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ピカピカのあじを見つけたら〜あじのハンバーグ〜

新鮮な魚に出会うと思わずうれしくなってたくさん買ってしまうことがある。
そんなときは、だいたい魚をおろすことに集中力を使い切って、
その先のつくろうと思っていた料理までたどり着けないかったりする。

とりあえずカルパッチョとか、とりあえず刺身とかを食べて
あとは干物にしてみたり、処理だけして翌日に持ち越したりしてしまう。
今週の週末は、そんなことがないように初志貫徹を目指して魚屋さんへ。
おいしいスープが作りたいと思い、ストックの取れる魚に出会えることを祈りつつ、ごはんのことばかり考えている金曜日である。

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 大磯に通っていた頃、駅を出て右の小道を歩いて行ったところにある「魚龍」という魚屋によく出かけた。撮影の食材を買いに行くこともあったし、自分の食事の材料を買い求めることもあった。短く刈り込んだ白髪頭のオジさんに「今日は何がありますか」と聞くと「何が欲しいのよ」と返してくる、ちょっと偏屈な印象の人だったが、そのやり取りの後はケースの中の魚をいろいろと見せてくれた。あじはもちろん、しろめだいやえぼだいをよく買ったように思う。生きたヒラメやタコも扱っていて、網から脱走したタコが路上を逃げていく姿を目撃したこともあった。オジさんは、自家製の干物もつくっていて、普段使っているまな板があじのかたちにくぼんでいる、という話も聞いたことがある。

 僕は自分で魚をおろすことが好きだったので、魚はいつも丸のまま買ってきて三枚におろしていた。とくにあじをたくさんおろしていると、包丁の動かし方も安定してくるのではないかと思う。身の厚さやかたちが扱いやすいのかもしれない。のちに丸元喜恵さんが、僕の家のキッチンで「あじのハンバーグ」をつくって撮影したことがあるのだが、喜恵さんとも「魚の基本処理はあじで覚えるといいかも」と話していた。喜恵さん自身、たくさんのあじをおろして魚の基本処理を完璧にマスターしていた。

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 喜恵さんの撮影の時にブレンダーの代わりにバーミックスを使ってみようということになり、僕たちはバーミックスであじをミンチ状にしてみた。経験上、できれば深めのボウルを使ったほうが身が飛び散ることなく、キッチンをきれいなまま料理することができる。

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 この時に魚のストックをとっておくと、いつでもおいしいスープをつくることができる。僕は、あじのストックを使ったカリフラワーのスープが好きだが、カリフラワーがなければあり合わせの野菜でスープをつくったりもする。魚のストックでつくるスープは、トマトとサフランを使うと、なんとなくいい感じにまとまる。

 ちなみに丸元先生のあじの基本処理は、のちに「うろこを落とした後、尾びれの端の鋭い突起2つを切断する」という行程が加わっている。しっかりうろこを落としてから、指に刺さったりしないようにトゲのような突起を取りのぞくのだ。「ピカピカのあじ」に出会ったら、思い出してほしい。

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丸元淑生 オリジナル・レシピ

あじのハンバーグ
(丸元淑生のシンプル料理② さらに進化した健康メニュー&レシピ集 1995
年 講談社刊より)

 これをハンバーグと呼ぶのには抵抗があるけれども、他に適当なことばが浮かばない。外観はハンバーグにそっくりだから、ハンバーグ好きの子どももよろこぶかもしれない。そして、よろこんで食べてくれたら、こちらのほうは非常に健康的である。スライスできるのでお節料理にもよい。市販のかまぼこよりもずっとおいしいし、魚の栄養が生きているうえに添加物がゼロだから食べた充実感が異なる。大根おろしによく合うので、たっぷりの大根おろしを添えて供していただきたい。
 いわゆるつなぎを入れる必要はまったくない。フードプロセッサーやブレンダーの回転数を上げれば充分な粘りが出るし、この写真のようにスライスしてもボロボロにはならない。魚一〇〇パーセントのほうがおいしく、玉ねぎを思い切ってたくさん使ったほうがよい。
 混ぜるとしたらむきえびがよい。えびの甘味が加わって、また別のおいしい味になる。鮮度のよい芝えびを自分でむいて使えば最高で、とくにいわしでつくる場合は、えびを混ぜたほうがみんなによろこばれるかもしれない。

