◆「タイショクリユウ?」
少し良い気分になって、スマホで動画サイトを覗く。動画の内容はさっぱり入って来ず、頭の中では、さっきから自画自賛の言葉がぐるぐる回っている。
”就活年齢30代前半”
”この歳で、こんなに早く、明治電工!山崎重工!書類選考通過!”
”退職してまだ2カ月経ってませんよ”
”戦略”、戦術、ともに成功!”
”よし、まだいけるぞ!俺っ”
山泉さんの驚く顔も目に浮かぶ・・・
「クククク・・・・」
独りでに笑いがこみ上げる。ちょっと気持ち悪いか・・・
するとスマホ画面に、中舘からメールが来たことを知らせるポップアップが現れた。
「ん?」
”面接対策のご案内”?
なるほど、ずいぶんとサービスが良いな・・・しかもなんてタイミングが良いんだ!明日の11時からDavisのweb面談がある。その面談までに面接対策ができればちょうど良いな。
志望動機・退職理由・自己PR。これらは、聞かれること必須の項目であることは理解している。志望動機や自己PRはなんとなく頭の中でイメージできるが、退職理由に関しては・・・
私自身、特別になにかが不満で会社を辞めた訳でないし、なにか不当な扱いを受けていた訳でもない。どちらかというと周りから羨ましがられるようなポジションで、自分の好きなことをやっていた訳だから、辞める理由らしきものはない・・・強いて言えば別の世界を見たかった?他の会社で仕事をしたかったから?・・・それだけ聞いていると、私という人間は、なんだかとんでもなく青臭くわがままで自分勝手なおじさんに感じる。
ということで、かねてから退職理由に関しては、何か良い言い方が無いものかと、少し不安が付きまとっていた。まぁなんとなく答えらしきものは持っているのだが、実はこういった常識人的な振る舞いがやや苦手で、どちらかというと自信がない。あの中舘に教えを乞うのは癪だが、ひょっとして意外と良い奴かもしれない。
とりあえず、添付されていた書類を早々に作成し、希望する面接対策の方法と日時の返事と合わせて、中舘へ返信した。
もちろん、電話での面接対策で、明日5月25日9時開始を希望した。
私の就職活動と直接関係はないが、私はこの中舘という男に興味がある。
■第34話へつづく