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論文まとめ580回目 Nature (カリフォルニア大学)カチオン性ペプチドがエンドフィリンを介して記憶を消去する新しい仕組みを発見!?など

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなNatureです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


 一口コメント

Cationic peptides cause memory loss through endophilin-mediated endocytosis
カチオン性ペプチドはエンドフィリンを介したエンドサイトーシスによって記憶喪失を引き起こす
「私たちの記憶は脳内のシナプスという神経細胞同士の接続部分で保持されています。この研究では、プラスの電荷を持つペプチドが、記憶の保持に重要なAMPA受容体というタンパク質を細胞内に取り込んでしまうことで、記憶が消えてしまうメカニズムを発見しました。この過程には「エンドフィリン」というタンパク質が必要で、この仕組みを理解することで、将来的には外傷性脳損傷などの治療に応用できる可能性があります。」

Targeting protein–ligand neosurfaces with a generalizable deep learning tool
タンパク質-薬物のネオサーフェスを標的とする汎用的な深層学習ツールの開発
「私たちの体内のタンパク質は、薬を飲むと薬と結合して新しい表面(ネオサーフェス)を作り出します。この研究では、そのネオサーフェスを特異的に認識する新しいタンパク質を、人工知能を使って設計することに成功しました。この技術により、薬の投与によって初めて機能するタンパク質スイッチの開発が可能になり、より安全な細胞治療法の開発などへの応用が期待されます。」

Methane emissions from the Nord Stream subsea pipeline leaks
ノードストリーム海底パイプラインからのメタン排出量
「2022年9月、バルト海の海底に敷設された天然ガスパイプライン「ノードストリーム」が破損し、大量のメタンガスが漏出しました。この研究では、様々な観測データと最新のシミュレーションを組み合わせ、漏出したメタンの総量が46.5万トンと算出されました。これは単一事象としては史上最大の漏出量です。ただし、この量は2022年の世界の人為的なメタン排出量のわずか0.1%に相当することも判明しました。」

Pathogenesis of bovine H5N1 clade 2.3.4.4b infection in Macaques
乳牛由来H5N1クレード2.3.4.4bウイルスのマカク感染における病態発生
「2024年3月にアメリカのテキサス州で乳牛から検出された高病原性鳥インフルエンザH5N1ウイルスについて、人への感染リスクを評価するため、サルを使って実験を行いました。鼻や気管から感染させると呼吸器症状が出ましたが、経口感染では軽度の感染に留まりました。これは、ウイルスに汚染された生乳を飲んでも重症化のリスクは比較的低い可能性を示唆しています。」

Bilayer nanographene reveals halide permeation through a benzene hole
二層ナノグラフェンがベンゼン環の穴を通じたハロゲンイオンの透過を明らかにする
「グラフェンは炭素原子が六角形の網目状に並んだ薄膜材料です。この研究では、グラフェンの一部を切り取ったナノサイズの構造を2枚重ねて、その中央にベンゼン環1つ分(約1.4オングストローム)の穴を作りました。この穴を通して、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオンが透過できることを世界で初めて実証しました。一方、より大きなヨウ素イオンは透過できないことも分かりました。」

De novo designed proteins neutralize lethal snake venom toxins
人工設計タンパク質による致死性ヘビ毒素の中和
「毒ヘビに噛まれる事故は発展途上国で年間200万件以上発生し、10万人以上が命を落としています。現在の治療法は動物の血液から作る抗毒素ですが、高価で副作用も多く、特定の毒素に対して効果が低いという問題があります。この研究では、AIを使って毒素に特異的に結合するタンパク質を1から設計し、試験管内と動物実験の両方で毒素を無害化することに成功しました。この技術は安価で大量生産が可能な次世代の抗毒素治療につながる可能性があります。」


 要約

 カチオン性ペプチドがエンドフィリンを介して記憶を消去する新しい仕組みを発見

カチオン性ペプチドが記憶の消失を引き起こすメカニズムを解明した研究です。このペプチドは、エンドフィリンA2を介したエンドサイトーシスによってAMPA受容体を細胞内に取り込むことで、記憶の保持に重要なシナプスの機能を低下させることが分かりました。

