設計(者)プロポーザルをリ・デザインする#014:提案者は匿名か顕名か
前回は審査委員会の匿名・顕名を話題にしましたが、今回は提案者の匿名・顕名を論じましょう。
これも先に結論を述べると、提案者名は絶対に顕名であるべきで、公平性の観点からも匿名にするのは避けるべきでしょう。これは審査委員も複数回務めた経験からも言い切れます。よく提案者名が明かされていると情実が働いてしまうという懸念を耳にします。ですが、本当にそうなるでしょうか。
審査委員経験者として言えば、他の審査員と提案者の関係はおおむね推量がつきます。大学の研究室での接点、職歴上の接点、過去あるいは現在進行中のプロジェクトでの協業関係等、提案者の事務所名や設計者の個人名が明かされていることでわかることは少なくありません。提案者を顕名にすることは実は審査委員間に程よい緊張感も生み、審査の透明性を高めるのです。
顕名にする場合の懸念点としてもう一つあるのが、提案者がいわゆる大物である場合、審査委員の判断がブレることではないでしょうか。この危惧は残念ながら当たっている部分もあります。実際、これまでにそのような場面に私も遭遇してきました。この問題への対処は難しいのですが、そもそも論として、それほどの大物の場合、匿名だろうが顕名だろうが、お顔でどなたかわかります。むしろ、お顔で判別できないのであれば、そこまで気にすることではないのかもしれません。
この圧倒的な知名度が過度に審査に影響する問題を防ぐためには、審査員の構成を多様化・多元化することが必要です。建築設計のプロポーザルであれば、建築設計を中心的価値観にしない審査員がいることがバランスをもたらします。この点については、以下の記事も参考にしてください。
さて、提案者の立場からすると、匿名を求められる場合の最大の課題、というよりは手間があります。提出書類を匿名化することと、プレゼンテーションの際にうっかり社名等を名乗らないようにすることです。この手間は本当に生産性がなく、モノ・コトをつくっていくことに1ミリもプラスではありません。まったく無駄な労力です。ここに気を遣わせるより、より優れた提案をまとめることに全精力を傾けられるようにしませんか。提案を求めるということは、本来そういうものではないでしょうか。
そして、ここで提案しているプロポーザルのリ・デザインでは、プロポーザルを双方のマッチングと規定しています。この先、協働していくパートナーを探すプロセスですから、互いに名乗るのは当たり前ではないでしょうか。情報の対称性は大切にすべき絶対的な価値観ではないでしょうか。