楽団マネージャーという仕事
先日「「Free!」シリーズ オーケストラ・コンサート2021」というイベントに僕がコーディネートしてマネージメントを担当しているオーケストラが出演した。
今日はその話をしようと久々にNoteを投稿する気になった。
まずは欠かすことのできないエピソードからスタートする。
2020年夏
時を遡ること、1年ちょっと。
2020年夏(セミのSE)。
世間が空前の自粛ブームから明け、少しだけ遅めの春、そして夏を迎えたころ「「Free!」シリーズ オーケストラ・コンサート2020」がパシフィコ横浜で開催された。
世間的にまだまだイベントは…という空気感がまだ残っており、楽員もスタッフも日々の体温チェック、入館証、諸々の書類…etc.によって徹底管理され、ステージにはそびえ立つパーテーションによる壁が造られ、メンバーのお互いの椅子は最低1.8mの距離が取られた。
そして、無観客。
ガラガラのパシフィコでオンライン公演となった。
お互いの音が聴こえない、何なら自分の音すらも反響で聴こえない、なのでアンサンブルもロクにできない、という中で「本番」に飢えて渇ききっていた楽員はなんとか届けようととても頑張ってくれたと思う。
僕も演奏者として仕事をしてきたからわかる。
とても頑張ってくれていた。
そんな中でのオンラインコンサートの反応は上々でお客さんたちもエンターテイメントに飢えていたんだなーと強く感じたのを覚えている。
公演が終わり、ひと段落ついた頃。
ちょうど今から1年まではいかないくらい前、2021年公演の話をいただいた。
しかしながら、すごく要約して言えば「2020年のイベントを超えることができるオーケストラを作って欲しい」という任務付きで。
この任務を受けた瞬間が、本当のマネージャーとしてのスタート地点だったのかもしれない。
2021年夏
Free!オケコン2020からちょうど1年と少し経った今年の8月、LINE CUBE SHIBUYAで「ヴァイオレット・エヴァーガーデン オーケストラ・コンサート2021」が開催された。
この公演は元々2月に予定されていたが、新型感染症の影響で延期され、日程が8月となった。
オーケストラとしては、ヴァイオレット2021のリスタートと、Free!2021のスタートはほぼ同時期だったように記憶している。
みんな頑張ってくれた「Free!オケコン2020」を超えるために何ができるのか。
自分自身のことであれば変えようと思えば変えられるけれど、人を、しかも何十人をも変えなければならない。
でも人を変えるってどうすればいいんだ?
そもそも変わるのか?
自分だったら?変わる?
何をすれば?何をされれば?
何よりコミュニケーション不足はとにかく痛い。
けど飲み会も開けない。
そもそも飲み会企画したとしても来てくれるのか?
じゃあオンライン?いやいや現実的とは言い難い。
何か、何か方法はないのか?
…うーん。
そんなことを過ごす日々の中で色々試行錯誤して考えながら、まず最初に迎えるヴァイオレットの公演に向けての準備を進めた。
この公演でももちろん進化した姿を見せねばと意気込んで、何もできていないのではと落ち込んで、を繰り返しながら。
そして始まるリハーサル。
結果的に見て、この公演がターニングポイントとなった
あのヴァイオレットのストーリーをなぞり、Evan Callさんの音楽を演奏するということが、オーケストラを「うちのオーケストラ」たる物にするには充分過ぎるほどの経験値を積むことができるものとなった。
ひとつはその「緻密に組まれた濃密なストーリーと音楽に触れられたこと」がまず挙げられる。
ヴァイオレットは本編のストーリーでも音楽でもとにかく泣ける。
ストーリーと音楽はガッツリ繋がっている。