事前情報

  • ZIPペプチドは記憶の維持とLTPを阻害することが知られていた

  • ZIPの標的とされていたPKMζを欠損したマウスでも学習・記憶は正常だった

  • ZIPがどのように記憶に影響を与えるのかそのメカニズムは不明だった

行ったこと

  • カチオン性ペプチドのAMPA受容体への影響を細胞培養実験で検証

  • エンドサイトーシスの関与を薬理学的に検討

  • 記憶への影響を行動実験で確認

  • 外傷性脳損傷モデルでの治療効果を検証

検証方法

  • SEP-GluA1発現細胞を用いた蛍光測定

  • 初代培養神経細胞での電気生理学的記録

  • 拡張顕微鏡法によるナノクラスター解析

  • 恐怖条件付け学習による記憶テスト

分かったこと

  • カチオン性ペプチドはその正電荷によってAMPA受容体の内在化を引き起こす

  • この過程にはエンドフィリンA2を介したエンドサイトーシスが必要

  • マクロピノサイトーシス阻害剤でこの効果は抑制される

  • 局所投与により特定の記憶を選択的に消去できる

研究の面白く独創的なところ

  • カチオン性ペプチドの作用機序が電荷依存的という新発見

  • エンドフィリンA2の関与を特定

  • 記憶の選択的な操作が可能であることを示した

  • 従来の仮説とは異なる作用メカニズムを解明

この研究のアプリケーション

  • 外傷性脳損傷の治療法開発

  • PTSDなどの記憶関連疾患への治療応用

  • シナプス可塑性の研究ツールとしての利用

  • 新しい記憶改変技術の開発

著者と所属

  • Eric G. Stokes コロラド大学アンシュッツ校薬理学大学院プログラム

  • Jose J. Vasquez - カリフォルニア大学アーバイン校生理学・生物物理学部門

  • Kevin T. Beier - カリフォルニア大学アーバイン校生理学・生物物理学部門

詳しい解説

この研究は、カチオン性ペプチドによる記憶消失のメカニズムを詳細に解明しました。これまでZIPペプチドはPKMζを阻害することで記憶を消失させると考えられていましたが、本研究ではペプチドの持つ正電荷そのものが重要であることを発見しました。カチオン性ペプチドは、エンドフィリンA2というタンパク質を介したエンドサイトーシスを引き起こし、シナプスに存在するAMPA受容体を細胞内に取り込むことで記憶を消失させることが分かりました。この効果は局所的に制御可能で、特定の脳領域の記憶だけを選択的に消去することができます。また、この知見を応用することで、外傷性脳損傷などの治療法開発にも道を開く可能性があります。


  タンパク質と薬物の複合体表面を認識する新しいタンパク質を人工知能で設計することに成功

タンパク質と薬物の複合体が形成する表面(ネオサーフェス)を特異的に認識する新規タンパク質を、幾何学的深層学習を用いて設計する手法を開発。Bcl2-venetoclax、DB3-プロゲステロン、PDF1-アクチノニンの3つの薬物-タンパク質複合体に対して特異的に結合するタンパク質の設計に成功し、実験的に検証。設計されたタンパク質は高い親和性と特異性を示し、細胞治療などへの応用が期待される。

