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60arts|青森 現代アートに出会う旅 3 弘前れんが倉庫美術館

現代美術家・奈良美智さんの出身地でもあり、日本におけるシードル(リンゴの発泡酒)発祥の地である弘前市。そんな弘前市の歴史を残し、これからも紡いでいく地域のクリエイティブ・ハブ(文化創造の拠点)が、弘前れんが倉庫美術館です。


弘前れんが倉庫美術館

美術館 2階で建物の歴史が紹介されている

シードル工場の煉瓦倉庫当時の吉井酒造株式会社社長・吉井千代子さんと奈良さんの出会いによって誕生しました。

弘前の酒造メ-カー社長・吉井勇は、果実の加工技術の視察のために欧米を訪問、その時にシードルに目をつけました。1954(昭和29)年に朝日麦酒株式会社(現アサヒビール)と連携して「朝日シードル株式会社」設立、そこで使われていた煉瓦倉庫が紆余曲折を経て、2020年に美術館として開館する運びとなりました。

美術館の方向性を示しているのが、コミッション・ワークです。コミッション・ワークとは、作家に依頼をして作品をつくってもらう受注制作のことをいいます。
弘前れんが倉庫美術館では、元煉瓦倉庫だった建築や地域から着想を得たコミッション・ワークによる作品を展示・収蔵することで、美術館・地域の歴史をアート作品という形でアーカイヴしていきます。

建築

建築改修は、建築家の田根剛さん(広報写真でよく派手なロンTを着ている人)。場所の記憶から建築をつくる「Archaeology of the Future」をコンセプトに、世界各地で活躍しています。

この美術館では耐震補強に加えて、寒冷地に必要な耐久性と耐食性を考えて、屋根にはチタン材を採用しました。光の角度によって表情が変わるというシードル・ゴールドの屋根は、美術館のシンボルだそう。
晴れている時に訪れたかった。

コレクション

奈良美智《A to Z Memorial Dog》2007

青森県立美術館の《あおもり犬》も青森観光の目玉ですが、こちらにも奈良さんの犬がいます(言い方がひどい)。つるりとした乳白色の犬は、地面をしっかりと踏み締め、目を閉じています。とても居心地が良さそうな顔です。

ジャン=ミシェル・オトニエル《エデンの結び目》2020

六本木・毛利庭園のパブリック・アートでもお馴染み、フランスの作家 ジャン=ミシェル・オトニエルは、球体のガラス・ピースが連なったオブジェを制作しています。金属かと思っていました。

青森の作品は、ネックレスをくしゃくしゃと丸めたような形です。赤はリンゴの果実、ピンク・ゴールドはシードルの泡にもみえますね。
西洋でリンゴというと、エデンの園にある禁断の果実(リンゴではない説もあり)を思い浮かべますが、ここでは人と人とのつながり、繁栄を意味しているのでしょうか。

AOMORI GOKAN アートフェス2024 メイン企画/春夏プログラム
蜷川実花展 with EiM: 儚(はかな)くも煌(きら)めく境界

エントランス

アートフェスのメイン企画では、写真家・映画監督の蜷川実花さんと、実花さん率いるクリエイティブチーム・EiMとのコラボレーション展が開催されていました。このガラスの自動扉からニナミカ・ワールドに入ります。

Ⅰ 四季の花々

本展は、約20年前のものから最新の作品までを通観しつつも、歴史を辿るような回顧展の趣ではなく、作家の多彩な一面をみせる展示構成でした。

ニナミカというと、ビビッドな色彩で表現された花や金魚、美男美女の芸能人を撮影したシリーズといった、アクの強い、現実離れした、時に毒々しさを感じさせる作品の印象があります。

Ⅱ Liberation

今回の展示では、人間の欲望を映し出すモチーフや人工的な色彩であることは変わりませんが、そうしたモチーフよりもボケによる色や光の拡散に目が行きました。また、ネオンサインを埋め込んだ写真や自作を再生産するようなコラージュ作品、照明の演出(スポットライトが回転)も特徴的です。

写真は光を印刷するメディアであることを意識した見せ方になっていたように思います。

Ⅲ Sanctuary of Blossioms

EiMとの協働作品は、鑑賞者が作品の内部に入り、その一部となったような体験ができる大型インスタレーション(空間自体を作品化するもの)。スクリーンに投影される色は刻々と変化し、時間や場所によってみえる景色が変わります。

