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虎の翼に向かい風 はて?の風はアゲンスト 物語の3分の1を総括だ その4

今日のOP: 日本アニメーション「赤毛のアン」第1話

皆様、おはこんばんちは。

今日のOPは、アニメ「赤毛のアン」第1話です。
何故なら今回のテーマは、赤毛のアンで読み解く虎に翼、特に直言の最期

虎に翼を視聴していると、赤毛のアンを思い出しました。
ちょっと前に NHK で「アンという名の少女」という現代リメイク版も、
楽しく視聴したところですし。
いっちょ、トライしてみます。

今回はヒロイン寅子を取り上げるだけあって、過去最長です。
でも、あらすじを纏めているうちに気付くこともあり、
ただ書き下すことも侮れないな、とも感じます。

備忘録代わりに物語を書き下しているので、皆様には退屈かな。
お時間の無い方は、直言の最期だけ見るのが、時短です。
目次の遥か下、最後のあたりに位置します。


不適切な時代のアニメで育ちました

子供向けアニメ・特撮の減少に、少子化を思う

昔は夕方5時、6時台って、アニメの再放送枠だった。
ベビーブーマー世代の子供が、テレビに張り付いて、アニメを見ていた。

最近では各局、夕方は情報番組を兼ねたニュース番組。
早朝、朝、昼、午後にはワイドショー。
皆さんそんなに、大谷選手の活躍や、
話題のスポット及び行列のできる飲食店を、繰り返し見たいのか?
同じVTRを、時間帯の違う番組で使い回して、
製作費を浮かせてるんですよね。

少子化のせいで、子供向けアニメを放送する "うま味" は、もう無いのかぁ。

大人からのメッセージではなく、キャラクター商品戦略へ。
だって資本主義だもん!

昔は "ためになる" 子供用のアニメを、大人が熱意を傾けて作っていた。
市原悦子さんと常田富士夫さんの「まんが日本昔話」に、
宮城まり子さんの「まんが世界昔ばなし」。
「キャンディ・キャンディ」の裏番組だった、「まんが偉人物語」。
(昔はアニメでも、タイトルに "まんが " が付いてた。うぷぷ)
身から出た錆とか、天網恢恢疎にして漏らさずとか、努力は報われるという
道徳観念を自然と子供が学べる作品は、どこに行ったのだろう?

今時の子供用アニメで知っている作品。
ポケモン、プリキュア、シンカリオン。 バトルものだな。
ドラえもん、クレヨンしんちゃん。アンパンマン。 子供向け長寿アニメ。
ワンピース。 股旅バトル。
名探偵コナン。 推理もの。
特撮では、ウルトラマンに、石ノ森特撮シリーズ。 息が長いね。

ズルや他人の迷惑、力で他者をねじ伏せることについての問題提起とか。
友情、努力、正直さは大事とか。
うん、現在の作品でも、確かに学べる。

でも、一生懸命に作品を制作されている方には申し訳ないんだけれど、
キャラクタービジネスありき、なのはちょっと寂しい。
世界展開を見越して企画を立ち上げるから、日本らしさが薄い。

資本主義だから、当たり前なのだけれど。

今の子供が素直に羨ましい時もある

でも、最近の子供番組のクオリティって、凄くないですか?
たまたまEテレの子供向け教養番組を目にした時など、
CGのものすごい映像が、目に飛び込んで来ることがある。
昔に比べて本当に分かりやすい。
これが当たり前とは、なんて贅沢なんだろう、と素直に羨む。
理系的思考が、どんどん育ちそうだ。

実は、いい年こいて、
金曜朝のデザインあ、土曜朝のピタゴラスイッチは、録画で視聴してます。
物事の仕組みとか、実はこんなものが、とか紹介してくれる。
目からうろこが落ちたり、自分の予想が当たってちょっと嬉しかったり。
機械要素なぞをアニメで紹介してくれると、へーっと感心する。
ピタゴラ装置なんて、トムとジェリーやウォレスとグルミットの中で見た
ワクワク連鎖作動装置が現実になっていて、発想の豊かさに感心する。

不適切だから、面白かった

昔は「遠慮がない」作品が氾濫していて、
ちょっと背伸び気分で「にひひ」と楽しんでいた。
毒をぺろっとひと舐めして、おお、きたきた、てな感じ。
薬屋のひとりごとの猫猫かよ。

ハクション大魔王は、ドラえもんをブラックにした感じ。
元祖天才バカボンは、ご存知ナンセンス。
ルパン3世パート1。未就学児童のくせに、よくこんなもの見てたな。
パタリロ。よくぞ地上波のゴールデン枠で放送してくれた。天晴。
ドロンジョ様も、遠慮なくキセルを片手に、小粋にポーズを決めてた。

現在の常識では、子供には内容がドギツいアニメたち。
でも、そんな不適切なところこそが、面白かった。

パタリロなんて、今時の地上波では、再放送できないと思う。
良き時代であった、とオールドタイプは胸を張る。
「不適切」の包囲網が狭まる一方なのは、やはり寂しい。

世界名作劇場は、どこへ行った?

どんなに「不適切」の包囲網が狭まろうが、どこ吹く風、
保護者推薦・㊝太鼓判付きのアニメシリーズが、世界名作劇場だ。
日曜夜7時半は、これで決まり。
ハイジ(厳密にはシリーズ外)は視聴率で、宇宙戦艦ヤマトをKOした。

そんな鉄壁の世界名作劇場シリーズも、最近トンと、見かけなくなった。
ホンの10年余り前までは、地方局でしょっちゅう再放送されていたのに。
NHKのBS放送でも、かつては週4日、
子供用の名作アニメ放送枠が確保されていた。
寂しいものだ。
貧乏や辛抱は、もう過去のハナシで、見向きもされないのか?

知らない間に絶滅危惧種となった世界名作劇場の中でも、
チラホラと再放送される人気作。
アルプスの少女ハイジ、フランダースの犬、
あらいぐまラスカル、トム・ソーヤの冒険、そして
赤毛のアン。

名作「赤毛のアン」の生き残り戦略。遺伝子は残り続ける

NETFLIX版、実写の「アンという名の少女」の登場は、新鮮だった。
ジェンダー、セクシャリティ、人種、原住民への価値観の押しつけなど、
アンの好奇心の発動先は、原作よりも多彩になっている。
ジャガイモで発電したりと、実験も楽しい。
現代人がリアルタイムに視聴して楽しめるように、十分工夫されていた。

アニメ版のアンは教師になったけど、
ドラマ版のアンは、新聞記者や弁護士になりそうな勢い。
確かに、彼女の好奇心と行動力と知性なら、その方が向いているかも、と
自然に思わせるストーリーの巧みさ。
名作が現代でも姿を変えて逞しく生き残ってくれるのは、
素直に嬉しいです。

赤毛のアンのOPに、今更ながら驚いた。視覚的速度の妙

しかし、今回改めて赤毛のアンのOPを視聴して思ったこと。
なんと、開始から25秒あたりまで、主役のアンは直接的には描写されない。
OP全体にわたって、ものすごく勿体付けて、
焦らしに焦らしてアンを映すのだ。
露出の程度が、クルクルと切り替わるのですよ。
そして、視覚的速度が絶妙にコントロールされているのに、
視聴者がその意図をうるさく感じ取ることは無い。

というわけで、OPを自分なりに解剖してみました。

イントロ~きこえるかしら ひづめのおと
登場時には、達者に馬車を乗りこなすアンの影。
草原の中に咲く花々が、季節が春であることを教えてくれる。
花々は、馬車の軽快なスピードによって混じり合い、
ライン状に溶け合っている。

ゆるやかなおかをぬって かけてくるばしゃ
その後、たてがみを揺らしながら軽快に駆けていく、
馬の後ろ姿に切り替わる。
馬の前半身だけがしばらく映り続ける。
やっとアンの後ろ姿が映るのが、25秒。

しかも、姿を現したと思った直後に森の中に入っていき、
当たりは真っ暗になる。

むかえにくるの むかえにくるのね
だれかがわたしをつれてゆくのね

森を抜けて明るい光に包まれたら、
ようやく28秒付近で斜め正面の全身ショット。
馬の脚は、音楽のテンポに合わせながらも、以前よりゆっくり動いている。
曲自体のテンポは変わらないから、2倍のスローモーションかな。
アボンリーの広大な自然を遠景に、空中を駆ける馬車。
アンの目鼻立ちは、ボヤけてはっきりしない。
35秒付近で、ようやく近づいてアンの容貌を捉えることができる。

しろいはなのみちへ
軽やかにスカートをたなびかせ、満開の花の中に突入するアン。
初夏なのだろうか。
爛漫の花の美しさの中、アンの姿はちらちら見える程度。
再び、出し惜しみが始まる。
アンに並走するカメラと、花を湛える枝との距離が、近い。
だから、枝が次々と入れ替わり、疾走感が増す。

かぜのふるさとへ
と思ったら48秒付近で、枯れ葉が無数に舞い落ちる秋のシーンに突入。
アンは後ろ姿になり、枯れ葉で見え隠れを再び繰り返す。
カメラは彼女を、斜め後ろから捉える。
満開の花のシーンと同じ速度で駆けているはずなのに、
1枚1枚の枯れ葉が画面にとどまる時間が長いせいで、
時間の流れがゆっくりに感じられる。
枯れ葉の動線を斜めに設定することによって、
滞留時間をわざと長くしていることも効いている(ピタゴラスの定理)。

遠景、満開の花、枯れ葉のシーンではそれぞれ、
視覚的速度が違っていることを指摘した。
満開のシーンの視覚的速度が他に比べて速いのは、実は奇妙では?

