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論文まとめ408回目 SCIENCE 米国退役軍人プログラムの大規模遺伝子解析により、多様な集団間で遺伝的構造の類似性が明らかに!?など

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなSCIENCEです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

Diversity and scale: Genetic architecture of 2068 traits in the VA Million Veteran Program
米国退役軍人プログラムにおける2068の形質の遺伝的構造:多様性と規模
「この研究は、63万人以上の退役軍人のDNAを解析し、2000以上の特徴や病気について調べました。その結果、異なる人種や民族の間で、遺伝子と特徴の関係が予想以上に似ていることがわかりました。一方で、特定の集団でのみ見られる遺伝的な特徴も発見されました。例えば、アフリカ系の人に多いケロイド(傷跡が盛り上がる症状)に関連する遺伝子が見つかりました。この研究は、遺伝子研究に多様な人々を含めることの重要性を示し、より正確な個別化医療への道を開きます。」

Live chromosome identifying and tracking reveals size-based spatial pathway of meiotic errors in oocytes
生きた染色体の同定と追跡が明らかにする、卵子における減数分裂エラーの染色体サイズに基づく空間的経路
「卵子の染色体分離エラーは、流産や先天性疾患の主な原因です。この研究では、マウスの卵子を使って染色体の動きをリアルタイムで観察する新しい方法を開発しました。その結果、小さな染色体ほど紡錘体の中心に集まる傾向があることがわかりました。中心部では染色体を引っ張る力が強いため、加齢によって染色体同士のつながりが弱くなると、小さな染色体ほど分離エラーを起こしやすくなります。これは、高齢出産でダウン症などのリスクが高まる理由の一つかもしれません。」

Multiscale photocatalytic proximity labeling reveals cell surface neighbors on and between cells
細胞表面および細胞間の近接タンパク質を多段階的に可視化する光触媒近接標識法
「細胞の表面には様々なタンパク質が存在し、互いに相互作用しながら重要な役割を果たしています。この研究では、1つの光触媒を使って、異なる距離の相互作用を同時に捉えられる新しい手法「MultiMap」を開発しました。これにより、がん細胞の表面にある重要なタンパク質EGFRの周辺環境や、免疫細胞と標的細胞の接触面での相互作用を詳細に観察することに成功しました。この技術は、細胞表面の複雑な相互作用ネットワークの解明や、新しい治療法の開発につながる可能性があります。」

The human mitochondrial mRNA structurome reveals mechanisms of gene expression
ヒトミトコンドリアmRNAの構造解析が遺伝子発現メカニズムを明らかにする
「私たちの体のエネルギー工場であるミトコンドリアには独自のDNAがあり、重要なタンパク質を作り出しています。この研究では、ミトコンドリアのメッセンジャーRNA(mRNA)が折りたたまれて作る複雑な構造を初めて明らかにしました。この構造が、タンパク質の合成速度や正確さを調節する鍵となっていることがわかりました。例えば、タンパク質合成を一時停止させたり、読み枠をずらしたりと、巧妙な制御をしているのです。これはミトコンドリアの機能を理解し、関連する病気の解明につながる大きな一歩となります。」

Binding and sensing diverse small molecules using shape-complementary pseudocycles
形状相補的な疑似環状構造を用いた多様な低分子の結合と検出
「この研究では、繰り返し単位を組み合わせて中央に結合ポケットを持つ「疑似環状」タンパク質を設計しました。ポケットの形を変えることで、様々な低分子に結合できるタンパク質を作れます。例えば、コレステロールやホルモンなどに特異的に結合するタンパク質の設計に成功しました。さらに、これらのタンパク質を利用して、低分子を検出するナノポアセンサーや、化学物質に応答して二量体化するシステムも開発しました。この技術は、多様な低分子を検出・制御するツールの開発につながる可能性があります。」


要約

米国退役軍人プログラムの大規模遺伝子解析により、多様な集団間で遺伝的構造の類似性が明らかに

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adj1182

米国退役軍人プログラム(MVP)の63万5969人の参加者を対象に、2068の形質について大規模なゲノムワイド関連解析(GWAS)を行った研究です。この研究は、アフリカ系、アメリカ混血系、東アジア系、ヨーロッパ系の4つの主要な集団グループについて解析を行い、遺伝的構造の類似点と相違点を明らかにしました。