事前情報

  • タンパク質間相互作用は生体内の重要な制御機構

  • 薬物結合により形成されるネオサーフェスを標的とする設計は困難

  • 深層学習によるタンパク質設計が進展しているが、薬物との複合体への応用は限定的

行ったこと

  • 幾何学的深層学習による表面パターン認識手法MaSIFを拡張し、MaSIF-neosurfを開発

  • 3つの薬物-タンパク質複合体に対する結合タンパク質を設計

  • 設計したタンパク質の構造解析と機能評価を実施

検証方法

  • 酵母ディスプレイによる結合活性スクリーニング

  • X線結晶構造解析とクライオ電子顕微鏡による構造決定

  • 細胞内での薬物依存的な機能の評価

  • 変異体解析による結合様式の検証

分かったこと

  • MaSIF-neosurfは薬物-タンパク質複合体の表面特徴を適切に認識可能

  • 設計されたタンパク質は薬物存在下でのみ標的と結合

  • 結晶構造は計算モデルと高い一致を示す

  • 細胞内でも薬物依存的なスイッチとして機能

研究の面白く独創的なところ

  • 従来困難だった薬物-タンパク質複合体を標的とする設計を実現

  • 表面の幾何学的・化学的特徴の抽出により、少ないデータでも汎用的な設計が可能

  • 計算設計と実験的検証の組み合わせにより、高い精度で機能する分子を創出

この研究のアプリケーション

  • 安全性の高い細胞治療用スイッチの開発

  • 新規バイオセンサーの設計

  • 分子グルーなど新しい創薬モダリティの開発

  • 合成生物学における制御システムの構築

著者と所属

  • Anthony Marchand スイス連邦工科大学ローザンヌ校

  • Stephen Buckley - スイス連邦工科大学ローザンヌ校

  • Bruno E. Correia - スイス連邦工科大学ローザンヌ校

詳しい解説

本研究は、タンパク質と薬物の複合体が形成する特異的な表面(ネオサーフェス)を認識する新規タンパク質の設計手法を確立したものです。研究チームは、幾何学的深層学習を用いた表面パターン認識手法MaSIFを拡張し、薬物-タンパク質複合体に適用可能なMaSIF-neosurfを開発しました。この手法により、複合体表面の幾何学的・化学的特徴を効率的に抽出し、それを認識するタンパク質を設計することが可能になりました。
実際に3つの異なる薬物-タンパク質複合体(Bcl2-venetoclax、DB3-プロゲステロン、PDF1-アクチノニン)に対して結合タンパク質を設計し、実験的に機能を検証しました。設計されたタンパク質は薬物存在下でのみ標的と結合し、高い特異性を示しました。また、結晶構造解析により、設計モデルと実際の構造が高い精度で一致することも確認されました。
さらに、設計されたタンパク質を用いて細胞内で薬物依存的なスイッチを構築し、実際の応用可能性も実証しています。この技術は、より安全な細胞治療法の開発や新しい創薬アプローチの確立につながる可能性があります。


 北欧パイプラインからのメタン漏出量は過去最大規模の46.5万トンと判明

2022年9月に発生したノードストリームパイプライン破損事故によるメタン漏出量を、様々な観測データとシミュレーションを組み合わせて包括的に分析しました。その結果、総漏出量は465±20千トンと推定され、これは単一事象としては過去最大規模でしたが、2022年の世界の人為的メタン排出量の約0.1%に相当することが分かりました。

事前情報

  • バルト海底に敷設された天然ガスパイプラインが破損

  • 複数の手法で漏出量を推定する試みがあったが、結果にばらつきがあった

  • メタンの大気・海洋への影響を正確に把握する必要があった

行ったこと

  • パイプラインの物理的パラメータに基づくシミュレーション実施

  • 海洋観測データの分析

  • 衛星・航空機・地上観測所のデータ解析

  • 複数の手法を組み合わせた総合的な評価

検証方法

  • PBREAKとCATHAREの2つのシミュレーションモデルを使用

  • 海洋溶解・大気放出のモデリング

  • 衛星・航空機による直接観測データとの比較

  • 地上観測所での濃度測定値との照合

分かったこと

  • 総メタン漏出量は465±20千トン

  • 単一事象としては過去最大規模

  • 2022年の世界の人為的メタン排出量の0.1%に相当

  • 海洋への溶解量は比較的少なかった

研究の面白く独創的なところ

  • 複数の独立した観測・計測手法を組み合わせた包括的アプローチ

  • シミュレーションと実測データの統合による高精度な推定

  • 環境影響の定量的評価に成功

この研究のアプリケーション

  • 大規模メタン漏出事故の環境影響評価手法の確立

  • 温室効果ガス排出監視システムの改善

  • グローバルメタン削減目標達成への知見提供

著者と所属

  • Stephen J. Harris 国連環境計画国際メタン排出観測所

  • Stefan Schwietzke - Environmental Defense Fund Europe

  • James L. France - ロンドン大学ローハンプトン校

詳しい解説

本研究は、2022年9月に発生したノードストリームパイプライン破損事故による史上最大規模のメタン漏出について、包括的な分析を行いました。複数のシミュレーションモデルと、海洋・衛星・航空機・地上観測所からの多様なデータを組み合わせることで、高精度な排出量推定を実現しました。その結果、総メタン漏出量は465±20千トンと算出され、これは単一事象としては過去最大規模でした。しかし、この量は2022年の世界の人為的メタン排出量のわずか0.1%に相当することも明らかになり、日常的な人為的排出源の削減の重要性が浮き彫りになりました。


