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ジャーナリストの条件

ジャーナリストの条件 〜時代を超える10の原則〜
(ビル・コバッチ、トム・ローゼンスティール 著)

2001年の第一版から2021年の第四版が出版されたジャーナリズム代表書。

第1章 ジャーナリズムは何のために
第2章 真実―最も大切で最も分かりにくい原則
第3章 ジャーナリストは誰がために働く
第4章 事実を確認するジャーナリズム
第5章 党派からの独立
第6章 力ある者を監視し、力なき者の声となれ
第7章 開かれた議論の場となるジャーナリズム
第8章 引き込む力、自分とのつながり
第9章 全体像を配分良く
第10章 ジャーナリストは自分の良心に責任を負う
第11章 市民の側の権利と責任

序章

ジャーナリズムは17世紀前半に啓蒙運動の中、市民の権利や責務に関わる情報をごく少数の者たち(王の裁判所や秘密議会)の独占から、大勢の手に渡るようにして、議論の公共広場を作り出した。しかし、今また報道機関の問題やSNS・IT企業・ターゲティングの仕組みにより公共広場はバラバラになっている。

そしてジャーナリズムがどうあるべきか、ニュースを賢明に取り入れるにはどうするかがそもそも不明確である以上、ジャーナリストも人々も、デジタル化の影響に対しても準備不足になっている

ニュース:直接体験することができない世界を知る方法。身を守るため、人とお互いつながるため、友と敵を見分けるために必要なもの。

ジャーナリズムの条件 10ヶ条

1 ジャーナリズムの第一の責務は真実である。
2 ジャーナリズムの第一の忠誠は、市民に対するものである
3 ジャーナリズムの本質は、事実確認の規律にある
4 ジャーナリズムの仕事をする者は、、取材対象から独立を保たなければならない
5 ジャーナリズムは、力ある者の監視役を務めなければならない
6 ジャーナリズムは、人々が批判と歩み寄りとを行う議論の場を提供しなければならない
7 ジャーナリズムは重要なことを面白く、かつ自分につながる問題にするよう努めなくてはならない
8 ジャーナリズムはニュースにおいて全体像を配分良く伝えなければならない
9 ジャーナリズムの仕事をする者には、個人としての良心を貫く責務がある
10 市民もまた、ニュースに関して権利と責任がある。彼ら自身がプロデューサーや編集者になる時代には、なおさらである

第1章 ジャーナリズムは何のために

ジャーナリズムの最大の目的は、 市民が自由であり自治ができるよう、 必要な情報を提供すること

知る本能:自分自身で見ることができない出来事でも、それを知ることで、安全、コントロール、安心という感覚を呼び起こす。他人を理解することは、私たちをどう理解するかということでもある。
こうした情報を交換することが、コミュニティを作り、人間同士結びつくための基礎になる。

新しい時代のジャーナリストの役割は、
1:事実を確認する真実証明係
2:情報が知恵に変わるように理解を助けること
3:人が注目することだけでなく取材されていないことを取材する目撃証人
4:悪事を暴く監視犬であること
5:情報を集約するもの
6:議論の場をリードするもの
7:自分たちが行動できるよう手助けするもの
8:模範的な行動をする手本
9:コミュニティを作るもの
10:政治・株価・スポーツなど不可欠な情報を提供するもの

良いジャーナリズムは、コミュニティを作り市民の生活を向上させる


第2章 真実 最も大切で最も分かりにくい原則

ジャーナリズムの第一の責務は真実である

真実を追求することは、他の形態のコミュニケーションとの根本的な違い。

ニュースは真実の追求だけでなく、最初に伝えたことに次が積み上げられ、そこでは新たに詳細が分かり、報道機関は初期の誤りを訂正し、分かっていなかった要素を追加する、と続くもの。

フェイクニュースは真実のニュースより六倍速く拡散する。

ジャーナリズムは、読者・視聴者に耳を傾けて理解することを任務とし、読者・視聴者がどう情報を処理するかの科学を理解しなくてはならない。人々が物事を知るのを助けなければならない。単に情報を提供するのではない。