遠景のシーンから満開の花のシーンへはそのまま突入しているので、
馬車の速度は同じはずだ。
また、遠景のシーンと枯れ葉のシーンとでは、
馬の脚の動きの速さは、大差ないと思う。
だから、遠景、満開の花、枯れ葉の、どのシーンでも、
馬車は同じ速度で走っているはずだ。

主題歌のテンポに合わせて馬車は進んでいるのだから、
当然の帰結である。
それなのに、視覚的速度が異なるとは、これ如何に?

馬の脚が同じ速度で動くのが目に入ると
画面の速度感が、馬の脚の動きに支配されてしまう。
そうなると、場面ごとに緩急を付けることが、困難になる。
そこで満開の花のシーンでは、馬を画面外に配置して、
わざと馬の脚を隠しているわけだ。

馬車の速度は同じでありながら、
カメラワークと、撮影対象までの距離と、フレームワークとを
巧みに操ることによって、
こんなに視覚的速度をコントロールしているんだ!
凄い。

つれてゆくのね
54秒付近で雪舞い落ちる冬のシーンになると、
ようやく、待望のアンのアップが登場。
後ろを振り返りながら微笑みを漏らし、また前を向く。
後方には、彼女の大事な宝物があるのだろうか。
それとも、辛い体験も、幸福な現在では単なる思い出でしかないのか。
自分を温かく見守る存在に背中を押されて、アンは前を向くことが出来る。

この場面でも、馬が画面内に存在していない。
背景の白樺(?)の木々はかなりの速度で流れるし、
雪も殆ど真横に振っている。
馬車の速度は、かなり出ているはずだ。
でも、アンの動きはゆったりとしていて、だからこそ対比でとても目立つ。
こういう風に、アンにスポットライトを当てるんだ、へぇー。

つれてゆくのね~アウトロ
ここで、冒頭の草原のシーンに戻る。

イントロのシーンと一見同じに見えても、
アウトロのシーンには、実は違う点がある。
この後に引き続く一本道のシーンで、後ろ姿のアンは空中を駆けている。
だから、直前の草原のシーンでも、アンは空中を駆けているのだ。
そう来るか、と思わせる渋い演出だ。

最後の静止ショットは、手前から草花、湖、生い茂る木々、草原と、
アボンリーの自然を一枚の背景に収めている。
そして、小鳥を指に乗せるアン。

豊かな大自然に包まれて成長する少女の物語の紹介が、見事に着地した。
1分18秒のOPに、四季の移り変わりが閉じ込められている。
アンの露出も、メリハリを付けて、巧みにコントロールされている。
濃ゆい。

監督は、高畑勲監督さん。
画面設定は、宮崎駿さん(途中離脱)。
キャラクターデザインは、近藤喜文さん。
何れの御方がOPの絵コンテを切られたのであろうか?

何はともあれ、こんなすごい演出を、
ポケーっと視聴していたのだから、
何とも贅沢な子供時代だったな。

以上、世界名作劇場の布教活動でした。

猪爪家だョ、全員集合!

猪爪家の男性は、名前に「直」が入っている。
正直とか、真っ直ぐとかいう気質が、確かに猪爪家の特徴だと思う。

父 直言

猪爪家の家長は、直言なおこと
銀行に勤務するサラリーマンであり、法学部出身のようだ。
旅行先の旅館の娘はるさんを見初め、恩師 穂高の媒酌で結婚した。

性格は、人がいいけど、詰めが甘い感じ。
名律大学女子部進学の許諾をはるから取り付けることを安請け合いしたが、
結局自分からは切り出せなかった意気地なしさんである。

共亞事件の時は、家族のために、と諭されて嘘の自白を決意した。
それくらい、家族愛が強い。

銀行を退職した後は、火薬会社「登戸火工」を興す。
太平洋戦争の特需に恵まれ、会社は軌道に乗って順風満帆。
しかし、終戦後は注文も途絶え、会社は消滅。
従業員の重田のじいさんの紹介で、
マッチ箱のラベル張りおよび中身詰めの仕事を得て、一家は糊口をしのぐ。
高い素養を備える猪爪家の方々がラベル張りに精を出すのは、
とても切ない光景だ。

新聞好きで、知的好奇心の強さが伺われる。
知的好奇心を、寅子は直言から受け継いだのだろう。
直言は、寅子の一番の応援者。
寅子の新聞記事をスクラップするのが、何よりの楽しみだ。

母 はる

母はるは、丸亀の旅館の娘で、郷里の甘めの味付けを好む。
家庭では夫を尻に敷くが、対外的には夫に従う妻を演ずる。

はるさんは直言との結婚で、故郷の友人と縁を切った、との発言があった(第54話。第11週の内容で申し訳ない)。
一方、共亞事件のとき、はるさんは実家から手紙で縁を切られた。

つまり、結婚の際には、
実家とは縁続きだったけど、友達とは縁切りしたことになる。

直言との結婚で、実家から縁を切られるのなら納得できるのだが、
なんで友人と縁を切ることになったのだろう?
「生きていればいろいろありますよ」との、はるさんの発言でした。

どなたか理由を推測できる方、お教えいただけないでしょうか?

素朴な疑問

はるは、自分を抑える理性の人ではあるが、元来は気の強い性格だ。
名律大学女子部進学を断りもなしに決めた寅子には、
婚期を逃すことがどれほどのデメリットをもたらすかを、切々と説く。
何せ、女子部を経て法学部を卒業すると、寅子は24歳。
結婚適齢期を完全に逃してしまう。

しかし、甘味処 竹もとで裁判官の桂場が寅子をけなすと、
本来の気性の激しさが、ついつい顔を覗かせてしまう。
桂場に啖呵を切って寅子の優秀さを説き、勢いで寅子の女子部進学を許す。
反対をしていたのは、あくまでも寅子のため。
本心では、寅子の並外れた優秀さが埋もれるのを、惜しんでいたのだ。

丸亀は香川県に属し、気質は「へらこい」と呼ばれ、理に鋭く合理的。
寅子に結婚を強く勧めたのも、それが一番娘のためになると考えたからだ。

一方、はるさんの性格は、土佐の女性の「はちきん」と呼ばれる、
負けん気の強さも色濃い気がします。
だから桂場が寅子をけなしたとき、思わず啖呵切っちゃったんでしょうね。

はるは几帳面な性格で、結婚後は欠かさずに、
日々の出来事をノートに綴っていた。
このノートが証拠となって、
共亞事件の時、直言の自白が虚偽であることを立証できた。
はるは押しも押されもせぬ、猪爪家の影の大黒柱なのである。

両親の夫婦仲

おっとりした人の好い直言と、しっかり者のはる。
お似合いの夫婦である。

花岡と寅子が「いい仲」であることに、夫婦で内心、期待を寄せていた。
花岡が他の女性と婚約した時は、
夫婦で壁に手を当ててずっこけポーズをとるほど、息もぴったりだ。

寅子が優三との結婚を決めた時、
疑問を呈する直言に対して、
はるは「その手があったか」と鶴の一声。
これですべてが決まっちゃうところが、この夫婦らしさで、微笑ましい。

直言は猪爪家のッドファザー。はるはッドマザー。

長兄 直道

「俺にはわかる!」と言って、頓珍漢な推測を口にする、的外れな人。
しかし、優三と寅子が結婚することは、瓢箪から駒で、的中させてしまう。
見合いの席で花江に一目惚れする単純さを有するが、
猪爪家で思い悩む妻を思いやって別居を決断するなど、
おおらかで、とても優しい。

お釈迦様の如き花江の手の平で転がされ、
のんびりと幸せを満喫する果報者である。
太平洋戦争で、妻と、直人&直治の二人息子とを残し、戦死する。

鷹揚な直道がいつか花咲かすことを願っていたので、
戦死はとても残念でした。

兄嫁 花江

元々寅子の女学校時代の親友であり、寅子よりも現実的な性格をしている。
見合いの席で直道に一目惚れさせ、結婚に漕ぎつけた。
実は、先に一目惚れしたのは花江で、その事実を直道には伏せたままだ。
女子部への進学をはるに告白するチャンスを伺っていた寅子に、
自分と直道の結婚後にするようにアドバイスしたりと、根回し上手。

