追悼・音楽・Shaun Martinの遺産
アメリカのキーボーディスト、Shaun Martin(ショーン・マーティン)が、2024年8月に亡くなりました。
亡くなったという知らせをみたときに、自分でも予想以上のショックを受け、その後引きずっていました。
その気持ちを整理するために、この記事を書きました。
日本語では、既に他の記事で、彼の功績やインタビューが掲載されています。
そこでここでは、私個人(鍵盤を弾くことができます)が、Shaunの好きだった演奏などをまとめて、追悼します。
改めて振り返ると、Shaunは以下の3つの役割を果たしていて、それぞれいいプレイがあったなと思っています。
1. ソリストとして
2. 裏で音楽の奥行きをつくる
3. 場を盛り上げる
1. ソリストとして
Sleeper (Snarky Puppy, We like it here, 2014)
彼のソロの中で一番有名に思われるもの。
彼の使用している楽器・Talkboxを初めてみて、鍵盤と歌が合わさった、なんだこの楽器は...となった。
ライヴ音源
Sleeper (Live) (Snarky Puppy, Live at the Royal Albert Hall, 2020)
ライヴ録画
Sleeperの演奏の究極の到達点。
特に7:08からのドラムとのデュオや、昇天というか宇宙への上昇を想起させる終わり方には驚くし、何より感動する。
Bet (Snarky Puppy, Empire Central, 2023)
Shaunのソロの書き起こし譜面
3:33から同じくTalkboxによる、最後に音源として記録されたのではないかと思われるソロ。
ソロ全体のバランスや、コード進行への合わせ方などが完璧。
改めて譜面を見ると、バロック的な音形の繰り返しを行なっており、それが特に3:58からは裏の下降するコード進行の気持ち良さや切なさを非常に引き立てている。
またこれは彼の良さの3にも関係するが、ソロの始めから終わりまで、周りの観客の反応を見ていると、始まった時点でのり始めた観客が、最後には完全に取り込まれて笑顔になっていく。
このような演奏が出来ることは類稀だと思います。
2. 裏で音楽の奥行きをつくる
Keep It On Your Mind (Snarky Puppy, Empire Central, 2023)
自らのソロでない時も、Shaunは裏で音楽に奥行きをつくっている。
3:26からキーボードセクションのアンサンブルになり、Rhodesを弾いているのだが、特に3:35からの間をつなぐ裏旋律の弾き方はすごい。
また4:22でBobby SparksがMinimoogのソロでかなり長く伸ばしている際に、裏でおそらくドミナントコードを弾き、最後のサビに向けて解決する、コードの乗せ方も秀逸だと思う。
Kirk Franklin: Tiny Desk (Home) Concert
Shaunがプロデューサーをしていた、現代ゴスペルのKirk Franklinの後ろでのプレイ。
最後の"I Smile"では、例えば12:25の一旦落ち着くパートでの星の降ってくるような下降音形や、14:00からのベースと絡みあう下降音形が、曲に奥行きを与えている。
13:30の上昇転調の際の笑顔も好きです。
3. 場を盛り上げる
Lingus (Snarky Puppy, We Like It Here, 2014)
Shaunの場の盛り上げで最も有名なのは、Lingusの伝説的なCory Henryのソロをみている様子だろう。
Lingus中のShaunのリアクションを集めただけの動画もある。
Skate U (Snarky Puppy)
似たシチュエーションでの、別の様子。
1:28のリアクションが好き。
Grown Folks (Snarky Puppy, Festival Django Reinhardt, 2018)
Snarkyを初めてライヴで見たときも、Shaunは場を盛り上げていた印象でした...
Trinity (Extended Version, Snarky Puppy, Empire Central, 2023)
最後の記録映像の一つ。
11:11からグルーヴの余韻に一番浸るShaun
このような多くの名シーンをこの世界に創り出したShaunを尊敬していますし、もう新たなシーンが生まれないと思うとさびしいです。
でも既にこれだけの遺産があることはありがたいことです。
ありがとう、そしてUp, up, and away !
表紙画像:下記より引用
https://www.youtube.com/watch?v=fnWoFuh7ZuA