41arts|そばにあった未来とデザイン 「わからなさの引力」展(21_21 DESIGN SIGHT)
13名のクリエイターが「わからないけど、なんかいい。」ものを持ち寄った展覧会が、21_21 DESIGN SIGHTで 3月26日(日)まで開催中です!
観覧無料で写真撮影も可能なので、お花見ついでに足を運んでみませんか?
「なんかいい」を紐解く言葉
(出品作品ではなく)出展物は、参加クリエイターが手がけたアート作品やプロダクトではなく、いつも使っているものや部屋に飾っているもの。「なんかいい」と気に入って、そばに置いているものです。
それぞれに、①クリエイターの言葉 ②主催:NTTドコモの言葉 ③協力:デザイン誌「AXIS」編集部の言葉が添えられています。
①クリエイターの言葉
②NTTドコモの言葉
③「AXIS」編集部
個人的な思い出を綴り、時にポエティックに、時に批評的に語られる言葉たち。
「なんかいい」はどこからくるのか。さまざまな角度から言葉にすることで、心を惹きつけるものの正体、その簡単には「わからない」魅力を考えます。
それぞれの出展物への言葉は、ウェブサイトでも見ることができますよ!
なんかいい、プロダクト
誰しも幼い頃、ソフビのヒーローや怪獣、お人形で遊んだ経験があるでしょう。つるりとした表面にプニプニとした弾力、造形や着色の甘さ、ギチギチと軋む可動部。そのチープさ、というよりデフォルメ感が、親しみやすさや懐かしさ、安心感を与えます。
顔や体を拭くには、ふかふかのタオルのほうがいいですよね。けれど、湯上がりに頭に巻いたり、作業時に首に巻いたり、ストレッチに使ったり、あのペラペラ感がいいのです。ぶちまけたお茶を拭くにもためらわないし。
なんかいい、自然のもの
ヒシが子孫を残すために、必然的になった色や形のはず。けれど、忍者がまきびしとして利用したり、「悪魔の剥製みたい」(クリエイター談)という印象を抱いたりと、本来の意図とはズレたところに魅力を感じるのも面白いですね。
紙や布、木材を虫に食われてしまうのは困ることですが、芸術の世界には枯れた植物を描く美意識もあります。その虫食いのまろやかな断面やランダムで躍動的な模様と、職人によるきっちりとした格子との調和に美しさを感じます。
蛇の「ハブ」を模した沖縄の伝統的玩具で、指を入れると抜けにくい、ただそれだけのもの(とんがり○ーンみたいな遊び方)。その「ただそれだけ」が楽しいのも「なんかいい」のですが、おにぎりを包む経木のように天然素材で括ってあるのもいいですよね。
なんかいい、昔のもの
ウィンザーチェアは、イームズ・チェアのようなデザイナーズチェアではありませんが、日常使いのしやすいデザインや座り心地が人気の椅子です。アメリカのガラクタ屋で買った椅子はつぎはぎだらけですが、そこが誇らしげにも見えます。
中央が方位磁石になっていて、季節によって花びらのような部分の傾きを変えることで、正確な時間がわかるようになっています。昔の人が、未知の世界や見えない事象を明らかにするために使っていた道具には、ロマンを感じます。アストロラーベ(天体観測用の機器)もかっこいいですよね。
なんかいい、気分
自動車も「オレのマシン」としてのこだわり抱かせるものだと思いますが、一人乗りで、風を感じながら走るバイクは、より体に馴染む感覚があるのではないでしょうか。エンジンの音や馬力、メカニカルな部分は男性的でありながら、ボディの丸みや艶やかさは女性的でもある。バイクってどこか色気のあるマシンですよね。
オンオフを切り替えるために愛用しているというビーチサンダル。ビーサンを履いているときは素足で、足が濡れても砂が入ってもそれほど気になりません。歩くとペッタンペッタンするのも、間の抜けた感じがします。そこがチルでいい。
ベストオブ、なんかいい
いわゆる巻尺。これまでの「なんかいい」理由は、有用性や美しさ、歴史的価値、心地よさといった、比較的共感してもらいやすい言葉で説明ができました。けれど、このコンベックスが放つ魅力は、人によっては「わからなさ」もありそうです。長さを測る機能はどれも同じで、あとは自分にしっくりくるかどうかです。
そして「その日の気分で選ぶ」(クリエイター談)というのが究極に「なんか」。
人間は「なんか」で生きている
「なんかいい」という魅力を、言葉で説明するのは難しいものです。なぜなら、触覚や匂いといった目には見えない要素、雰囲気や佇まいといった数値化しにくい要素が関係しているからです。
そうした「なんかいい」ものに、便利さや効率といった実利性はないかもしれません。けれど、人の心を癒し、安心感を与え、心のエネルギーをチャージする栄養剤になります。つまり人間の根源的な感覚に働きかけ、それが愛着を生むのです。
そうした「なんかいい」を大切にすることが、心を豊かにして、人間らしく生きることにつながるのではないでしょうか。
近年は科学分野と人文社会科学を掛け合わせることで、人間に寄り添うテクノロジーを開発して、未来を切り拓こうという動きも出ています。aiboやLOVOT(ラボット)のような愛されるためのロボット、共感したり察したりすることで人間の話し相手・理解者となるようなAIシステムは、その好例と言えるでしょう。
未来志向のクリエイターたちは、すでに「なんかいい」が突破口になると考え、ものづくりに取り組んでいます。本展は、そうしたクリエイターたちの視点を身近なものを通して感じ、これから大切にしていきたい「なんかいい」を考える機会になるでしょう。