結婚後は猪爪家の中で孤立感を感じる。
直道の許しもあり、自分たちの住居を構えて、夫婦独立する。

他人の気持ちに鈍感な寅子に、世の女性の気持ちを代弁する、
「一般女性の象徴」的な役割を果たしている。

花江ちゃんについては、以下の記事で取り上げています。
1万9千字を超える長文です。
目次を利用して、時短できます。
書いた張本人が言うのもなんですが、難解で面倒くさいです。

末弟 直明

向学心に溢れ、帝大進学のために岡山の学校に進学。
戦後、猪爪家に帰ってくる。
戦争終了によって火薬会社が立ち行かなくなった猪爪家のために
大学進学を諦めて働こうとする、生真面目な性格。

書生 佐田 優三

猪爪家の書生。
両親を早くに亡くした優三を、直言が面倒見てやっている。
父と同じ弁護士志望で、銀行で働きつつ大学の夜学で勉強を続ける苦労人。
司法試験には毎年落ち続けて、肩身の狭い思いをしている。

寅子を密かに慕っているが、奥手で口には出せない。
土壇場ではおなかを壊す、気の弱い男性である。
一方、共亞事件の時には、土足で踏み込もうとする検察官を押し留め、
頼りになる一面を見せた。

良く耐えたね、偉いぞ、優三。
役人たちが退去するのを見送って礼をするとき、
右手でお尻を押さえてたよね。
あの後、大急ぎでトイレに駆け込んだんだ。お疲れ様。

普段は気弱だけど、決めるときは決める優三

寅子が受験生である間は自分も受験して良いと、
優三は自主的に受験回数にリミットを設けた。
終に筆記試験で、受験2回目の寅子と、同時合格を果たす。
一体、優三は何度目の受験であったのだろう?
しかし、口述試験では、寅子は合格、優三は不合格。

来年は筆記試験免除であと一頑張りだ、と励ます直言の説得を、
決意通りに退ける。
はるは、優三本人が決めることだからと、直言を制止した。

寅子が司法修習で多忙なのを横目に受験勉強するのはキツかろうと、
はるは配慮したのだろうか?
ここから踏ん張るか踏ん張らないかは、本人次第だものね。

優三は受験生活に幕を引いて猪爪家を退去し、
直言の火薬工場で働き始めた。

寅子と一緒じゃないと、試験中におなかを壊してしまうだろうから、
これ以上受験し続けるのは無駄だ、と悟った優三さん。
しかし、2年連続で口述試験に落ちる人は、稀だと思います。
もうちょっと粘って欲しかった。

書生を辞め、一度は恋心を封印した優三。
しかし、結婚して社会的信用を得るために見合い相手を探す寅子に、
決死の覚悟で結婚を申し込む。
寅子は、「契約」結婚の申し込みと誤解して、無邪気に了承してしまう。
戦争の色濃い時節柄、契約結婚であることは秘密にしつつ、
式は挙げずに記念写真だけで済ませて、結婚生活を開始する。

ヒロイン 寅子

この朝ドラの押しも押されもせぬヒロイン、寅子ともこ

恋とは無縁の変わり種

記念すべき第1週では、
・見合いから逃げ出そうとしたり、
・見合いの席で仏頂面をしたり、
・一見 物わかり良さ気な見合い相手に有頂天になって遠慮のタガが外れ、
 議論に花を咲かせようと次々に自説を披露してウザがられたり。
恋を夢見る乙女とは一味違った「変わり種」であった。

女学校では同点で一位だったのだが、
素行不良で2位に格下げされた経験がある、一種の問題児。

寅子の十八番は、「モン・パパ」という、女性上位の歌。
寅子のモデルの三淵嘉子さんも、実際にモン・パパがお得意で、
これを歌って雰囲気を明るくするお茶目さんだったようです。

法律との出会いと、大学進学の決意

弁当を届けるために訪れた優三の夜間講座で教鞭をとっていたのは、
裁判官の桂場。
法学者の穂高も、講座を見守っていた。

寅子は偶然、講義内容の「既婚女性は準禁治産者」という
理不尽な民法の規定を耳にし、無意識に反応してしまう。
寅子が思わず発した「はて?」を聞き流さなかった穂高に促され、
新設される名律大学女子部を経由しての、法学部への進学を決意する。
穂高に素養があると褒め(おだて)られ、
ぱぁーっと神輿に乗っかっちゃったわけだ。

どうなることやら、と言いたげな表情の桂場は、
寅子と穂高の御両名が盛り上がるサマを傍観していた。

寅子の「はて?」は、脊髄反射だ。
実際には脳みそで入力情報が処理されるのだが、
社会常識でそれを押し留めはしない。
だから敢えて、「的」を付けた。
寅子は、「鈍感力」のある傑物なのだ。

この「はて?」を問題提起として、ドラマのストーリーは進行する。
既存の価値観をひっくり返して予定調和を搔き乱す寅子に、
視聴者は共感して、喝采を贈る。

もし寅子が男の子だったら、
結婚に大して興味ないことも、
大学に進学することも、
何の問題もなかった。

寅に翼は、女性ゆえの理不尽を打ち壊す物語なのだ。

ここで、ようやく赤毛のアンにご登場願おう。

アンは、男手を必要としたカスバート家に、
間違えて連れて来られた、孤児の女の子。
自分がマシューの仕事を手伝えないことに負い目を感じ、
内心では「男の子だったら良かったのに」と思っている。

「女の子」のアンには、控えめで常識的であれという同調圧力が高かった。
しかし、感受性の強さと、かつての教育不足ゆえに、
アンは思ったことをズバズバと口に出して、周囲を呆れさせる。

しかし、根が正直で真面目で賢いアンは、
相手を理解し、
自分を理解してもらう努力を重ね、
アボンリーで受け入れられていく。

破天荒さが社会常識を打ち砕くという点で、
寅子とアンは共通してますね。
物語のヒロインに求められる資質ですね。

また、寅子は初の女性弁護士のうちの一人。
アンは、エイブリー奨学金を文系の成績で勝ち取った、選ばれた秀才。
頭の良さは、二人とも折り紙付きです。

寅子の鈍感力と成長の歴史

寅子の活躍の詳細は、皆さんご存知なので、搔い摘みます。

女子部にて 同志との出会い 開拓者の努め

女子部に入学した寅子は、変わり者だが頼りになる級友
香淑ヒャンスク 朝鮮人留学生。兄が特高に狙われている。略してヒャンちゃん。
・涼子 マスコミの注目の的の、華族のご令嬢。桜川男爵家の一人娘。
・梅子 3人の男子の母。離婚後に親権を得たい。
・よね 男装の毒舌家。過酷な出自を持つ。
と仲良くなる(よねさんは、仲など良くないと否定するかな?)。

裁判を傍聴した寅子は、妻にからむDV夫を裁判所の出口付近で、
怒りのあまり爪でにゃにゃにゃにゃー、と引っ搔く。
虎の属性じゃのう。

対してよねさんは、DV夫が妻に暴力を振るうことを「わざと」放置して、
法廷で有利になる証拠を得る方がクレバーだと主張する。

よねさんは法律を武器と考え、寅子は盾と考える。
花江は一般女性の代弁者。寅子は先鋭的な朴念仁。
キャラの対比で、ドラマの世界が広がります。

多彩なキャラで面白い

法廷で見せた引っ掻き癖は、よねさんの指摘程度では治りません。
女子部への注目集めの法廷演劇で野次を飛ばす小橋を引っ掻こうとして、
間違えて優三を餌食にしてしまう。
しかし、この件で懲りて、暴力は駄目だと悟ったのだろう。
それ以後は、引っ掻こうとするシーンは無い。
寅子は、ちゃんと学んで成長する朴念仁なのだ。

女子ゆえの差別・不利な境遇と戦いながら、共に法律の勉強を続ける。
衣装づくりやお饅頭づくりを通して、絆を深める寅子たち。
法学部には、5人揃って進学する。
(この5人以外は全員、法学部入学前に脱落してしまった。)

法学部にて 男女共学の洗礼 恋の芽生え 春が来た

法学部への進学を祝う宴では、
寅子は片手でコップを持って、左腕は開いた状態で、
ビールを「ごっごっごっごっ、ぷはーっ」と飲み干す姿を披露してくれた。

この飲みっぷりの豪快さ、既視感があると思った。
あっ、はじめ人間ギャートルズの父ちゃんだ!

