論文まとめ571回目 Nature BRCA2遺伝子の変異が乳がんリスクに与える影響を網羅的に解明した画期的研究!?など
科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなNatureです。
さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、ついつい狭くなる視野を広げてくれます。
一口コメント
Site-saturation mutagenesis of 500 human protein domains
500個のヒトタンパク質ドメインの網羅的変異導入解析
「私たちの体の設計図であるDNAの変化(変異)は、時としてタンパク質の形を崩してしまい、病気の原因となります。この研究では、500以上のタンパク質について、可能な限りの変異を人工的に作り出し、それぞれの変異がタンパク質の安定性にどう影響するかを調べました。その結果、病気の原因となる変異の約60%が、タンパク質の形を不安定にすることが分かりました。さらに、この効果は遺伝性疾患の種類によって異なり、特に劣性遺伝病で重要であることが判明しました。」
Functional evaluation and clinical classification of BRCA2 variants
BRCA2変異の機能評価と臨床分類
「がん抑制遺伝子BRCA2の変異は乳がんや卵巣がんのリスクを高めることが知られています。しかし、たくさんの遺伝子変異の中で、どの変異が本当に危険なのかわからないものが多くありました。この研究では、BRCA2遺伝子の重要な部分について、起こり得るすべての一文字変異(約7000個)の影響を網羅的に調べました。その結果、約16%の変異が有害で、約82%が無害であることを明らかにし、乳がん・卵巣がんのリスク評価に役立つ重要な情報を提供しました。」
Saturation genome editing-based clinical classification of BRCA2 variants
BRCA2遺伝子変異の網羅的なゲノム編集による臨床的分類
「私たちの遺伝子の中でも特に重要なBRCA2という遺伝子の変異は、乳がんや卵巣がんのリスクと深く関連しています。しかし、これまで見つかった多くの変異が「意味のある変異なのかどうか分からない」という状態でした。この研究では、最新のゲノム編集技術を駆使して、可能性のある遺伝子変異を網羅的に作り出し、それぞれの変異が実際にがんリスクを高めるかどうかを判定することに成功しました。」
A vision–language foundation model for precision oncology
がんの精密医療のための視覚-言語基盤モデル
「がんの診断では、顕微鏡で見た組織の画像(病理画像)と医師が書いた診療記録の両方が重要です。この研究では、50万人以上の患者さんの病理画像とテキストデータを使って、両方を理解できる人工知能「MUSK」を開発しました。MUSKは画像を見て特徴を説明したり、テキストから関連する画像を探したりできます。さらに、がんの予後や治療効果も高い精度で予測できることが分かりました。まるで経験豊富な病理医のように、画像とテキストを総合的に理解できる画期的なAIシステムです。」
Proximity ferroelectricity in wurtzite heterostructures
ウルツ鉱型ヘテロ構造における近接強誘電性
「通常、強誘電体に電場をかけると分極が反転しますが、非強誘電体は反転しません。しかし、強誘電体と非強誘電体を積層すると、界面での相互作用により非強誘電体も分極反転することが発見されました。これは「近接強誘電性」と呼ばれる新しい現象です。この発見により、より少ない不純物添加で分極反転が可能になり、新しい電子デバイスの開発につながる可能性があります。」
The sequence–structure–function relationship of intrinsic ERα disorder
エストロゲン受容体αの配列-構造-機能の関係性における本質的な無秩序性の解明
