本棚:『ボロボロになった人へ』
以前、同期から借りて読んだ『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』。もう内容はほとんど覚えていませんが、母親とは子どもに対してなんと無欲でありがたいものなのかと思った記憶があります。
本書はその『東京タワー』を発表する前の初めての小説だそう。文庫を読んだのですが、一般公募による解説って珍しいなぁと思いました。
短編集なのですが、一番印象に残ったのが「死刑」。この話の中では、どんな微罪であっても、凶悪犯であっても、犯罪者は一律、死刑となります。例えば、万引きでも死刑です。そして、裁判では死刑の方法について闘うことになります(ちなみにこの死刑の方法がまた酷い…)。この話の世界では、万引きや売春など死刑になるべき人たちが、いけしゃあしゃあと平凡な幸せを送っていた時代を野蛮だと考えています。つまり、私たちが今生きている世界がそうなわけで…。当たり前の価値観って何なんだろうな…と。
同じ本でも、読んだ時の状況によって感じ方が変わると思うのですが、今回、裏表紙にあるように「沁みていく…」感じはあまりなくて。ということは、今、わたしはボロボロになってはいない…ということなのかな?と思ったり。また今度読んだ時には違うかな。それとも、ふとした時に思い出して、後からじわじわ来るのかな。