流石、伊藤沙莉さん!!こんな朝ドラヒロイン、目撃したことなかった。
可愛いイメージ死守の女優さんならば、NGなシーンだったろう。
あまりにも開けっ広げなサマが気持ちよくて、思わず笑ってしまった。

豪快なヒロインだ

法学部は、男女共学。
どうせ男子学生は、敵対的な態度をとるんでしょ、と身構えていた5人。
ところがどっこい。
涼やかな二枚目の花岡悟は、女性への理解を示し、慇懃に振舞った。
花岡に回れ右する男子学生たち。

しかし、花岡に倣わぬ者も、もちろんいる。
轟太一という、男らしさの体現を喜びとする、男尊女卑臭が漂う輩。
小橋浩之という、法廷劇で野次を飛ばしてきた、小物臭漂う輩。
そういう男性級友を警戒せねばならぬのは、もはやご愛敬、といった程度。
拍子抜けしてしまうくらい、順調な滑り出し。

でも、花岡が女性をつっけんどんに振るのを目撃したり。
陰で、「ファイブ・ウィッチーズ」というあだ名で呼ばれていたり。
女子学生を馬鹿にすることは良くない、と轟が仲間を嗜めたり。
最初の印象とは異なる現実が、徐々に明らかになります。

そんな中、花岡の発案で、
男女連れ立って休日にハイキングに出掛けることになった。
男子学生とハイキング、という状況に歓喜する寅子の両親は
新しい靴を用意してくれたのですが、これが仇となってしまいます。
靴擦れして休む寅子を、花岡が気遣います。
花岡の正体に思い悩む寅子。

現地では、女子学生が用意した弁当を、みんなで堪能して和気あいあい。
梅子が同伴した三男の光三郎も、笑顔を見せます。 

そんな幼い姿が愛らしい光三郎に、ちょっかい出す輩が二人。
小橋と稲垣は、梅子の夫が妾を囲っていることを、光三郎に吹聴します!!
止めに入った寅子に、花岡は、
 仕事や家庭をうまく切り回す合間に、外で癒しを求めても許される
と発言します。
これを口火として、花岡は女子学生批判を開始。

口論を受けて立った寅子は、つい花岡を突き飛ばしてしまいます。
突き飛ばした先は、低めの崖でした。
よろけた花岡は、崖の端からは離れた場所に位置していました。
しかし、体勢を立て直そうとして花岡が体重を預けようとした杭が、
不運にも倒れてしまいます。
花岡は為す術なく、仰向けの状態で崖下に落下していきます。

あの体勢じゃ、後頭部を強打してお亡くなりになるかと、
本気で心配しました。
あのシーンは、いただけないです。今だに。

私の同級生は、中学校の平屋の自転車置き場の屋根から落下して、
脳内出血で亡くなりました。
2m程度の高さの自転車置き場の屋根よりも、
花岡が転落した崖の方が、ずっと高いです。

花岡の落下は、洒落にならないです。

落下とダメージとの不一致

幸い、花岡は入院はしたものの、骨折や打撲で済みました。←オイオイ!!
花岡が落下したことには、刑事事件的には、寅子は無関係。
轟も、あれは花岡のせいだ、と言いました。
しかし、寅子が突き飛ばして崖の縁近くに花岡を移動させたのも、事実。
罪悪感が、胸の中にこみ上げます。

見舞いたくても、ベッドに横たわる花岡を取り巻く女衆を敬遠し、
素直になれない寅子。

帝大に落ちて卑屈になっていた花岡は、同郷の轟に叱責され、反省する。
花岡、轟は佐賀出身で、九州男児なのか、なるほど。

真摯に頭を下げ、自分の正直な気持ちを吐露する花岡に梅子は、
人間は多面的だけど、自分の理想を大切にするように、と優しく励ます。
それを立ち聞きしていた寅子と轟。
わだかまりが溶け、確かな友情の芽生えを実感できました。

花岡は、崖からの落下以来、寅子が頭から離れない、と打ち明けます。
好きだとはっきり告げるのではなく、後は相手にお任せしちゃう。
九州男児だからなのか?
それとも、二枚目だからか?
常に女性の方からアプローチをかけられてきたのだろう。
自分から行動したのは、これが初めてなのね、きっと。
何はともあれ、遂に寅子に春が来た。

ここで、赤毛のアンとの類似性。

赤毛のアンに出てくる二枚目と言えば、ギルバート・ブライス。

アンの入学時には親戚の手伝いで欠席していたギルは、
復帰早々、新顔のアンにちょっかいを出します。
無視するアンに苛立ったギルは、アンの赤毛を引っ張って、
「にんじん、にんじん」と呼びかけます。

赤毛がコンプレックスだったアンは、瞬間沸騰。
手にしていた黒板で、ギルの頭を殴ってしまいます。
飛び散る破片。痛そう。

アンは、先生に癇癪持ちと非難されたことに加え、
遊んでいて教室に遅刻した罰でギルの隣に座らされたという
2重のショックで、登校拒否になります。
(「不登校」との違いは、「不適切にもほどがある」で知った。)
怒りの矛先はギルに向かい、天敵認定して、目の敵にします。

いたずら好きでハンサムなギルは、女の子を甘く見ていたのです。
ちょっかいを出した女の子が大目に見て、ウフフ、と許してくれるのが、
当たり前でしたから。

他の女の子とは違うリアクションを取ったアン。
学校に来なくなってしまったアン。
ギルは、アンのことを意識するようになります。

でも、いくら物語の展開上必要とはいえ、暴力はやっぱりいけませんね。

アンとギルバートの馴れ初め

諍いから相手を意識し、恋心へ発展。
虎の翼に共通してますね。
まあ、この辺の比較は、あくまで余興。

赤毛のアンとのアナロジーが効果を発揮するのは、
直言の心情を理解する時です。

共亞事件 でっち上げから父を救え!

初めての胸のときめきに、心浮き立つ寅子。
しかし、父 直言は贈賄容疑で逮捕され、家には家宅捜索が。
16人が逮捕された共亞事件の幕開けでした。

寅子を想う花岡は、穂高を手引きして猪爪家へ。
誰も引き受けてくれなかった直言の弁護を、恩師の穂高が買って出ます。
供述調書を写したり、講義のノートを都合したりと、
法学部の仲間たちが寅子を支えます。

新聞で事件を取り上げてもらおうと新聞記者に声をかけ続けた寅子は、
街中で暴漢に襲われそうになり、冷や汗ものでした。
つれない態度を寅子にとってきた新聞記者の竹中に、間一髪で救われます。
女性が法律を学ぶことを散々茶化してきた竹中の、
頼りになる正義感な一面が、判明しました。

この襲撃は後に直言の知るところとなり、
直言の戦う決意を後押しすることになります。

法廷で寅子は監獄法の施行規則をそらんじて穂高を助け、
検察官である日和田のウソを暴くキッカケとなりました。
これを受けて、世間の風向きも良い方に変わります。

共亞事件は、内閣総辞職を企む黒幕の水沼が仕掛けた陰謀でした。
日和田もグルだったのです。
水沼は後の厚遇を餌に、担当判事の桂場を買収しようと試みます。
しかし、法の正しさを尊ぶ桂場は、自分の信念を貫きます。
共亞事件が全くの捏造であるという渾身の判決分を書き上げました。

竹もとで見かけた桂場に判決のお礼を言おうとする寅子。
寅子に懇願されたからではなく、自分の信念に従った桂場は、迷惑そう。
確かに、裁判官の独立性を汚すような行為は、慎しむべきです。
しかし、素直に法律を尊重する寅子に裁判官の資質を感じた桂場は、
ついつい口を滑らせて正直な感想を声に出してしまいます。
傍観者を決め込んできた桂場の人間性が、少し顔を覗かせましたね。

しかし、裁判官に成れるのは、男性だけ。
寅子は、見えない天井を意識するのでした。

高等試験 女子部存続のために 仲間の脱落 無念を背負って

初めての高等試験の筆記試験で、
ファイブウィッチーズの面々と先輩の中山とは、揃って不合格。
先輩の久保田は筆記試験には合格しましたが、口述で不合格。
女子学生は全滅しました。

花岡と稲垣は、一発合格。
名律大学法学部の面目を保ちます。

入学希望者は減り、退学者は減らないことから、
名律大学女子部の廃部が決定されます。

これに待ったをかける女学生達。
土下座して、猶予を頼み込みます。
先陣を切ったのは、香淑でした。
女性が法律家になる道を、閉ざしてはならないのです。

大学側は、女子学生または女子卒業生が来年受かったら、
入学受付を再開すると約束。
捲土重来を誓い、皆の勉強への闘志は、ますます燃え盛るのでした。

大学を卒業する寅子は、受験継続を訴え、両親の説得にかかります。
はるは、働くことを条件に、許しを与えます。
寅子は、共亞裁判で穂高と共闘した雲野弁護士の事務所で雇われます。
意気込んで仕事に臨みますが、与えられる役割は、お茶汲み程度。
女である身が、恨めしいのでした。

