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【こはる日和にとける】#6 シロイノリ


そとは、雨
ゆれる雨

それはやむことをわすれて
ふかくねむる
そらの寝息のよう

ようちえんまでのみち

ながぐつであるく草のみちは
みずをふくみすぎていて
足がいつもよりしずむから

わたしはなるたけ
じゃりのみちをえらんであるいた

ももぐみのへやにはいると
おおきなストーブが焚かれていて
まるで冬みたいなにおいがする

かばんからアルミの弁当箱をだし
ハンカチをほどいて
ストーブのちかくにならべる

みんなおんなじ
ぎんいろのかんかん

わたしのはキャンディキャンディだけれど
それだって3人もおんなじだから
めじるしに
ほどいたハンカチをしいた



工作のじかん

かぽ、と
糊のふたをあけるそのときを
わくわくと、まっている

4人ずつ
むかいあわせで座った机のうえ

ころん、とまるっこくて
黄色いいれもの

プラスチックのそれは
ちょうどそろえた手のひらぶんのおおきさ

ふたのうらには
ちいさなへらがしまってあって

たっぷりとおさまった白い糊を
そのへらで掬って
においをかぐのがくせだった

あまいお粥のようなにおい
そこにまじるツンとそっけないにおい

はなの奥に
とろりとなじむ

どこか、高貴なかおり

けれど

ぽよん、ぽよんと
糊の表面をなみうたせながら
いつもおもう

「けれど、このへらはなんて持ちにくい」

つどふまんにおもって
つい、もんくがでてしまう

使いづらそうにしていると
うしろから先生が
「手で掬ってもいいからね」という

わたしは
「ばかな!」
と、先生をみあげる

この神聖なるシロイノリを
汚れた手でさわることなどできるはずがない

それなのに
つくづくざんねんなのは
ふぞくのへらの持ちにくさよ

いっそ
弁当のスプーンで

かぽ

ふたを開けると
あるはずのへらがなかった

ない、ない、ない!

いざ、ないとなると
それはそれでひじょうにこまる

右と左と下と上と
きょろきょろとさがす

けれども
ないものはない

じわりとふきでた汗が
着こんだ服とスモックの中で蒸されて
いっそうきもちがわるくなる

ああ、もう

とほうにくれるわたしの前に
すっと
一本
へらがおかれた

まむかいに座る男の子のものだった

え?いいよぉ
と、いうまもなく

かれは机にしいた新聞紙のはしをちぎって
それを使って
えい、と糊を掬いはじめた

あまりにはやい展開に
おれいを言うのもわすれて
かれのてもとにみとれてしまう

へにょへにょの新聞紙は
へらよりさらに使いづらそうだけれど

このましい、とおもった

やはりシロイノリは
直接手でふれてはならぬのだ
かれも、それをしっている

なんとこのましい

わたしはありがたく
かれのへらを使わせていただく

ああ、これほど
この糊にふさわしい道具があるだろうか

持ちにくいなどと
こんりんざい、もんくは言うまい

と、かすかに

もとい

くっきりとめばえた
初恋にちかう


text by haru photo by sakura



こんにちは
haruです

最後まで読んでくださり
ありがとうございます

今回は
5歳のわたしの視点で書いた
ショートエッセイとなります

長文のものより
さらに言葉を磨いて
詩と散文のあいだのような
そんな構成にしてみました

*

工作の時に使った
あの白い糊

においが好きで
まずはそのにおいを嗅いでました

ちょっと高貴なにおい
しませんか?

しないかなぁ
わたしだけかなぁ

そしてあの時

迷わず
へらを貸してくれて
躊躇なく
新聞紙を破った
その彼の
5歳児と思えぬ潔さは

今思い出しても
かっこいいな、と
グッときてしまうのです

だいちゃん
元気かなぁ

*

それでは
皆さまよい週末を

よければ
また来週日曜に
ここで

haru






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