【ルーツ#0】 思い出のマンハッタン
いつまでも高みの見物ばかりはしていられないことは薄々気づいておりました。
参加することに意義がある!
身を削って参戦いたします。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
私たち夫婦は12歳差である。
しかも札幌と福岡という全く異なる文化圏にルーツがある。
そんな夫と出会ったのは20年以上前のことだ。
当時話題となったボンダイブルーのiMacに一目惚れした私は、貯めていたバイト代をつぎ込んで初のパソコンを手にした。
iMacにはAOLというプロバイダが入っており、そこがインターネットの世界への入口となった。
アカウントを作ると「チャット」という機能で世界中の知らない人との交流ができることを知る。
「こんにちは!はじめまして!」
顔も知らない誰かが声をかけてくれた。
この初メッセージの送り主が数年後に夫となるとは、その時は想像もしなかった。
☆
私たちはチャットを通じて知り合い、半年以上ハンドルネームしか知らない状態で交流を続けた。
時を同じくして、マンハッタンを舞台にした、メグ・ライアンとトム・ハンクス主演の映画「ユーガットメール」 が公開されていた。
AOLのチャットを通じて出会う2人のロマンスコメディである。
当時の私達は夢うつつだったのかもしれない。
マンハッタンの片隅でキーボードを叩いているかのごとく、毎日のようにメール交換と、時間が合えばチャットをしていた。
なんと懐かしい日々…
あれから20数年がたち、
あの熱量は既に過去の産物となって久しい。
今では「帰るよ」か「巨人戦の録画お願い」といいった業務連絡のLINEしかこない。
月日は人をこうも変えてしまうのか…
☆
そんな我々の18回目の結婚記念日を数日後に控えた昨年12月のある日、夫の実家から荷物が届いた。
結婚記念日のプレゼントかしら?
淡い期待とともに、受け取った荷物の送り状に目をやると「菓子」と書いてある。
福砂屋のカステラかな?
夫の帰宅を待たずに荷物を開けると、
「マンハッタン」と書かれた大量の菓子パン?ドーナツ?らしきものがぎゅうぎゅうに詰まっていた。
しかも一つ一つが大人の手のひらほどはある、かなりのサイズ感である。
その下に福砂屋が埋まってるかと掘り起こしても、出くるのはどこまでも大量のマンハッタン。
支援物資か?イベントの仕入れか?
一体何がどうしてこんなに大量の菓子パンが送られてきたのだろうか…
そびえ立つビル群を彷彿とさせるそれらはまさにマンハッタンそのものであった。
☆
困惑していたところに夫が帰宅。
玄関で待ち構え、マンハッタンが届いたことを伝えると、
「お!届いた?子供の時にさぁ、好きだったんだよねぇ〜、マンハッタン。懐かしくて調べたら今も売ってるっていうから、オヤジに頼んで送ってもらったんだよ〜」
想定外のキラキラの笑顔である。
どうやらマンハッタンは、福岡のご当地パンで夫の思い出の味らしいのだ。
…いやしかし、量!!!
ああ、そうか。
夫の職場は福岡出身者も多いし、話のタネに皆に配ろうと思ったんだなー。
瞬時に想像のストーリーは完成する。
なるほど、大量の理由も納得である。
「懐かしいなぁ〜。水泳教室の後によく食べてたなぁ。」
呑気に懐かしんでいるが、この時点で夫はその量を知らない。
「お義父さん、お店の棚が空っぽになるくらい買ってくたんだねー。なんならお店をはしごしたのかな?ほら」
そういってダンボールいっぱいのマンハッタンを見せると、夫がほんの一瞬フリーズしたのを私は見逃さなかった。
ん?
頼んだ張本人の夫がなぜフリーズするのか、一抹の不安が頭をよぎる。
とはいえ見た目はチョコレートがけドーナツだ。間違いなく美味しいに決まっている。
夫大絶賛のマンハッタンを早く食べてみたい!
なんならマンハッタンの食べ放題だ。
2人でマンハッタンにかぶりつく。
ドーナツというよりクッキーのような軽い歯触り。
瞬間、
(これは、まぁ、あれだな…)
私の心の声は厳しいものであったが、夫のソウルフードを酷評する訳にはいかない。
そんなささやかな気遣いを発動する間もなく、夫が反応する。
「んーー?!」
ん?
「こんな味だったかなぁ…」
え?
「すごい美味しいと思って食べてたんだけどなぁ…」
さっきまでのキラキラは何処かへ退散したらしく、明らかに肩を落とす夫。
どうやら、夫も私とそう変わりない感想を持ったようであった。
「まぁ、子供の頃の思い出の味ってそんなもんよー。きっと会社の福岡県人の人達は懐かしいって喜ぶんじゃない?そのためにお義父さんに大量に頼んだんでしょ?」
と、マンハッタンと夫のフォローをする。
「いや。配る予定なんてないよ」
え?
じゃあなんでこんなに沢山?!
「オヤジには、2、3個送ってとメールで頼んだけど…」
夫も戸惑いを見せ始める。
特に愛情深い義父のことだ。
息子に思い出の味を思う存分食べさせたったに違いない。
にしても、度を超えてはいないか…
私も改めて困惑する。
「せっかくだから、配ったらいいよ。みんなも懐かしいって喜ぶよ!思い出の味!そのほうがいいよ!」
いつの間にか私は必死で訴えていた。
「まぁ、それもそうだね」
そう言ったのに、
結局夫は会社に持っていくことなく、大量のマンハッタンは我が家の冷凍庫に格納されることとなった。
日持ちしそうな商品ではあるが、届いた翌日には賞味期限が切れていたのである。
自分たちが食べるのは何ら問題ないが、プレゼントするには躊躇した。
この量と消費する人員と賞味期限のバランスが不均衡すぎて、我が家に不穏な空気がたちこめた。
ある瞬間、何とも言えない違和感が心にひっかかる。
4個入の大袋が5袋と、不自然に単品3個。
なぜ単品3個…
送る前に義父が1個味見したのか??
いや、そうかもしれないが多分違う。
…あぁ、そういうことか。
義父は律儀な性格である。
そして愛すべき心の純粋な人でもある。
2、3個が 23個に化けると大変なことになる
私は学んだ。
どんな時も、余白は大切なのだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
私たちのルーツであり、ある意味夫のルーツの話でもあるということで、マイコンセプトギリギリセーフ…
義母は強烈なキャラクターの持ち主ですが、全く異なるベクトルの義父もまたいつも全力で愛を届けてくれるのです。
いつも皆さんの作品内のコメント欄でのびのび羽を伸ばさせていただき、大変感謝しております!
今回参加したイベントはこちら。
尊敬する渡邊惺仁さんと、○○について思うことさんが主催されている企画に、
名ばかりの外部審査員名として上沼恵美子枠で参加させて頂いております。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
#真顔で文字を書いて笑わせる1グランプリ #ついて思う渡邊 #○○について思うこと #思う #渡邊惺仁 #アカデメイア
#ヤギに追い立てられ参戦決意
#裏ボスはそら色のあの人 #裏ボスの魔貫光殺砲
#ルーツ #マンハッタン
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