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『テンシンシエン!』第53話

◆「リユウ?」

 何から話せばよいのだろうか・・・言葉がうまく出ない。普段通りにしていないと山泉さんに変に思われてしまう・・・けど・・・あっ山泉さんは自分の状況をよく理解しているんだったな。
「えっと・・・いきなりなんですけど、先日、支援センターの瀬川さん、えっと、私の新しい担当になった方なんですが・・・」
「ええ、存じてます。」
「その瀬川さんから聞いたんですけど、就職支援センターへ直接、私宛のスカウトがあったという話のこと。」
「あぁ・・・」
「私は、その話のことを、全く知らなかったんですけど・・・一体、どういうことですか?!しかも辞退しているって!」
「えぇ・・・」
「瀬川さんが言うには、スカウトのあった会社って、モッキンゼーとか、ロスコンとか、PtC、バイン・・・有名コンサル会社ばかりじゃないですか?どういうことかちゃんと説明してください。」
「あぁ・・・そうですね・・・そのことに関しては、大変申し訳なかったと思っていますし、反省・・・うん・・・なんだか虚しくもなってしったというか・・・なんでしょうか・・・自分の小ささに、正直なところ呆れています。」
「山泉さん、私はあなたのことを戦友のような、就活の良きパートナーのように思っていたんですよ。なのに・・・なんなんですか!これは?!」
「いや、ですから反省してます。本当に申し訳ないと思っています。沢村さんにはちゃんと謝らないといけないと思って・・・それで・・・」
 いけない・・・少し感情的になってしまった・・・今日は、ちゃんと山泉さんの話を聞くつもりで来たのだった。

「山泉さん、理由があるのではないですか?普通、こんなことをして、就職支援センターにバレたら、解雇・・・いや、それ以上の罰を受けることに・・・よほどの理由が無いと、こんなことはしませんよね?」
「えぇ・・・はい・・・確かに・・・」
「まさか、末期癌で余命宣告を受けてやけくそになったとか、そんなバカな理由では・・・」
「そんなわけないでしょっ!・・・」
 山泉さんはうつ向いていた顔をさっと上げ、なにか吹っ切れたような表情で私を力強く見つめた。

「沢村さん、私のこと覚えていませんか?」

「えっ?」


■第54話へつづく


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