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パタンと折りたためる、木組みの屋台が誕生するまで。
Zの形をしているので、「ゼット屋台」と呼ばれています。
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日本の伝統的な木組みを採用して、ゴムハンマーひとつで何度でも分解、組立が可能です。
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これまで、さまざまなマルシェで使われてきました。
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今回はこのパタンと折りたためる、木組み屋台のデザインと制作のプロセスについて話します。
デザインが決まるまで
コンセプトは「土に還る」
土に還る素材だけで作りたい。
これはオーダーをしてくれた方からのお題でした。
僕はそのお題に対して以下の方針を共有しました。
素材:無垢のヒノキ材
構造:伝統的な木組みを用いて接着剤や金物は使わない
塗装:蜜蝋ワックス
松川町産のヒノキの特徴
そして、材料はもちろん地元の松川町産のヒノキを使います。松川の町有林は樹齢を重ねていて皆伐時に直径400mm前後の丸太がたくさん採れます。そのため、製材しても300mm幅以上のヒノキの板材が取れるので、その特徴を活かすことを目標にしました。
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木材全般にも言えますが、ヒノキの特徴を言語化してみると、赤から白のグラデーションをなす木目の表情。千差万別な赤黒い節の入り方。そして、使い古していくと黄色味が出てきていづれ古材のような表情になる時間的な変化。これらは立木の時にどこに立っていて、どれくらいの高さで切られ、どう製材されるかによって変わります。
そんなヒノキ自体の特徴を楽しめるようなデザインにしたいと思いました。
形の方向性を決める
これまでの「土に還る」は素材を活かすためのコンセプトでした。次は使用感に直結する形態デザインを進めます。こちらは無策に進めても形を決める根拠や方向性がなかなか決まりません。
悩んでいても仕方がないので、まずは世の中の事例をリサーチしつつ方向性を探っていきました。良い参考事例は探しつつ、モノマネにならないように、そして地域性が入るように。と意識しながら…。
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そして、決まった方向性がこちら。
・面を意識したデザインにする。
松川町で採れるヒノキの良さを活かしたい。
・鼻栓(木組みの一種)を使う。
同時並行で制作していた図書館プロジェクトで採用していて、組立分解に合いそう。
・並んだときに出店者同士の顔が見えるようにする。
15台依頼されていたので、屋台が並んで使われている風景を意識して。
・端正な佇まいにする。
会場が公園など緑の多い場所の可能性が高いので、自然中でこそ美しいカタチに。
などなど、調べながら整理する中で方向性が見えてきました。
伝説のハシゴ
そんな時、ふと、当時東京で開催されていたジャン・プルーヴェの展覧会で見た、常識はずれな形をしたハシゴのことを思い出しました。(展示で実物を見たとき、佇まいがよすぎて家のロフトに上がるハシゴとして本気で欲しくなった。)
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その瞬間、「あのハシゴの構造って屋台に応用できるのでは?」と思い立ち設計を始めるとあら不思議。
これまでの要件(素材のコンセプト、強度、組み立て解体のしやすさ、並べた時の一体感、幕の張り方、木取り)を一気に解決する糸口が見えてきました。
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制作過程
試作
その後、ジャン・プルーヴェの移動式脚立にはない機能である、パーツの接点を軸に回転して折りたためるという仕組みを取り入れて、試作1号が完成に至りました。
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この段階では、木が重すぎたり、生地の選定や収め方が決まっていなかったり、回転軸の設計に改善点があることもわかってきたので修正を加えていきました。
本制作
その後、部分的な試作を経て、15台の量産をはじめました。
思い返すと試作と15台の制作していた期間(2023年5月中旬~8月末)は、かなり忙しくて、知人、友人、家族含め、周りの方々にめちゃくちゃ助けてもらって、綱渡りのようにぎりぎり何とかなっており、過程の写真をほとんど撮れていませんでした…。
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屋台 試作+15台
東小の遊具 本制作
おばあちゃんの椅子 2脚
直径80㎝の丸太シーソー 10個
二ホンミツバチの巣箱 20セット
松川町図書館の本棚ハウス 試作+本制作
ビールサーバーラック 1台
ガチャガチャケース 2個
看板 3枚
お面
自宅の薪棚
説明書
組み立て説明書も作りました。
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現在
制作された屋台は現在、松川町に保管されていて、レンタル等で南信地域の様々なイベントで活用されています。
活用例
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