2度目の高等試験に向けて切磋琢磨する仲間たち。
しかし、意図せぬ脱落者が続出します。

香淑は、不穏さを増す日本から脱出して、朝鮮に帰国。
涼子は、父が芸者と駆け落ちして、男爵家存続のために結婚を決意。
梅子は、夫に離婚届を突き付けられ、家を出た。

この辺の経緯は以前の記事で触れています。
興味のある方は記事の中の目次を利用して、
関心のある項目に飛んでください。

香淑&涼子編

梅子&よね編

遂に合格 光と影

よね、轟、優三と共に寅子は筆記試験を受け、
4人揃って合格します。
しかし、口述試験で寅子と轟は受かるものの、よねと優三は不合格。
後味の悪さが残りました。
女子部の先輩の久保田と中山も、最終合格を果たします。
晴れて、女子部の存続が実現しました。

難関試験に合格して祝福を受ける合格者の陰で、
不合格者は辛酸をなめます。
優三は、受験生活の断念を決意。猪爪家を去ります。
よねさんは、こそっと猪爪家を訪ねます。
口述試験に男装で臨んだよねさんは、試験内容は完璧だったが、
服装がトンチキだから落とされたと、わざわざ報告に来てくれたのでした。
ちゃんと寅子のこと、同志として認めてくれてたんだね。

最後に「おめでとう」の言葉を寅子にかけて、去って行くよねさん。 
自分の信念を曲げずに受験を続行することを、誓ったのであった。

現在の司法試験に該当する高等試験は、当時の官僚試験でした。
昭和13年に、男装の女性を官僚として採用するのは、あり得無い・・・。
高等試験を男装前提で受け続けるのは、ドン・キホーテの如き無謀。
まさに、"impossible dream"、 見果てぬ夢ですね。
過酷すぎます。

当時の高等試験の様子が説明されるサイト

初の女性弁護士の紹介。
中田正子さんは、本当に口述試験で落とされた経験がおありです。
久米愛さんは、ハイキングで旦那さまと知り合われたそうな。

晴れの舞台で 女性の代表として想いを背負う

大学主催の合格祝賀会では、
日本初の女性合格者として、ひな壇に座る3人。
新聞記者からは、日本で一番優秀なご婦人方だ、と褒められた。
普通なら、それを否定して謙遜したうえで、
お世話になった方への謝辞でも述べるのがセオリーだ。

しかし、我らが寅子は、己が不満を滔々とうとうと語り出す。

・学ぶ機会すら知らぬ女性、機会が与えられない女性、無念の脱落女性
という社会的犠牲者の上に、合格した自分がいること
・合格しても女性は、裁判官及び検事にはなれず、選択肢に偏りがあること
・男女差別が法律の中に明文で規定されていること
・生い立ち、信念、格好、性別で社会的に差別されること
・そんな現状を打破する弁護士を目指すこと

予想の斜め上を行く寅子の弁舌に、静まり返る会場。

その静寂を最初に破ったのは、桂場の押し漏らした笑い「ふふふ」。
続く穂高の「素晴らしい演説だ」の掛け声と、拍手。
ようやく我に返った聴衆が、穂高の拍手に続きます。

私は、ある日の出来事を思い出す。

英国ヘンリー王子と、アフリカ系アメリカ人の混血のメーガンさんとの
結婚を、エリザベス女王が許可した時のこと。
私は、メーガンさんが英王室に謝意を表すものだとばかり思っていた。
しかし、テレビで映されたのは、
さらなる進歩を当然の如く要求するメーガンさんの姿だった。

「英王室の英断を素直に褒め称える女性だったら、
デキル人だな、と思ったのに・・・。」
私の正直な感想だ。

自分を知ってほしかったら、相手を知る努力を払わねばならない。
相手が壁を壊したのなら、まずそのことを褒めるべきだよね。

正直な感想

寅子の主張は、120%、正しい。
合格して天狗になった彼女が初志を忘れたら、私は幻滅するだろう。

でも、寅子の受験勉強なんか吹き飛ばすくらいの途方もない先人の犠牲、
女性の犠牲だけでなく、穂高が代表する男性側の尽力が
延々と積み重ねられて、女子に高等試験の扉が開かれたのだ。

もう少し広い視野を25歳の寅子に求めるのは、酷すぎるのか?

ともあれ、寅子は、石を穿つ雨だれの一滴となった。

新聞記者竹中だけは面白がって寅子を記事にして、
直言が喜んでスクラップにしていた。

キャリアと恋愛は択一式? 決定打は、たなぼたで

司法修習では、引き続き雲野弁護士にお世話になる寅子。
花岡は、修習後2回目の試験に無事に合格し、
念願の裁判官になることが決定。
お祝いは、二人きりの食事会で、と花岡が指定しました。

決定的な盛り上がりには欠けるものの、会えば楽しい2人のお付き合いに、
遂に決定的な瞬間が訪れるのか?
場外の花江は大はしゃぎ。
はると一緒に、寅子のワンピース作りを手伝います。

趣のあるレストラン。
この日のための おニューのワンピースは、寅子にジャストフィット。
にこやかに微笑む、ハンサムな食事相手。
かつて、寅子の人生にこんな甘いシチュエーションが訪れたことは無い。
否が応でも、期待は高まる。

花岡の口が開き、いよいよか、と身構えるも、
告げられたのは、佐賀の地方裁判所に赴任すること。
勿論、笑顔で花岡を送り出す寅子。

花岡には、これから弁護士としての経験を積まねばならない寅子を、
佐賀に誘うことは出来ないし、一年待つとも言えない。
寅子は、花岡の行動を見守るだけの受け身。
花岡の最後の言葉は、「じゃ、また」。
お名残り惜しいのはわかるけど、もう心の中では決めてたんでしょ?
だったら、ちゃんとピリオドを打ちなよ。

花岡と入れ替わるように、
雲野の事務所によねが、見習い兼手伝いとして加入。
カフェで紹介され、人の好い雲野が採用した。

予期せぬ花岡との再会は、すぐに訪れた。
法廷初の女性弁護士となる久保田の晴れ姿を見学した傍聴帰り。
階段の上から、佐賀にいるはずの花岡が降りてきた。
如何にも女性らしい雰囲気に溢れた、若い女性を連れて。

息をのむ寅子、よね、轟。
轟は、驚きのあまり、風呂敷包みを落としてしまう。
同郷の轟すら知らされていなかった、花岡の近況。
(現在12週目の視聴中なので、轟の慌てぶりの理由を知ってる私。)

花岡は努めて にこやかに報告する。
佐賀に帰った早々、同郷の小高奈津子との婚約が決まったことを。

空気を直ちに読んで、すぐさまお祝いを述べる寅子。
リアクションに戸惑うよねと轟。

相手からのアプローチを待つ、受け身同志のお付き合いだった二人。
どちらかが踏み出さねば、なにも進展せず、いつかは自然消滅する運命。
アクセルを踏み込まない車が、いずれ停止してしまうのと同じ。

岡目八目実況

寅子不在の飲食店で、
非道な仕打ちに憤るよねと轟に辛い心情を吐露する花岡。
寅子の夢を奪うことは出来ない。
奈津子には、誠心誠意 愛することで報いるつもりだと。

花岡は階段の上、寅子、よねおよび轟は階段下のホールに位置する構図。
これは、花岡が一足先に大人になった象徴かな。
自分の欲求よりも、周囲からの期待を汲んで意思決定する道を選んだ花岡。
いつか自分の心と義務との板挟みになる、孤独な未来の示唆なのか?
桂場の、「花岡は裁判官には向かない」の意味って、このことだったのか?

花岡がよねと轟に詰められる場面では、3人の目の高さが同じ。
この場面では、3人は対等なのだな。
だから、花岡は心情を吐露できたのか。

構図について考えてみた

恋は去ったが、寅子にはキャリア形成の道が残された、かと思いきや。
皮肉なことに、思わぬ挫折が待っていた。
未婚の女性弁護士は、社会的信用が無く、依頼者に次々と拒否される始末。
恋愛をゲットしなきゃ、キャリアもパアなんかい!
とんだ落とし穴である。

慌てて見合い相手を八方手を尽くして探すものの、
弁護士なんて高尚なご婦人、しかも御年26歳では、
相手が見つからず、見合いの席すら設けることも出来ない。
打席に立つことすらできず、ベンチでずっと控え続ける寅子。

もうこのまま試合終了かと思われた矢先。
スーツを着用し正座姿の真面目くさった優三が、かつての書生部屋で、
帰宅した寅子に切り出した。

僕では駄目ですか?