第3章 ジャーナリストは誰がために働く

ほとんどの仕事は、どれだけをお金を生み出したかが基準となる。ジャーナリズムの価値は何で図られるか。

信頼できる報道機関であるためには
1 市民に貢献せよ
2 市民を第一にする経営幹部を雇用せよ
3 ニュースについて最終的な意見はジャーナリストが持つ
4 組織内の明確な規範を決め語り合え
5 明確な規範を社会の人々とも語り合え

第4章 事実を確認するジャーナリズム

ジャーナリズムの本質は、 事実確認の規律にある。

事実確認の規律が、ジャーナリズムと、エンターテインメントやプロパガンダ、フィクション、芸術とを区別することになる。

事実確認の規律
1 もともとなかったものは決して付け加えない
2 読者・視聴者を決して欺かない
3 自分の方法と動機をできるだけ透明に開示する
4 自分自身の独自の取材に依拠する
5 謙虚さを保つ

人々に思い違いをさせるのは噓の一形態である。目撃証言の言葉を最大限ありのままの形で伝えたとは言えない場合、読者・視聴者に知らせるべき。透明性によって、読者・視聴者は情報の妥当性、情報を得たプロセス、情報提供した人々の動機や偏りについて判断が可能になる。

情報源を特定してはっきり詳しく示すことは、ニュース報道者が自分でできる、透明性実現の最も効果的な形。

「この情報の価値判断を私の読者・視聴者が自分でするには、何を分かっている必要があるか

何かを入れるまたは取り除くという判断に、論議を呼びそうなものはあるか

そもそもなぜこれを記事にし、ニュースとして出したかは明確か。つまりニュースの選択自体が説明を要するということはないか。その選択自体が偏りを反映したものだと考える人はいるか。このニュースのためにあなたが力を割き、読者・視聴者が時間を割く価値がある理由は何か。それを説明することに何らかのリスクはあるか。

質問をする

・矛盾をはっきりと伝える
(相手側の主張に理解できるところはありますか)
・動機につながる質問をする
(このことはあなたにとってなぜ大切なのですか)
・より多くよりよく聞く
(そのことについてもっと教えてください)

客観性という言葉の問題

対義語は主観性。客観性は政治家の発言をそのまま流すことではない。公正という言葉も、課題が残る。公正に見えるようにすることで、異なる意見がそれぞれ道徳的に同じ重みだという、誤った均等感を伝えてしまうことも起こり得る。

匿名の時のチェックリスト

1 その情報は記事に欠かせないか
2 その情報はファクトであって、意見や判断ではないものか。(判断にわたる発言については、彼は匿名を認めなかった)
3 その情報源は、真に知る立場か──自分の目で見ている人か。
4 他に信頼性を示す材料はあるか(複数の情報源、独自の裏付け、その情報源の経験値)
5 読者がその情報源をどの程度重視するか決められるよう、どんな説明を付するか

第5章 党派からの独立

ジャーナリストは、取材対象から 独立を保たなければならない。

ある出来事を報道し、参加すると、別の見方で物事を見ることが困難になる。異なる立場の取材対象、対立者の信頼を得ることはもっと困難になる。そして、あなたの読者・視聴者に対して、あなたはある団体の力になろうとしているが、その団体の利益よりも読者・視聴者の利益を優先していると分かってもらうことは、不可能ではないにしても、困難となる。

政党とのつながりのほかにもジャーナリストに起こり得る利益相反や相互依存関係について見ていくことが重要

多様性と独立性
多様性は、人種、民族、ジェンダーだけでなく、階級、文化など報道職場の意思決定をもっと開かれたものにしようという議論を認めることでなければならない

独立性を保つオープンジャーナリズム(ガーディアン編集長による例)
・人々の参加を促す
・反応が鈍い(ジャーナリストが人々にとって)ものでない、つまり止まったような製品ではない。
・人々に、制作前のプロセスに入ってもらう。
・関心を軸にしたコミュニティを形成する。
・ウェブに開かれ、リンクし、協働する。
・集積し、取りまとめる。
・ジャーナリストたちが唯一の権威ある発言者ではないことを認識する。
・多様性を実現し、それを反映したものにする。
・発信はプロセスの出発点であり、終着点ではない。
・異議、訂正、追加説明を嫌がらない。


