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【群馬県】山上多重塔 (石造三重塔)
場所:群馬県桐生市新里町山上字相ケ窪
時代:801年 (延暦20年)建立
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平安時代初期の延暦20年(801年)7月17日に僧、道輪によって建てられた供養塔で、桐生市新里町山上地区の南西部、西に前橋市と接する台地上に存在しています。この石塔は、明治時代から昭和の初期にかけて雑木林であった現在地付近を開墾する際に偶然発見したものとされていますが、詳細な発見地点等については不明だそうです。昭和4年に発行された「上毛及上毛人」という郷土史研究論文に掲載されたのが文献としての初出だそうです。その後、調査研究が進み、識者や地元新里村の活動により本塔の歴史的価値が認められ、昭和18年には旧国宝に指定、昭和25年文化財保護法制定により重要文化財に指定されました。
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下左:箱の中の相輪、下中右:刻まれた文字
石塔は輝石安山岩製で、サイズは高さ185cm、下層部の幅は48cmとなっており、相輪、屋蓋、塔身、礎石の四石で構成されています。三層の塔身は一石で造られ礎石から垂直に立ち上がり、中層と上層は八の字状に造型されています。塔身の上部には穿たれた窪みがあり、ここに経文が納められていたと考えられています。
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塔には安楽と平和を願う45の文字が刻まれており、上層から右廻りに中層・下層と読み進めるようになっています。また基壇と基礎、笠石は塔身の朱を強調するように墨が塗られています。当時の仏教文化を知る上で大変貴重な遺産となっています。45文字の内容は、「如法経(一定の法式に従って筆写した経文で一般的には法華経)を納める。僧道輪が延暦20年7月17日に朝廷、天つ神と地祇(国つ神・氏神)、父母、一切の生きとし生けるもの(生類)のために奉る。無間(仏教で説かれる八大地獄のうちの阿鼻地獄)の苦難より救われ、安楽を得て彼岸(悟りの境地)へ至るために。」という意味だそうです。また、この塔は赤城山麓の舌状台地の上に立っており、長い裾野を広げた雄大な赤城山の姿を望むことができるビューポイントにもなっています。塔本体は覆屋に入れられていますが、その脇にはいかにも古い、説明がないので不明ですが塔と同時代のものと思われるような石材が置かれています。
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公共交通機関で訪れる場合、最寄りの鉄道の駅は上毛電鉄の「膳(ぜん)」駅で、北方面へ歩いて1.6km(30分)程度です。途中に「粕川歴史民俗資料館」という施設があったので、ここにもしかして山上多重塔の説明(資料)があるのではないかと思い立ち寄ってみましたが、とても近い位置にありながら山上多重塔は桐生市管轄、資料館は前橋市管轄とのことなので、何もありませんでした。
ところで本物の山上多重塔は、現地で覆屋に保護されていて一応のぞき見ることはできますが、覆屋の扉は開けることができず、窓を覆うアクリル板も汚れていて掃除もされていないようなので、まともに見ることはできませんでした。多重塔のきちんとした写真を撮りたいときは、高崎市にある「群馬県立歴史博物館」にレプリカが展示されているのでそれを撮ったほうが全体像がわかりました。2023年5月に山上多重塔を訪れた後、ここにも行ってきましたが、高崎市とは言いながらJR高崎駅から8kmも離れているため、本数の少ないバスを利用せざるを得ないところが残念に思いました。