見出し画像

嗅覚を利用した病の発見について

今日は、虫の嗅覚を活かした病気の発見についてです。
(虫の写真が苦手な方は多いので敢えて夏休みの虫捕りの絵。)

「線虫(せんちゅう)」という虫をご存知でしょうか?

カエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans) は、線形動物門双腺綱桿線虫亜綱カンセンチュウ目カンセンチュウ科に属する線虫の1種。実験材料として非常に優れた性質をもつことから、モデル生物として広く利用されている。多細胞生物として最初に全ゲノム配列が解読された生物でもある。通常は C. elegans (シー・エレガンス)と呼ばれる。体長約 1mm で透明な体をもつ。

フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

2019年、九州大発のベンチャー企業「HIROTSUバイオサイエンス」(東京)が、尿1滴でがんの有無を8割以上の高確率で判定できるという安価な検査法「N-NOSE(エヌノーズ)」を、2020年1月から実用化すると発表しました。(2020年10月に販売開始)


最初は人間の10万~数百万倍も鋭い嗅覚を持つと言われている犬の嗅覚を活かした「がん探知犬」に興味を持たれた九州大学大学院医学研究院 消化器・総合外科の園田英人先生。

2011年に下記の文献でがんには特異的な匂いが存在することを証明されています。

・探知犬は感度 91%以上特異度99%で大腸癌の存在を判別できる
・がんには確かに特異的な匂いが存在する

Colorectal cancer screening with odour material by canine scent detection. Sonoda H, Kohnoe S,
Yamazato T, Satoh Y, et al. Gut. 2011;60(6):814-9.

ただ、残念ながら飼育コストがとてもかかることが難点でした。
また、その時の気温・気候、犬の体調や感情などその他の要因に左右されることもあり、犬に知能があるゆえの問題点もありました。

そんな中、園田先生、今度は胃アニサキス(線虫の一種)の治療中に、アニサキスが『発見されていないようなごく初期の胃がん部位に好んで食いついている』ということに気づきました。

タイミングも良く、東京大学で線虫の嗅覚に関する研究をしていた広津崇亮先生が九州大学に赴任され、園田先生は「線虫と臭いと癌」の関係性について広津先生に相談し、線虫による癌診断の研究が始まります。


線虫の嗅覚と能力

「N-NOSE(エヌノーズ)」では、C. elegansという線虫が使われています。

線虫C. elegansは一般にはあまり知られていませんが、多細胞生物で初めて全ゲノムが解明された生物で、研究の世界ではモデル生物として非常にポピュラーな存在です。自然界では土壌中に生息し、目や耳はなく匂いを頼りに生きているため嗅覚が非常に発達しており、約1200種類の嗅覚受容体遺伝子を持っています

https://hbio.jp/srv/nnose3

ちなみに人の嗅覚受容体遺伝子が400種。がん患者の尿に含まれる特有のにおいに近づき、健康な人の尿からは逃げる性質を利用して判定するそうです。(自分で見てみたい気もします)

上記のことからも、線虫が非常に優秀な嗅覚を持っていることがわかります。

がん患者1400人に実施した検査での的中率は約85%。
特にステージ0~1の患者は87%で判定できたことや、一般的ながん検査「腫瘍マーカー」より高確率で的中する点はとても魅力的。

さらに線虫は一匹が約300個の卵を産み、大腸菌で繁殖するため飼育コストがかからず、結果検査費用も抑えることができます。


費用面から検査を受けることを躊躇していたり、昨今のコロナ禍のように病院へ行く機会がグッと減ってしまった場合、がんをはじめとした様々な疾患を見落とす可能性があります。


「N-NOSE(エヌノーズ)」のような検査キットがあると、検査をキャンセルし、リスケになってしまったり、費用面で悩んでいる間に発見が遅れてしまうことは減らすことができるのではないでしょうか。


※どの臓器にがんがあるかは特定できませんので、精密検査は必要になります。部位の特定も目指して研究が続けられています。また、線虫がん検査は有効性を検証する段階であり、強く推奨できるものではないとしている先生もいらっしゃいます。


線虫が様々な病気を発見・治療方法を示唆してくれる可能性


「N-NOSE(エヌノーズ)」はがん検査ですが、がん以外の疾患でも線虫は注目されています。

2020年熊本大学大学院生命科学研究部(薬学系)遺伝子機能応用学研究室は線虫を用いて健康寿命を評価する自動測定システム(C-HAS: C. elegans Health life span Auto-monitoring System)の開発に成功。

