my select50 vol.18「Men's Style Book」
my select50の第18回目は「男の作法にまつわる本」です。
池波正太郎の「男の作法」
こちらも名著としてよく紹介されている本です。
いわゆる男のダンディズムや嗜みについて池波正太郎が語る短編集
ただ、この本は「男」と書いてはありますが、女性が読んでも面白いです。
書かれたのが1981年
今と全く時代が違うので、家庭のあり方など多少現代と比べておかしい部分はありますが、そこは咀嚼していただければ、だれでも楽しめる内容だと思います。
最初にオススメのポイントに触れてみます。
さて、この男の作法
有り体にいえば、はじめの章で池波正太郎が書いている『男をみがくという問題を考える上で、本書がささやかながら一つのきっかけぐらいになろうかと思います。』というフレーズ、これに尽きると思います。
生きていく上で、別に自分をみがかなくても普通にやっていけるし、知っている人は知っていることが書かれているだけですが、読んでおいて損はない一冊かなと。
内容は、様々な事象(鮨・蕎麦の食い方、おしゃれなど)についての池波流の解釈をまとめた短編集になっています。
その全編を通して、私が率直に感じているのは、「知ったかぶりをしない。謙虚であること。」と、これだけのことを言っている気がします。
これが出来ていれば、多少恥を書いても、大してかっこ悪くはないし、嫌われることはない。
逆に、「通ぶる」とその場で恥をかかないとしても、大人として嫌われる。てな感じでしょうか。
また、この本は「粋」の指南書ではないと思っています。。
私も「粋」でありたいとは常々思っていますが、「粋」っていうのは、本を読んだところで簡単に身に付かないですよね。
なんでもちょっと経験したくらいで「粋ぶる・通ぶる」のは、むしろ野暮の極みとも言えます笑
世の中、上には上がいるってのを忘れちゃいけないと常に考えていないといけない。
この本は、粋の指南書ではなく、粋でありたいと思う人の心の持ちようについての本だと思った方が良いかなと思います。
※哲学者の九鬼周造がまじめに「粋」を考察する「いきの構造」というこちらも名著があります。ここでは、粋(上品)の対立軸に野暮(下品)をかかげたりして、科学的なアプローチなどを試みています。面白いので、どこかでご紹介します。
池波正太郎について。
池波正太郎は歴史小説の大家として有名ですが、その小説を通して「江戸の市井の描写」や、「食に対するこだわり」なども注目されるポイントとなっています。
池波正太郎は、小説家を越えて、その生き様・ライフスタイルにも人気がある。
池波正太郎(1923-1990)は東京の浅草に生まれ、東京で活動した、いわゆる江戸っ子。祖父も父親も職人気質・江戸っ子気質の人物だったらしい。また、小学校卒業後は進学せずに、株式仲買店など切った貼ったの世界に入り、江戸の大人に世界にどっぷり浸かります。
かなりませたガキですね笑
元々、地頭が良く、生きる力が強かったと思うので、相場(今でいう株式取引や先物取引)なども経験し、当時からかなりの現金収入があったと言われています。
これを軍資金に、歌舞伎や映画、料亭、鮨などで市中を遊びあるき、いわゆる「粋」な池波正太郎の素地が形成されたのだと思います。
作家へのデビューのきっかけは、劇作家から。
戯曲の公募に入選したことを皮切りに、劇作家や演出などをつとめ、その後、小説家になっていきます。
小説家としては、みなさんご存じの「鬼平犯科帳」や「剣客商売」、「仕掛人・藤枝梅安」、「真田太平記」などが有名です。
また、あわせて、その豊富な人生経験から様々な短編集やエッセイも執筆しています。この「男の作法」もその一つです。
少し脱線しますが、この「男の作法」、実はmy select50のもう少し後で紹介しようと思っていました。
何故、前倒しにしたかというとちょうど今、池波正太郎原作「仕掛人・藤枝梅安」が映画でやっており、非常に面白いので、このタイミングがいいかなと。
監督は、フジテレビのプロデューサーとして一世を風靡した河毛俊作氏。
自身も池波ファンであり、おしゃれや食通でも有名な方です。
※2023年3月時点で第一部終了。4月から第二部がスタートします。
この新・梅安、2回観に行ってしまった笑
以前、茶の湯が日本文化の総合芸術と言いましたが、映画も「総合芸術」とよく言われます。今回の藤枝梅安はまさに総合的に良かった。脚本、映像、衣装、食、音楽がトータルで素晴らしい。
主演の豊川悦司は、池波作品の梅安役を引き受けるか悩んだそうですが、やっぱり向いてますよ。雰囲気と落ち着いた声が良い。ハマり役ですね。
池波作品はファンも多く、また自身が粋人だった
池波の世界観を出さなければならないので、引き受ける方にも勇気はいると思う。梅安役は野暮じゃいけませんからね。
あと、個人的には彦次郎役の片岡愛之助と、羽沢の嘉兵衛役の柳葉敏郎が良かった。彦次郎は江戸の町人なので、もちろん、ちゃきちゃきの江戸っ子。言葉数も多いので難しい役だと思いますが、歌舞伎俳優ならではの演技が光っていました。
あと、梅安に暗殺を依頼する元締めの嘉兵衛も良い。柳葉さんの一見温和、かつ渋くて落ち着いた様子が、逆に凄みを出していました。江戸の大旦那感も出てる。
あと一つ。池波作品において、 常に『食』は重要な存在。映像化作品の中で他がどんなに良くても、「食」がダメだと非難されるほど、池波正太郎と食の関係は大事です。
こちらは日本を代表する料理人でもある「分とく山」 の総料理長 ・野﨑洋光さんが担当
監督の河毛氏が直接頼んだそうです。映像に出る鰹節をかけただけのお粥や、アサリの汁物、軍鶏鍋など美味しそうでありました。
映画のメイキングを見ると、プロデューサーの方が、新しい時代劇を目指し、今の時代にアップデートしたと言っていました。
「バットマンに新しい解釈を加えたクリストファー・ノーラン監督の「ダークナイト」みたいかな。」と。
おっしゃる通り、ダークナイト以前と以後のバットマンは全く違う。これは言い得て妙ですね。
昔っぽい時代劇のコミカルな部分はなく、過去一番ダークに描いたと言う梅安のリアルでニヒルな感じが秀逸です。大人のエンターテイメントとして成立していました。
私は、第二部ももちろん観に行きます。
今の時代に「男」って言うのも古いし、時代錯誤かもしれませんが、やっぱり「男っぷり」は良い方が良いにきまっている。
この本はあくまで「男をみがくうえでのきっかけ」という通り、本質の話ではありません。
池波正太郎がそうであったように、やっぱり自分が生業としている仕事で成果をだす、もしくは一生懸命頑張ることで、男の苦労・経験を積む。
これが大前提の上で、所作をみがくことが「粋」
に繋がるのでは。これが肝要だと思いますね。
この前提がなかったら粋じゃなくて「軽薄」だと思われてしまうかも。
偉そうなこと言った手前、自戒も含めて改めてもう一度読み返したいと思います。
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※藤沢の旧東海道筋にある「蕎麦 ひら井」。この店は本当に美味い。
メニューが少ないのも好感が持てる。蕎麦は、味も大事だけど、町人街(日本橋や神田、浅草)や街道筋にあるお店ってのもなんか好きですね。わたしの行きつけも大磯の旧東海道筋にあります。
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