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今年のからむしはどんなもんだか見ておかなくてはと思い立って、山間の祖父母の家へ車を走らせた。
五月の半ば頃である。

到着して早々「だァれ、まンだはえのだ」と言われたが、
そうこぼしながらも先立って歩き始めた祖母の後ろをついて歩いた。
まだ時機が早いのは承知だが、昨年から継続してこうして足を運ぶこと自体、私にとって意味のあることなのだ。

からむしが生えている斜面に着くと、
押し車にもたれながら草取りをする見慣れぬおばあさんがいた。
川向かいの婆さんだという。御年95才。
耳が遠いらしく、祖母が懸命に声を張った末にようやく、私が彼女の「孫」であり「からむしに興味がある」という旨が伝わると、こちらに顔を向けてにこ〜っと笑った。

この方も曾祖母の代の生活を知る、この集落の数少ない証言者だ。
いろいろお話を聞いてみたいな。
そう思いながら、まだ背丈も低く新芽さえ見当たらぬからむし畑を見て歩いた。
中にはからむしに似て非なりといった某かの植物があって、それをじいと見ていたら、そのお婆さん(これからはAさんと呼ぼう)が「それはちげンダ」と教えてくれた。
案外、声は大きい。指をさして「これもちがうのですか?」とジェスチャーで問えば、ニコニコしながら首を横にふってくれた。
何だか嬉しいやりとりである。

一通り、そこら一帯の記録をスマホで撮影しておく。
背後からはAさんと祖母の会話が聞こえてくる。
「あれはナニしてんだべ」と言うのはAさん。
「あれは、カメラ」「カメラ?」「カメラ」「はあ」「しゃ、し、ん」「ははあ、しゃしんか」


からむしの生長具合がおおかた掴めたので、
観察の仕上げにと、私の頭上で咲いていたあけびの花も写真に収めた。
すると、Aさんと祖母とが少し驚いたような声をあげた。
去年まであそこにあけびなどなかったよな、ということらしい。
いや、でもあったんじゃないかとも言う祖母。
「んだか?」「ンでねか」「ふん?」「んだンだ」

あけびが花咲く皐月の季節は、農繁期とちょうど重なる。
それ故にこそ、今となってはからむしが自生するこの辺りまでわざわざ来ることもなかったのだろう。
けれども今またからむしをやりたいと言い出す変わり者がこの集落に現れて。

電線を伝うあけびの花を二人とともに見上げながら、
この瞬間に居合わせた偶然の関係に私の胸はうきうきした。
今年のからむしは、きっとAさんの世話にもなるのだろうし、なりたいな。
色々教えてもらえるに違いない。
そういう予感がぽっと芽生えて嬉しくなる。空がきれいに晴れ渡る。


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