『十二単衣を着た悪魔』の超カッコいい悪女に惚れる

(この記事は、現在WordPressにて「オタクの片付け」ブログを書いている私が、はてなブログ時代(2018年)に書いた記事をちょっと修正したものです。)

こんにちは、みづきです。


今日は、内館牧子著『十二単衣を着た悪魔』について書こうと思います。

2020年11月に、伊藤健太郎さん主演で映画化もした時代小説です。

時代小説というと「えっ難しそう」と感じてしまうかもしれませんが、この本は「食わず嫌いしないで!!!おねがい!!!」と懇願してしまうほど面白いのです。



『十二単衣を着た悪魔』のあらすじ


最近、ラノベ界隈で異世界トリップものが流行ってますよね。


現代日本で生活していた主人公が、何かの拍子に異世界に飛んでいって、場合によっては不思議な力を身に付けたりして、冒険したり恋愛したりまったり過ごしたりするお話しのことです。

飛んだ先に魔法があったりしたらすごくわくわくしますよね!


まあ、強大な力でもオプションとしてない限り、チキンな私はすぐにやられそうですが…。

でも、RPGやハリー・ポッターシリーズが好きだった身としては、ちょっと憧れるシチュエーションです。


『十二単衣を着た悪魔』は、内定のないまま大学を卒業したフリーター・伊藤雷が、『源氏物語』の世界にトリップするお話です。『源氏物語』はフィクションですから、タイムスリップではなくてトリップなんですね。


主人公の伊藤雷は、容姿も成績も二流の男です。


雷は昔から、「選ばれることのない人間」でした。いじめを受けたというのではなく、「存在を忘れられる、輪の外の子」なのです。

その性質からか59社の就職試験に落ち、大企業の副社長である父のコネを使った試験すら通れず、卒業後はフリーターとして働きます。


対して弟の水は、容姿はモデル並み、成績は抜群、水泳では 全国三位、女は切れたことのないという一流の人間です。


兄弟仲は良く、両親は兄弟を平等に育てましたが、雷にはそれも辛く、弟に対してコンプレックスを抱いて育ちました。


そんな彼はある日雷に打たれ、気づくと源氏物語の世界にトリップしていました。

飛んだ先は弘徽殿女御(こきでんのにょうご)のお屋敷。彼女は『源氏物語』中屈指の悪役キャラクターであり、主人公・光源氏の義母でした。

雷は高麗からきた陰陽師・伊藤雷鳴と名を偽り、彼女に仕えることになります。


感想


源氏物語に興味をもって、「なんかとっかかりとして良い本ないかな」と探していたときに見つけた本です。

わかりやすい入門書としてはマンガの「あさきゆめみし」も有名ですけど、できれば一冊のやつがよかったんですよね。

そんなわけで見つけたこの本、これがもう、大当たりでした。


まず、主人公の雷は源氏物語をよく知りません。

彼はトリップする直前に、源氏物語関係のイベントスタッフとして働いてました。

そこでお土産にもらったパンフレットを頼りにこの世界を生き抜くんです。

雷の源氏物語の知識レベルは、「 江戸時代の話だと言われたらそうかと思うほど関心がない」レベルです。


で、これ私も大差なかったんですよね。


いや、さすがに平安時代に紫式部が書いた小説だということは知ってました。

けど、「源氏だから、源氏と平氏で、武家の話なのかね?」とか思ってたほどです。未来予知かよ。

こんなやつが古典の成績はよかったんですよ……笑っちゃいますよね……。


でも、言い訳みたいですけど、源氏物語のあらすじや登場人物をさらっと言える人も少ないのではないかと思うのです。

その知識レベルでも楽しく読めるというのが大事!

そして、現代人の感覚を持ったままトリップした雷だからこそ、キャラクターたちをバッサリ斬ってしまうことができます。(相手は上流貴族なので、あくまで心の中で、ですけど)

平安人の感覚と、現代人の感覚は、とにかく違います。


悪いことや不思議なことは、もののけのせい。

一夫多妻制なので、夫が自分のところにいないこともありがち。でも妻はそれに文句を言うなんてできない。

現代人からすると「いや、それ、自業自得じゃね?」ということも、「こういう運命なのだ」なんて考えます。


源氏物語の主人公である光源氏は、稀代のプレイボーイです。


あなたの好みどストライクの見た目に、どストライクの声を持っていると想像してください。

ちなみに私が想像すると声帯は細谷佳正さんになります。うわかっこいい。

和歌なんて詠まれたらイチコロですね!