訊けば優三も、独身ゆえに肩身の狭い思いをしている、と。
優三の本心を知らぬ鈍い鈍い寅子は、渡りに船の契約結婚と、快諾する。
延長10回裏サヨナラ勝ちといったところだ。
実は本気の優三は、緊張がピークに達し、
例の如く腹をを下してトイレに直行。

ロマンも減ったくれもないプロポーズだけど、
優三は勇気を出して一歩を踏み出した。
それが、花岡との違い。

ギルバート・ブライスと優三には有って、花岡には無かったもの。
それは、自分から相手にアプローチする積極性。

アンが白百合姫ごっこに興じていた時のハプニング。

乗っていた小舟が沈没して仕方なく橋脚に掴まり助けを待つアンを、
偶然ボートに乗っていたギルバートが助け出す。
ギルバートはこの機に乗じてアンに仲直りを提案するが、
アンは「にべもなく」断ってしまう。
遂に今度は、ギルバートが堪忍袋の緒を切らし、本気で怒りだす。

そうやってギルバートとは決裂したのですが、
アンは自分の軽率を密かに後悔します。

銀行の倒産とマシューの突然死とが重なり、
おまけに目のトラブルまでもが判明して途方に暮れるマリラ。
グリーンゲイブルズを守らなければいけないと決意するアン。
折角の奨学金を辞退して大学進学を諦め、教師になる決意をする。
ギルバートは、採用が決まっていたアボンリーの教職を、アンに譲る。
そして、再び仲直りを申し出る。
アンは、船着き場で既に許していた、と自分の過ちを認めて
ギルバートと友達になった。

ギルバートとアンの紆余曲折の仲直り

アンとギルバートは、途中何度もボタンを掛け違えました。
最終的には、お互いに自分の過ちを素直に認めることによって、
正直な気持ちを伝えあいました。
こういう積極性が、寅子と花岡の間には、欠けていた。
ギルバート役が、花岡から優三にバトンタッチされたわけですね。

結婚が決まった寅子は、依頼を受任することに成功。
どうせ契約結婚だからと華燭の典は行わず、
両親のたっての願いで結婚記念の写真撮影だけは行う。
そんなこんなで「あっさり」と新婚生活に突入。

しかし、並んだ布団を目にして流石にドキドキする寅子に、
優三は(寅子には)意外な事実を告げて、すぐさま眠りに落ちた。

寅ちゃんには指一本触れたりしないから。
まぁ、僕はずっと好きだったんだけどね、寅ちゃんが。

真意を確認しようと、優三を叩き起こして事情聴取。
弁護士になることを諦めた際に、寅子への気持ちは封印することにした。
しかし、見合い相手探しに難航しているなら、ダメ元で申し込もうと。
そんな経緯は、初耳だった寅子。
呆気に取られている間に、優三は寝てしまう。
放置プレイで、モヤモヤする。

紆余曲折を経ても、寅子は無償の愛をゲットしていたわけだ。
ちゃんちゃん。

結婚して社会的に一人前 仕事にまい進する寅子に落とし穴

第8週は、「あっ」という間の怒涛の展開でした。
契約結婚から2週くらいかけて愛が芽生えると踏んでいたもので。
二人の関係が深まるエピソード、カモンと呑気に構えておりました。
まさか、僅か一週で愛が育って子供が生まれて優三が出征するとは。
ジェットコースターどころか、ロケット並みのスピードでした。

怒涛の展開に呆気にとられた私

結婚式を挙げなかった二人は、穂高に挨拶に出掛けます。
大の寅子びいきの穂高は、相好を崩して祝福してくれます。
しかし、印象の薄い優三は、ロクに名前も覚えられていません。
それでも、寅子の夫として紹介されるだけで幸せなのか、にこやかな優三。

結婚適齢期の娘さんを法曹の道に引きずり込んだ後ろめたさから解放され、穂高も肩の荷が下りたのでしょう。
上機嫌で、婦人弁護士としての一層の活躍に期待を寄せました。

結婚によって準禁治産者になったという事実は一切意識することなく、
社会的な信用を得てバリバリ仕事に精を出す寅子。
よねとタッグを組んで仕事をこなし、やりがいを感じます。
世の中では、轟や直道を含め次々と男性が出征し、弁護士が不足します。
女性の社会での活躍の場が、戦争によって増えたのは皮肉でした。

絶縁した義理の両親に子供の親権を奪われそうな両国満智なる女性が、
訴訟弁護の依頼にやってきます。
満智は、4歳の長男を育てつつ、おなかに子を宿す未亡人。
聞けば、夫の死後に何らの援助もしてくれない冷たい義理の両親だとか。
仕方なく夫の歯科医院を知人の歯科医に間借りさせて、
賃料収入で子供を育てることにした。
すると、妾になった女には子供を育てる資格がない、と提訴された。

「著しき不行跡」という、女ならではの糾弾も、鼻に付く。
ここはいっちょやったるでぃ、と発奮する二人。
敗訴して「孫は忘れる」と決意する義理の両親の姿に多少心が痛むものの、
無事勝訴して充実感に浸ります。

しかし、とんだ失態が明らかになります。
調書に記載された夫の病状と、おなかの子の月数とが合わないことに、
勝訴の後で気付く寅子。
事務所にお礼を述べに来た満智に、その疑問を問いかけました。
すると満智の態度は豹変し、高らかに言い放つのです。

おなかの子どころか、長男すら、間借りさせている歯科医の子供。
女の弁護士って、手ぬるい。
女が生きるには、悪知恵が必要。

まんまと騙されたと意気消沈する寅子とよね。
帰宅した寅子は、優三にコトの顛末を吐き出します。

2人とも不義の子という満智の発言には、矛盾があると私は考えました。
ご興味があれば、どうぞ。花江ちゃんと同じ記事です。
記事の中の目次で、満智の項まで飛んでください。

躓いて知る、優三の本当の優しさ

翌日優三は鶏の手羽焼きを2本入手して、寅子と河原で分け合います。
おそらくポケットマネーを相当費やしても、
戦時中では2本買うのが精一杯だったのでしょう。

一本気な寅子が現実と上手に折り合いをつけられるように、
優しく気遣いながら言葉を選ぶ優三。

皆に内緒で手羽に噛り付くことは、後ろめたいけど、時には必要でしょ?
誰だって、色んな事情で、自分の正義を曲げながら生きなければいけない。
常に正しくあろうと肩ひじ張ってたら、疲れてしまい、本末転倒だ。
優三の前では、肩の力を抜いて、寅子はありのままでいればいい。

なーんて感じのストレートな想いを知ったら、
そりゃ鈍感女王の寅子でも、本気で恋に落ちるってもんだ。
花岡には、これが足りなかったね、うん。

優三にとって法律は、
 自分を保ちながら現実社会と折り合いをつけるための指針
のようですね。

その晩、自ら優三の布団に潜り込む寅子。
受け身ではなく、自分からアクションを起こせるってことが、
運命の相手ってことなんでしょね。

寅子は結婚後も優三とともに、猪爪家に「パラサイト」している。
身の回りの世話をはるさんに丸投げして、独身時代と何も変わらない。
寅子には所詮は契約結婚、実質的に心は猪爪家の娘のままなのだろう。

本来は夫婦で独立し、否が応でも家周りの雑務に悩まされたはず。
優三と夫婦のあり方を話し合うことによって仲が深まるという
描き方も出来たのではないだろうか?

はるに負担がかかるのが、心配ではないのか?
女中を雇うなり、花江にちゃんと対価を支払って手伝ってもらうなり、
けじめはちゃんとつけたのだろうか?

長男の直道が独立し、娘の寅子が居座る。
そんなところが猪爪家らしさだと言われたら、それまでなんだけど。

私の疑問

母、職業人、女性弁護士の先陣としての気負いの空回り

寅子は妊娠して、家族一同から祝福されます。
まさに、幸せの絶頂。
しかし、つわりで体調は悪化。
妊娠を告げたらきっと、優しい雲野は仕事を取り上げる。
一人で耐えるしかない寅子。

辛い寅子に、久保田が追い打ちをかけます。
ママさん弁護士として先輩である久保田は、
仕事と家庭の両立に疲れ果て、夫の故郷に引き上げると告げます。
弁護士も、辞めるかもしれないと。

初の女性弁護士としての責任を、一人で背負いこむ寅子。
久保田の連載記事も、寅子が引き継ぎます。
事情を知らない穂高の依頼で講演会も引き受け、パンク寸前。
ついに、講演会の直前に、倒れてしまいます。

寅子が事情を打ち明けると、
穂高は喜びながら、母親業を優先するように進言します。
法学部への進学を勧め、
初の女性弁護士としての責任を散々自分に負わせてきた、
穂高の豹変。

穂高はさらに、雲野法律事務所にやってきます。
寅子が顔を出したのは、既に穂高が妊娠アウティングを済ませた後。
当然のように、寅子の休職が決まります。
寅子が自分に妊娠を隠していたことにショックを受ける、よねさん。

