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『Venba』遊んだよ

2023年の7月に発売されたインディーゲームだけど今さらやりました。IGF(インディーゲームフェスティバル)で大賞も獲得して去年発売されたインディーゲームの中でもトップレベルに評価されていて品質はお墨付き。実際すごく面白かった。問題は日本語版がないことだ。なので英語で遊びました。内容の理解度は半分くらいでしょう……。

タイトルにもなっている「Venba」というのは女性の名前で、1980年代末期にインドからカナダへ夫と共に移住した彼女がどのような人生を生きたのかというのを、彼女の故郷の料理を作るミニゲームを挟みつつ追体験していく。故郷を恋しく思うVenbaは母から受け継いだレシピブックを元にいろんな料理を作っていくのだけれど先祖伝来レシピブックはぼろぼろで、ところどころ欠けがある。なので全体の何となくの作り方を参考にしつつときどき家族とのやり取りを思い出しながら思い出の味を再現していく。

「おふくろの味」という言葉がある通り先祖伝来の、家庭の味というやつを母親はだいたい持っている、とされている。でもゲームの序盤でVenbaがレシピブックを参考にして作る料理は「これちゃんと作るの初めてだな……」というもので、つまりVenbaは故郷から遠く離れた孤独なカナダの地で、故郷でありえたであろう人生のほんのひとかけらを料理を通じて想像していく。そのため一番手間取るのは一番初めに作る料理になっている。いや私だけかもしれないけど最初の料理5~6回作り直しました。料理は毎日するものなのでVenbaもおそらくすぐに作り慣れていくだろうから、最初の料理以外は誰かと一緒に作るとかいろいろシチュエーションが工夫されている。

つまり、「作って食わせる」という一連のプロセスを我々はコミュニケーション、家族の温かさっていうかまあ、母親の愛情、世代の継承だと思われているけれど、重要なのは「作り方を学んで(教えてもらって)作って、食わせる」というプロセスこそが世代を受け継ぐということなんだよ、みんな大好きお母さんは最初っからおふくろの味を作れるわけじゃねえんだよ、という当たり前の事実がここにはあるわけだ。

料理にまつわる示唆だけではなく、Venbaの人生やレシピブックのある仕掛けによって、移民の人生、あるいは一世と二世とのギャップについてもかなりスマートに描かれるのがこのゲームのすごいところだろう。Venbaも夫も別にカナダにでっけえ夢を見て移住したわけではなく、結婚についてののっぴきならない事情があってやむなく、という雰囲気なので、帰ろうかな〜帰りたいな〜と思いつつも、息子の将来のこと考えるとこっちにいた方がいい気がする…みたいな感じでカナダに留まっている。でも、タミル語より英語の方が得意な息子がどんどんカナダっぽくなってくのはやっぱつらい。インドでは優れた書き手だった夫もカナダにいればそのスキルを活かすことはムズイ。現代ならまた事情は違うかもしれないけど、当時はインターネットもなかったわけだし。なんで私たちはここにいるんだろう、祖国にいられないからここに来たのに、私たちはここでも拒まれている、という水で薄めて生活の端々まで染み込む失望がそこにはある。でも、料理を作っている間は、スパイスの香りに包まれている間は、Venbaは自分のアイデンティティを、五感ではっきりと感じられる。『Venba』で描かれているストーリー自体はかなりシンプルだけど、正直、同じ話を映画や小説などほかの媒体で描いても、これほどの強い印象を残せないはずだ。

余談だが、『Venba』からもわかる通りとにかく家で作る料理っていうのは大量の文脈を背負いがちなので私は料理がめちゃくちゃ嫌いだ。作ってるうちにムカつきが溜まっていって最終的には「食わねえよ……」みたいな気持ちになって完成させたら風呂入って寝る。南インドの料理を作るための調理器具がこのゲームにはいろいろ出てくるんだけど、それらの調理器具を洗ったりする手間とかしまったりする場所とかのことを考えると自分の生活と照らし合わせてめちゃくちゃうんざりしてしまう。そのうんざりはきっと、故郷を意識せずに生きる人間の傲慢なんだろうとも思った。


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