「私たちの体の中には、エストロゲンというホルモンを感知する「エストロゲン受容体」というタンパク質があります。この受容体は乳がんの発生と深く関係しており、現在の治療薬のターゲットになっています。しかし、受容体のある部分がリン酸化という化学変化を受けると、治療薬が効きにくくなってしまいます。この研究では、そのリン酸化がどのように受容体の形を変えて機能を変化させるのかを、最新の分析技術を使って詳しく解明しました。」
Crypt density and recruited enhancers underlie intestinal tumour initiation
クリプト密度と動員されたエンハンサーが腸管腫瘍の開始を制御する
「大腸がんの初期段階で重要なAPC遺伝子の変異は、単独では必ずしも腫瘍を形成しません。変異を持つ腸管クリプト(腸の壁にある管状の構造)が互いに近接している必要があります。さらに、腫瘍化する際には数千個の新しい遺伝子制御領域が活性化され、これが腫瘍特有の遺伝子発現パターンを生み出すことが分かりました。」
要約
500個のタンパク質ドメインの網羅的な変異解析により、病気の原因となる変異の60%が安定性を低下させることを解明
500以上のヒトタンパク質ドメインについて網羅的な変異解析を行い、50万以上の変異がタンパク質の安定性に与える影響を定量的に評価した。この大規模なデータセットにより、病原性変異の60%がタンパク質の安定性を低下させることが明らかになった。また、安定性の寄与は遺伝性疾患の種類によって異なり、特に劣性遺伝病で重要であることが示された。
事前情報
タンパク質のアミノ酸配列を変える変異は、ヒトの遺伝病の3分の1の原因となっている
現在の人類集団には数千万の変異が存在するが、その大部分の機能的影響は不明である
タンパク質ドメインは独立して折りたたまれる構造単位であり、多くのタンパク質に共通して存在する
行ったこと
DNA合成とタンパク質安定性を評価する細胞選択実験を組み合わせた
522個のタンパク質ドメインにおいて、56万以上の変異の影響を定量的に測定した
タンパク質の安定性と病原性の関係を包括的に分析した
ドメインファミリー全体のエネルギーモデルを構築した
検証方法
タンパク質の変異ライブラリーを作製し、細胞内で発現させた
タンパク質の安定性を定量的に評価できる細胞選択システムを使用
深層学習モデルと組み合わせて機能部位の同定を行った
エネルギーモデルを用いてドメインファミリー全体の安定性予測を実施
分かったこと
病原性変異の約60%がタンパク質の安定性を低下させる
安定性の寄与は遺伝性疾患の種類によって大きく異なる
劣性遺伝病では安定性の低下が特に重要な要因となっている
変異の影響は構造的に類似したドメイン間で高度に保存されている
研究の面白く独創的なところ
過去最大規模のヒトタンパク質変異解析を実現
病気の原因となる変異とタンパク質安定性の関係を包括的に解明
ドメインファミリー全体に適用可能なエネルギーモデルの開発に成功
タンパク質の進化と病気の関係について新しい知見を提供
この研究のアプリケーション
遺伝性疾患の診断や治療法開発への応用
タンパク質の安定性予測の精度向上
新しい変異の病原性予測への活用
タンパク質工学への応用
著者と所属
Antoni Beltran Centre for Genomic Regulation (CRG), Barcelona, Spain
Xiang'er Jiang - BGI Research, China
Ben Lehner - Centre for Genomic Regulation (CRG) and ICREA, Barcelona, Spain
詳しい解説
本研究は、ヒトの遺伝性疾患の主要な原因であるタンパク質変異の影響を、かつてない規模で系統的に解析しました。522個のタンパク質ドメインについて、56万以上の変異体を作製し、それぞれの安定性への影響を定量的に評価しました。その結果、病気の原因となる変異の約60%がタンパク質の安定性を低下させることが明らかになりました。この影響は遺伝性疾患の種類によって異なり、特に劣性遺伝病では安定性の低下が重要な要因となっていることが判明しました。また、変異の影響は構造的に類似したドメイン間で高度に保存されていることも分かりました。これらの知見は、遺伝性疾患の診断や治療法開発に重要な示唆を与えるとともに、タンパク質の進化と病気の関係についての理解を深めることに貢献します。