だから演奏すればほぼ誰しも心に感じるものが生まれる。
もうひとつ、そこそこ長い時間をメンバーが一緒に過ごすことができたことも大きいだろう。
リハーサルが3日間、公演が2日間で3公演。
先述した通り仕事でしか集まる機会のないメンバーにとって、5日間とはもはや長期間と言っても過言ではない。
このふたつは、未知の感染症(敢えてこう言うけど)の存在に怯えながらも音楽を続ける日々を過ごし、そして集まった我々の心をひとつにするには充分だった。
オーケストラは60〜70名の人の集合体で、もちろん、各人が思うことや考えることは違う。
その向いている方向も違う。
しかしアニメ作品のオーケストラコンサートに携わるということは、
「そのアニメ作品のために演奏する」
「アニメ作品のファンのために演奏する」
ということ以外は、無い。
そして作曲家やその音楽を作ってきた人たちの想いが音符に乗っているということを一番身近に感じることができるのは演奏者に他ならない。
そのための勉強を、訓練を、積んでいる。
だからこそ演奏者は音楽を聴くお客様に想いを届け共有するための媒体である「オーケストラ」と化すことができるのだ。
更にそんなヴァイオレット・エヴァーガーデンの世界に、音楽に飛び込むことで、オーケストラの中に「一体感」の”礎”が生まれた。
僕自身にマネージメントの方向性が見えてきたのもこの公演だ。
話し、聞き、伝え、攻め、守り、盛り上げ、寄り添い、そして共有する、し合う。
心を震わせる音楽を演奏してもらうのに、まず僕が演奏者の心に届く言葉を伝える必要があると思った。
でもそれは2020年のFree!オケコン以降、出来るだけ同じメンバーが出演できたからこそ生まれた信頼関係(があるという思い込みかもしれない)から出来るようになったことなんだろう。
思い込みだったら悲しいけど、きっと思い込みではないと信じたい。
そんなオケが更なる進化をした公演はこちらから入手できるので、ぜひ観て、聴いて、触れて欲しい。
それから4ヶ月
4ヶ月ほどの間、様々な、正直あまり内容の変わらない情報満載の長文に、更に思いの丈を乗せたメールを次々に楽員に送りつけ続けた。
そこには素直に「2020年公演を超えたい!超えなければならない!」ということを書いた。
Twitterの公式アカウントで発信するためのアンケートも実施した。
何より作品にもっと触れて欲しかったから。
でも色々素直に書けて、アンケートを取れたりしたのはヴァイオレットの公演で生まれたオーケストラの中の一体感を僅かながら感じることができた事が大きかったと思う。
そしてついに公演日からさらに3日前となる日に「「Free!」シリーズ オーケストラ・コンサート2021」のリハーサルが都内某所のスタジオでスタートした。
当日は雨。
先行きを暗示するにはなかなかシニカルだなーと思ったのはまだまだ記憶に新しい。
しかしそんなことは杞憂であった。
さぁいよいよセットリストの中からマエストロが予定していた1曲目の音を出すぞという時、機材トラブルにより別の曲からスタートせざるをえなくなった。
急遽クリックを使用しない、オーケストラの音だけの曲からのスタート。
マエストロと後になって話たが、むしろこれが良かったのかもしれない。
オケの音を演奏者自身が触れることができたと思う。
ヴァイオレットの時に感じた一体感を更により一層と感じるとともに、これはイケるんじゃないか?という予感が生まれた。
音が出ている間だけじゃなく、休憩中の楽員各々のコミュニケーション量からもそれは感じられた。
リハーサル2日目は、他の仕事もあり遅れて参加した。
(その代わりオケに差し入れとして大量のうまい棒を買った話はまた別の機会に)
会場に入って音が耳に飛び込んでくる。
更に進化している…!音が良い!