女性が弁護士になれるよう、散々尽力してきた穂高。
女性弁護士が活躍する環境を整備するのに時間や周囲の配慮が必要なことを、穂高は見抜いているのです。
彼自身は、徳川家康の如く、状況が変わるのを辛抱強く待つ覚悟がある。
穂高はずっと、女性の法曹界進出を願ってきたのだから、
それがどんなに困難で時間を要するか、百もご承知なのだ。
穂高の視線は、寅子よりもずっとずっと、遥か遠くを見つめてる。

「雨だれ石を穿つ」を達成するには、
もっと多くの女性弁護士が誕生する必要があり、
寅子一人でどうにかなるものではないと、
達観している。
だから、身重の寅子を気遣って、戦線離脱止む無しと判断した。
穂高にしてみれば、すべては自分の責任感と親切心なのです。

寅子の才能を見抜いたから、法曹界の扉の叩き方を教えた。
器量を見込んだから、女性弁護士の先陣を切るよう、発破をかけた。
妊娠しながら働く環境が整っていないから、
寅子が休職できるよう、雲野に話を通した。
身重の体で頑張るのは、ただの空回りで、自己満足にしかならない。
無理をするのが当たり前という「先例」を作ることの方が、
よほど問題だと穂高は考えたのだろう。


「仕事は一段落したら、また再開すればいい。
資格はもう、持っているのだから。」

穂高は、臨機応変に、最適なアドバイスを、
明晰な頭脳で選んでいるのです。
寅子と穂高の視点の差が、二人のすれ違いの原因です。

理解されぬ穂高が悲しい

皆、寅子の身を案じて、精一杯気を使ってくれています。
でも、責任感で目一杯の寅子には、それがわからない。
遂に心が折れ、弁護士業を放棄してしまいます。

寅子の隠し事で裏切られた思いのよねは、そんな寅子に八つ当たりします。
逃げ道がある奴はこれだから、もう帰ってくるな、
と気持ちをぶつけます。
ただでさえ挫折感に打ちひしがれる寅子には、よねの言葉は致命傷でした。

普通の女性の、普通の幸せ それを凌駕する優三の愛

仕事を辞めてみれば、穏やかな日々。
普通の女性としての幸せを満喫する自分と、冷徹な視線を送る自分自身。
罪悪感や挫折感は決して消えない。
けれど、初めての娘 憂未の愛おしさは、何にも代えがたい。
そんな当たり前の幸せを引き裂く、優三の召集令状。

自己評価が低下し切った寅子は、河原で優三にひたすら土下座で謝ります。
こんな自分に付き合わせて、人生を滅茶苦茶にして、御免なさいと。
そんな寅子を優三の思いやりが、優しく包み込みます。
寅子の生き方は、寅子が好きに決めればいい、と。

弁護士をやろうが、別の仕事を始めようが、母親をやろうが、
頑張ろうが、頑張るまいが、
寅子が寅子らしく生きることだけを、優三は望んでいると告げます。

寅子のそれまでの人生って、自分に満足すること、無かったんだろうな。

優秀だけど、変わり者。
父は可愛いと言ってくれるけど、世間的にみれば10人並み。
花江は仲良くしてくれたけど、女学校では浮いていただろうし。
寅子の中には元来、消すに消されぬコンプレックスがあったのか。

だから、穂高に法律の素養があると褒められた時、舞い上がったんだ。
弁護士である自分にしがみつくのは、ただの責任感ではなく、
自分が生きている意味を見出すために、どうしても必要だったんだ。
弁護士を辞めて他人の役に立つ拠り所を失った寅子は、
私が感じていたよりも、ずっと、ずっと、苦しかったんだ。

そんな寅子を、寅子自身であるというだけで愛してくれる優三さん。
懐が、深すぎます。

寅子のコンプレックスを想像する

出征の日、寅子はいてもたってもいられず、出発した優三を追いかける。
憂未は預け置いて、母親でも父親でもなく、寅子と優三の二人だけの時間。明るくお別れするために、二人は変顔を見せっこ。
でも、悲しみは抑えきれず、たちまち顔がくしゃくしゃに崩れる。

僅か1週間で新婚生活から出産、出征と、本当に目まぐるしかった。
二人が愛を育てゆくサマを、もっとじっくり見たかった。
でも、あの崩れ切った表情で、
二人が築いた愛情の日々が、どれほどかけがえのないものか、
すべて伝わった。

伊藤沙莉さんと仲野太賀さん、
二人の演技力が時間の不足を存分に補いました。拍手。

寅子の恋愛を、赤毛のアンになぞらえて理解してきました。
しかし、寅子と優三って、オスカルとアンドレの方が、似てますね。

オスカルは貴族で、アンドレは平民。
寅子は弁護士で、優三は途中脱落者。
女が強くて、男はそれをバックアップ。

そういえばオスカルも、男じゃなくてがっかりされた女性だな。

幼いころから当たり前に自分の側にいたアンドレが、
嫉妬に燃えて、燃え盛る想いをオスカルに告白したあの日。
オスカルは、初めてアンドレを恋愛対象として意識する。
そこからはもう、坂道を転がる雪玉のように
アンドレを意識しまくるオスカル。

合格や挫折など全部ひっくるめて、すべての寅子の人生経験が、
そばにずっと居た優三の大切さに気付くのに、必要だったんですね。
いい話だ、うん。

ベルばらは名作

終戦 困窮

戦況の悪化を受けて、直言とはるは会社の面倒を見るために登戸に残り、
寅子と花江と3人の子供達は郊外に疎開します。
3月の東京大空襲で、花江のご両親はお亡くなりになりました。

7月に直言が疎開先に訪ねてきて、直道の戦死を知らせます。
花江は立っていることが出来ず、地面に膝をついて号泣します。
寅子も涙を流し、兄の死を悲しみます。

8月の終戦を受け、疎開先から登戸に戻ります。
工場の元社員寮に落ち着く猪爪一家。
建物疎開で壊された住居が、懐かしいですね。

戦争特需が消え去り、登戸火工は閉鎖。
食卓の風景は、直言が銀行員だったころと比べると、質素の極み。
しかし、生きて食卓を囲む幸せは、感じられます。
岡山から直明も帰郷し、あとは優三の帰りを待つばかり。

現在の猪爪家の経済状態では、直明を大学に入学させることは出来ません。
一家総出でマッチ箱のラベル張りや繕い物に精を出し、日銭を稼ぎます。
寅子は直道を失った花江に遠慮して、優三の写真を飾ることが出来ません。
花江もそれに気づいています。
口には出さず、見て見ぬふりをして、
一日一日を生き抜くことだけで精一杯です。

この窮状を打破すべく、寅子は雲野弁護士の元を訪ねます。
しかし、お人好しの雲野が、バリバリ稼いでいるわけがない。
雇ってくれとお願いすることは、出来ません。
困っている人を放っておけない雲野は、弁護料代わりの貴重な食べ物を、
笑顔で快く分けてくれました。

戦争で変わらざるを得なかったもの、それでも尚、変わらなかったもの。
戦後の日本の劇的な変化と、不変の日本人の精神とを、体現する雲野さん。

直言の将に死なんとするその言や ✖✖✖
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終戦から1年が経った秋、体調が悪化していた直言が、ついに倒れます。
直言が落とした写真立てから、折りたたまれた用紙が飛び出ました。
「見るな!」と制止する直言の挙動不審は、逆効果。
訝しむ寅子が用紙を開くと、優三の戦病死の知らせが目に飛び込みます。
直言は、半年以上も、優三の死亡告知書を秘匿していたのです。

習い性というのは恐ろしいもので、
寅子を含め、猪爪一家はこの事実を、とりあえずやり過ごします。
戦争を生きていくために、
そしてさらに寅子には、かつて弁護士の途を諦めるために、
「無感情・無関心」になり、心に蓋をせざるを得なかった。

栄養失調と肺炎と心臓の衰弱とで、余命幾ばくもない直言。
あんなに必死で内職しても、食べ物が足りないんだ。

死を覚悟した直言は、家族を病床に呼ぶ。
直言が寅子の名を呼び、
遂に直言から真相が語られる、と固唾を飲む一同・・・。

直言は、猪爪家での花江の法律上の立場を、寅子に確認しただけ。
花江に猪爪家を安住の地とするなり、いい人を見つけてお嫁に行くなり、
望むように生きろと、家長として告げる直言。
子供も、連れてくなり残すなり、好きにせよと。
直言の、大肩透かしであった。

いやいや、花江はそんな自分本位な人ではないので、
そんなことを口にするだけで不謹慎だし。
第一、今直言がやらなきゃいけないことは、寅子への説明でしょ!

お茶の間の皆さんが全国一斉にシンクロし、
総出で直言に突っ込みをいれたはずだ。
(ヤシマ作戦、波動エンジンへの電力融通を上回る、挙国一致の瞬間か?)