事前情報

  • GWASは主にヨーロッパ系の集団で行われており、他の集団での知見が不足していた

  • 大規模で多様な集団のデータが必要とされていた

  • MVPは退役軍人を対象とした大規模バイオバンクプロジェクト

行ったこと

  • 63万5969人のMVP参加者のゲノムデータを解析

  • 2068の形質(病気や身体的特徴など)についてGWASを実施

  • 4つの主要な集団グループ(アフリカ系、アメリカ混血系、東アジア系、ヨーロッパ系)で解析

  • 集団間での遺伝的相関や遺伝率を計算

  • 集団を統合したメタ解析を実施

  • ファインマッピングにより因果変異候補を同定

検証方法

  • SAIGE法を用いたGWAS

  • LD score regression (LDSC)による遺伝率推定

  • Popcornによる集団間の遺伝的相関の計算

  • SuSiEによるファインマッピング

  • 遺伝子オントロジー(GO)解析

分かったこと

  • 26,049の有意な遺伝子座-形質の関連を同定(13,672遺伝子座、1270形質)

  • 非ヨーロッパ系集団を含めることで、1608の追加的な遺伝子座を同定

  • 集団間で遺伝的構造に大きな類似性が見られた

  • 一方で、特定の集団に特有の関連も発見(例:アフリカ系でのケロイド関連遺伝子)

  • APOEε4遺伝子型の認知症リスクがアフリカ系でヨーロッパ系より30%低いことを確認

研究の面白く独創的なところ

  • 過去最大規模の多様な集団を対象としたGWAS研究

  • 2000以上の形質を同時に解析し、遺伝的構造の全体像を把握

  • 非ヨーロッパ系集団の重要性を定量的に示した

  • 集団間の類似性と相違点の両方を明らかにした

この研究のアプリケーション

  • より精密な個別化医療の開発

  • 人種・民族による健康格差の理解と対策

  • 多様な集団を含む遺伝学研究の重要性の裏付け

  • 新たな疾患関連遺伝子の発見による治療標的の同定

著者と所属
Anurag Verma - ペンシルベニア大学医学部
Jennifer E. Huffman - ボストンVAヘルスケアシステム
Alex Rodriguez - アルゴンヌ国立研究所

詳しい解説
この研究は、米国退役軍人プログラム(MVP)の63万5969人の参加者を対象に、2068の形質について大規模なゲノムワイド関連解析(GWAS)を行ったものです。参加者はアフリカ系、アメリカ混血系、東アジア系、ヨーロッパ系の4つの主要な集団グループに分類され、各グループで別々にGWASが実施されました。
研究の結果、26,049の有意な遺伝子座-形質の関連が同定され、そのうち9989は以前に報告されていないものでした。非ヨーロッパ系集団を含めることで、1608の追加的な遺伝子座が同定されました。これは多様な集団を研究に含めることの重要性を示しています。
興味深いことに、集団間で遺伝的構造に大きな類似性が見られました。これは、多くの遺伝的メカニズムが人種や民族を超えて共通していることを示唆しています。一方で、特定の集団に特有の関連も発見されました。例えば、アフリカ系の人に多いケロイド(傷跡が盛り上がる症状)に関連する遺伝子が見つかりました。
また、APOEε4遺伝子型の認知症リスクがアフリカ系でヨーロッパ系より30%低いことが確認されました。これは以前の研究結果を裏付けるものであり、認知症リスクの人種差を理解する上で重要な知見です。
この研究は、遺伝学研究における多様性の重要性を強調しています。多様な集団を含めることで、より包括的な遺伝的知見が得られ、それが最終的により精密な個別化医療の開発につながる可能性があります。また、人種や民族による健康格差の遺伝的背景を理解する上でも重要な貢献をしています。
今後、この研究結果を基に、様々な疾患の新たな治療標的の同定や、より正確な遺伝的リスク評価の開発が期待されます。また、この研究アプローチは他の大規模バイオバンクプロジェクトにも応用可能であり、世界中の多様な集団における遺伝的知見のさらなる蓄積に貢献するでしょう。


卵子の染色体分離エラーの新たなメカニズムを発見

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adn5529

この研究は、マウスの卵子における染色体の動きを追跡する新しい手法を用いて、染色体分離エラーのメカニズムを解明した。特に、小さな染色体が紡錘体の内側に位置する傾向があり、これが加齢に伴う分離エラーのリスクを高めることを示した。