健康寿命とは、平均寿命から日常的・継続的な医療・介護に依存して生きる期間を除いた期間のことを指し、寿命の質の指標となります。
(中略)寿命に関して、ヒトと共通性の高い実験動物である"線虫"に着目し、線虫の健康寿命を測定するための評価システムの妥当性の検証と精度向上を行い、結果として、健康寿命に影響を与える因子や薬を網羅的に探索するシステム「C-HAS」を構築しました。

https://www.kumamoto-u.ac.jp/whatsnew/seimei/20210104


国際宇宙ステーション(ISS)では線虫を用いた宇宙環境におけるRNAiとタンパク質リン酸化についての実験が行われました。

宇宙では世界初となるRNA干渉という手法により、筋肉が衰えるメカニズムを解明します。 その成果は地上での治療法につながるものと期待されています。

https://humans-in-space.jaxa.jp/kibouser/subject/life/70757.html



線虫以外の虫や生物が病気を見抜く可能性も


先程「がん探知犬」について書きましたが、線虫や犬以外でも、嗅覚を利用した様々な研究が行われています。

キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)は、癌細胞を識別できる嗅覚機能を有している。
(Strauch M. et al. More than apples and oranges--detecting cancer with a fruit fly's antenna. Sci Rep. 6 Jan. 2014, 4:3576.)

https://www.aandt.co.jp/jpn/medical/tree/vol_15_1/


タンザニアに生息するアフリカオニネズミ(Cricetomys emini, 英名:Giant pouched rat(ジャイアント・ポーチド・ラット))は、訓練により人の喀痰(かくたん)の中に潜む結核症臭と他の菌症臭とを87.9%の精度で嗅ぎ分け、塗抹顕微鏡検査と比べて31.4%高い確率で結核を発見できたという報告がある。
Poling A. et al. Tuberculosis detection by giant african pouched rats. Behav Anal. 2011 Spring, vol.34, No.1, p.47–54.

https://www.aandt.co.jp/jpn/medical/tree/vol_15_1/


マウスを用い、鳥インフルエンザに感染したマガモの糞便臭の変化を突き止めた例
モネル化学感覚研究所と米国農務省のチームは、鳥インフルエンザウイルス(AIV)に感染するとマガモ(Anas platyrhynchos)の糞便臭が変化することを発見した。
Kimball BA. et al. Avian influenza infection alters fecal odor in mallards. PLoS One. 16 Oct. 2013, vol.8, no.10, e75411.

https://www.aandt.co.jp/jpn/medical/tree/vol_15_1/


ミツバチは昆虫の中でも高い匂いの受容体数を持っている。このためミツバチの嗅覚は非常に敏感で、飛ぶ香りの痕跡を検出することができる。
ミツバチは花粉が豊富な花を効果的かつ効率的に見つけるためにこの能力を装備しており、匂いがアンテナ上で検出されると、ミツバチの超敏感な嗅覚経路が情報を処理し、花粉を探すため匂いの関連性を判断するといわれている。
Manjunatha D. et al. Advancement of sensitive sniffer bee technology. TrAC Trends in Analytical Chemistry. Dec. 2017, vol.97, p.153-158.

https://www.aandt.co.jp/jpn/medical/tree/vol_15_1/

イギリスのインセンティネル(Inscentinel)社では、既にミツバチの嗅覚機能を空港でのセキュリティチェックとして実用化しているとのことなので、医療の現場でも取り入れることができれば、様々なことが見えてくるのではないでしょうか。


「嗅覚」は五感の中では研究が遅れている分野ですが、その分可能性を秘めています。

ただ香りを楽しむだけでなく、今後も「嗅覚」を活かした様々な試みで、より生活の質を上げることに繋げることが期待できます。



【配信中:無料メールレッスン】
※ご登録希望の方は、下のバナーをクリックしてください。
 ご登録サイトへ飛びます。


アロママンでは、精油の化学や成分、芳香蒸留水やキャリアオイルの特性・注意点についてもしっかりお伝えし、自信を持ってアロマテラピーを楽しんでいただける取り組みをしております。
ただいまフリータイム制で生徒様募集中
(主に月・火・木 日中/土日祝日応相談)

*ホームページはこちら
・初心者におススメ!
   幅広い学習内容 JAAアロマコーディネーター資格取得講座

  ・医療関係者も多く受講しているNARD JAPANアロマアドバイザー講座
  ・アロマクラフト作りが中心 NARD JAPANアロマベイシック講座
  ・数値で見るメディカルアロマ
   MAA認定 メディカルアロマアドバイザー資格講座
  ・あなたの希望に合わせてカスタマイズ!
   オリジナルカスタマイズ講座

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?