なぜ企業研修に障がいのある人のアートなのか?
障がいのある人のアート活動の広がり
SDGsの取り組みが広がる中、東京オリパラを契機に、障がいのある人のアートが注目されています。2008年「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律」が衆議院本会議で可決、成立して以降、厚労省、文化庁、日本財団などによる多様な支援事業が広がっています。また企業においても、障がいのある人のアートをオフィスに飾り、またそのアートを採用した商品を販売するなど、多彩な活用が広がっています。
事業化のきっかけ
私自身、障がいのある人のアートの魅力にとり憑かれた一人ですが、独立を契機に、このアートの魅力をどう伝えていくかを悩んでいました。
ある時、ニューヨーク近代美術館で生まれたという対話型鑑賞プログラムに出会いました。作品名、アーティスト名を伏せて、自由に発言するというものだったのですが、このとてもシンプルなプログラムにとてもハマってしまいました。
今までアートを観て、感想を伝えあうことなどなかったのですが、このプログラムを体験して、「同じものを見ていても、全く異なる意見を持つものだ」ととても驚いたのです。ある人は「これは、魚の目にみえます」といい、別の人は「目玉焼きに見えます」という。さらに別の人は「ゼロ(0)という文字に見えます」など全く別の見方をし、一方で、それぞれの意見に「なるほど、そういう見方もあるね!」ととても感心したのです。
異なる意見があることが、決して嫌なことではなく、自然に受け入れられるという不思議で、とても心地の良い感覚だったのです。
「これを障がいのある人のアートでできないか」と考えたのです。
障がいのある人のアートを鑑賞会で使用する必然とは?
障がいのある人のアートの多くは、身近な画材、身近なテーマで描かれているものが多く、とても親しみを感じられます。鑑賞していると、少し心が柔らかくなるような感覚があるのです。アートというのは苦手だとおっしゃる方も多く、アートをお見せしただけで、少し距離を感じてしまいます。
対話型鑑賞に障がいのある人のアートを使えば、きっと誰でも話しやすく、対話もより弾むのではないか?と考えました。
また障がいのある人のアート活動には、誰もが乗り越えなければいけない困難さがあることもわかってきました。自分の障害を受け入れ、その上で、自分にできることとしてアートに取り組み、それが社会に評価され、やがて自分自身の自己肯定感につながっていく。ある障がいのあるアーティストは「私は障害をもって良かった。アートを通して、いろんな人と繋がることができたから」と、ご自身の障害をしっかりと受け入れて前に進んでいらっしゃいました。
なにかしらの暮らしにくさや生きづらさを抱えながらも、自分自身ができることを見定めて、社会につながっていくというプロセスは、誰にとっても必要なことなのだと思います。
今や、介護休暇、育児、高齢化など、誰でも何かしらの暮らしにくさや生きづらさを抱えています。そうした中で、それらを悲観するだけでなく、自分にできることを見出し、社会とつながっていくことが求められている中、障がいのあるアーティストが取り組んでいることは、誰にとっても大切なことを伝えてくれているのではないかと思ったのです。
障がいのある人のアートが、社員に癒しを与え、社員の対話を促し、またそのアートが生まれる背景から得られる働き方や生き方へのメッセージは、企業にとって大いなるインスピレーションであり、それを対話型鑑賞を通して企業に伝えていくのは、私自身の使命だとも感じたのです。
企業導入の広がり
2018年に障がいのある人のアート専門の対話型鑑賞を企業研修としてスタートし、今や40社以上、数千人の社員の方々にご体験いただきました。現在、専任ファシリテーターも数名体制となり、日々、さまざまな企業に伺って対話型鑑賞を実施しています。そしてコロナ期においては、オンライン型のプログラムを開発し、場所に寄らず、全国の企業から発注をいただけるようになりました。
そして、私が共同代表を務める「一般社団法人シブヤフォント」にて、渋谷区内で活躍いただくファシリテーター育成事業もスタートしました。2022年12月には14名の新人ファシリテーターが誕生する予定です。
さて、対話型鑑賞を実施しながら、当初は想定していなかった企業研修として様々な効果があることがわかってきました。
“対話しやすい”ということは、参加者の上下関係に関係なく、意見交換がなされ、チームパフォーマンス向上のために必要だとされる心理的安全性が自然と感じられるものになります。
心理的安全性は合同会社グーグルのチームワークに関する調査結果から注目されるようになったのですが、この心理的安全性をとてもコンパクトに体験できると人事部からご評価をいただいています。特にテレワークが長引くことでチーム内のコミュニケーションは不足しがちです。対話型鑑賞のオンライン版は、チーム内の関係性を柔らかくしてくれると好評です。
また、ファシリテーションすること自体、マネージャーとして、とても大切なスキルを獲得できます。対話型鑑賞は、相手の発言をしっかりと受け入れ、肯定します。積極的傾聴力をもって相手を受け入れるわけですが、これは、マネージャーと部下とが対話する1on1ミーティングにおいて、マネージャーが必要されているスキルそのものです。今ではマネージャー層にファシリテーションを体験してもらうなど、新たな人材教育としても注目されています。
この他にも、創造的思考力、論理的思考力、ストレスホルモンの軽減など、様々な効果のエビデンスがあることもわかり、ますます企業のさまざまな事業領域に展開できる可能性を秘めていることがわかってきました。
ダイバーシティ&インクルージョンの理念を広げていきたい
今では、対話型鑑賞を研修として実施した後も、研修の効果を持続させるために社内に飾った障がいのある人のアートに、弊社独自の「問いのプレート」も掲示いただき、社員間同士で自発的な対話が生まれるよう工夫されているお客様もいらっしゃいます。
加えて、障がいのある社員のアートを自社のノベルティなどに採用するなど、会社全体で障がいのある人の活躍の場を広げているお客様も増えてきました。このように障がいのある人のアートの企業活用が進めば、きっとその先には、障がいのある人への理解、さらには働きにくさ、暮らしにくさを抱える全ての人々にとっての恩恵となるに違いありません。
今後も、私たち株式会社フクフクプラスは、障がいのある人のアートを通して、皆さんに幸“福”をお届けしていきたいと思っています。
一般公募の「アートでおしゃべり」、参加者募集中です! 下記イベント案内ページより、ご都合の良いプログラムをお選びください。