[材料]
あじ——1㎏(中型10尾くらい)
玉ねぎ——1個

[つくり方]
1.ゼイゴをとる。一番端から包丁を入れること。途中から包丁を入れようとすると入らないのでもたつく。
2.肛門からエラの端まで切り裂く。
3.エラと内臓を一緒にとり除く。
4.胸ビレをつけて頭を落とす。
5.反対側の背ビレの部分を切りとる。
6.背ビレの上から包丁を入れて尾のほうまで骨の上を滑らせていく。
7.尾のほうから包丁を入れて腹ビレの上まで滑らせていく。
8.そのまま包丁を滑らせて身を骨から離す。
9.尾のほうから包丁を入れて背ビレの上を滑らせていく。
10.腹ビレの上から包丁を入れて尾のほうに滑らせていく。
11.尾から包丁を入れて脊椎の上を滑らせて骨から離す。
12.腹骨(肋骨)をつけてうす身をそぎ切る。
13.骨抜きで指にさわる骨をとる。
14.薄皮をはぐ。頭のほうで薄皮をつまみ引きはがしていく。
15.フードプロセッサーまたはブレンダーにかける。高速回転にして少し粘りを出す。
16.塩で調味する。
17.よく混ぜておく。腰のあるゴムべらを使うと便利。
18.玉ねぎは1センチ角くらいの大きめのサイコロに切る。タテ、ヨコ碁盤の目状に包丁を入れる。
19.玉ねぎを横にしてサイコロに切り落とす。
20.玉ねぎを魚に加えてよく混ぜ合わせる。
21.適当な大きさに丸め、ハンバーグ状にする。
22.鍋にオリーブ油をひき、並べて入れ、ふたをして弱火にかけておく。
23.火が通ったら返し、両面に焦げ色をつけてできあがり。

[魚のストックのとり方]
1.切り落とした身と頭、骨はすぐに煮出してストックをとる。
2.湯が沸いてきたら魚を入れる。
3.魚の鮮度がよいとアクはあまり出ない。
4.最初に出たアクは玉杓子でとり、その後のアクは網杓子でとる。
5.30分間くらい魚を煮出してから、野菜くずがあったら入れる。切り端や古くなったセロリなど。野菜を入れて30分で濾してとる。

※こちらのレシピは、すべて著作権者の許諾を得てご紹介しています。
※引用の文章で、原文に記載されている「ページ数」を一部割愛しています。

VOL.008 23RD.SEP.2016初出/15.JULY.2020 加筆

遠藤一樹(えんどうかずき)
株式会社イーター 代表取締役
プロデューサー、編集者、コピーライター、ライター

1961年、横浜市生まれ。桑沢デザイン研究所卒業後、デザイナーから編集者となる。『ホットドッグプレス』編集部を経て、いとうせいこう氏らとプロダクションを設立し、取締役を務める。多くの雑誌・書籍制作、広告制作を経て、1996年に制作プロダクションEater(www.eater.jp)を設立、代表取締役に。雑誌『asayan』を立ち上げ編集し、後に男性ファッション誌『HUGE』をプロデュースして創刊から10年間(2013年12月まで)制作を担当する。現在は、コミュニケーションツールやカタログ制作、ブランディングなどに携わる。もちろん編集と執筆も日々続けている。1994年から担当した丸元淑生氏の料理書、書籍は7冊。食に対する考えとライフスタイルに大きな刺激と影響を受け現在に至る。TCC会員(東京コピーライターズクラブ/1998年新人賞受賞)。


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