なんせ光源氏を見た人は寿命が伸びるくらい、ありがたい美しさをもっているそうですからね。

しかもその歌声は、極楽にいるという鳥・迦陵頻伽(かりょうびんが。非常に美しい声とされる)かと思われるほど美しいそうです。

自分のなかで最高の容姿と最高の声を想像して掛け合わせたのが光源氏だ、くらいに思っておきましょう。


さて、そんな光源氏ですが、さっき書いた通り現代人の感覚を普通に飛び越えていくので、理解できない部分も多々あります。


義理の母に手を出して妊娠させ、

幼女をさらって自分好みになったら結婚し、年上の未亡人に手を出して彼女を嫉妬から生霊化させ、

長らく不仲だった正妻が出産したらその生霊に殺されたりしてます。

盛りだくさんですね。覚えきれんわ


平安文学なんで、雅~風流~て感じが強いんですけど、やっぱりツッコミ不在で納得いかない場面っていうのがね、あります。
光源氏が自主謹慎した先で「神の怒りに触れて」大雨大風に巻き込まれて死ぬ思いをしたときも、「なんの罪も犯してない私がなぜこんなめに」って泣くんです。


いやいやいや、お前兄貴(天皇)の嫁に手を出しただろうが!

不倫現場ばっちり見られてんだろうが!

その上責任とらずに逃げたんだろうが!

つかその前も義母(天皇の嫁)に手を出しただろうが!


これをざっくり斬ってもらうには、光源氏の敵役である弘徽殿女御サイドにいないとだめなんです。他の人たちは光源氏が好きすぎるので。


「こいつは病気だ」とまで斬る雷のツッコミは痛快です。読んでてスカッとします。

しかも、ただボロクソに言うのでなくて、彼の魅力もきちんと理解してその弱さに寄り添う場面もあります。

なので、読む側としてはスッキリしつつ、光源氏を嫌いにはならないのです。

そしてそして!この本の最高のメインキャラクターは弘徽殿女御!!

光源氏の義母でもあるのですが、光源氏の実母を苛め抜いて心労で殺したという悪役です。
光源氏の実母が歩く場所におまるの中身の排泄物をぶちまけて、着物を台無しにしたというエピソードが有名です。

いやはや陰湿でおっかないですよね。よく思いつくなという感じです。
女の嫉妬は怖い、というのを体現したような方ですよ。

……と、思っていた時代が!私にもありました!

この本では、弘徽殿女御はとっても有能な政治家で、とっても子思いな母親で、国を思う国母なんです。

そしてそれは完全なフィクションではなく、『源氏物語』のなかでもそうなんですよね。
『十二単衣を着た悪魔』では、彼女はすっごくカッコイイ悪役です。
自分の哲学をしっかり持っていて、酷薄な有能さと優しさを持ち合わせた人物として描かれています。

しかも彼女の息子こそが、朱雀帝。

何もかもが一流の弟・光源氏に圧倒され、愛する妻を弟に寝盗られるという悲劇の天皇です。ほんとかわいそう。いい人なのに。

弟を愛しながらもコンプレックスを抱いてるところが、雷と共通していますね。

兄弟仲が良いからこその葛藤っていうのが、辛いですね……。

雷は、優しい帝と怖い女御を(パンフレットの知識で)導きながら、自身も結婚・妻の出産など、新しい人生を歩んでいきます。


『源氏物語』は、教科書に出てくる「教材」ではなく、生きた人間たちが綴る物語なのだと教えてくれた一冊です。

「古典?聞いてるだけでむずむずするわ!!」って人も、読んでみたら「……意外と面白いじゃん」って……なる、かも??


気になったらぜひ手に取ってみてください!

今日はここまでで。


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