BRCA2遺伝子のDNA結合ドメインの全一塩基多型の機能解析により、乳がん・卵巣がんリスクの臨床的意義を解明した
BRCA2遺伝子のDNA結合ドメインにおける約7000個の一塩基多型(SNV)について、ゲノム編集技術を用いて網羅的な機能解析を行い、その病原性を評価した。結果として、16.6%が病原性、81.6%が良性と分類され、これらの変異と乳がん・卵巣がんリスクとの関連を明らかにした。
事前情報
BRCA2遺伝子の病的変異は、乳がん、卵巣がん、膵がん、前立腺がんなどのリスクを上昇させる
しかし多くの遺伝子変異の臨床的意義は不明(VUS)であった
DNA結合ドメイン(DBD)は病的ミスセンス変異が集中する重要な領域である
行ったこと
BRCA2遺伝子のDBDをコードするエクソン15-26における全SNV(6959個)の機能解析
CRISPR-Cas9を用いたゲノム編集により、各変異を導入
細胞生存への影響を指標に変異の機能を評価
変異の病原性を統計学的に分類
検証方法
ハプロイド細胞株HAP1を用いたスクリーニング
各変異について3回の独立した実験を実施
既知の病的変異・良性変異との比較による妥当性検証
ベイズモデルによる統計解析
分かったこと
全SNVの16.6%が病原性、81.6%が良性、1.8%が判定不能
病原性変異を持つ患者は乳がん・卵巣がんのリスクが4-8倍に上昇
病原性変異は特定のタンパク質ドメインに集中
進化的に保存された残基に病原性変異が多い
研究の面白く独創的なところ
世界で初めてBRCA2のDBD全領域の変異を網羅的に解析
約7000個もの変異の機能を一度に評価可能な実験系を確立
統計学的手法により各変異の病原性を定量的に評価
臨床的意義不明な変異の82%を分類することに成功
この研究のアプリケーション
がん予防のための遺伝学的検査の精度向上
個別化医療の推進(PARP阻害剤の適応判定など)
家族性乳がん・卵巣がんのスクリーニング改善
遺伝カウンセリングへの活用
著者と所属
Huaizhi Huang メイヨークリニック検査医学病理学部
Chunling Hu - メイヨークリニック検査医学病理学部
Fergus J. Couch - メイヨークリニック検査医学病理学部
詳しい解説
本研究は、遺伝性乳がん・卵巣がんの原因遺伝子BRCA2の変異の臨床的意義を明らかにする画期的な成果を上げました。BRCA2遺伝子のDNA結合ドメインにおける約7000個の一塩基多型について、CRISPR-Cas9によるゲノム編集技術を駆使して網羅的な機能解析を実施しました。その結果、16.6%が病原性、81.6%が良性と分類され、これまで臨床的意義が不明だった多くの変異の影響を解明することに成功しました。さらに、病原性変異を持つ患者では乳がんリスクが4.3倍、卵巣がんリスクが7.8倍に上昇することを示し、がんの予防や治療方針の決定に重要な知見を提供しました。この成果は、遺伝学的検査の精度向上や個別化医療の推進に大きく貢献することが期待されます。
BRCA2遺伝子の変異が乳がんリスクに与える影響を網羅的に解明した画期的研究
BRCA2遺伝子のDNA結合ドメインにおける6,551個の一塩基変異について、CRISPR-Cas9を用いた飽和ゲノム編集により機能評価を行い、臨床的意義を分類した研究。
事前情報
BRCA2遺伝子の変異は乳がん・卵巣がんのリスク因子として知られている
多くの変異が臨床的意義不明(VUS)として分類されている
変異の機能的影響を評価する効率的な手法が必要とされていた
行ったこと
マウス胚性幹細胞を用いたCRISPR-Cas9による網羅的変異導入
DNA結合ドメインの6,551個の一塩基変異を作製
細胞生存率と薬剤応答性による機能評価
検証方法
作製した変異体の細胞生存率を測定
シスプラチンやオラパリブへの応答性を評価
既知の臨床データとの整合性を確認
分かったこと
6,551個の変異のうち3,384個が良性、776個が病原性と分類
