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『テンシンシエン!』第20話

◆「マヨコーン?」

 就職支援センターでのカウンセリングが終わり、特に目的もなく浦和駅周辺をうろついていた。

 感染対策で百貨店の入り口には、アルバイトだろうか、来店者をサーモビューワでひたすら観察し続ける人がいる。よく見ると、多くの店で入り口と出口を限定し、人の流れにうまく方向性を持たせている。これによって、来店者にアルコール消毒を確実に行わせることができる。
「なんだか色々大変そうだな・・・。」
 思わずつぶやいてしまった。最近、独り言が多い。
 なんとなくスマホを見ると、メールアプリのアイコンにメールの受信を知らせるバッジが付いている。もしやと思いアプリを開く。案の定、支援VIPの担当エージェントからのメールだった。

 エージェントの名前は、”中舘 博さん”と言うのだが、当然、会ったこともなければ、話したこともない。サイトに登録した時にあいさつメール、おそらくなにかのテンプレだろうが、それが来たぐらい。本当に人間なのかも怪しい。まぁ今回届いたのは、その中舘さんと言う人からの、選考結果を伝えるメールなのだが、これもテンプレっぽい感じだ。

沢村様
転職支援VIPの中舘でございます。
先日ご応募いただいた企業の書類選考結果をお伝えさせていただきます。
大変恐れ入りますが今回はご期待に添えない結果となりました。

【企業名】  株式会社浅井化成
【仕事の名称】新規事業責任者ポジション(本部長)
 オープンイノベーションによる基軸外製品の発掘と新事業化をお任せ!!
【理由】   より条件に合致する候補者が他におられたため

【企業名】  エムロン株式会社
【仕事の名称】新規事業責任者(部長~本部長)
 オープンイノベーションによる新技術開発、新事業の創生を推進
【理由】   より条件に合致する候補者が他におられたため

残念ですが、ご了承くださいますようお願い申し上げます。

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株式会社就職支援センター
 エージェント事業本部 関東統括部
 カスタマーサービス4部 5グループ
 就職支援VIP
 キャリアアドバイザー
  中舘 博(なかだて ひろし)

 はぁ・・・まぁこんなものだ。気落ちしている場合ではないが・・・はぁ・・・でもやっぱりそれなりに落ち込む。とりあえず家に帰ろう。
 その帰りしな、ふと見ると回転寿司店がある。山口にいた時は好きでよく行っていたが、関東に来てからは、どうせ美味しくないと決めつけて、足が向くことは全くなかった。
「こんなところに回転寿司か・・・三崎港?」
 関東の回転寿司がいかほどのものか、ちょっと暇つぶしに評価してやろう。少し意地悪な気持ちで店の暖簾をくぐった。

「いらっしゃいませ!おひとり様ですか?」
「はい・・・」
「大変申し訳ございませんが、アルコール消毒にご協力ください。」
「あっあぁ・・・これね?」
「ご協力大変ありがとうございます!それでは中ほどのカウンターでお願いいたします!」
 元気の良い店員さんだ。理由はよくわからないが心が洗われる気分で、なんだか気持ちがいい。彼女らはいくらもらって働いているんだろうかとどうでもよいことを考えてしまう。カウンターに着くとタブレットが置いてある。”お味噌汁を注文しますか?”とメッセージが出ているが、今はそんな気分ではない。”注文しない”をタップした。感染対策のためか、回転寿司と言いながらも寿司は回っていない。注文は全てタブレットからだ。なんだか味気ないが、今のこの状態を考えるとこちらの方が良いのだろう。さて注文をするか・・・まぁ魚類には大して期待していないから後回しにして、まずはマヨコーンの軍艦をと・・・タブレットのメニューをスクロールする。よし、あるな・・・私は、初めて入る回転寿司では、マヨコーンを注文して、その味で実力を測ることにしている。”マヨコーン”をタップして、”一皿”をタップ、そして”注文”をタップ、すると”ご注文を受け付けました”とメッセージが出る。端末のレスポンスもなかなか良く、テンポ良く注文ができる。良いシステムを入れているな。ここまではなかなか及第点だ。
 程なくして新幹線のようなものに乗って、注文したマヨコーンが来た。それとほぼ同時に端末から”注文のお寿司が到着します”と音声で案内される。うん、これも良いリズムだ。さて肝心の寿司の出来栄えは・・・ん?なんだ・・・こいつ、うまいじゃないか・・・いや・・・うますぎるぞっ!、ここのマヨコーン、私的には満点だ。コーンは硬すぎず柔らかすぎず、プチプチとした歯ごたえを保ちながら、それでいて自然な噛み応え。甘さもマヨネーズと酢飯に合っている。そして使われている海苔・・・こっこれは・・・なんと香りの良い海苔なんだろうか・・・おそらく私が今まで食べてきたマヨコーン中で、この三崎港のマヨコーンはチェーン系ではトップレベルの完成度だろう。関東の回転寿司を舐めていた。よしっ、今日はこのマヨコーンを腹いっぱい食ってやる。少し気持ちが落ちていたが、このマヨコーンの存在でチャラだ。帰ったら、求人案件に片っ端から応募してやろう。私の中の何かが変わった瞬間だった。

 この十数分後、この海鮮三崎港のタブレットに、”御礼!!マヨコーン軍艦 品切れとなりました!”と表示された。


■第21話へつづく


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