事前情報

  • 卵子の染色体分離エラーは、卵子の異数性を引き起こし、流産や先天性疾患の主な原因となる。

  • エラーの頻度は母体年齢とともに増加する。

  • 体細胞と異なり、高齢の卵子では小さな染色体でエラーが起きやすい。

  • 小さな染色体の異数性は、ダウン症候群などの原因となる。

行ったこと

  • マウスの20種類の染色体それぞれを特異的に標識する蛍光プローブを開発した。

  • 生きた卵子で減数分裂全体を通じて染色体を同定・追跡する手法を確立した。

  • 93個の卵子から9種類の染色体の217の完全な3D軌跡を取得した。

検証方法

  • 開発した手法を用いて、染色体のサイズに基づく時空間的動態を定量的に分析した。

  • マウスと人間の卵子で、染色体サイズに基づく空間配置を比較した。

  • 高齢マウスの卵子で染色体の早期分離を観察した。

  • 人工ビーズを用いて小さな染色体の内側への配置を妨げる実験を行った。

分かったこと

  • 小さな染色体ほど紡錘体赤道の内側領域に移動する傾向がある。

  • この傾向により、メタフェーズ板で染色体サイズに基づく空間配置が形成される。

  • 紡錘体の内側領域では、微小管の二極性の力がより強い。

  • 高齢の卵子では、内側領域で染色体の早期分離が優先的に起こる。

  • 小さな染色体の内側配置を妨げると、高齢卵子での早期分離が抑制される。

研究の面白く独創的なところ

  • 生きた卵子で個々の染色体を同定・追跡する新しい手法を開発したこと。

  • 染色体サイズに基づく空間配置が、減数分裂エラーのリスクに影響することを示したこと。

  • 体細胞の核内染色体配置と類似した2D配置が、卵子のM期にも存在することを発見したこと。

この研究のアプリケーション

  • 卵子の質の評価や、体外受精の成功率向上への応用の可能性。

  • 加齢に伴う卵子の異数性リスクを軽減する方法の開発への貢献。

  • 染色体配置のメカニズム解明による、細胞核の構造と機能の理解の深化。

著者と所属

  • Osamu Takenouchi - 理化学研究所生命機能科学研究センター(BDR)染色体分配研究室

  • Yogo Sakakibara - 理化学研究所生命機能科学研究センター(BDR)染色体分配研究室(現KAN研究所)

  • Tomoya S. Kitajima - 理化学研究所生命機能科学研究センター(BDR)染色体分配研究室

詳しい解説
本研究は、卵子における染色体分離エラーのメカニズムを解明するための画期的な手法を開発し、それを用いて重要な発見をもたらしました。
研究チームは、マウスの20種類の染色体それぞれを特異的に標識する蛍光プローブを開発しました。これにより、生きた卵子で減数分裂全体を通じて個々の染色体を同定し、その動きを3次元で追跡することが可能になりました。この手法を用いて、93個の卵子から9種類の染色体の217の完全な3D軌跡を取得するという膨大なデータセットを構築しました。
この詳細な分析により、小さな染色体ほど紡錘体赤道の内側領域に移動する傾向があることが明らかになりました。この傾向は、メタフェーズ板で染色体サイズに基づく特徴的な空間配置を形成します。さらに、この配置はマウスだけでなく、ヒトの卵子でも観察されました。
重要な発見として、紡錘体の内側領域では微小管の二極性の力がより強いことがわかりました。この力は、通常は染色体を適切に分配するために重要ですが、高齢の卵子では問題を引き起こす可能性があります。加齢によって染色体同士のつながり(コヒーシン)が弱くなると、内側領域にある小さな染色体ほど早期に分離してしまうリスクが高まるのです。
研究チームは、人工的なビーズを用いて小さな染色体の内側への配置を妨げる実験も行いました。その結果、高齢卵子での染色体の早期分離が抑制されることが確認されました。これは、染色体の空間配置が実際に分離エラーのリスクに影響を与えていることを示す強力な証拠となります。
この研究の独創的な点は、生きた卵子で個々の染色体を同定・追跡する新しい手法を開発したことです。これにより、これまで困難だった卵子内部の染色体動態をリアルタイムで観察することが可能になりました。また、染色体サイズに基づく空間配置が減数分裂エラーのリスクに影響するという新しい知見を提供しました。
さらに、この研究は体細胞の核内染色体配置と類似した2D配置が、卵子のM期にも存在することを発見しました。これは、細胞分裂期(M期)が核-染色体配置の確立に重要な役割を果たしている可能性を示唆しています。
この研究の成果は、卵子の質の評価や体外受精の成功率向上など、生殖医療への応用が期待されます。また、加齢に伴う卵子の異数性リスクを軽減する新しい方法の開発にもつながる可能性があります。さらに、染色体配置のメカニズム解明は、細胞核の構造と機能の理解を深めることにも貢献するでしょう。