ClinVarに登録された1,282個のVUSのうち77.2%が良性、20.4%が病原性と判定
変異の機能スコアと臨床データの高い相関を確認
研究の面白く独創的なところ
大規模な変異解析を効率的に実施
臨床的意義不明だった多くの変異の分類に成功
複数の機能評価手法を組み合わせた包括的な解析
この研究のアプリケーション
遺伝子検査の精度向上
個別化医療への貢献
がんリスク評価の改善
著者と所属
Sounak Sahu Mouse Cancer Genetics Program, National Cancer Institute
Melissa Galloux - Independent bioinformatician
Shyam K. Sharan - Mouse Cancer Genetics Program, National Cancer Institute
詳しい解説
本研究は、BRCA2遺伝子のDNA結合ドメインにおける遺伝子変異の包括的な機能評価を実施しました。CRISPR-Cas9を用いた飽和ゲノム編集技術により、6,551個の一塩基変異を作製し、それぞれの変異が細胞の生存や薬剤応答性に与える影響を詳細に解析しました。その結果、これまで臨床的意義が不明とされていた多くの変異について、良性か病原性かの分類が可能となりました。この成果は、乳がん・卵巣がんのリスク評価や個別化医療の発展に大きく貢献することが期待されます。
病理画像と臨床テキストを統合的に理解し、がん診断・予後予測を高精度で行うAIモデルの開発
病理画像と臨床テキストを同時に理解・処理できる基盤モデル「MUSK」を開発。がんの診断、予後予測、治療効果予測などで既存手法を上回る性能を達成。
事前情報
がんの診断・治療には病理画像と臨床テキストの両方の情報が重要
既存のAIモデルは画像かテキストのどちらか一方のみを扱うものが多い
教師なし学習による大規模な事前学習が効果的だと知られている
行ったこと
5万人以上の患者の病理画像とテキストデータで事前学習を実施
画像とテキストの相互理解を可能にする新しいアーキテクチャを設計
23種類のベンチマークタスクで性能を評価
検証方法
画像分類、画像検索、質問応答など多様なタスクで評価
メラノーマの再発予測や免疫療法の効果予測で実用性を検証
既存の最先端モデルと性能を比較
分かったこと
画像とテキストの相互理解において高い性能を示した
がんの予後予測で既存手法より15%以上精度が向上
免疫療法の効果予測でも高い予測能力を実証
研究の面白く独創的なところ
病理画像とテキストを同時に理解できる初めての大規模モデル
教師なし学習と教師あり学習を効果的に組み合わせた学習方法
実際の臨床現場で活用できる高い実用性
この研究のアプリケーション
がん診断の支援システムとして臨床現場で活用
治療効果の予測による最適な治療法の選択
新しい治療法や診断基準の開発研究への応用
著者と所属
Jinxi Xiang スタンフォード大学医学部放射線腫瘍学科
Xiyue Wang - スタンフォード大学医学部放射線腫瘍学科
Ruijiang Li - スタンフォード大学医学部放射線腫瘍学科
詳しい解説
本研究は、がんの精密医療を実現するための革新的なAIモデル「MUSK」の開発に成功しました。MUSKの最大の特徴は、病理画像と臨床テキストの両方を深く理解し、それらを統合的に処理できる点です。5万人以上の患者データを用いた大規模な事前学習により、画像の特徴を言葉で説明したり、テキストから関連する画像を検索したりすることが可能になりました。
特に注目すべき点は、実際の臨床応用における高い性能です。メラノーマの再発予測では既存手法より15%以上精度が向上し、免疫療法の効果予測でも優れた予測能力を示しました。これにより、個々の患者に最適な治療法を選択する際の重要な判断材料を提供することが可能になります。
このモデルは、経験豊富な医師の診断プロセスを模倣するように設計されており、画像とテキストの両方を考慮して総合的な判断を下すことができます。これは、より正確で効率的ながん診療の実現に向けた重要な一歩となることが期待されます。
ウルツ鉱構造を持つ強誘電体/非強誘電体の積層により、非強誘電層も分極反転する新現象を発見
