論文まとめ497回目 Nature スケーラブルな超高強度MXeneフィルムの開発により、骨再生医療への応用が実現!?など
科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなNatureです。
さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、ついつい狭くなる視野を広げてくれます。
一口コメント
The genomic natural history of the aurochs
オーロックスのゲノムが語る自然史
「今から約65万年前にユーラシアに登場したオーロックスは、現代の牛の先祖にあたる大型の野生牛です。研究チームは38個体の古代ゲノムを分析し、ヨーロッパ、南西アジア、北アジア、南アジアの4つの異なる個体群が存在したことを発見しました。氷河期の気候変動に応じてこれらの個体群は移動や混血を繰り返し、約1万年前に人類によって家畜化されました。家畜化は南西アジアの少数の個体から始まり、その後オスを中心とした野生種との交配が広く行われたことも判明しました。」
Design of customized coronavirus receptors
カスタマイズされたコロナウイルス受容体の設計
「従来、コロナウイルスの研究には、そのウイルスが感染できる細胞が必要でした。しかし、多くの新しく発見されたウイルスでは、どの細胞に感染できるのか分からないため、研究が困難でした。この研究では、人工的な受容体を設計することで、任意の細胞でウイルスを増殖させることを可能にしました。この技術により、未知のコロナウイルスの研究が大きく前進し、将来的なパンデミック対策にも貢献することが期待されます。」
Vertical bedrock shifts reveal summer water storage in Greenland ice sheet
グリーンランド氷床における岩盤の垂直変動が明らかにした夏季の水貯留
「氷床が溶けると海水面が上昇すると考えられがちですが、実は溶けた水がすぐに海に流れ出るわけではありません。この研究では、グリーンランドの岩盤の上下動を精密に測定することで、夏に溶けた水の多くが氷床内部に最大9週間も貯留されることを発見しました。この発見は、氷床融解による海面上昇の予測精度を大きく向上させる可能性があります。」
The rise and transformation of Bronze Age pastoralists in the Caucasus
コーカサス地域における青銅器時代の遊牧民の出現と変遷
「コーカサス山脈周辺は、ヨーロッパとアジアを結ぶ重要な位置にあり、青銅器時代における金属資源の宝庫でした。この研究では、この地域から出土した131人分の古代DNAを分析し、6000年にわたる人々の移動や交流の歴史を明らかにしました。特に、遊牧生活を送る人々がどのように現れ、発展し、そして変容していったのかが分かりました。車輪の発明や乳製品の利用など、新しい技術とともに遊牧文化が広がっていった様子も見えてきました。」
Scalable ultrastrong MXene films with superior osteogenesis
スケーラブルな超高強度MXeneフィルムの優れた骨形成能
「炭化チタンの薄片(MXene)を絹タンパク質で橋かけし、ロール・ツー・ロール方式で大面積のフィルムを作製することに成功しました。このフィルムは非常に高い強度(755 MPa)と靭性を持ち、電磁波シールド性能も優れています。さらに、近赤外線照射下で効率的な骨組織再生を促進する効果も示しました。この研究は、柔軟な電磁波シールド材料や骨組織工学への実用的な応用の道を開きました。」
Tissue spaces are reservoirs of antigenic diversity for Trypanosoma brucei
トリパノソーマ・ブルセイの抗原多様性における組織空間の貯蔵庫としての役割
「アフリカ睡眠病の原因となるトリパノソーマ原虫は、血液中だけでなく体の組織の隙間にも潜んでいます。この研究では、組織内の原虫が血液中よりもはるかに多様な表面タンパク質(VSG)を持っていることを発見しました。組織内では免疫反応が遅いため、原虫はじっくりと新しいVSGを作り出すことができ、これが慢性感染の原因となっていることが分かりました。」
要約
現生牛の祖先である絶滅動物オーロックス(原牛)の全ゲノム解析から、その進化の歴史と家畜化の過程が明らかになった
