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マーケティングの歴史における必然としてのサブスクリプションビジネス

予言書を見た。


25年前に2020年のマーケティングと社会の未来を予言した本があった

私の所属するトライバルメディアハウスの社内勉強会「TPA」で、年末年始の課題図書に指定されたうちの1冊「ONE to ONEマーケティング」のことだ。

Amazonのレビューでは「歴史を押さえるにはいいけど今の状況で使えるかは別問題」的なことを書かれていて、読み始める際の期待値はたいしてなかったのだが、1995年に出版されたこの本において25年後の今にいたるマーケティングの変化は見事に見通されている。

ちょっと古めのSFみたいに、未来予想のベースとなる技術が古くさい(現在におけるインターネットの役割は主にFAX・電話・TVに割り当てられている)のはご愛嬌。

大局的に見るならば、この本の著者D.ペパーズとM.ロジャーズはマーケティングのみならず、社会的変化まで含めた世界の流れをこれまでのところ相当の精度で予測していたと言えるだろう。

しかもその予測を「インターネット」という言葉をほとんど使わずに行っているというのが個人的には衝撃的だった。



マーケティング・パラダイムシフト
~製品中心から顧客中心へ~

「ONE to ONEマーケティング」で予言されているのは、マーケティングにおけるLTV(生涯価値)という概念や顧客とのリレーションシップの重要化、ビジネスとしてはAmazonを始めとするeコマースの隆盛、Youtuberの出現、それらの経済面での変化に伴う社会課題としてのプライバシー侵害、世代ごとの共通経験の消失、おまけに言うならこれらの変化に伴う日本の没落、といった具合で多岐にわたる。

マス・マーケティングからセグメンテッド・マーケティングを経てリレーションシップ・マーケティングとその中核となるワン・トゥ・ワン・マーケティングへと、マーケティングのパラダイムが変化していった。
マス~セグメンテッド・マーケティングからリレーションシップ・マーケティングへの変化こそが、製品から顧客へとマーケティングの中心点が移るという、パラダイムシフトを意味している。

これが、本書の中核的な世界観である。

※言わずもがなであるが、上記の変化は需要(顧客)と供給(企業)のパワーバランスの変化によってもたらされたのである。

そして「マーケティング」の領域が事業と経営においてきわめて広範囲である以上、マーケティングの中心点が移ることの影響は事業と経営に係るほぼ全域にわたる。

例えば顧客へのアプローチ、意思決定に用いる指標、組織体制図、提供価値などについての根本的な変更の必要性が繰り返し説かれる。

これらのマーケティング・パラダイムシフトに伴って必要な、企業における価値観の再構築について網羅的に書かれたのが、アドボカシー・マーケティングを提唱する「顧客の信頼を勝ち取る18の法則」だ。


そしてそこで再構築された価値観に基づいた組織と事業の改革を、実践に落とし込むための参考図書となるのが、オムロンフィールドエンジニアリングで企業改革に携わった著者による「顧客はサービスを買っている」である。



すごくすごく大変になったマーケティング

今回の課題本である、これらの3冊の本を通じてマーケティング・パラダイムシフトのビジョンから適用範囲、具体的な実践までのイメージを掴むことができた。
掴むことができたイメージについて率直な感想を書くならば「すごく大変そう……」の一言に尽きる。

それはマーケティングのパラダイムが変化したから、というよりは、ビジネスの主導権が企業から顧客に移ったというパワーバランスの変化が原因なのだろう。

主導権を奪われたら苦労をするのは当たり前だ。

モノが溢れる21世紀にお金を出してもらおうとするならば、モノの品質が良いことは大前提のスタートラインに過ぎない。

これを提供する際のあるいは提供後のサービスにおいて差別化をせねばならず、そのために従業員をトレーニングし、権限を移譲し、またサービスフローを整備し改善し続けるのはもちろんのこと、企業全体としてのメッセージに一貫性を持たせ、企業自体が社会に貢献する姿勢を明確に打ち出さなくてはいけない。

嘘や誤魔化しは必ず露見するし、利用体験が悪ければ二度と買ってもらえないばかりかSNSにネガティブな口コミがばら撒かれる。



ソリューションとしてのサブスクリプション/SaaS

こんな企業にとって受難の時代だからこそ、急速に発達しているのがサブスクリプションビジネスであり、SaaSビジネスなのだと思う。

SaaSは、矛盾がないビジネスモデルだ。
クライアントの満足度が高ければ退会率が低くなる。
退会率が低ければ、その年の売上が来年の売上としても残っていく。
そういう美しいビジネスモデルだ。きちんとやれば必ず良い会社になっていくはずだ。
:【ARR100億円のSaaS企業を作る10項目】より

そう、「ONE to ONEマーケティング」において重要視されたLTV(生涯価値)はまず算出する段階ですでに工夫が必要とされる指標だった。

顧客シェアの拡大を目指すならば、まず、特定の顧客が今後どれだけの取引を行うかを知る必要がある。ところが問題は、その顧客が今後30年はおろか、来月どんな買い物をするかもわからないという点なのである。
:【ONE to ONEマーケティング】より

でも問題ない。そう、サブスクリプションやSaaSならね。

月々支払われる顧客の単価と、退会率が出れば(それは容易に計算可能だ)LTVはあっさり算出される。

そして退会率を下げるためにはクライアントの満足度を上げればいいのだ。

つまり、伸ばすべき指標を伸ばす努力と、抑えるべき指標を抑える努力が、そのまま売上と利益につながっていく。

もちろん、だからと言って大変じゃなくなるわけではない。

今、わたしはもうすぐローンチされる予定のSaaSビジネスの立ち上げに携わっている。

LTVやチャーンレート(退会率)をモニタリングしながら顧客満足度を上げるためにあらゆる努力をすること自体は大きな困難を伴うことだ。

それでも、その努力は紛れもなく顧客への価値提供に必要であることが明確であるがゆえに、提供するわたしたち自身に楽しみを与えてくれる。

大変な時代だ。でも楽しい時代だ。

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