絶好の撮影スポットですが、実花さんの眼(肉眼とレンズ、イメージを結ぶ脳)を擬似体験できる装置にもなっているのではないでしょうか。

Ⅳ うつくしい日々

父である故・蜷川幸雄さんが亡くなる前後の日々を写したシリーズも新鮮です。
あっさりとして眩しくて、何でもない日常の風景ですが、目に焼き付いて離れないものに感じられました。

Ⅴ Embracing lights

クライマックスは弘前の桜。桜吹雪に包み込まれるような空間が広がります。

久しぶりに作品を拝見しましたが、今回の展示で受けた印象は、一瞬の鮮烈な光景、いのちの彩りです。
キャリアを重ねてきた作家側の変化か、こちらが青森の自然に感化されたのか、「ニナミカ」ではなく写真家のひとりとして作品と向き合える感じがしました。

弘前エクスチェンジ
#06「白神覗見考(しらかみのぞきみこう)」

弘前エクスチェンジは、弘前出身・弘前ゆかりのアーティスト、地域の歴史や伝統文化に新たな息吹を吹き込むアーティストが、作品制作や調査研究、地域コミュニティと関わるプロジェクトなどを行うシリーズ。
今回はアートフェスの参加企画として、白神山地をテーマに4組のアーティストたちが作品制作やワークショップなどを行いました。

狩野哲郎《系(接木のシャンデリア)》 2024

狩野哲郎さんは生物から見た世界などを軸として、国内外でリサーチ・滞在制作を行なっています。

人間にとっては何でもないものでも、動物にとっては不思議なものに見えてしまう。人魚のアリエルがフォークをクシにしたように、本来の用途とは違う使い方や組み合わせ方をするかもしれません。
それをモビールやインスタレーションで表現しています。

永沢碧衣《山懐を満たす》2024

永沢碧衣さんは、人と生物と自然の関係性を問う絵画作品を制作しています。
巨大なクマやシカをよくみると、その毛並みは森林に覆われ、山が獣と化したかのようです。濃厚な色と細かい描き込みは油絵のようにみえますが、ベースは日本画で水彩絵の具も使われています。

永沢碧衣《共鳴》(部分)2024

古くから、山は豊かな恵みをもたらしてくれる一方、時に牙をむく存在として畏れられ、敬われてきました。現代でも、修験者や猟師たちは山神様へのご挨拶や感謝を欠かさず、無事でいられるように祈ります。
永沢さんの作品からは、そうした畏怖と尊敬の念が伝わってきました。

狩野さんも永沢さんも狩猟免許を取得しているそう。流行りなのかな。

佐藤朋子 による「向こう側研究会」の活動資料

佐藤朋子さんはレクチャー形式を用いた「語り」の芸術実践を行う作家で、今回の展示では白神山地に関するリサーチ結果を発表しています。
この「リサーチ」は、アーティストが作品を生み出すための下調べでもあり、「資料を調べたり、現場に行って何かを見たり話を聞いたりすること、その成果を資料の掲示等で発表すること」自体が、現代アートとして作品となります。

長野県出身の佐藤さんですが、大学以降は首都圏に住み、活動の一環で台湾に滞在したり韓国に行ったりと、基本的には都市で暮らしています。そんな佐藤さんにとって、山は容易に近づくことができない「向こう側」だと言います。

会場には、リサーチ参加者とのやりとりやウェブ会議の画面、各地の写真や地図が掲示され、多くの地域での経験を踏まえて自身の考えを言葉にしているのだとわかります。
リサーチで伺ったお話を童歌のように歌っている映像もありました。落ち着いた声音のせいか、抑揚の少ない節回しだからか、守るべき言い伝えのように聞こえてきます。

ライブラリー

2階のライブラリーには、郷土資料のほか、美術関連図書や展覧会図録があり、自由に読むことができます。『美術手帖』のバックナンバーも並び壮観です。

ワークスペースとしても解放され、PC作業をしている人もいました。素敵な雰囲気のなかで仕事ができそうです。

★おまけ情報

カフェにも奈良さんの犬

美術館の隣の棟には、カフェとショップ、シードル工場が入っています。
カフェではリンゴの形をしたアップルパイなどのリンゴ・スイーツ、シードルの飲み比べもできるそうです。


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浅野靖菜|アートライター
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