買ったばかりの時には、全体が濃い部分の色をしていて、心なしか全体がシャキッとして見える。刺身はそのタイミングで食べた方がおいしいように思える。この状態でもおいしく食べることができたが、やはり鮮度のいいうちにきちんと処理をしておいた方がいい。冷凍庫にそんなイカがあれば、思わず食事が充実するのだから。
丸元淑生 オリジナル・レシピ
タコとイカの料理
(丸元淑生 続新家庭料理 家族の健康を守るヘルシー・クッキング12章 暮らしの設計192号 1989年 中央公論社刊より)
私は地方に行くと卸売市場と街の八百屋さん、魚屋さんを見て回る。その土地に住んだとした場合に、どんな食事の組立てができるか考えてみるためだ。その見て回りでわかったのは、全国どこに行ってもタコとイカだけはよいものが手に入るということ。この二つはよい食事の組立てを可能にする重要な食品なのだ。
イカはタコと異なり、基本処理をちゃんとやっておくと、かなり長期間冷凍保存が可能で品質が劣化しない。買ってきたときとほとんど変わらない鮮度が保てるのだ。
だから、出来れば市場まで行って、とびきりの鮮度のものを買い、大急ぎで帰って基本の処理をすませたい。そうしておくと最高の鮮度のイカが冷凍庫に常備されることになる。それが毎日の食事の充実につながることはいうまでもない。献立もらくになる。
塩辛も自分でつくれば塩の量はわずかでおいしくできる。
[ イカの基本処理 ]
まず、胴から頭を離す。胴のなかに指を入れると胴と内臓をくっつけている組織があるので、指先でそれをはがしながら頭を引っぱる
肝臓以外の内臓を除き、第1の処理完了
つぎに墨袋をとる(肝臓の脇についている)
目玉を水の中でつぶす。そうしないと飛び散ることがある。肝臓はいたみが早いのでここまで処理をして先に冷蔵庫に入れたほうがよい
ついで胴の皮をむく。布巾で耳(正しくはひれ)をつまんで引っぱる
するするむけていく
残りの皮も布巾でつまんでむくとらくにむける
胴の先端を落として、二つに切る
これで基本処理の完了
胴はピチットに包み、冷蔵庫に1〜2時間入れて脱水する
それをラップし、エージレスを入れてシールして冷凍すると、かなりの保存が可能。いつでも刺身が食べられる
[ つくり方 ]
煮イカ
水に酒を加えて煮立て、イカを入れる。胴は輪切り
再度沸騰してから10秒間ほど煮て醤油を入れる
それから10秒間でイカをとり出す。煮汁だけを少し煮つめてイカにかけておく
※こちらのレシピは、すべて著作権者の許諾を得てご紹介しています。
※引用の文章で、原文に記載されている「ページ数」を一部割愛しています。
VOL.010 30.TH.SEP 2016初出/22.JULY.2020 加筆
遠藤一樹(えんどうかずき)
株式会社イーター 代表取締役
プロデューサー、編集者、コピーライター、ライター
1961年、横浜市生まれ。桑沢デザイン研究所卒業後、デザイナーから編集者となる。『ホットドッグプレス』編集部を経て、いとうせいこう氏らとプロダクションを設立し、取締役を務める。多くの雑誌・書籍制作、広告制作を経て、1996年に制作プロダクションEater(www.eater.jp)を設立、代表取締役に。雑誌『asayan』を立ち上げ編集し、後に男性ファッション誌『HUGE』をプロデュースして創刊から10年間(2013年12月まで)制作を担当する。現在は、コミュニケーションツールやカタログ制作、ブランディングなどに携わる。もちろん編集と執筆も日々続けている。1994年から担当した丸元淑生氏の料理書、書籍は7冊。食に対する考えとライフスタイルに大きな刺激と影響を受け現在に至る。TCC会員(東京コピーライターズクラブ/1998年新人賞受賞)。