第6章 力ある者を監視し、力なき者の声となれ

ジャーナリストは力ある者に対し、 独立した監視役を務めなければならない

監視犬の原則は単に政府を見張るだけにとどまらない。社会で力を持つ組織、政府系、非政府系、営利団体、人々の生活に影響する役割を担う全てのものに及ぶ。今はもちろん、プラットフォーマー企業(時にジャーナリズムを支援するとの姿勢を示し、助成金などジャーナリズム機関と金銭的パートナーになる仕組みを創設している)も含まれる

3つの形式の調査報道

1 独自調査報道
人々の生活に打撃を与えかねない物事や状況を知らせるため、それまで知られていなかった行為について、自分たちで見つけ出して記す記者たちの活動
2 解釈型調査報道
解釈型報道は、独自調査報道よりもより丁寧に追究し、見方を整理して生み出されるもので、情報をつなぎ合わせ、新しく全体的な背景に照らし、人々がより深く理解できるようにする
3 調査・捜査を伝える報道
既に誰かが(通常は政府機関が)実行したり準備したりしている公式調査・捜査の情報について探り出したりリークを得たりし、それによって展開するもの。

告発としての調査報道
調査報道にはこれにモラルの問題が追加される。そのため十分な情報や証拠が必要となる

第7章 開かれた議論の場となるジャーナリズム

ジャーナリズムは、 人々が批判と歩み寄りとを行う議論の場を提供しなければならない

テクノロジーによってみんなの議論の場が大きくなり、共有する事実の幅が広がるというのは夢想に過ぎない。むしろ分断されている。

ジャーナリズムは人々が批評をする場を提供しなければならない。そこでの社会的議論も他のジャーナリズムと同じ原則──真実性、事実、事実確認がその出発点──の上に築かれることが新しい時代においてもますます重要になる。

議論の場にはコミュニティの全ての立場の人が参加できるものでなければならない。最も発言が活発な人たち、すなわちSNSで最も目立つ人たちだけ、あるいは物やサービスを売る相手として魅力的な階層の人たちだけ、ではいけない。

第8章 引き込む力、自分とのつながり

ジャーナリズムは重要なことを面白く、かつ、 自分につながる問題にしなくてはならない

「魅力的なもの」vs「自分につながる問題」。面白くて魅惑的で気持ちに響くニュースを重視すべきか。最も重要なニュースにこだわるべきか。ジャーナリストが提供すべきは、必要なものか、欲しいものか。

優れた取材、思考、語り、デザイン、そしてデータの示し方によって、世の中で何が起きているかを読者がつかめるようにする。それぞれの話の大事なところを面白く、魅力的に、そして意味深くするやり方を見つけること。

ニュースをエンタメに変えることは間違っている。短期的には良いが薄い読者しかつかなくなる。

語り方

1 この話で取り上げるのは本当のところ何なのか(これまでに分かった事実、目にしたデータから示されているのは何か)
2 これらの事実によって影響を受けているのは誰か、どんな影響か。その人たちがこの問題について意見を決める上で知るべき必要な情報は何か
3 その情報は誰が知っているのか。背景を踏まえて説明できるのは誰か
4 この話を伝える最良の方法は何か。物語を伝えることか。

・追うテーマは何か
・伝え方がどれほどふさわしいか
・どんなプラットフォームを使うか

1 問題か流れか(背景を考える)
2 説明の要素(起きた理由)
3 プロフィール(関係者、登場人物)
4 声(話せる人はるか)
5 描写
6 調査(入手可能な文書など)
7 語り(最初から最後まで繋がっているか)
8 ビジュアル(写真、グラフィックス)
9 データ(数字で説明できるか)
10 音声
11 プラットフォーム(インスタかショートメッセージか)

・報道内容を、もっと深いテーマに結びつける

・人物像とディテール(説明ではなく伝える方法として人物像が鍵に)

第9章 全体像を配分良く

ジャーナリズムはニュースにおいて全体像を配分良く伝えなければならない

ニュースとは何か。スペースも時間も資源も限られる中で、何が重要で何が重要でないか、何を報道に含め何を含めないか。無限に広がるインターネットの時代、発言を担うのは誰か。

どんな報道機関も時間や金、人に限度があるため、全てを報じることなどできない。

ジャーナリズムの未来

広告主の関心の対象になる読者・視聴者をできるだけ多く引きつけるのではなく、未来のジャーナリズムはこれから、消費者自ら喜んで金を払ってくれるような価値あるコンテンツの創造が最優先の柱になる

