アサギマダラ
祖父母の家に行く途中、フロントガラスを見慣れぬ蝶が横切った。
黒縁に白と空色の斑模様。
とても美しい蝶だった。
車を停めて運転席からすばやく降りたが
もう見当たらない。
赤色の鋼の車体で無慈悲に踏んでしまったろうか。
それともドアを開けるときのかすかな風圧で吹き飛ばしてしまったろうか。
…後者だとよいのだけれど。
さっそく祖父母に話したら、
「あれー、あいづ、なんどがマダラっつ蝶だっづ」
と教えてくれた。
祖父母も朝早くに見かけたらしく、
虫好きのじっつぁま(祖父の弟)に電話をしたら飛んできたらしい。
東京から飛んできたのだ、と言われるままに教わったことを私もそのまま真に受けた。
あんなに可憐な小さなからだをして、ここ岩手の奥まで飛んでくるとは。
感心しすぎてただ、はあ、とだけ
息で答えた。
ふたりが見つけた蝶は、
結局じっつぁまが捕まえて行ったらしい。
標本にするのだ。
何百も揃えば宝石箱のように美しかろと
じっつぁまの蝶コレクションを想像したが
でもあいつ。
私が先ほど見かけた蝶は
これから先はひとり旅か。寂しいね。
ミニトマトのパック詰めの仕事を一息に済ませて
蝶を見かけたあたりまでのしのしと歩いてゆく。
今度もまた見つけられなかったが
その方がいい。そう思った。