 乳牛のH5N1鳥インフルエンザウイルスの感染経路とヒトへの感染リスクを霊長類モデルで解明

カニクイザルを用いて、乳牛由来H5N1ウイルスの感染経路による病態の違いを調査した研究です。

事前情報

  • 2022年初頭から米国で野鳥や家禽にH5N1が蔓延し、哺乳類への感染も報告

  • 2024年3月にテキサス州の乳牛で初検出され、その後も複数の州で感染が継続

  • 感染乳牛では乳量・乳質が低下し、乳中のウイルス量が高値

行ったこと

  • カニクイザルに異なる経路でウイルスを感染させる実験を実施

  • 鼻腔内、気管内、経口の3つの感染経路を検証

  • 各感染経路による症状と感染動態を比較分析

検証方法

  • カニクイザルをヒトの感染モデルとして使用

  • 感染後の症状観察と検体採取を実施

  • ウイルス量測定と抗体価の測定を実施

分かったこと

  • 鼻腔内感染では軽度の呼吸器症状

  • 気管内感染では重度の呼吸器症状

  • 経口感染では症状はほとんどなく、限定的な感染

研究の面白く独創的なところ

  • 乳牛由来H5N1の感染経路による病態の違いを初めて体系的に解明

  • 経口感染のリスク評価を具体的に示した最初の研究

  • ヒトへの感染リスク評価に重要な科学的根拠を提供

この研究のアプリケーション

  • 乳製品を介したヒトへの感染リスク評価への活用

  • 公衆衛生対策への科学的根拠の提供

  • 感染予防策の策定への活用

著者と所属

  • Kyle Rosenke 米国国立アレルギー感染症研究所 ウイルス学研究室

  • Amanda Giffin - 米国国立アレルギー感染症研究所 ウイルス学研究室

  • Heinz Feldmann - 米国国立アレルギー感染症研究所 ウイルス学研究室

詳しい解説

本研究は、2024年3月以降米国で問題となっている乳牛のH5N1鳥インフルエンザウイルス感染について、ヒトへの感染リスクを評価するために行われました。カニクイザルを用いた実験により、感染経路によって症状の重症度が大きく異なることが判明しました。特に注目すべき点は、経口感染では症状がほとんど見られなかったことです。これは、ウイルスに汚染された生乳を介したヒトへの感染リスクが、当初懸念されていたほど深刻ではない可能性を示唆しています。ただし、鼻腔や気管からの感染では明確な呼吸器症状が確認されており、農場での作業時には適切な感染予防対策が必要であることも示されました。


 ナノグラフェンの二層構造に形成されたベンゼン環サイズの穴を通じてハロゲンイオンが透過することを世界で初めて実証

ナノサイズのグラフェン分子を合成し、それらを2枚重ねて中央にベンゼン環サイズの穴を持つ構造を作製。この穴を通じてフッ素イオン、塩素イオン、臭素イオンが透過できることを実証した研究。

事前情報

  • グラフェンは水素以外の原子が透過できない性質を持つ

  • グラフェンに欠陥を導入することで選択的な気体透過が可能になる

  • イオンの透過に関する研究は淡水化や分離技術への応用が期待される

  • ハロゲンイオンの透過現象の詳細な観察はこれまで行われていなかった

行ったこと

  • ベンゼン環サイズの穴を持つナノグラフェン分子を合成

  • 2枚のナノグラフェンを重ねて安定な二層構造を形成

  • ハロゲンイオンの透過実験と結晶構造解析を実施

  • 理論計算によるエネルギー障壁の評価

検証方法

  • 核磁気共鳴分光法による二層構造形成の確認

  • 単結晶X線構造解析による詳細な構造決定

  • 2D EXSY NMRによる動的過程の観察

  • 理論計算による透過メカニズムの解明

分かったこと

  • フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオンは穴を透過できる

  • ヨウ素イオンは大きすぎて透過できない

  • フッ素イオンの透過は障壁がほとんどない

  • 塩素イオンと臭素イオンは有意な障壁を持つ

  • 穴の内部で12個のC-H···X-水素結合が形成される

研究の面白く独創的なところ

  • 原子レベルで正確な大きさの穴を持つナノ構造の合成に成功

  • 穴のサイズによるイオン選択性を初めて実証

  • 超分子化学的なアプローチで単分子レベルの透過現象を観察

この研究のアプリケーション

  • 選択的なイオン分離膜の開発

  • 人工的な塩素イオンチャネルの創製

  • ハロゲン電池材料への応用

  • イオン検出センサーの開発

著者と所属

  • M. A. Niyas ヴュルツブルク大学有機化学研究所

  • Kazutaka Shoyama - ヴュルツブルク大学有機化学研究所、ナノシステム化学センター

  • Frank Würthner - ヴュルツブルク大学有機化学研究所、ナノシステム化学センター

詳しい解説

本研究は、グラフェン材料におけるイオン透過現象を分子レベルで理解する画期的な成果を挙げました。研究チームは、ベンゼン環1つ分の大きさ(約1.4オングストローム)の穴を持つナノグラフェン分子を精密に合成し、それらを2枚重ねて安定な構造を作り出すことに成功しました。この二層構造の中央には、12個のC-H結合に囲まれた空間が形成され、そこにハロゲンイオンが捕捉されることを発見しました。
実験と理論計算の結果、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオンは穴を通過できるのに対し、より大きなヨウ素イオンは通過できないことが分かりました。特にフッ素イオンはほとんど障壁なく透過できる一方で、塩素イオンと臭素イオンは有意なエネルギー障壁を持つことが明らかになりました。
この研究成果は、グラフェンを用いたイオン分離膜や選択的なイオン輸送チャネルの開発に向けた重要な知見を提供するものです。


