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『テンシンシエン!』第34話

◆「メンセツタイサク?」

2021年5月25日、火曜日
 今日は早起きして”中舘”との電話面談に備える。事前に送った資料のチェックや、紹介された動画の閲覧。ネットで”面接対策”をキーワードに検索して、気になったサイトを覗き、一般的な情報を頭に入れる。

”はじめての面接でも安心!「面接」徹底攻略ガイド!”か・・・
 大手転職サイトが提供するコンテンツだ。中身も充実していて参考になりそうだな。ケーススタディーも多い。これは良い。

”面接対策 完全ガイド~質問・回答例・マナー~
 これも聞いたことのある転職サイトだな・・・概ね他のサイトと同じようなことが書いてあるが、不採用理由か・・・一次、二次、最終面接でそれぞれで不採用理由をまとめてあるのが面白い。

 どのサイトも書いてあることは「まぁそうだろう」と納得できる。面接でよく質問されることなども、ありきたりな感じはするが、いきなり質問されると答えられない内容もある。やはりある程度は、事前に纏めておいた方が良さそうだ。

 ついこの前まで面接する側の人間だったのに、今は面接される側の人間に・・・そして、改めて面接対策をするなんて、少し滑稽な感じがするが、面接を受ける人は、年齢に関わらず、一様に何かしらの努力をしてくるんだろう・・・そう考えると、今まで厳しいことを言って落としてきた人たちのことを思い出し、急に申し訳ないことをしたと思えるようになった。

「ん?・・・」
 一瞬、埋もれた記憶同士が結びつきそうになったのだが・・・なんだ?・・・まっいいか・・・ふと時計に目をやる。

「そろそろ9時か・・・」
 サイトを色々はしごしていたら、あっという間に約束の時間になってしまった。


”テトタト テトテト テトタト、テトタト テトテト テトタト・・・”
 9時ぴったりにスマホが鳴る。”応答”をタップして、すぐにスピーカーフォンに切り替える。

「はい、沢村です。」
「おはようございます。わたくし就職支援センター、就職支援VIPの中舘と申します。沢村健さまでございますか?」
「あっ、おはようございます。私が沢村健です。」
「今日はよろしくお願いいたします。それでは早速ではございますが、面接対策を始めさせていただきます。まずは・・・・・

 提出した資料の中身を一緒に確認していく。事前に中身を見てくれていたようで、ある一点を覗いては基本的に修正の必要はないということだ。そのある一点というのは退職理由。この記載内容はダメだとはっきり言われてしまった。

「沢村さん・・・退職理由なんですけど・・・”まだまだ、自分の知らない新しい世界で仕事をしてみたいから”と言って会社を辞めた人を、沢村さんは雇ってみたいと思いますか!?」
「はぁ・・・そうなんですよね・・・なんか”コレ”というのが思いつかなくて・・・そもそも辞めるときに明確な理由が無かったもので・・・」
 中舘は、結構、強気に、しかも言葉は丁寧なのだが、なんというかニュアンスがフランクな感じで、グイグイと指導してくる。それに対して、私はというと、いつの間にか少し気弱な感じになってきて、やや押され気味だ。
「”辞めた理由はありません”だなんて、50過ぎたおじさんが言えるわけないですよね?少し大人になってくださいよ・・・」
 電話の向こう側から、中舘の呆れている空気が伝わってくる。

「えっと・・・沢村さんは前職では・・・センター長・・・ということは結構なお立場だったんですよね?」
「はい・・・」
「で、本来はお辞めにならなくても良かったと?・・・合ってますか?」
「はい。」
「そんな状況の方にぴったりの退職理由があるのですがわかりませんか?」
「え?ぴったりの理由?・・・なんだろ?・・・・なんでしょうか?」
「辞めなくても良かったのに辞めたということは、沢村さんが辞めたことで誰か辞めなくてもよくなったということですよね?」
「はい・・・・・・あっ!それかっ!」
「そうです、わかりましたか?つまりですね・・・会社の状況が悪くなり早期退職制度が始まった。会社の経営状況悪化は、経営に近いところにいた自分にも少なからず責任があると感じた。さらに、自分が辞めることで誰かが辞めなくて済むのならと考え、早期退職制度に応募することを決意した。と・・・どうですか?これなら責任感も感じられますし、仲間を思いやる気持ちがあると思われますよ。」
「うーん。なんだか少し嘘っぽくないですか?理由が綺麗過ぎるように感じますけど・・・」
「沢村さん・・・実際、同じような理由で辞められる方は大勢います。特にここ日本では、退職理由として結構多いのです。現に辞めようと思った際、同じようなことを少しでも考えませんでしたか?」
「まぁ考えたと言えば考えたかなぁ・・・」
「まぁどんな退職理由を言うのかは、沢村さんの自由ですが、その歳で”新しい世界を見てみたい”なんて言ったら、この先また転職を繰り返すと思われるだけですよ。就活はきれいごとばかりで成功しません。もっとしたたかになってください。」
「確かに・・・」

 こいつ意外とできる・・・


■第35話へつづく


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