固く閉ざされた寅子の心は、無反応だ。
はい、終わりましたね、とばかりに、ラベル張りに戻ろうとする寅子。
そこに、高EQの花江が楔を打ち込む。
一般女性代表の花江ちゃんが、今回は全国視聴者の代表になってくれた。

直言には、もっと他に話すべきことがあると叱責。
寅子には、後悔が残らないように、
直言が生きているうちに腹を割って膿を全部出し切るように背中を押した。
流石交通整理の匠、花江ちゃん。頼りになる。

腹をくくるが、考えのまとまらない直言。
慌てた脳みそに浮かぶ事柄を、次から次に口から発する。

ここでお待ちかね(?)のアナロジー・タイム。
直言の支離滅裂ともとれる行動を、
・赤毛のアンのマシュー
・幸福の黄色いハンカチの花田欽也(武田鉄矢さん)
になぞらえ、
死に際の走馬灯も絡めて、私なりに解説していく。

マシュー・カスバートは、アンが大好きだ。
人付き合い、特に女性との付き合いが苦手なのに、
アンとは初対面から打ち解けられた。
アンの賢さ、優しさ、空想好きで型破りでおしゃべりなところを、
心の底から楽しむマシュー。
クイーン学院から帰郷したアンは、マシューに本音を漏らす。
男の子の方が、本当は良かったのではないかと。
口下手なマシューは答えます。

そうさのぅ、わしはなぁ アン、
1ダースの男の子よりもおまえにいてもらう方がいいよ。

いいかい? 1ダースの男の子よりもだよ。
そうさのぅ、エイブリー奨学金を取ったのは男の子じゃなかったろ? 
女の子さ、わしの女の子だよ。
わしの自慢の女の子じゃないか。
アンはわしの娘じゃ。

日本アニメーション「赤毛のアン」第46話

直言は、その辺の男なんかよりも寅子の方がずっと優秀だと信じています。
事実、寅子は難関の高等試験に2回目の受験で合格し、新聞に載る優秀さ。
直言の心の中をシミュレートしてみよう。

並みの男が束になっても、寅子には適うもんか。
高等試験に合格して、初の女性弁護士だよ、は・つ・の!
大学進学で婚期を逃すと はるが心配していたが、
高等試験に一発合格した二枚目の花岡と、いい雰囲気じゃないか。

ほら見ろ、寅はすごいんだ。心配無用だよ。
昔の見合い相手みたいな唐変木じゃ、寅の価値は見抜けなかったんだ。
いい男ほど、寅の価値がわかるんだよ。
てぇか、花岡君が1ダース束になっても、まだ寅一人でお釣りがくるな。

俺の娘、寅子は、凄い!
寅は、俺の自慢の娘だ。

直言は寅子推し

そんなだから直言は、花岡の下宿を偵察したり、手土産を持参したり、
知人に花岡の生家を偵察してもらったりと、全くの勇み足の皮算用。
花岡が他の女性と婚約し、寅子に見合い相手を探すように頼まれたことは、まさに青天の霹靂だった。
それでも、寅子の素晴らしさを信じる直言は、
いつか花岡を凌駕する高スペックな男が見つかるさと、
どこか楽観していたはず。

それなのに、優三と結婚すると聞かされる。
寅子に対する絶対的な信じ込みが空回りした直言の落胆は、
当然と言えば当然で、「優三君かぁ・・・」くらいは思うでしょうよ。
別に優三をけなしてるんじゃなくて、寅子への愛が超超ビッグなだけ。

仮にマシューが生きていて、
アンとギルバートがいい雰囲気なのを知ったとしましょう。
もし二人が破局して、
アンがジェリー・ブートと結婚すると言い出したとしたら。
マシューもきっと、ジェリーかぁ・・・と思ったことでしょう。

私の妄想

優三の戦死を寅子に知らせたら、寅子はしばらく落ち込むでしょうし、
一家の雰囲気も悪くなるでしょう。
でも、直言が本当に心配していたのは、もっと未来のこと。
弁護士を諦めた寅子が完全に意気消沈して、今度こそ再起不能となること。
現状にばかり気を取られて、
遥かな高みを目指して飛ぶことを、完全に忘れ去ること。

直言は、寅子さえ本調子に戻れば、猪爪家は絶対に浮上する、と
一徹に信じているのです。
寅子への直言の信頼は、揺るぎないですから。

それでは、際限の無いビックリ箱の如き直言の失言の数々は、
どうして生まれたか?
それは、走馬灯を考えるとわかります。

人間は死に直面した時、脳裏に走馬灯が走るといいます。
死の回避手段を探すために過去の記憶を一斉に検索することが、
走馬灯が映し出される原因だという説を聞いたことがあります。

直言が死に面して、絶対にやらなければならないこと。
それは、寅子を復活させるキッカケくらいは作っておくこと。
そのために寅子にかける言葉を必死で探し当てようとして、
直言は最後の力を振り絞り恐ろしいスピードで、
人生経験を脳内で総検索しているわけです。

だから、他の人物からすれば、
 何でこんな取り留めのないことを次々と口にするんだろう、
としか思えない事態になるわけです。
直言が寅子を想い、必死であるが故のドタバタなのです。

さて、そんな直言の必死さがどうして視聴者には直言らしいと、
ある種 好意的に受け止められたのか?

武田鉄矢さんが何かのインタビューで話されていました。

幸せの黄色いハンカチの中に、
欽也が小川朱美(桃井かおりさん)の前で、
腹を下して必死に駆け去るというシーンがありました。
武田さんは最初「コミカル」に欽也を演じたのですが、
山田洋次監督から駄目出しされたそうです。

「好きな子の前で腹を下して恥ずかしくて必死で逃げるから、
観客が笑うんだ」と。

何かのテレビ番組での武田鉄矢さんの発言

直言の死に物狂いの「必死さ」を
岡部たかしさんがしっかりと熱演されたからこそ、
視聴者には微笑ましく映ったわけです。
実際、岡部さんは、コミカルには演じてなかった
そして、岡部さん自身の面白味のある飄々とした個性が、
可笑しみをブーストしたわけです。

最初にしっかりした脚本および演出プランがあり、
俳優 岡部たかしさんが真剣に、見事にそれをやってのけた。

直言は、死ぬ前に謝罪したかったのではなく
あくまでも、どこまでも、寅子を「応援」し続けようとしていました。
寅子は唯一無二の存在なのだから、自分を信じて前に突き進めと。

ただ、寅子に申し訳ないことをしたのは確かなので、
謝らなきゃいけないな、とも思ってるわけです。
それで、直言の頭がとっ散らかっちゃった。
寅子が寅子でありさえすれば、絶対に大丈夫と信じていること、
それに謝罪の気持ちが絡まって、収拾不可能に。
自分の頭の総検索で引っ掛かった事項を次々口に出すことで、
謝罪やら感想やらが入り混じって、本筋が判りにくくなってしまった。

これが、あの日の直言の真実だと、私は考えました。

そして、直言が真剣に寅子がすごいんだと伝えようとしたからこそ、
寅子の脳裏に、直言が自分を愛して応援してくれていたシーンが、
次々と浮かび上がってきた
のです。

直言と、優三。
ありのままの寅子を愛してくれる二人が退場したのは、大いなる喪失です。
しかし、寅子は二人の愛情と想いを十分に受け取りました。
愛情チャージは満タン。
あとは、勇気というエンジンを始動させるキッカケが必要なだけ。 

いざ、復活の機は熟したり

キッカケその1 優三から
寅子の元に、優三に手渡したお守りが、復員兵を経て帰ってきました。
「千里を行って千里を帰る」五黄の寅のお守り。

「寄り道はもうお終い。
今度は君が虎の如く走り、本来いるべき場所に帰りなさい」
という優三からのメッセージのように、感じられませんか?

キッカケその2 直言から
優三の死にとことん向き合うために母はるが渡してくれたお金は、
直言のカメラを売り払った対価でした。
直言が寅子の可愛い姿を写すために、愛用していたカメラ。
そのカメラが姿を変え、焼き鳥の包みの新聞紙として、寅子の目に留まる。(寅子が焼き鳥を選んだのは、かつて優三が入手した手羽を思い出して?)
紙面には、日本国憲法の条文。

直言の寅子への愛情が、
巡り巡って寅子と日本国憲法とを引き合わせました。

しかし、寅子を「写し」たカメラが、
日本国憲法の「写し」である新聞記事になったとは。
こういうダジャレも計算された脚本なのか?

雑感

今回はヒロイン寅子について、ああだこうだ書き連ねました。
2万6千字越えの長文。
書き終わる前に、梅雨入りしちゃいました。

一生懸命、自分なりの感想を綴ってきたつもりです。
楽しんでいただけたでしょうか?

それでは皆様、お疲れ様です。
お読みいただき、ありがとうございました。

以上

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「世の中に人の情け受くるこそ情けなしとは言ふもののお前では無し」 おこころざし、誠にありがとうございます。 ブタもおだてりゃ木に登る、ЯRtoneサポすりゃ天にも昇る。