ウルツ鉱構造を持つ強誘電体と非強誘電体の積層構造において、界面での相互作用により非強誘電層も分極反転する「近接強誘電性」という新しい現象を発見しました。この現象はAlN/AlScN、AlN/AlBN、ZnO/ZnMgOなどの様々な材料組み合わせで確認されました。
事前情報
ウルツ鉱型結晶構造を持つ材料は自発分極を持つが、通常は電場による分極反転は困難
不純物添加により強誘電性を付与できるが、結晶性の低下や電気特性の劣化が課題
界面での分極相互作用による新しい物性発現の可能性が注目されていた
行ったこと
AlN/AlScN、AlN/AlBN、ZnO/ZnMgOなどの積層構造を作製
分極反転特性の電気測定
原子レベルでの構造・組成分析
第一原理計算による物理モデルの構築
検証方法
分極-電場ヒステリシス測定
圧電応答顕微鏡観察
透過型電子顕微鏡による原子分解能観察
第二高調波発生測定
化学エッチングによる分極方向の評価
分かったこと
強誘電層と接する非強誘電層も完全な分極反転が可能
界面での弾性・電気的相互作用が反転を促進
非強誘電層の反転には強誘電層からの核生成が重要
材料の組み合わせによらず普遍的な現象
研究の面白く独創的なところ
従来不可能とされた非強誘電体の分極反転を実現
界面相互作用による新しい物性制御の可能性を示唆
様々な材料系での普遍性を実証
理論と実験の両面から現象を解明
この研究のアプリケーション
高性能圧電デバイスの開発
新しい不揮発性メモリの創出
低損失電力変換デバイスへの応用
光学素子への展開
著者と所属
Chloe H. Skidmore ペンシルベニア州立大学 材料科学工学科
R. Jackson Spurling - ペンシルベニア州立大学 材料科学工学科
Jon-Paul Maria - ペンシルベニア州立大学 材料科学工学科
詳しい解説
この研究では、ウルツ鉱構造を持つ材料の積層構造において、強誘電層と非強誘電層の界面相互作用により、非強誘電層も分極反転する新しい現象を発見しました。従来、AlNやZnOなどの非強誘電体は、不純物添加なしでは分極反転が不可能とされていましたが、強誘電体と積層することで反転が可能になります。この現象は、界面での弾性・電気的な相互作用により、強誘電層から非強誘電層へ分極反転が伝播することで起こります。様々な材料組み合わせでこの現象が確認され、新しい電子デバイス開発への応用が期待されます。
エストロゲン受容体のリン酸化による構造変化が乳がん治療耐性の鍵となることを解明
エストロゲン受容体α(ERα)のN末端領域におけるSer118のリン酸化が、どのように受容体の構造と機能を制御しているかを解明した研究。この領域が本質的に無秩序な状態であるにもかかわらず、リン酸化によって特異的な構造変化を起こし、それが転写活性化能に影響を与えることを明らかにした。
事前情報
エストロゲン受容体は乳がんの主要な原因タンパク質であり、その活性化メカニズムの理解は治療法開発に重要
N末端領域のSer118のリン酸化は薬剤耐性と関連している
この領域は本質的に無秩序な構造を持つため、その機能制御機構は不明だった
行ったこと
最新のX線小角散乱(SAXS)と核磁気共鳴(NMR)分光法を組み合わせた構造解析
リン酸化による構造変化の詳細な解析
変異体を用いた機能解析実験
細胞内での転写活性化能の測定
検証方法
SAXSを用いたタンパク質全体の形状変化の解析
NMRによる原子レベルでの構造変化の観察
部位特異的変異導入による構造-機能相関の検証
レポーター遺伝子を用いた転写活性化能の測定
分かったこと
Ser118のリン酸化により、N末端領域の特定の疎水性クラスター間の相互作用が変化する
この構造変化は単なる静電的効果ではなく、疎水性相互作用の変化が重要
構造変化は転写コアクチベーターとの結合に影響を与える
疎水性アミノ酸の変異でリン酸化の効果を模倣できる
研究の面白く独創的なところ
従来は構造解析が困難だった無秩序領域の動的な構造変化を捉えることに成功
リン酸化による構造変化が従来考えられていた静電的効果ではなく、疎水性相互作用の変化によることを発見
この知見は他の核内受容体にも応用できる可能性がある
この研究のアプリケーション
乳がんの薬剤耐性メカニズムの理解