 AI設計タンパク質による毒ヘビ毒素の中和・無毒化に成功

AIを用いてヘビ毒の主要な毒性成分である3種類の毒素(短鎖α神経毒、長鎖α神経毒、細胞毒)に特異的に結合し無毒化するタンパク質を設計・開発しました。これらは試験管内実験でヘビ毒を効果的に中和し、動物実験でも致死量の毒素から生存を保護することができました。

事前情報

  • 毒ヘビによる咬傷は年間200万件以上発生し、10万人以上が死亡する重大な公衆衛生問題

  • 現行の治療は動物由来の抗体を用いた高価な抗毒素

  • Three-finger toxin(3FTx)ファミリーの毒素は特に重要な標的だが、現行の治療では十分な効果が得られていない

行ったこと

  • RFdiffusionと呼ばれるAIを使用して3種類の3FTx毒素に結合するタンパク質を設計

  • 設計したタンパク質の結合力や安定性を実験的に評価

  • X線結晶構造解析で設計通りの構造であることを確認

  • 試験管内および動物実験で毒素の中和能を検証

検証方法

  • 表面プラズモン共鳴法で毒素との結合親和性を測定

  • パッチクランプ法で神経毒の機能的中和を確認

  • 細胞生存率アッセイで細胞毒の中和を評価

  • マウスを用いた致死量投与実験で生体内での効果を検証

分かったこと

  • 設計したタンパク質は予測通りの構造を持ち、高い熱安定性を示した

  • 神経毒に対する結合親和性は1-2ナノモル程度と非常に強力

  • 試験管内で効果的に毒素を中和し、マウスを致死量から保護

  • 毒素特異的で、標的外の毒素には効果を示さない

研究の面白く独創的なところ

  • AIによる完全な人工設計で毒素に結合するタンパク質の作製に成功

  • 従来の抗体開発と異なり、動物免疫や大規模スクリーニングが不要

  • 小型で安定なタンパク質設計により、低コストでの生産が可能

  • 毒素の重要な部位を狙った合理的な設計戦略

この研究のアプリケーション

  • より安価で効果的な次世代抗毒素治療薬の開発

  • 既存の抗毒素を補強する補助的治療薬としての使用

  • 他の毒素タンパク質に対する中和剤の設計への応用

  • 低資源環境での医薬品開発手法としての活用

著者と所属

  • Susana Vázquez Torres ワシントン大学生化学部、タンパク質設計研究所

  • Timothy P. Jenkins - デンマーク工科大学バイオテクノロジー・バイオメディシン学部

  • David Baker - ワシントン大学生化学部、タンパク質設計研究所、ハワードヒューズ医学研究所

詳しい解説

この研究は、AIを用いたタンパク質設計技術により、毒ヘビの主要な毒素を無毒化する新しいアプローチを示しました。研究チームは、3FTxファミリーに属する3種類の重要な毒素(短鎖α神経毒、長鎖α神経毒、細胞毒)それぞれに対して、特異的に結合して機能を阻害するタンパク質を設計しました。
設計されたタンパク質は、試験管内実験で予測通りの構造を持ち、高い安定性と強力な結合力を示しました。特に重要なのは、これらが実際に毒素の機能を阻害できることを、神経細胞や培養細胞を用いた実験で実証したことです。さらに、マウスを用いた実験では、致死量の毒素投与に対して予防的および治療的な効果を示しました。
この成果は、従来の動物免疫による抗体開発とは異なり、完全な人工設計によって達成されました。設計されたタンパク質は小型で安定性が高く、大腸菌での生産が可能なため、低コストでの製造が期待できます。これは、特に発展途上国における抗毒素治療のアクセス改善につながる可能性があります。


最後に
本まとめは、フリーで公開されている範囲の情報のみで作成しております。また、理解が不十分な為、内容に不備がある場合もあります。その際は、リンクより本文をご確認することをお勧めいたします。