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絵画鑑賞の研究から見るASDの特性と傾向についての解説


  論文の内容 
 

まず初めに、皆さんはこの絵を見て、どの部分に注目し、どのような印象を受けますでしょうか?
 
今回はこの絵画について、ASDの傾向の強弱による違いについての論文を解説していきたいと思います。
 
今回は、2017年の美術科教育学会誌で掲載されていた、東京大学と女子美術大学の研究論文をもとに記事を書いています。
 
 
論文のタイトルは、「自閉症スペクトラム傾向が絵画鑑賞における視点や印象に与える影響」ということで、学術論文でしたので、データを元にかなり難しい内容でしたが、皆さんに分かりやすいように、また、ASDの障害特性を紐付けて重要な点をピックアップしていきます。
 
この論文の目的としては、ASDの傾向の強さが、絵画の鑑賞に影響を与えるかどうかの検証でした。
 
その検証のため、神奈川県の中学生254人を対象に、絵画鑑賞をしてもらい、その後、印象的だと思う箇所をマルで囲ってもらい、絵画についての感想を単語や文章で自由に記述してもらっています。
 
また、調査の対象となる中学生全員には、事前に自閉症スペクトラム指数の調査というものをしており、全員のASDの傾向の強弱についてもデータをとっています。
 
そのデータも活用し、ASDの傾向が強い、弱い層に分類した上で、この論文の研究結果を出しています
 
 

絵画作品の解説

まず、研究結果を見る前に、このブログを見ている皆さんはどのように感じたでしょうか?
 
どのように感じたのか?印象的だったのかについては、コメントいただければ、嬉しいです
 
 
 
 
この絵画の作品名は『女占い師』といいます。
 
画面左から3番目の男性がその他4人の女性に騙されそうな状況が描かれています
 
1番右にいる占い師の女性が男性の気を引き、残りの3人の女性がお互いに目配せをして男性のポケットから何かを盗もうとしたり、金のチェーンを切ろうとしたりしており、登場人物の行動や視線の細かいやりとりが印象的な作品となっています。
 
 
つまり、この緊迫した空間で、騙す人間と騙される人間の心理的なやりとりを人物の視線や動きから読み取ることができる作品となっています。
 
この作品の意図を知った上で、調査結果を見てみましょう
 

 
 
調査結果

 
まず、ASDの傾向が弱い層、つまり定型発達に近い人たちの結果として、
 

・この作品の印象を文章で書いた時に、「盗む」という単語が8回出てきた
 

・「怖い・恐い」が12回。「冷たい」が7回。「怒る」が3回と、ネガティブな情動を示す単語がより多く出現していた
 

・「雰囲気」「感じ」といった曖昧な表現も多かったということです。
 
 

つまり、ASDの傾向が弱い人ほど、絵画中の人物の手の動きや視線の動きなど、絵画の中の全体的なダイナミズムを捉えていた。特に、印象的な所をマルつけしてもらうという指示では、目に注目している人が多かったです。
 
 
一方で、ASDの傾向が強い人ほど、この絵画を「動きがない」と評価していました。また、出てきた単語としては、
 

・「盗む」という単語が14回、
 

・「金」「金持ち」「取る」という単語がそれぞれ4回
 

・「恐い」「怖い」「恐ろしい」という単語が8回のみ
 

・「色」「手」「顔」「人物」という単語を書いており、
 
つまり、全体の雰囲気よりは客観的な場面や行動自体に注目していることが多かったのです。また、マルをつけてもらう指示では、目よりは、手などに注目している人が多かったという結果となっています。
 
 
 


なぜこのような結果となったのか?

 
ここからは、私がASDの障害特性を軸にした、私なりの考えも合わせて述べていきます。
 
まず、定型発達に近い層は、絵画の人物同士の視線のやり取りなどを読み取り、人物の感情やその場の雰囲気を感じ取ったために、この絵に対してネガティブな印象を持ったという結果も出ています。
 

 
一方でASDの傾向が強い人たちは、他者の視線に注目し他者の心的状態を読み取るのが苦手であるという特性から怪しげな視線のやりとりや不穏な雰囲気をあまり読み取ることができず、比較的に悪い印象を受けなかったという結果となっています。
 
 
この調査結果からASDの人は、他者の目線、視線というのに、強く注目する傾向が少ないということが分かりました。
  
それよりは、顔のパーツであれば、鼻や口、または手や相手の動きというものに注目することが多いです。
 

目を見ないというのもそうですが、目というよりは視線を感じない。というのが正しいと思います。
 
つまりは、相手の心情を読み取ろうとするといったアクションが比較的少ないということです。
 
それよりは、手の動き、すなわち、目で見た行動そのものに対して、注目が向きやすいということなのです。
 
 
だから、ASDの支援で多くの方が実践しているのが、応用行動分析学という、実際の行動から行動の機能を探るという学問が今日でも使われているというのです。そしてエビデンスを重ねてきているということなのです。
 
 
なので、ASDの支援でまず考えていかなければいけないのは、その子の行動を見ることではないでしょうか?
 
その子が支援者のことをこういう風に思っているから、そういう気持ちがあるといった、目に見えない気持ちの部分を探るよりは、実際に現れた行動からアプローチしていく方が、より質の高いASDの支援といえるのではないでしょうか?
 
今回のこの研究から、ASDの方はどのような見方をするのか、というのが少しわかってきたと思います。こういった見方をするということを参考に今後も支援に生かしてみてください
 
最後に、今回は一つの研究であり、いわゆる傾向です。全員が同じところに注目するのではなく、やはりASDの特性が関係し、注目する部分というのは異なりますが、それでも類似した結果になることは予測されます。
 

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