細胞表面タンパク質の相互作用を多段階的に可視化する新手法の開発

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adl5763

この研究では、細胞表面タンパク質の相互作用を多段階的に可視化する新しい手法「MultiMap」が開発されました。これにより、がん細胞表面の重要な治療標的であるEGFRの周辺環境や、免疫細胞と標的細胞の接触面での相互作用を詳細に観察することに成功しました。

事前情報

  • 細胞表面タンパク質の相互作用は複雑で、その全体像を捉えることは困難だった

  • 既存の近接標識法は、一定の距離範囲の相互作用しか捉えられなかった

  • タンパク質間相互作用の理解は、新しい治療法開発に重要

行ったこと

  • 1つの光触媒(Eosin Y)で3種類の光プローブを活性化できる新手法「MultiMap」を開発

  • がん細胞表面のEGFRの周辺環境を多段階的に解析

  • 免疫細胞と標的細胞の接触面(シナプス)での相互作用を解析

  • AlphaFold-Multimerを用いたタンパク質複合体構造予測を統合

検証方法

  • 異なる反応半径を持つ3種類の光プローブを用いた近接標識実験

  • 質量分析による標識タンパク質の同定

  • 免疫アッセイによる相互作用の検証

  • AlphaFold-Multimerによるタンパク質複合体構造予測

  • 細胞間相互作用の可視化実験

分かったこと

  • EGFRの周辺には20以上の相互作用パートナーが存在し、その多くが新規に同定された

  • EGFRの周辺環境には、安定化タンパク質、基質、リン酸化酵素などが含まれていた

  • 免疫細胞と標的細胞の接触面では、特異的なタンパク質集積が観察された

  • AlphaFold-Multimerによる構造予測により、相互作用の詳細なモデルが得られた

研究の面白く独創的なところ

  • 1つの光触媒で3種類のプローブを活性化し、多段階的な相互作用解析を可能にした点

  • 細胞表面と細胞間の相互作用を同じプラットフォームで解析できる点

  • 実験的手法と計算科学的手法を組み合わせ、相互作用の包括的な理解を目指した点

この研究のアプリケーション

  • 細胞表面タンパク質の相互作用ネットワークの包括的な理解

  • がん治療における新しい標的分子の発見

  • 免疫療法の効果予測や改善

  • 創薬プロセスにおける標的タンパク質の周辺環境の詳細な解析

著者と所属

  • Zhi Lin - カリフォルニア大学サンフランシスコ校 製薬化学部

  • Kaitlin Schaefer - カリフォルニア大学サンフランシスコ校 製薬化学部

  • James A. Wells - カリフォルニア大学サンフランシスコ校 製薬化学部、細胞分子薬理学部

詳しい解説
この研究では、細胞表面タンパク質の相互作用を多段階的に可視化する新しい手法「MultiMap」が開発されました。従来の近接標識法では、一定の距離範囲の相互作用しか捉えられませんでしたが、MultiMapは1つの光触媒(Eosin Y)を用いて3種類の異なる光プローブを活性化することで、近距離から遠距離までの相互作用を同時に捉えることができます。
研究チームは、この手法を用いてがん細胞表面の重要な治療標的であるEGFR(上皮成長因子受容体)の周辺環境を詳細に解析しました。その結果、20以上の相互作用パートナーが同定され、その多くが新規のものでした。これらのパートナーには、EGFRを安定化させるタンパク質、シグナル伝達に関わる基質、リン酸化酵素などが含まれており、EGFRを中心とした複雑な相互作用ネットワークの存在が明らかになりました。
さらに、MultiMapを用いて免疫細胞と標的細胞の接触面(免疫シナプス)での相互作用も解析しました。これにより、細胞間の相互作用においても特異的なタンパク質の集積が観察され、免疫応答のメカニズム解明に新たな知見をもたらしました。
研究チームは、実験的手法だけでなく、AlphaFold-Multimerを用いたタンパク質複合体の構造予測も統合しました。これにより、相互作用の詳細な立体構造モデルが得られ、分子レベルでの相互作用メカニズムの理解が深まりました。
MultiMapの開発は、細胞表面タンパク質の相互作用ネットワークの包括的な理解に大きく貢献すると期待されます。この技術は、がん治療における新しい標的分子の発見や、免疫療法の効果予測・改善、さらには創薬プロセスにおける標的タンパク質の周辺環境の詳細な解析など、幅広い応用が見込まれます。
細胞表面タンパク質の相互作用は、生命現象の根幹を成す重要なプロセスです。MultiMapによって得られる詳細な相互作用情報は、生命科学研究や医薬品開発に新たな展開をもたらす可能性があり、今後の研究の進展が期待されます。


