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夜になれば、違う自分になれると思った。
夜になると、何故か安心する。
車が少なく、街灯が少ない3号線の道をただひたすらに車で走るのが好きだ。
見えない先に向かって50kmくらいで走っていくと、深く底がない暗闇に吸い込まれていくような気がする。
そんな一時に、心が癒されるような感覚すらする。
それくらい、私はきっと夜を愛している。
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そう思うようになったのは、大学4年生の頃からだ。
体育大学に通うのももう残り少なくなったある日、友達の紹介で夜のお店で働き始めた。
その店はラウンジと呼ばれるところらしく、いわゆる男性と話をしてお酒を飲んで、お金をもらう場所だ。
4年間も田舎の大学に通って、毎日朝6時の朝練に通っていた私は、お洒落に無頓智だった。
大学にくる女子はほぼ全員がすっぴんにスウェット、ジャージで、当然のごとく私もその習わしに染まっていた。
そんな自分に何の違和感もなかったし、それが嫌いではなかったけど。
他の大学生が言っているキャンパスライフとはかけ離れていることだけは、ちゃんと自覚していた気がする。
そんな私にとって、夜の世界は自分とは違う華やかな世界だった。
オリンピック選手や海外で活躍するような選手に囲まれているジャージだらけの毎日より、圧倒的に刺激的な気がしていた。
初出勤の日。
寒く手足がかじかむような冷たい風が吹いている夜だった。
帰省する時の何倍を時間をかけて、丁寧に化粧を施した。
膝より少し短いスカートを履いて、ふくらみの小さい胸の谷間がほのかに見えるトップスに袖を通した。
そして最後に真っ白なコートを羽織り、高いヒールを履く。
着古したジャージもスニーカーを脱ぎ捨てて。
違う私になって開けたドアの先は、暗闇だった。
闇に包まれた真っ白な私が歩くと、街の人が振り向く。
普段は避けてきた周りの視線も気にならなかった。
暗闇が私を包み、守ってくれているような気がした。
あの時初めて、少しの快感と安心感で、胸を張って4年間過ごした街を歩いた気がする。
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今でも、暗い夜を過ごすと、あの日のことを思い出す。
夜になっても、違う自分になれるわけではない。
そんなことは身に染みて分かっている今でも、何故かそんなことを期待して闇の中を歩いてしまう私は、きっともう一生大人にはなれないのかもしれない。