新しい治療薬開発のターゲット同定
他の核内受容体の機能制御機構の理解
タンパク質の無秩序領域の機能制御に関する一般的な知見
著者と所属
Zhanwen Du Case Western Reserve University School of Medicine
Han Wang - Case Western Reserve University School of Medicine
Sichun Yang - Case Western Reserve University School of Medicine
詳しい解説
本研究は、乳がんの主要な原因タンパク質であるエストロゲン受容体α(ERα)の活性化メカニズムを、構造生物学的アプローチにより解明したものです。特に、N末端領域のSer118のリン酸化が、どのように受容体の構造と機能を変化させるのかを明らかにしました。
この領域は本質的に無秩序な構造を持つため、従来の構造解析手法では詳細な解析が困難でした。研究チームは、最新のX線小角散乱(SAXS)と核磁気共鳴(NMR)分光法を組み合わせることで、リン酸化による構造変化を原子レベルで観察することに成功しました。
その結果、Ser118のリン酸化が、N末端領域内の2つの疎水性クラスター間の相互作用を変化させることを発見しました。この構造変化は、従来考えられていた静電的な効果ではなく、疎水性相互作用の変化によって引き起こされることが分かりました。さらに、この構造変化が転写コアクチベーターとの結合に影響を与え、その結果として転写活性化能が変化することも明らかになりました。
この発見は、乳がんの薬剤耐性メカニズムの理解や新しい治療薬の開発に重要な示唆を与えるものです。また、タンパク質の無秩序領域の機能制御に関する一般的な知見としても価値があります。
腸管腫瘍の形成には、変異した腸管クリプトの密度と新しいエンハンサーの活性化が重要である
大腸がんの発生には、APC遺伝子の変異を持つ腸管クリプトが密集していることと、特定のエンハンサー領域の活性化が必要であることを示した研究です。
事前情報
大腸がんを引き起こす変異は、健康な腸管内に長期間存在しても必ずしもがんを引き起こさない
APC遺伝子の変異は大腸腺腫の最も一般的な初期イベント
腸管幹細胞は通常の自己複製や分化細胞の脱分化によって生じる
行ったこと
マウスモデルを用いてAPC遺伝子欠損の影響を調査
腸管クリプトの密度と腫瘍形成の関係を解析
腫瘍内の腸管幹細胞におけるクロマチン状態を解析
検証方法
2つの異なるマウスモデルを使用
クリプト密度の操作実験
クロマチンアクセシビリティ解析
遺伝子発現解析
分かったこと
APC遺伝子の欠損だけでは腫瘍形成は起こらない
変異したクリプトの密度が腫瘍形成に重要
腫瘍化に伴い数千個の新しいエンハンサーが活性化される
研究の面白く独創的なところ
腫瘍形成には単一の変異だけでなく、変異細胞の空間的な配置が重要であることを示した
腫瘍特異的なエンハンサー活性化という新しい制御メカニズムを発見した
この研究のアプリケーション
大腸がん予防法の開発
新しい治療標的の同定
がん早期診断マーカーの開発
著者と所属
Liam Gaynor Dana-Farber Cancer Institute
Harshabad Singh - Dana-Farber Cancer Institute
Ramesh A. Shivdasani - Dana-Farber Cancer Institute, Harvard Medical School
詳しい解説
本研究は、大腸がんの発生メカニズムについて重要な知見を提供しています。APC遺伝子の変異は大腸がんの主要な原因として知られていますが、この研究では変異だけでは不十分で、変異を持つ腸管クリプトが密集していることが腫瘍形成に必須であることを示しました。さらに、腫瘍化の過程で数千個の新しいエンハンサー領域が活性化され、これが腫瘍特有の遺伝子発現パターンを確立することを明らかにしました。これらの発見は、大腸がんの予防や治療法開発に新しい視点を提供します。
最後に
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