【親子ワーケーション5日目】種がめぐり会わせてくれた町
12カ月の中で8月がで1番好きだ。
草木がエネルギーを爆発させるのに合わせて、自分の中の生命力みたいなものが伸びあがって広がっていくように感じる。
大好きなこの時期を、今、上市町で過ごしている。
ワーケーション中に「なぜ上市町を選んだんですか?」とよく聞かれた。案外うまく答えられない。
聞けば、募集を始めてから半年くらい経つが問い合わせはなく、わたしたちが初めての参加者になるそう。
上市町を選んだ理由、、、種と名がつく地域に行ってみたかった、と、ちんぷんかんぷんな答えが浮かぶ。
宿のある種という地区は、上市町の中心地から15分ほどにある山あいの集落だ。山に向かって車を走らせ、しばらく山道を登ったころに、視界が開けて田んぼが広がっている。民家は東と西に分かれて集まって建っていて、雲が少ない日には遠い背景に剱岳が見えた。
宿は見上げるような高い木に囲まれて、裏口の先には森が広がっている。部屋の中にいてもセミの声が四方から降ってきて、真夏に木陰を見つけたような安心感がある。
森からの風が部屋を通り抜けて、日中でも涼しい。窓も障子もふすまもずっと開けっ放しで過ごした。そういえば、カーテンがないが、閉め切る必要がないからだろう。クーラーがある部屋は1部屋で十分だというのにもうなずける。
蚊取り線香が玄関とキッチンに置かれていて、いつもなんとなく気にかけて、煙を切らさないように火を足していた。そのせいか、部屋の中はもちろん、屋外にも線香の匂いが香ってくる。扉の外でやわらかく鼻に抜ける煙を感じると、「ただいま」という気持ちになった。
線香の煙は生活の匂いだ。
福井での生活のことを考えてみる。
日常の中で、なにが自分にとって生活の匂いなのか、あんまりぴんとこない。蚊取り線香をつける習慣がないからって、それが原因ではないと思う。
部屋のこともそう。ドアとカーテンで仕切られていて、一部屋一部屋にクーラーがあるスタイルに疑問を持ったことはなかったが、なくてもいいものも多いのかもしれない。
今年の夏は、大好きな8月を過ごすのにこれ以上ない場所に来られた。上市町を選んだ理由は、直観と言ってしまえば元も子もないが、めぐり会わせてくれた種にとても感謝している。