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妻のほしいを叶えた「木のお玉」作り

もう1年半も前のこと。
服や家具、そして自分の家まで友達とDIYで作っちゃう暮らしが大好きな妻からある日、相談を受けました。

妻が建てた家

「私が13年使ってきた木のお玉が壊れちゃって、作りなおせないかな?」と手渡されたのは、某インテリア雑貨店で購入したというお玉でした。

先端がかけてかわいそうです…。

2年前に夫婦となり妻や子供たちと一緒に暮らし始めて、いつも気に留めることなく料理で使っていましたが「そんなに長く使っていたのか!」と驚きました。

改めて妻の持っている道具をよく見てみると、妻のお父さんが作ったバターナイフやヨーロッパアンティークの麺棒、アジアン雑貨の木のスプーン、地元の木工作家さんの木べら…など。

自宅の道具たち
整列させると民芸の展示のようになってしまいました。

持っている道具ひとつをとっても、それぞれに思い出やエピソードがあり、生き生きと話してくれる妻からは暮らしに対する哲学を感じます。

そんな妻の愛刀ともいうべきお玉を作り直してほしいという願いを叶えるためにチャレンジが始まりました。

なぜお玉作りがチャレンジだった?

僕は新卒で大阪から長野に引っ越し本業としてデザインと木工に取り組んでいます。頼まれた当時は歴としては1年半。経験が浅く、硬い広葉樹を加工した経験もほとんどありませんでした。お玉を作るのなら樹種は何がいいの?デザインはどうすればいいの?仕上げはどうなっているの?などわかないことだらけだでした…。

松川町図書館の本棚兼ソファ
普段は柔らかいヒノキを使っています。

どんなお玉を作りたい?

まずは妻からのオーダーを聞くことにしました。
長さはこれくらい、容量はこれくらい、こういった曲線が持ちやすいよね、お玉の先端は鍋底に沿うようなカーブで…などなど。

今まで使ってきたお玉の感想も聞きつつ、どう改善しようか考えて、結果的に前より大きいお玉を1つ。小鍋でも使える小さいお玉を1つ作ることになりました。

まずは小さなスプーンから。デザインと制作の日々。

まずは方針として、工房では3Dデータを作ってそのデータを元に機械で木を削り出すデジタルファブリケーションという技術でものづくりをしているため、お玉も同じ手法で制作を行うことにしました。

廃校の小学校の一室が工房になっています。

そのため、制作物はデータをそのまま出力した形に造形されるため、一番大切なのは3Dデータです。

しかし、3Dのデザインデータを作るというのも一筋縄ではいかず、普段の制作物とは異なる技術が必要で独学で勉強する必要がありました。

なので、YouTubeなどを参照しながら毎夜コツコツと練習を始めました。

YouTubeチャンネル GH Parametric Design

ジャムスプーン、バターナイフ、カレースプーン、サービングスプーン、ククサ、お玉と徐々に大きなものを3Dでデザインできるようになりました。

作成した3Dモデル

地元産の広葉樹を調達

今までは家具の端材として出るヒノキを使ってスプーンを制作していたので、ヒノキでお玉を作ろうとしていたのですが、湾曲した造形を実現するためには強度も足りず、あまり実用的ではないことがわかりました。

そのため、まだ経験がなかった硬い広葉樹を使う必要がありました。

普段のものづくりでは地元産ヒノキを使っていますし、広葉樹もせっかくなら地元の木材を使いたいと考え、地域の広葉樹を伐採から素材の販売や商品販売まで行っている「木の駅ひさかた」にて調達することにしました。

地元の地域で採れるサクラ、クリ、ケヤキ、クルミなどを多数ストックされています。

しかし、ここで問題が発生します…。
「木の駅ひさかた」では、丸太は厚さ40㎜に板に製材されていることが多く、お玉に必要な厚みは70㎜なので足りていません。

困って、「木の駅ひさかた」の管理人である平澤さんに相談すると積み重なった材料の奥からクリの厚く製材された材を1本だけ見つけてくださり、そちらを購入させていただくことに。!

広葉樹で加工の練習。

ついでに、40㎜の広葉樹も練習用に購入していたので、まずは自宅で使ってみたかったサービングスプーンやククサを作りました。

ケヤキのサービングスプーンを加工中
硬い木なので、刃物の速度や負荷のかかり方をみます。
ククサを湯煎中
含水率の変化やその後の仕上がり具合をみます。

木の扱いや作り方はこちらの書籍を参考にしました。

スプーンを作る時の心意気がわかるエッセイ本

お玉を作ってみる。

練習も終えて、「材料も手に入り、いざ制作!」と意気込み、まず2本試しに加工したのですが…。あっけなく加工途中に欠けてしまい失敗。
再びデータを修正して3,4号はなんとか加工に成功しました。

分厚い栗の木で作ったお玉の試作 3号(左)、4号(右)

ただ、仕上げてみると良い感じだったのですが、左の3号は柄の部分に節があり呆気なく折れ、右の4号はやっと実用に至りましたが半年くらい経ったある日、もったりしたカレーを煮込んでいるとポキっと折れてしまいました。どうやら柄がそもそも細かったようです…。

折れた栗材のお玉…。

結果的に「木の駅ひさかた」で調達した材料はなくなってしまいました…。

半年後製材の修行を経てリベンジ

急に折れてしまったので悲しかったものの、いくつか反省点もあったのでデータはすぐに修正しました。しかし、地元産の厚手の広葉樹は中々手に入りづらく、気がつくと半年が経っていました。

その間、工房には製材機が導入され、製材の短期修行に行ったり、プライベートでは赤ちゃんが産まれたりと、てんやわんやでした。

自前で製材もできるようになりました。

とはいえ、育休をいただき家事をこなししつつも日中は自由な時間も少しだけあり、自分で製材もできるようになったことで好きな樹種で厚みのある材料を完全に自前で作れるようになり、お玉づくりを再開するタイミングがきました。
材料は引っ越してきたばかりの頃にもらったケヤキの丸太を製材することから始めて、遂に完成しました!

地元の神社で伐採されたケヤキで作ったお玉
先端の曲面は鍋の縁に沿うように。
柄は滑らないように手に馴染む形に。

半年後の2回目の制作では反省を活かしスムーズに作ることができました。10年いや20年はこちらを使っていきたいと思います!

おすそ分けの気持ちで販売

余談ですが、最近僕の住んでいる長野県松川町でマルシェを企画しているというお話を聞き、せっかくなのでいつもの僕たちの暮らしで使っている道具をみんなにも使ってほしいと思い、出店をすることにしました。

これまで作ってきた暮らしの道具たち
1年半ほどかけてちまちま作ってきたキッチン道具をそれぞれ5〜10個ずつ制作して出店しました。
屋台も自作です。

これからもレパートリーを増やしながら、「木でつくる、暮らしの道具」をお裾分けしていければと思います!

ここまで読んでいただきありがとうございました!
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