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【ディベート甲子園等の大会に出場する選手、指導者向け】調査型ディベートの準備方法~ディベートPDCAの勧め

はじめに、スケジュールありき


調査型ディベートで大会に出場すると決めたら、皆さんは何をしますか。とりあえず、図書館に行って本を読んでみる、ブレストしてみるなどが多いのではないでしょうか。それもやらなくてはいけませんが、それは順番が違います。あまり言われておりませんが、私はまず第一にやるべきことはスケジュール作成だと思っています。

なぜなら、調査型ディベートで大会に出ると決めた瞬間に使える時間は有限になるからです。2週間後なのか、1か月後なのか、半年後なのかによって準備の戦略は大きく変わってきます。それぞれのやり方は色々ありますが、ここではすべてに共通する基本部分を見ていきましょう。

スケジュールを作らないといけない理由


スケジュールを全部自分で作るとなると、なかなか経験がない人もいるかと思います。ましてや、人生ではじめてディベート大会に出場するとなれば、分からない事だらけだと思います。そんな状況ではスケジュールは作れないという方もいると思います。

しかし、究極的に言うとスケジュールは未来の事なので、100%完璧なスケジュールなどありません。プロジェクトには常に不確実なリスクが発生するわけで、せっかく作ったスケジュールが1週間後には大幅改定されるという事もあるかもしれません。

では、スケジュールは作らないで目の前の事を一生懸命すれば良いのでは?と思う方もいるかもしれませんが、一部の人を除いてそれは大変に難しいことだと思います。理由は2つあります。

1つは自分の頑張りを可視化するためです。目の前のことを一生懸命するのはもちろん大事ですが、自分たちがどのくらい進んでいるのかを意識した上で頑張らないと、頑張るために頑張るといった事態にもなりかねません。例えば、京都に歩いて行く旅行を立てたとして、毎日一生懸命歩いたとします。3日後までに箱根に行くと決めていれば、すごい頑張っているけど、まだ半分しか着ていないからもっと頑張らないといけないとか、思ったより早いペースで動けているから、もうちょっとゆっくり行こうとか決められます。このように、スケジュールが決まっていれば、それを基準にして早い遅いが明確になり根性論から抜けられます。

2つ目は「多くの人は自分に甘い」という事です。明確なスケジュールを決めていないと、自分の中で謎のロジックを作って、遅れていることを正当化しようとします。最初はこのくらいでやらないといけないと思ったけど、周りもそんなにやっていないし、まあいいかな。みたいな感じになります。スケジュールを明確にして、チームメイトと共有すれば、自分がやらざるを得ないモチベーションを作る事ができます。自分だけのことなら、「やーめた」でいけますが、チームメイトがいるとそんな簡単にはいきません。

スケジュールは意志である


ここまで見ると、スケジュールの本質が見えてきます。スケジュールとは究極的にはチームとして、自分としての「意志」であるということです。いつまでにやるという自分の意志をスケジュールという目に見える形にして、それを貫くことにコミットするという事になります。もちろん、環境によってスケジュールは変わります。しかし、環境がどんなに変わろうと最終的には「自分の意志」であるという強い気持ちを持って臨む経験は確実にあなた自身をレベルアップさせることでしょう。

スケジュールは変化するものだと諦める


優等生タイプに多いパターンですが、最初に決めたスケジュール通りに物事が進まなくなるとストレスが溜まったり、ちゃんとやらない周囲の部員さんに苛立ちを感じ始めたりすることがあります。もしこうなった場合、最悪のパターンの1つです。そんな状況では、みながピリピリしてしまいますし、後輩がいるなら萎縮してしまい自由に議論ができにくい環境になってしまいます。スケジュールは常に変わるものだといい意味で諦めるというか、常に改善し続けるから変わるもんだと思うのが重要です。そもそもディベートは不確実な事をやっています。作ろうと思ったメリットも、その段階では強いと思っても、それを覆すエビデンスが出てきたり、そのメリットでは勝てないライバル校が出てくる事もあります。

ただし、スケジュールは変わるものですが、なぜ変わったしまったのかについてはちゃんと検討して、さらに精度を高めることは絶対に忘れてはいけません。そうしないとPDCAの意味がありませんし、ずるずるとスケジュールを守らなくなります。なぜ、スケジュール通りにいかなかったのか、当初と予定が狂ってしまったのかを客観的に検証しましょう。この時、自分の頑張りが足りなかったとか、努力が足りなかったといった精神論に逃げない事が大切です。努力が足りないという言葉で片づけずに、時間がねん出できなかったのか、方法が間違っていたのか、など原因を明らかにしましょう。

また、この時絶対にやってはいけないのは「戦犯」探しです。「お前のやる気がなかったからだ」とか「お前だけ締切守らなかった」などの吊し上げはしてはいけません。もし、本当にそうならば何より本人が自覚しているはずです。なぜ遅れてしまったのか、次から遅れないために、みんなで協力するから、どうすれば良いかを一緒に考えようという姿勢こそが重要です。

