Google PhD Fellowship 2024採択と応募過程について
Note初投稿になります。ドイツ Saarland University Computer Science PhD課程 三年目の神宮 亜良太と言います。Human-Computer Interaction、AR/VR、Haptics等の研究をしております。過去の研究・経歴等の詳しい情報は自分のwebsite、CVをご覧いただければと思います。本記事は船井情報科学振興財団の報告書に書いた内容と同じです。
Google PhD Fellowship 採択
大変光栄なことに、2024年度のGoogle PhD Fellowshipに採択されました。本記事ではGoogle Fellowshipに関する情報と自身の応募過程をシェアしたいと思います。僕も過去に採択された先輩PhD達の情報を参考にさせていただいたので、この記事が今後応募される方の参考になれば良いと思います。

そもそもPhD Fellowshipとは?
一般的にPhD Fellowshipとは、応募者の中から選ばれたPhDに対して金銭補助を行うプログラムのことです。IT企業から公的機関まで様々なPhD Fellowshipが存在し、その中でGoogle PhD Fellowshipは最も有名かつ競争率が高いものの一つです。またPhD Fellowshipは毎年必ず募集されるわけではなく、例えばMetaは2023年度で、Microsoftは2022年度で募集を一旦終了しています。
Google PhD Fellowship
Google PhD Fellowshipは複数のCS研究分野(Algorithms and Theory, Machine Intelligence等)に対して募集をかけており、世界中の応募から数名のPhDが各分野において選出されます。僕は"Human-Computer Interaction and Visualization"分野での採択でした。
ヨーロッパ在住の採択者に対しては二年分のFund (給料、学費、健康保険、学会渡航費、研究費等)が与えられ、一人のGoogle Research Mentorがつきます。僕のメンターにはDr. David KimというAR/VR/CV分野で大変有名なGoogleの研究者がつきました。金銭的に言えば、もしFellowshipに採択されていなくても研究室から同等の給料等が出たので、特にリッチになるわけではありません。しかし、Google PhD Fellowshipは分野を超えて知られている上、Googleとのコネクションもできるため、PhDにとって非常に価値の高いものだと思います。特に束縛も無く、例えばGoogle Fellowshipにサポートされている間でも他の企業で研究インターンすることは問題ないそうです。
選出過程
Google PhD Fellowshipに応募できるのは一つの大学から2--3人と決まっており、Google内の選考以前にまず学内選考があります。学内選考のやり方は学校によって違い、僕の場合は2024年4月頭に自分がFellowship枠に選出されたことを突然伝えられました。5月頭までにGoogleに書類提出する必要があったため、そこから研究提案書や推薦状のお願い等を急ピッチで進めました。いくつか応募要件があり、例えばFellowshipに選出された場合はサポート期間中は学校に所属する(卒業までに余裕があるPhDしか応募できない)、他のindustry fellowhsipを受給しているPhDは応募できない、等を満たす必要があります。
応募書類提出後、2024/8/30に採択メールがありました。Google Europeの方からメールが来たこと、提出書類が地域ごとに違ったことを考えると、地域ごとに選出者が決められているのかもしれません。
提出書類内容
進行途中の研究内容が含まれるため、実際に提出した文章は公開できませんが、研究提案書の構成だけシェアしたいと思います。今年度のGoogle Fellowshipの研究提案書は、引用抜きで最大3ページまでと決まっていました。自分はdouble-column・図付きで、Introduction(0.5p)、これまでの研究(1.5p)、これから進める研究案(0.75p)、Googleとの関連(0.25p)という構成で書きました。PhD Fellowshipへの応募ということで、今後のProposalというよりも、どういうPhD Dissertationを書くかという事を強調したかったので、これまでのPhD研究についてもしっかり書きました。応募書類はGoogle内の研究者やエンジニアが読んで評価を決めるそうですが、自分の分野に詳しい人だけが読むとは限らないため、なるべく導入をわかりやすく書きました。Fellowshipに採択される確率は非常に低く、具体的な研究アイデアをGoogleの研究者にタダで見せたくなかったので、これからの研究案については最低限で済ませました。提案書のブラッシュアップに付き合ってくれた指導教官や同僚、推薦状を書いてくださった先生方に感謝します。
選出結果
採択メールから大分時間が経ち、2024/11/13に選出結果が公式サイトで発表されました。自分の領域(HCI)の受賞者は7名で、面白いことに、自分以外の人は全員Human-AI Interaction/GenAI/LLMの研究を専門にしているPhDでした。GenAIが流行っていて研究人口がそもそも多いのか、Googleが意図的に選んだのか、たまたまそうなったのかはよくわかりません。その中でも、触覚というGoogleからしたらビジネス化が難しい分野をやってきた自分が選出されるということは、Googleが自分の研究提案にGenAIと同じくらいのポテンシャルを感じてくれたということですので、それを一つの自信にして研究に励もうと思います。

メンターとのミーティング
11月下旬にメンターのDavidとzoomミーティングをしました。自分の研究について改めて説明したのと、将来的なインターンや共同研究の可能性などについて話し合いました。一つ面白かったのは、GoogleはAndroidやChromeといった数十億人が使用する覇権プラットフォームをデフォルトで持っていることから、"このプラットフォームを使ってどうやってスケールする体験をユーザに提供するか"という視点で研究を行っていることです。これはもしかしたら視聴覚メディアの研究者にとっては当然のことなのかもしれませんが、僕のような触覚デバイス系の研究者にとっては強い制約でありつつも新しい体験を生みだす視点になると思います。このミーティングがどういう方向に転ぶかわかりませんが、これからが楽しみです。
全体的な感想
Fellowshipに応募するのは手間がかかりましたが、リターンはとても大きかったです。もしFellowshipに通らなかった場合でも、自分の研究を一つのビジョンとしてまとめるのは博論の良い訓練になりますし、応募をきっかけにリクルーターからインターンの誘いがあったというケースも聞いたことがあります。皆さんも機会があったらぜひ応募してみると良いと思います。