オーロックス38個体の古代ゲノム解析により、4つの異なる地域個体群(ヨーロッパ、南西アジア、北アジア、南アジア)の存在が確認され、それぞれの個体群の気候変動や人間活動への反応、家畜化の過程が明らかになった。
事前情報
オーロックスは現代の家畜牛の祖先種
ユーラシアと北アフリカの生態系において重要な役割を果たしていた
人類による家畜化以前の遺伝的多様性は不明
行ったこと
38個体のオーロックス古代ゲノムの解析
ミトコンドリアDNAと Y染色体の系統解析
地域個体群間の遺伝的関係の分析
検証方法
全ゲノムシーケンシング
集団遺伝学的解析
年代測定による時系列分析
分かったこと
約65万年前にヨーロッパに進出
4つの地域個体群の存在を確認
最終氷期に個体群の分断と混合が発生
家畜化は南西アジアの少数個体から始まった
オスを介した野生種との交配が広く行われた
研究の面白く独創的なところ
大規模な古代ゲノム解析により、絶滅種の進化史を解明
気候変動と人間活動の両方の影響を明らかにした
家畜化過程における性別バイアスを発見
この研究のアプリケーション
現代の家畜牛の遺伝的多様性の理解
家畜化プロセスの解明
絶滅種の進化史研究への応用
著者と所属
Conor Rossi Trinity College Dublin
Mikkel-Holger S. Sinding - University of Copenhagen
Victoria E. Mullin - Trinity College Dublin
詳しい解説
本研究は、絶滅した野生牛オーロックスの38個体の古代ゲノムを解析し、その進化の歴史と家畜化の過程を明らかにしました。約65万年前にユーラシアに現れたオーロックスは、気候変動に応じて4つの地域個体群に分かれて進化しました。最終氷期には個体群の分断と混合が起こり、その後約1万年前に南西アジアの少数の個体から家畜化が始まりました。家畜化後は、主にオスを介した野生種との交配が広く行われ、現代の家畜牛の遺伝的多様性の基礎となりました。この研究は、絶滅種の進化史と人類による家畜化の詳細な過程を明らかにした画期的な成果です。
コロナウイルスの人工受容体を設計し、未知のウイルスの研究を可能にした画期的な成果
コロナウイルスの研究に必要な人工受容体(CVR)の設計方法を確立し、12種類の代表的なコロナウイルスに対する受容体を作製した。この技術により、これまで研究が困難だった未知のウイルスの研究が可能になった。
事前情報
コロナウイルスは様々な受容体を使用して細胞に感染する
未知の受容体を持つウイルスの研究は感染モデルの欠如により困難
効率的な人工受容体の設計方法が必要とされていた
行ったこと
モジュール式の人工受容体(CVR)設計戦略の開発
様々なウイルス結合ドメインを持つCVRの作製と機能評価
12種類のコロナウイルスに対するCVR発現細胞の作製
検証方法
CVRの発現と機能の解析
ウイルス感染実験による有効性の確認
電子顕微鏡による構造解析
各種阻害剤を用いた機能検証
分かったこと
CVRは天然の受容体と同様にウイルス感染を可能にする
CVRを用いて未知のウイルスの増殖が可能
特定のCVRを用いてコウモリ由来の新規ウイルスを分離できた
研究の面白く独創的なところ
人工受容体の設計により、これまで研究できなかったウイルスの研究を可能にした
モジュール式の設計により、様々なウイルスに対応可能
天然の受容体がなくてもウイルス研究ができる画期的な方法を確立
この研究のアプリケーション
未知のコロナウイルスの研究
新規抗ウイルス薬の開発
パンデミック対策のための基礎研究
ウイルスの進化や感染メカニズムの解明
著者と所属
Peng Liu 武漢大学生命科学学院
Mei-Ling Huang - 武漢大学生命科学学院
David Veesler - ワシントン大学生化学部
詳しい解説
この研究は、コロナウイルス研究における重要な技術的breakthrough を達成しました。従来、未知のコロナウイルスの研究には、そのウイルスが感染できる適切な細胞が必要でした。しかし、この研究で開発された人工受容体(CVR)技術により、任意の細胞でウイルスを増殖させることが可能になりました。
研究チームは、モジュール式の設計アプローチを採用し、様々なウイルス結合ドメインと膜貫通ドメインを組み合わせることで、効率的なCVRの作製に成功しました。この技術を用いて、6つのサブジェナスに属する12種類の代表的なコロナウイルスに対するCVR発現細胞を作製し、その有効性を実証しました。