ヒトミトコンドリアmRNAの二次構造が遺伝子発現制御に重要な役割を果たすことを解明

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adm9238

ヒトミトコンドリアのメッセンジャーRNA(mt-mRNA)の二次構造を高解像度で解析し、その構造が遺伝子発現制御に重要な役割を果たすことを明らかにした研究です。

事前情報

  • ミトコンドリアは独自のゲノム(mtDNA)を持ち、13種類のタンパク質をコードしている

  • これらのタンパク質は酸化的リン酸化系に必須である

  • mt-mRNAの構造と機能については不明な点が多かった

行ったこと

  • ジメチル硫酸(DMS)を用いたRNA構造プロビング法(mitoDMS-MaPseq)を開発

  • 野生型細胞とLRPPRC欠損細胞のmt-mRNAの構造を解析

  • in vitroで合成したmt-mRNAの構造も比較解析

  • DREEM法を用いてmRNAの構造アンサンブルを同定

検証方法

  • mitoDMS-MaPseqによるmt-mRNA構造の網羅的解析

  • LRPPRCの機能解析

  • 代謝標識実験によるタンパク質合成の解析

  • 生物情報学的解析によるmRNA構造の予測と検証

分かったこと

  • mt-mRNAは複雑な二次構造を形成している

  • LRPPRCはmt-mRNAの折りたたみを維持する役割がある

  • mRNA構造によるタンパク質合成の一時停止機構が存在する

  • ATP8/6二シストロン性転写産物で、リボソームフレームシフトが起こる可能性がある

  • 各mRNAは複数の構造アンサンブルを形成している

研究の面白く独創的なところ

  • ミトコンドリアmRNAの構造を高解像度で初めて明らかにした

  • mRNA構造が遺伝子発現制御に重要な役割を果たすことを示した

  • LRPPRCの新たな機能を解明した

  • リボソームフレームシフトという新しい制御機構の可能性を示唆した

この研究のアプリケーション

  • ミトコンドリア病の病態解明や治療法開発への応用

  • ミトコンドリア機能の制御技術の開発

  • RNA構造を標的とした新しい創薬アプローチの開発

  • 合成生物学的アプローチによるミトコンドリア機能の改変

著者と所属

  • J. Conor Moran: マイアミ大学ミラー医学部

  • Amir Brivanlou: ハーバード医科大学

  • Antoni Barrientos: マイアミ大学ミラー医学部

詳しい解説
本研究は、ヒトミトコンドリアのメッセンジャーRNA(mt-mRNA)の二次構造を高解像度で解析し、その構造が遺伝子発現制御に重要な役割を果たすことを明らかにしました。
研究チームは、ジメチル硫酸(DMS)を用いたRNA構造プロビング法(mitoDMS-MaPseq)を新たに開発し、野生型細胞とLRPPRC(ロイシンリッチペンタトリコペプチドリピート含有タンパク質)欠損細胞のmt-mRNAの構造を解析しました。LRPPRCはmt-mRNAの安定性や翻訳に関与するタンパク質です。
解析の結果、mt-mRNAが複雑な二次構造を形成していることが明らかになりました。さらに、LRPPRCがmt-mRNAの折りたたみを維持する役割があることがわかりました。これは、LRPPRCがRNA分子シャペロンとして機能していることを示唆しています。
また、mRNA構造によるタンパク質合成の一時停止機構の存在も明らかになりました。特に、COX1遺伝子のmRNAでは、複数の膜貫通ドメインを持つタンパク質の合成を適切に行うために、翻訳の一時停止が起こっていることが示唆されました。
さらに興味深いことに、ATP8/6二シストロン性転写産物において、リボソームフレームシフトが起こる可能性が示されました。これは、1つのmRNAから2つの異なるタンパク質を合成するための巧妙な制御機構です。
研究チームは、DREEM (Detection of RNA folding Ensembles using Expectation-Maximization)法を用いて、各mRNAが複数の構造アンサンブルを形成していることも明らかにしました。これは、mRNA構造の動的な性質を反映しています。
この研究は、ミトコンドリアの遺伝子発現制御における新たな層を明らかにしたという点で非常に重要です。これらの知見は、ミトコンドリア病の病態解明や治療法開発、さらには合成生物学的アプローチによるミトコンドリア機能の改変など、様々な応用につながる可能性があります。
今後は、個々のmRNA構造の機能的意義をさらに詳細に解明することや、mRNA構造を標的とした新しい治療法の開発など、さらなる研究の展開が期待されます。


