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【北イタリアひとり旅:第1章】Ep.7/14-d『トリエステ行きの寝台特急』

 乗る予定の寝台特急がまもなくホームに入線するという頃、わたしはというと、ローマテルミニ駅の2階を彷徨っていました。テイクアウトでなにか食べ物を買って、車窓からの景色に夜のイタリアを想い、寝台個室で食べようというのです。

 故障したエスカレーターの脇に、ハンバーガー屋さんを見つけました。お店の雰囲気が、いつかみたハリウッド映画に出てくるそれのようで、映画のワンシーンを意識してシャッターを切ってみたら、撮った写真の色と雰囲気に感嘆してしまって。ハンバーガーを食べる予定はなかったのですが、いつの間にか注文を済ませているわたしがいました。チーズバーガーと、それからコーラと。こんな夜遅くにカロリーがって?それは仕方のないことです。わたしは悪くありません、注文することを決意した要因である素敵な写真を創造したこのカメラにあるでしょう。まったく、悪いやつです。

at Roma Termini stazione in Roma, Italy Juli.2024

 乗る列車の入線するホームが分かったのは、出発のおよそ20分くらい前だったと思います。イタリアでは直前にならないとどのホームに列車が停まるか分からないということは、これまでの旅により心得ていたつもりですが、横長に広いローマテルミニ駅では、さすがに焦ります。改札前の電光掲示板に示されたのは、“4”という数字。10番線付近にいましたから少し焦りましたが、いま思えば、早歩きくらいで行けたかも。

at Roma Termini Stazione in Roma, Italy Juli.2024

 22時ちょうど発のトリエステ中央駅行きの寝台特急がようやく動き出したのは、定刻から30分ほど経ってのことです。列車に乗り込んでからのことをあまりよく覚えていないわたしは、疲れが溜まっていたのでしょう。ちょうどこのなかなか動き出さない列車のように、寝台個室のベッドに寝転がって、ぼうっと過ごしていました。

 ひとつ素敵なことだと思ったのは、陽気な車掌さんとの出会いです。
 「明日の朝食何時が良い?クロワッサンとオレンジジュースがおすすめだよ。あ、パスポート見せてね。そうか、きみ日本からきたのか。どう、イタリア楽しんでる?」
 わたしの返事を待たずとして、次から次へとイタリア語訛りの英語が出てきます。あまり会話をすることはできませんでしたが、彼との会話によってわたしの心があったかくなったのは、いうまでもありません。そうそう、ちょうど列車が動き出したころでした。

in anywhere, Italy Juli.2024

 深夜2時すぎ、どこか。いつの間にか寝てしまっていましたが、ベッドのマットレスの硬さになかなか慣れないせいか、あるいは3分の2くらい閉めていた窓のカーテンから差しこむ蛍光灯の明かりのせいか、目が覚めてしまいました。反射的に日記帳を取り出して、いまこの文章を書いてます。硬いマットレスに、ちょうどよく沈むペン先。蛍光灯の明かりは、うまい具合に日記帳を照らし、個室に備え付けの読書灯を使わずに済みそうです。深夜に日記を書くには、いささか寒色な明かりではありましたが、文句を言うべきではないでしょう。ともかく、起きていない脳を頼りに書いているこの文章をのちに見たら、わたしはどう思うのか、楽しみです。

 列車に乗っているわりには上手な字を書けているなと思ったら、どうやら、列車はしばらくどこかの駅に停まっていたようでした。カーテンを人差し指でずらして駅のホームを覗き見ますが、駅名の標識が見当たらず、どこの駅かは分かりません。

 と思ったら、ゆっくりと列車が動き出しました。ホームを抜けたら、途端に真っ暗。明かりもなくなったし、列車は揺れているし、文字を書くのもここまでにしましょう。

 おやすみなさい。

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