特に重要な成果として、このCVR技術を用いてコウモリ由来の新規コロナウイルスの分離に成功したことが挙げられます。これは、この技術が実際の新規ウイルス研究に応用可能であることを示す重要な証明となりました。
グリーンランド氷床の融解水が夏季に一時的に貯留され、その量をGNSS観測で初めて定量的に把握した
グリーンランド沿岸部に設置されたGNSS観測点の垂直変動データを解析し、夏季に氷床内部に貯留される融解水の量と期間を定量的に評価した研究。
事前情報
グリーンランド氷床は現在、海面上昇に最も寄与している氷体である
氷床内部での水の貯留・流出メカニズムは十分に解明されていない
氷床表面の質量収支モデルには不確実性が存在する
行ったこと
22カ所のGNSS観測点の垂直変動データを解析
大気・海洋・陸水等の影響を補正して氷床質量変動の信号を抽出
水貯留の時定数を推定する解析モデルを開発
検証方法
GRACE衛星重力データとの比較による結果の検証
モンテカルロシミュレーションによる不確実性の評価
異なる解析手法による結果の比較検証
分かったこと
融解水は平均して約8週間氷床内に貯留される
南東部では4.5週間、他の地域では9週間程度貯留される
高温年には予想以上の融解が起きている可能性がある
研究の面白く独創的なところ
GNSS観測による岩盤変動から氷床内部の水貯留を定量化した初めての研究
氷床内部の水文過程を広域かつ高精度で観測できることを実証
この研究のアプリケーション
氷床モデルの精度向上への貢献
海面上昇予測の不確実性低減
気候変動に対する氷床応答の理解促進
著者と所属
Jiangjun Ran 南方科技大学地球宇宙科学部
Pavel Ditmar - デルフト工科大学地球科学リモートセンシング部
Michiel R. van den Broeke - ユトレヒト大学海洋大気研究所
詳しい解説
本研究は、グリーンランド氷床の融解水が海に流出する過程で一時的に氷床内に貯留されることを、高精度なGNSS観測データから定量的に明らかにしました。特に、貯留期間が地域によって4.5週間から9週間と大きく異なることや、気温が高い年には現行の氷床モデルが予測する以上の融解が起きている可能性を示した点が重要です。この成果は、将来の海面上昇予測の精度向上に大きく貢献すると期待されます。
コーカサス地域における青銅器時代の遊牧民の出現と変遷を、約6000年分のDNAサンプル解析から解明した研究
コーカサス地域の38の考古学遺跡から131人分の古代DNAを分析し、6000年にわたる人口動態と文化変容を調査した研究。中石器時代から青銅器時代まで、この地域における遊牧民の出現、発展、変容の過程を遺伝学的に解明した。
事前情報
コーカサス地域は金属資源が豊富で、青銅器時代の重要な中心地
ヨーロッパとアジアを結ぶ地理的要衝
最古の遊牧社会が生まれた地域の一つ
この地域の人口変動については未解明な点が多かった
行ったこと
38遺跡から131人分の古代DNA分析を実施
Y染色体とミトコンドリアDNAの解析
親族関係の分析
集団間の遺伝的類似性の分析
検証方法
先端的なDNA抽出・解析技術の使用
統計的手法による集団間の関係性分析
放射性炭素年代測定による年代特定
考古学的証拠との照合
分かったこと
中石器時代には北部と南部で異なる遺伝的特徴を持つ集団が存在
紀元前5千年紀に遊牧民の特徴的な遺伝的構成が形成
青銅器時代には遊牧民集団が安定し拡大
紀元前2千年紀に入ると集団構造が大きく変化
研究の面白く独創的なところ
6000年という長期間の人口動態を遺伝学的に解明
遊牧文化の発生と拡散過程を具体的に示した
親族関係の分析から社会構造の変化も明らかにした
技術革新と人口移動の関連性を示した
この研究のアプリケーション
人類の移動史の解明
文化伝播メカニズムの理解
考古学研究への遺伝学的アプローチの確立
古代社会の理解への貢献
著者と所属
Ayshin Ghalichi (Max Planck進化人類学研究所)
Sabine Reinhold (ドイツ考古学研究所)
Wolfgang Haak (Max Planck進化人類学研究所)
詳しい解説
この研究は、コーカサス地域における人類の移動と文化変容の歴史を、遺伝学的な証拠から明らかにした画期的な成果です。特に注目すべきは、遊牧文化の発生と発展過程を具体的に示したことです。
分析により、紀元前5千年紀に遊牧民特有の遺伝的特徴が形成され始めたことが判明しました。これは、車輪の発明や乳製品の利用開始といった技術革新と時期が重なっています。その後、青銅器時代を通じて遊牧民集団は安定し、広大なユーラシアステップ地帯へと拡大していきました。