疑似環状構造を用いた多様な低分子結合・検出タンパク質の設計

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adn3780

この研究では、多様な低分子に結合できる新しいタンパク質設計法が開発されました。研究者らは、繰り返し構造を持つ「疑似環状」タンパク質を設計し、中央の結合ポケットの形状を変えることで、様々な低分子に特異的に結合するタンパク質の作製に成功しました。さらに、これらのタンパク質を応用して、低分子検出用のナノポアセンサーや、化学物質に応答して二量体化するシステムも開発しました。

事前情報

  • タンパク質の結合ポケットは通常、進化の過程で形成される

  • 人工的に結合ポケットを設計することは難しい

  • 低分子結合タンパク質の設計は創薬などに重要

行ったこと

  • 深層学習を用いて、中央に結合ポケットを持つ疑似環状タンパク質を設計

  • 4種類の低分子(コレステロール、メトトレキサート、チロキシン、ケノデオキシコール酸)に結合するタンパク質を設計・最適化

  • 設計したタンパク質を用いて、ナノポアセンサーと化学誘導二量体化システムを開発

検証方法

  • 設計したタンパク質の結合親和性を等温滴定カロリメトリーで測定

  • X線結晶構造解析で結合様式を確認

  • ナノポアセンサーの機能を電気生理学的手法で評価

  • 化学誘導二量体化を蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)で確認

分かったこと

  • 疑似環状構造を用いることで、多様な低分子に結合するタンパク質を設計できる

  • 設計したタンパク質は、標的低分子に対して高い親和性と選択性を示す

  • 疑似環状タンパク質は、ナノポアセンサーや化学誘導二量体化システムなど、様々な応用が可能

研究の面白く独創的なところ

  • 繰り返し構造を利用することで、結合ポケットの形状を自由に設計できる点

  • 1つの設計原理で多様な低分子に対応できる汎用性の高さ

  • 設計したタンパク質を様々な機能性システムへ応用できる点

この研究のアプリケーション

  • 創薬における標的タンパク質や薬物スクリーニングツールの開発

  • 環境汚染物質や生体分子の高感度検出システムの構築

  • 細胞内シグナル伝達を制御する化学遺伝学ツールの開発

  • バイオセンサーや診断キットへの応用

著者と所属

  • Linna An - ワシントン大学生化学科、タンパク質設計研究所

  • Meerit Said - ワシントン大学生化学科、タンパク質設計研究所

  • Long Tran - ワシントン大学タンパク質設計研究所、化学科、化学工学科

詳しい解説
本研究は、タンパク質工学の新しいアプローチを提示しています。従来、特定の低分子に結合するタンパク質を設計することは困難でした。しかし、研究チームは深層学習を用いて、中央に結合ポケットを持つ「疑似環状」構造のタンパク質を設計することに成功しました。
この疑似環状構造の特徴は、繰り返し単位の数や配置を変えることで、結合ポケットの形状を自由に調整できる点です。これにより、コレステロールやホルモンなど、構造の異なる様々な低分子に対して、高い親和性と選択性を持つタンパク質を設計することが可能になりました。
さらに研究チームは、設計したタンパク質の応用例として、ナノポアセンサーと化学誘導二量体化システムを開発しました。ナノポアセンサーでは、タンパク質を人工膜に組み込むことで、低分子の存在を電気的に検出できます。化学誘導二量体化システムでは、低分子の存在下でタンパク質が二量体を形成し、これを利用して細胞内のシグナル伝達を制御できる可能性があります。
この研究成果は、創薬やバイオセンサー、診断技術など、幅広い分野への応用が期待されます。例えば、疾患関連タンパク質に結合する薬物の探索や、環境汚染物質の高感度検出、細胞機能を制御する化学遺伝学ツールの開発などに活用できる可能性があります。
今後の課題としては、さらに多様な低分子に対応できるよう設計法を改良すること、in vivoでの安定性や機能の検証、実用化に向けた最適化などが挙げられます。この革新的なタンパク質設計技術が、生命科学や医療の発展にどのように貢献していくか、今後の展開が注目されます。


最後に
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