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『テンシンシエン!』第50話

◆「ベーグルサンド?」

2021年6月8日、火曜日
 ぐだぐだとした朝、なぜだか今日は寝起きが悪い。午後からハローワークと、埼玉メディカルセンターへ行かねばならない・・・

 8時頃には目が覚めていたというのに、なかなか布団から出られず、気がつくとすでに11時。早くシャワーを浴びて、ハローワークへ行くための身支度をしなければならない。

 そう言えば腹が減っている。この時間では朝食と言うよりもすでにランチか・・・久しぶりに”すなどけい”へ行こう・・・

よしっ!
 自分に気合を入れて布団から飛び出す。そしてそのままバスルームへ直行してシャワータイム。身支度に必要な時間は概ね30分。今からすなどけいへ出かけて、のんびりランチをとって、ハロ-ワークまで徒歩で・・・認定日の指定時間は、14時30分だから、14時15分ぐらいにすなどけいを出ても余裕・・・そんなことを考えながらシャワーを浴びる。


”カランカラン・・・”

「あら、沢村さん。こんにちは!久しぶりですね・・・」
「あぁこんにちは。えぇ、ちょっとバタバタしていまして・・・。ランチいいですか?」
「大丈夫ですよ。はい、今日のランチメニューです。」
 Aは定番のホットサンドセット、Bはベーグルサンドセット、Cはカレーセット。いずれも飲み物はお好みで選択可能。AとBには手作りプリン付きか・・・
「えっと、なんだかランチと言うとカレーのイメージが強いから、今日は・・・どうしようかな・・・そうか前回?前回はAのホットサンドだったから、今日はこのBセット、ベーグルサンドセットで、コーヒーは・・・気分を変えてマンデリンにしよう。」
「かしこまりました。Bセットのベーグルサンドセットに、コーヒーはマンデリンですね。少々お待ちください。」

「ママ、ベーグルなんて珍しいですね?我々世代なんかですと、なかなか口にする機会が無いですよ。そもそもベーグルって何?って感じで・・・」
「そうですね。最近こそベーグル専門店なんかが増えてきて、比較的名前だけでも知られる存在にはなりましたけど・・・」
「注文した後に聞くのも変ですけど、ベーグルサンドってどんな感じなんですか?」
「あら、沢村さんはベーグルサンドをご存じないの?」
 少しいたずらっぽい笑みを浮かべながら、すなどけいのママが言う。

「は、はい・・・名前から察するに、なにかお総菜的なものを挟むとか?そんな感じのスタイルですか?」
「ふふふ・・・まぁ遠からず近からずってとこですけどね。私、高校を卒業した後にアメリカにいたことがあるんですよ。」
「えっ?留学か何かですか?」
「いえいえ・・・そんなお利口さんな理由ではなくて、なんとなく家を飛び出したって言うか、自由になにかできるうちに何かしたかったと言うか、いつか海外に行きたくて高校の時にバイトしてお金貯めていたんです。別にアメリカでなくても良かったんでですけど・・・他によく知らなくて・・・はははは。で、その時によく行っていたカフェのメニューにベーグルサンドがあって、とってもおいしくて大好きになっちゃったので、レシピを教えてもらったんですよ。」

  ベーグルぐらいの大きさの丸い耐熱容器に卵を割り入れ、1cm程度に切ったアスパラとソーセージ、4等分に切られたプチトマトを乗せ、ピザ用チーズ、乾燥バジル、塩コショウを適量のせる。
 なんとなく大雑把な感じだが、このあたりはママの目分量なんだろう。次に耐熱容器を電子レンジに入れる。
 その間にハンバーガーのバンズパンのように上下に切られたベーグルを、トーストで軽く焼く。
 先ほど電子レンジに入れた耐熱容器には良い感じに卵が固まっている。それをスプーンでふちから丁寧にはがして、ベーグルで挟んで完成。加熱されたソーセージとアスパラの良い香りが店内に漂う。

「沢村さん、はいどうぞ。」
「へぇ・・・これがアメリカンカフェ直伝のベーグルサンドですか・・・おいしそうですね。」
「沢村さん、おいしそうではなくて、おいしいんですっ!」
「あっ失礼しました・・・」

 すなどけいのベーグルサンドは、見た目以上にボリュームがあって、塩加減がとても絶妙だ。ソーセージの風味が広がったベーグルサンドは、マンデリンの深い苦み、さわやかな風味と相性が良い。偶然ではあるが我ながらナイスチョイス。
 もちろん手作りプリンは、コーヒーの苦みを計算した甘さで、これも絶品だった。


■第51話へつづく


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