また、埋葬地での親族関係の分析から、社会構造の変化も明らかになりました。これらの知見は、考古学的証拠と組み合わせることで、より詳細な古代社会の理解につながります。
スケーラブルな超高強度MXeneフィルムの開発により、骨再生医療への応用が実現
MXeneフレークを絹セリシンで架橋し、ロール・ツー・ロール方式のブレードコーティングで連続的に製膜する技術を開発。得られたフィルムは高い機械的特性と骨再生能を示した。
事前情報
MXeneは優れた機械特性と電気伝導性を持つ
生体適合性と骨誘導能も有する
大規模なマクロ材料への組み立ては課題だった
行ったこと
MXeneフレークを絹セリシンで水素結合により架橋
ロール・ツー・ロール方式での連続製膜プロセスを確立
イオン架橋による配向構造の固定化を実現
検証方法
機械的特性の評価(引張強度、靭性)
電磁波シールド性能の測定
生体適合性と骨再生能の in vivo 評価
ナノCTによる構造解析
分かったこと
引張強度755 MPa、靭性17.4 MJ/m3を達成
電磁波シールド性能78,000 dB cm2/gを実現
近赤外線照射下で効率的な骨再生を促進
配向性の高い密度の高いフィルム構造を形成
研究の面白く独創的なところ
絹セリシンとイオン架橋を組み合わせた新規な製膜法
大面積スケーラブル製造と高性能の両立
構造制御による多機能性の実現
この研究のアプリケーション
フレキシブル電磁波シールド材料
骨組織工学用の再生医療材料
生体医療デバイス
航空宇宙材料
著者と所属
Sijie Wan Beihang University
Ying Chen - Peking University
Qunfeng Cheng - Beihang University
詳しい解説
本研究では、MXeneフレークを用いた高性能フィルムの大規模製造技術を開発しました。従来のMXene材料は優れた特性を持つものの、実用化に向けた大面積製造が課題でした。研究チームは、絹タンパク質のセリシンを用いた水素結合による架橋とイオン架橋を組み合わせることで、高配向性と高密度を持つフィルムの連続製造に成功。得られたフィルムは超高強度、高い靭性、優れた電磁波シールド性能を示し、さらに生体適合性と骨再生能も実証されました。この技術は、次世代の多機能性材料への応用が期待されます。
アフリカトリパノソーマ原虫が組織内で多様な抗原型を維持し、免疫から逃れる仕組みを解明
https://doi.org/10.1038/s41586-024-08151-z
トリパノソーマ・ブルセイの血管外組織における抗原変異動態の研究。組織内の原虫が血液中よりも75%以上多くのVSGを発現し、免疫応答が遅いことを発見。
事前情報
トリパノソーマは表面のVSGを変化させて免疫から逃れる
これまでは主に血液中の原虫が研究対象だった
原虫は組織間質にも存在することが知られていた
行ったこと
VSG-seqによる組織内と血液中の原虫のVSG発現解析
単一細胞RNA-seq解析
抗体応答の測定
ツェツェバエ媒介感染実験
検証方法
マウスの各組織からの原虫のRNA抽出とシーケンス
フローサイトメトリーによる解析
免疫組織化学染色
qPCRによる定量
分かったこと
組織内の原虫は血液中より多様なVSGを発現
組織内では免疫応答が遅い
組織が抗原多様性の貯蔵庫として機能
慢性感染の維持に組織が重要
研究の面白く独創的なところ
組織内の原虫集団の詳細な解析は初めて
慢性感染メカニズムの新しい理解
組織の重要性を実験的に証明
この研究のアプリケーション
新しい治療法開発への応用
慢性感染制御への示唆
診断法の改善
著者と所属
Alexander K. Beaver Johns Hopkins School of Medicine
Zhibek Keneskhanova - Ludwig-Maximilians-Universität München
Monica R. Mugnier - Johns Hopkins Bloomberg School of Public Health
詳しい解説
トリパノソーマ・ブルセイは、アフリカ睡眠病の原因となる寄生虫です。この研究では、組織間質に存在する原虫が血液中の原虫よりも多様なVSGを発現していることを発見しました。組織内では免疫応答が遅いため、原虫は新しいVSGを生み出す時間的余裕があり、これが慢性感染の維持に重要であることが明らかになりました。この発見は、トリパノソーマ感染症の新しい治療戦略の開発につながる可能性があります。
最後に
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