具体的なスケジュールの作り方


具体的なスケジュールを作る際に意識すべきことは以下の4点です。

スケジュール作成4つのステップ
・チームミッションを決める
・タスクの洗い出しを行う
・いつまでに何が必要なのかを整理する
・役割分担を決めてタスクを振り分ける

1.チームミッションを決める
何はともあれ、大会で達成すべきチームミッションを決めましょう。優勝を目指すチームと1勝を目指すチームではやるべきことも変わってきます。もちろん、勝ち数でなくてもOKです。私の経験では、勝ち数以外の目標としては以下のようなものがあるかと思います。

よくあるチームミッション例
「教育目的」
後輩が一人で立論作成できるようにしたい、最近の潮流に問題提起したい

「議論検証」
自分がやってみたい議論が通用するのかどうかを検証したい

「交流」
組んでみたい人と面白おかしくやりたい


どんな目的でもかまいませんし、途中で変更してもかまいませんが、まずは自分たちのGOALを決める事がとっても大切です。

2.タスクの洗い出しを行う
最終的なGOALのために何をどこまですれば良いのかをリストアップします。ディベートの場合には、ある程度決まっていまして大雑把にいうと下記の4つです。

ディベートで試合をするために準備しなくてはならない4つ事
・立論
・反論
・再反論
・対戦相手のシミュレーション(想定立論、想定反駁等々)

これ以外に、部活動としての活動場所の予約、練習試合に出るための顧問の先生への申請、コピー代の上限、親御さんへの許可、自分のスケジュールとの調整、備品の整理等々、実は結構色々あります。

3.いつまでに何が必要なのかを明らかにする
大会本番までに最終立論はいつまでに確定しなくてはいけないのか。反論はいつまでに用意すべきなのか。全てのタスクに対して、締切を設定しましょう。この時重要なのはクオリティは一旦無視して締切という時間で管理することです。ディベートのプレパに終わりはないので、クオリティ基準で頑張ると結局直前まで立論を作っているという状況になりがちです。後述しますが、PDCAサイクルを意識して、不完全でも締切のタイミングでいったん周囲からフィードバックをもらって改善していくのが最も効率的な方法になります

4.役割分担を決めてタスクを振り分ける
タスクが決まったら、スケジュールに合わせて役割分担を決めてタスクを振り分けるのが効果的です。ディベート甲子園の場合ならば、肯定否定ごとに担当者が異なるようならば、肯定チームと否定チームに分かれてプレパするのがオーソドックスなやり方だと思います。

プレパのPDCA


・大まかなスケジュールを大会から逆算して決める
目的を決めたら、大会本番から逆算してスケジュールを作成します。正解はありませんが、仮に2か月後に本番があると仮定したら、例えば最初に下記くらいの粒度でザクっと作ります。

最初に作るスケジュールの例
大会当日:自分を信じて頑張る
Last1週間:スピーチ練習を中心に実施。大会当日にベストパフォーマンスを出すための練習を行う。想定外な議論を減らしていく。
2週間前:立論完成、主要な論点への反駁も概ね完成させる。
1か月前:立論の方向性確定。
1.5か月前:プロタイプ立論完成。
1.75か月前:経過報告

・「ディベートPDCAサイクル」でスケジュールを作成・管理しよう
一番最初に記述した通り、調査型ディベートのプレパはPDCAです。このサイクルを本番までに何度か回して向上し続けるのが重要です。そこで、プレパのPDCAサイクルを一つのタームとして、本番までに何ターム回すのかを意識してスケジュールを作成しましょう。その際に、注意すべき点は以下の2つです。

・ディベートプレパの進め方に対する心構え
「完璧」なものを作らない
ディベートの論題は未だ真実が明らかになっていないので、完璧な議論を作る事はできない。いい意味で諦めてPDCAを早くする。区切る勇気を持つ。

 シミュレーションを行う

ある程度できたら、試合をシミュレーションする。紙の上で試合を想定し、皆で反論などを検討しながら進める。この際、役割分担なども工夫すると良い(否定側反論チーム、肯定側反論チームなど)

◆ディベートプレパのPDCA~ディベートPODCAの勧め~
私が提唱するディベートに関するPDCAは以下の通りです。これを一つのサイクルとして本番当日までに何回のサイクルを回すのかを意識して、スケジュールを組むのをお勧めします。これを仮に本稿では「ディベートPDCA」を呼ぶことにします。

・ディベートPDCA
Plan(仮説構築)
 メリット・デメリット案を考える
Do(アーギュメント作成)
 立論や反論を考えて、紙上でのシミュレーションを行う
Check(部内。練習試合)
 完成度や目的に合わせて、部内、対外試合で議論を出す
Action(次の方針を決める)
 練習試合の結果を基にして次の方針を決める

これを一つのサイクルと考えて、スケジュールを作成していきます。後述しますが、このPDCAサイクル構築においては、練習試合(部内試合)が非常に重要な役割を果たします。練習試合の位置づけは目的やスケジュールによって大きく変化しますし、それを意識して組み立てていく事が必要です。目的に応じては対外練習試合よりも部内試合の方が効果的な場合もあります。

次回は、それぞれについて細かく見ていきたいと思います。


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