ミナシゴノシゴトの仕事│②失敗談
▶美少女ゲームのお仕事
話が少し変わるけれど、実は20代後半の時にも美少女ゲームのシナリオに関わっていた。
まだ書籍化デビューする直前の26歳くらいの時で、携帯小説で書いていた「奴隷区」という作品を読んだある会社から、スマホの美少女ゲームのシナリオを依頼された。
「何で奴隷区書いてる人間に、美少女ゲームを……?」とは思ったけど楽しそうなので受けた。
ちなみにどちらかというと、デビュー後よりネットで活動していた時のほうが大小いろんな案件の話がよく来ていた。
奴隷区という作品の、当時のちょうどいい感じの人気に加え、少年と老婆という作品においても若干あった。
今思えば、携帯小説を読んでいた世代が、出版社やゲーム会社に勤め始めた時期だったことも深く関わっていたと感じる。
とにかく仕事を受けた僕は、毎月渋谷のほうまで行き、当時もいくつかの企画書を提出するところから始めた。
そして中からある企画が選ばれた。
100名以上の美少女のシナリオを制作し、リリース前にシーズン1のエンディングのシナリオまで書いた。
けれどこの企画からは、結果としてリリース前に離れることになる。
▶ライターと原作者の違い
原因の一つは基本的なホウレンソウの欠如だった。
僕が書いたシナリオを無断で変更することがあったり、執筆が終わると長期間連絡が無かったりもした。
協議の上、自ら企画から離れることにしたのだ。
わかりやすく言うと社会人としてヤバいスメルがプンプンした。
あくまで僕の目線から見た問題点は、この企画と同時期に小説家としてデビューし、小説の畑で育った身からすると、テキストの無断変更は無礼なことで許せなかった。(デビューしてなくても同じだけど)
けれどのちに、業界のいろいろな人と話すと、本質は『役割の認識の違い』であることがわかった。
僕は「原作者として、シナリオは僕の著作物」という認識で関わっているつもりだったけど、先方は僕のことを「ライターとして、シナリオは会社の所有物」という認識だったのだ。
よってシナリオの変更は、当然会社側が自由に行える。
これは著作物の扱いとして、契約書を踏まえたり、それこそ認識をすり合わせないと、いろいろ物議あるんだけど詳細は省く。
ただ一つだけ言いたいのは、基本的に、日本の法律では著作物を生産できるクリエイターが一番手厚く守られていること。
いくとこまでいくと、基本的に著作物を創った著作家が、法的には一番強いパターンが多いと認識している。
だから若いクリエイターの方は安心して大切な作品を制作してほしい。
また大前提として、こういった事象で揉めないよう、互いに敬意と謙虚さを以って、信頼し合えるお仕事をしてほしい。
お金や権利のことなど、一見気まずいことでも、心配なことは真っ先に確認し、すり合わせることも、僕はむしろ一番大事な仕事だと思う。
個人が法人を信頼すのと同様に、法人からの信頼もまた大切であり、法人は基本的に人間の集合で出来ているからだ。
▶編集者からの助言
実はこういった揉め事も僕はいくつか経験している。
また、ネット上でそういった事件に巻き込まれたり、吠えたりしている作家さんもたくさん見てきた。
そういう方をTwitterで見かけたことがある方も少なからずいると思う。
その時点で、そういった作家さんは、渦中にネットで事件を晒して炎上していた。
最近だとVtuberの界隈も似たようなケースに陥っているが、業界こそ違えど原理は同じだと思う。
僕も以前、めちゃくちゃくやしいことがあり、それをしようとしたら、良識ある編集者にバッサリ止められた。
理由は「出版社からの信用を失うからやめたほうがいい」だった。
ものすごく納得した。
→揉め事があり→こっちは個人→法人である先方が明らかに悪い
→だからネットに晒す!
この行為は単純に「めんどくさいやつ」というレッテルとなり、デビュー数年にも満たない作家においては作家生命が簡単に途絶える。
一番避けなければいけいのは信用・信頼を失うという点だ。
実際揉め事を起こした作家は、数か月は話題になるかもしれないが、その後その人の作品を見ることがないケースがほとんどだ。
もちろんいくつか例外も知ってるが、これはかなり実績に左右されるので万人は真似しないほうがいい。
だから僕は基本的に、渦中では表に出さないことにした。
今回のお話もあくまで僕個人の体験・失敗談として、そこからミナシゴを語る必要があるから、数年目にして初めて話した。
決して当時の誰かを批判したいからであったり、己の正義を正当化したい訳ではなく、この場においてはしくじり先生として、若い誰かに何かを学んでほしいためだ。
わかった? いいね? 誤解しないでね? だんだん不安になってきたよ?
つづく