(だんだん「プロジェクトX」染みてきたので、田口トモロヲさんの声で再生されてきたな…)
リハーサル3日目。
前日夜に焼肉を食べながら(マエストロご馳走様です!)、マエストロと、個人的にめちゃくちゃ良くしていただいている演出の方と、これまで色々語り合ったうちのティンパニストと共に相談し考えた「もっとオケのテンションを上げていくにはどうしたら良いか?」の答え合わせができた。
次々とメンバーからも動きやアイデアが生まれる。
(FrFr!の最後に何かポーズをしようか?というマエストロ案が生まれたのもこの日だった)
何より作曲の加藤達也さん。
たくさんの気遣いをいただき、たくさんの言葉を交わしていって下さったお陰で、オーケストラメンバーが「チーム」を感じることができたことがとても大きいと思います。
ご自身も楽曲のこと、演奏のこと、指揮のこと、MCのことまで様々なことを考えながら、その中でオケへの様々なアクションをいただけたことはメンバーからも「作曲者の方の想いや考えをご自身の言葉で聞くことができたのが嬉しかった!」という声が聞かれたほど、オケにとって影響が大きいことでした。
本当にありがとうございました。
そして迎えた公演
言わずもがな、大成功だったからこそ、こんなうざったらしい長文を書き綴らずにはいられなかった。
だからこそ、ここではこの公演について多くを語るまい。
ぜひアーカイブで見てほしい。
2021年12月25日(土)まで観れる。
たとえ1回しか観れずとも、買って損はない。
それだけのパフォーマンスだったと自信を持ってオススメできる。
公演から数日経った今でも、オーケストラのメンバーが「疲れたー!」と言いいながらステージから戻ってきた時の顔が忘れられない。
それこそ「Free!」で例えるならES6話で遙と全力勝負をして負けた時の真琴が「負けた〜!」といって顔を上げた時、、のような顔。
全力で向き合って、全力で演奏して貰えたこと、それはマネージャーとして何事にも変え難い喜びだった。
とにかく全力で挑んでいたんだなー、とホロリとした。
ピアノの伊賀拓郎さんや、コーラスのZinee&isseiのお2人がオーケストラをリードして下さったことも大きく影響しているだろう。
そして昨晩いろいろ確認する必要があって見たアーカイブ。
気がついたら「見る」から「観る」に変わってた。
…そりゃ疲れるよ!
全力投球じゃん!
それでいて崩れない演奏ってめちゃくちゃにかっこいいじゃん!
なにこれ!?
「加藤さんからの差し入れ、2個目だめですか?」
「うまい棒何味にしようかなー」
なんて言ってた人たちと同じなの?
てか、これ、本当に知ってる人たち?
って言うくらいのパフォーマンス。
泣いた。
マジで泣いた。
みんなかっこいいんだもの。
勢いでこんなツイートしたけど、ぶっちゃけ次の日の朝起きても、何なら今でも全然恥ずかしくない。
大好きだ。マジで。
マネージャーとしてどうありたいか
もっとみんなと仕事がしたい!とは常々思っている。
けど、じゃあいざ仕事をしていくにあたって、どうありたいのか。
簡単に言うと
「僕は裏方、みんなは表方」とう壁や差を作らない。
オーケストラに関わる人は全て「オーケストラ」だ。
と思っている。
これは決して鳥越がガンガン前面に出るぜ!ということではない。
どっちが前で、どっちが後で、とかじゃない。
1名が全員を支えるより、60名や70名の全員で支え合える団体の方が、絶対強い。
オーケストラはお客様の前面に立つ。
その分マネージャーが制作側の前面に立つ。
そして繋がる、作り上げる。
それは多分「ヴァイオレット・エヴァーガーデン オーケストラ・コンサート2021」で、僕自身もオフィシャルグッズを身につけ、メンバーにもヴァイオレット・カラーの小物やグッズを衣裳に取り入れて貰った、といった事から見えてきたことが生んだ「一体感の種」があるから思えたことだろう。
「一体感」を個人個人が感じる。
「一体感」をオケ内で共有する。
「一体感」をお客様と共有する。
決して強要するわけではなく、自然と生まれる一体感。
一体感は心にグルーブを産む。
それは絶対に音に繋がる。
先日の「「Free!」シリーズ オーケストラ・コンサート2021」でも奏者にブルーの小物を(あくまで任意で)付けてほしいとお願いした。
するとほぼ全員が身につけてくれた。
(ほぼ全員というのは、ブルーの小物を入手できるタイミングのなかった人がいたからで、これは自分の重大な改善点として次回に活かしたい。)
だからこそマネージャーとして「日本で一番、携わる作品を愛する団体」を動かしていく僕自身が、まず、全力で、携わる団体を愛していきたいと改めて思えた。
(ここのBGMはスガシカオさんのProgressでお願いします)
色々と長々書いてきたが、決して2020の公演が2021の公演より劣っているということではない。
オーケストラが日々進化しているから、常に新しい音楽をお届けできる、その自信がある。
ということが1番伝えたかったことだと思う。
末筆ではございますが、オーケストラを代表して、
今年1年の2公演にて共演した皆様、お世話になった方々、そして演奏を聴いてくださった全ての作品のファンの皆様に、厚く御礼申し上げます。
今後ともよろしくお願いいたします。