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花かんむりの魔女 物語集

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架空の島、エルデ島北東岸の小さな町で暮らす、 花かんむりの魔女とその周囲の人々のお話。
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#花かんむりの魔女

雨上がりの虹色

雨上がりの虹色

 夏の前、この辺りでは頻繁に、激しい雨を降らせる雨雲が、東の海からやってくる。
 短時間、強い風と明るい雨をもたらして、通り抜けた後はあっという間に晴れ間が戻るのだ。

 雨宿りのお客様を見送ったマリは、開いたドアから庇を見上げた。
 午後の日差しに雨雫がきらめき、洗われた草木は一層冴えた色をしている。妹と作った虹色の窓飾りもよく映えた。

 通りの向こうを眺めると、学校から帰宅する妹が、大通りを

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鉱石少年と不思議なカード3

鉱石少年と不思議なカード3

「またあの店に行ってみようよ、蛍石」
 好奇心に瞳を輝かせながら、水晶が言う。
 僕ももちろんと答えた。

「そうだね、水晶。まずはこのギャザリングブックを仕上げようか」

 明日の午後の予定が決まった僕たち双子は、少女のアルファベットカードをページの中央に貼り付けたのだった。

 翌日の午後、僕は双子の片割れの水晶と一緒に、自転車に乗って町へ出かけた。
 春の日の、記憶を辿ってぐるぐると、大通り

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鉱石少年と不思議なカード 2

鉱石少年と不思議なカード 2

 紅茶店『マーシュマロウ』の窓辺に、秋の光が差し込んでいる。

 飾り棚の硝子の小瓶の中で、鉱石の結晶が、窓の光に煌めいていた。

「ご協力ありがとう、良い写真が撮れたよ」

 マリにカメラを向けていた写真家は、数枚の写真を撮ったあと、カメラを下ろして満足げに笑顔を向ける。

 窓辺に立ち、すまし顔をレンズに向けていたマリは、抱えていた薔薇を置いて、お茶をいれるためにお湯を沸かす。

 仕事を終え

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鉱石少年と不思議なカード

鉱石少年と不思議なカード

 レェス越しに、白い光が窓から差し込む、午の資料室。
 朝から姿が見えず探していた、僕の双子の片割れである水晶は、机に向かって何か作業を行っていた。

「水晶、何をしているの?」

 机の向かいに屈んで、僕は机の上を覗き込む。
 水晶の手許には、一揃いのスタンプに、一冊のアルバムと、様々な紙片。どうやら異国の切符や郵便切手、書物の切り抜きやカードのようだった。

「ああ、蛍石。……これはね、ギャザ

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