・読者・視聴者の社会階層は広く、様々な人を含むことが求められる。月10ドル払える人は多い。人々がこの額を自分の生活の中で映像ストリーミングなど多くのサービスに払っていることはデータで明らか。

・ジャーナリズムは、コミュニティのもっと幅広い人々に関わるものでなければならない(特に若い人、有色人種、保守派)

・ニュースという事業が若返りたいなら、そのプラットフォームは平均年齢の若いモバイルであることに疑う余地はない

・プラットフォーマーはアルゴリズムを変えてしまっており、彼らの金になるようにしている一方で、私たちが知りたいであろうこと全てに自然と出くわすようにはしない傾向を強めている。私たちはものを知らないまま取り残される可能性が高まっている。世界は狭くなっている。

計測手段(地方テレビ局)
テーマで分類せずに、取材・報道の水準と質で分類。視聴率は時間の経過を見て傾向を把握。

五年間にわたり150局、2419のニュース番組から33,000の報道を分析し、判明したのは、どのようにしてそのニュースは取材され、報じられているか(取材した相手の人数、バランス、専門性、視聴者とのつながりや重要性がはっきりしているか、ニュースとしての完成度は高いか)が、テーマが何かよりも二倍重要ということだった

→ ニュース番組ごとではなく個々の報道内容単位になっていく時代

計測(WEB)
ジャーナリズムは広告収入を離れ、消費者からの収入(購読、会員制、寄付、その他)に軸足を移しており、ページ閲覧数の重要性は下がっている。

以下の項目を混成する独自の混成指標を採用
・ページ閲覧数
・ページ閲覧時間
・他人にシェアした数
・月何回訪問したか
・購読者になるか、料金を支払っているユーザーか
加えて
・記事を読んで購買に繋がったか
・記事を購読者は読んだか

新聞を初めて購読した人を調査し、購読の理由

・特定分野に興味があった
・地元メディアを購買することで参加している感
・その地域に引っ越したから
・ジャーナリズムを支えたいから
・クーポンがあったから
・家族もしくは友人が購読していたから

ニュースの新しい消費者

・目的に応じて複数のメディアを選ぶ(一つのメディアだけに固執しない)
・時間帯やデバイスは何か
・より良いジャーナリズムのためにはデータ(数値指標など)が必要
・ウェブが持つ双方向性を生かす

第10章 ジャーナリストは自分の良心に責任を負う

個人としての良心を貫く責務がある
ジャーナリズムは人の在り方に左右される。公式な自主規制もない。取材する人や発信する企業の倫理観が重い責任となる。倫理はあらゆる要素、あらゆる判断の中に入っている。

ニュースには法律がないため何をするかしないかは自分自身の羅針盤が必要となる。

目標は知的多様性
多様性がなければジャーナリズムは正確性をかく。(年齢、ジェンダー、階級、人種など)。人種の多様性以上に、文化やイデオロギーといった知的多様性はもっと難しい。

第11章 市民の側の権利と責任

市民はその選択を通じてニュースの在り方を決める。権利も持つが責任も持つ

ジャーナリズムと民主主義はともに生まれた。当初の報道の役割は、生活を支配する権力や制度について人々に情報提供するものだった。今では市民が自ら必要な情報を見つける形に変化している。

市民の権利と責任
報道の証拠を求める権利がある。分からないこと、理解できないことははっきり示されなければならない。情報の価値と偏りを自分自身が判断で着なければならない。

市民への忠誠
市民のニーズであって当事者の利益や経済の利益になってはいけない。
ニュースを提供する側は民間企業、シンクタンク、政治的非営利組織など発信源がどこであっても利益を損なっても大切な情報は伝える必要がある

みんなの議論を作る場
ジャーナリストと市民の間で建設的な会話が行えるように期待するべき。(直接やりとりができるべき)。ジャーナリズムが提供する情報について、何に価値があるかを議論する。最終的にはコミュニティの実現。

ニュースの配分
必要なタイミングで情報を得る必要があるときに、メディアの増加や情報の拡散を制御できない。市民が深い判断ができるように、背景を踏まえて整理することが必要。

ジャーナリズムに関わる人はジャーナリズムの条件を理解し、それによってジャーナリズムは価値が生まれる。そして市民も責任を負っている。