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家の温度をつくる・・・ (1)

はじめに

 この記事を通して、家の温度が健康にどのように影響を及ぼすかという事を、ご理解いただき日々のくらしにお役立ていただければ幸いです。


「家の温度をつくる」とは何?


私は今まで、住宅の設計を通して家の断熱性能の強化や、セミナーを通じて家の中の健康リスクについてエビデンスをふまえ説明を長年行ってきました。

その中で、大いなる反省が建物をつくった後の「住み方」の説明です。
「家の温度をつくる」とは、健康リスクの軽減をふまえ性能を上げた建物でも、住む人の建物の使い方で、健康リスクが軽減されないという実態があり、あえて「温度をつくる」という言葉を反省の上からつけさせていただきました。

私たちが現在つくっている住宅は、断熱性能を強化した冬暖かく・夏涼しい住宅です。そしてこの事は省エネはもちろんですが、健康に寄与することを目的としています。

しかし、どんなに性能が良い建物でも使い方で良さが発揮できません。例えば、断熱性能を魔法瓶に例えると、性能の良い魔法瓶は氷水を入れるといつまでも冷たく、熱いお湯を入れると長い時間暖かさが保たれます。でも常温の水では、どんなに性能の良い魔法瓶でも冷たくもならなければ暖かくもなりません。

家もこれと同様に、いくら断熱性能が高くても冬は加熱しなければ暖かくなりません。当たり前のことですが、往々にして住宅が新しくなると、以前の家の体験からすると暖かいため加熱をあまりしない状態が見受けられます。また、体験だけではなくシニアでは、感覚神経のセンサー機能である、暑さを感じるタンパク質TRPV1・寒さを感じるタンパク質TRPM8が、機能低下(減少?)により、脳で感じる暑さ・寒さと実際の温度との乖離が考えられます。

健康を考えると、冬の最低室温は18℃以上、特にシニアでは21℃以上の室温を推奨させて頂いていますが、中々守られていないのが現状です。この実態が私の反省点でありタイトルを付けた理由でもあります。温度はエアコン等の機器の設定で「健康にとり適正な温度を設定してつくる」ことが重要だとの考えです。

そして、断熱性能を強化した住まいは、性能の良い魔法瓶と同じように少ないエネルギーで、適正な温度がつくられる。この事が省エネ効果であり、私たちが求める健康効果です。


なぜ健康の為に室温にこだわるのでしょうか?


皆様と同様、介護の経験もあります。
脳梗塞、心筋梗塞で住宅内で倒れる方も見てきました。
もっと、建物が健康のリスクを軽減していれば・・・との思いから「温湿度環境」をスタートしています。

国民の最高血圧平均を4㎜Hg下げると、脳卒中死亡者数が年間1万人、冠動脈疾患死亡者数が年間5000人減少するという推計(健康日本21(第2次)厚生労働省)があります。
また、別の機関から断熱改修前と改修後で室温の変化により、起床時の最高血圧3.1㎜Hg、最低血圧2.1㎜Hg低下というデータも出されており、この温度による血圧の低下を考慮すると、多くの死亡者数を減少させることが可能であると推測されます。

しかしながら、冬の在宅中の居間の最低室温・就寝中の寝室の平均室温がWHOの勧告18℃を満たさない住宅が9割もあるというのが実態です。


なぜ温度が血圧に影響を及ぼすのでしょうか?


仕組みは単純です。
人は恒温動物であり、外部の温度により深部体温(身体の内部の温度)を変動させない仕組みがあるからです。

そのため、暑いと交感神経をはたらかせ熱を逃そうと汗をかき血管を拡張させ、寒いと熱を逃さないよう交感神経をはたらかせ血管を収縮させます。
この血管の収縮が手足の血管では、寒いところに出ると手足が白くなる=放熱の抑制であり血圧の上昇といわれている現象です。

特に、末梢血管や毛細血管は外部の温度の影響を受けやすく、この細い血管は、全血管の9割以上を占めるといわれています。

このように、温度は血圧に影響を及ぼすため、特にシニア住宅での断熱性能の強化は、からだへの外気からの温度影響を少なくすることが目的であり理由です。


家の温度が、からだにどのような影響があるのでしょうか?


下記内容は、医療だけではなく身近な家の環境でも、からだへの影響があることを知って頂きたく、発表されている内容を記載させていただきました。

「住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査」
改修前健康調査:4147人 改修後健康調査:2323人
~ 国土交通省スマートウエルネス住宅等推進事業調査に基づく、住宅・健康の分野連帯の医学的エビデンス ~  発表内容抜粋


断熱改修によって家庭血圧が有意に低下
断熱改修前と改修後の比較結果、起床時の最高血圧が3.1㎜Hg・最低血圧が2.1㎜Hg低下

断熱改修で血圧ハイリスク者ほど断熱改修の効果大
断熱改修による血圧低下量は、高齢者で5.0㎜Hg・塩分摂取過多者で3.4㎜Hg
喫煙者で4.6㎜Hg・毎日飲酒者で3.7㎜Hg・高血圧患者で7.7㎜Hg

血中脂質と室温の関係
総コレステロール値が基準を上回る人は、室温が18℃以上の住宅に比べて、12~18℃の住宅で1.8倍、12℃未満の住宅で1.9倍、有意に多い

心電図異常所見と室温の関係
心電図に異常所見がある人は、室温18℃以上の住宅に比べて、12~18℃の住宅で1.8倍、12℃未満の住宅で2.2倍、有意に多い

夜間頻尿と室温の関係
夜2回以上トイレに行く回数が、就寝時間帯温度が18℃以上の部屋に比べて12℃~18℃で1.61倍、12℃未満で3.01倍  有意に多い


上記内容は、断熱改修を行い冬季の室温度が上昇した場合の統計データによる効果の事例です。
もちろん効果には個人差があり、必ずしもデータの数値どおりの結果が出ないこともあり得ます。
しかしながら、室温が低い住宅環境では、健康リスクが高いことを表した内容であり、また、室温を上げることで健康効果が高まることを表した内容でもあります。
この内容が、皆さまの日々の生活に役立ていただければ幸いです。


・・・ 家の温度をつくる(2)につづく ・・・