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マイ・ディア・ミスターに魅いられて、巡り会えた感情の羅列(マイディアミスター感想)

韓国ドラマの根底を覆す一本

Netflixを媒体とし、『愛の不時着』や『梨泰院クラス』を始めとした第四次韓流ブーム。正に私はその波に飲まれた視聴者の一人であった。

先の二作品を皮切りに、様々なジャンルを開拓後、次の作品を模索中に、ふとおすすめ欄に出現したこの作品。調べると、2019年ドラマ作品賞と脚本賞をダブル受賞し、百想芸術大賞も受賞した作品との事。
「まあ賞とってるし試しに見てみるか...」
安直な気持ちで視聴したのも束の間、完走後間違いなく人生で最も敬愛するドラマへと昇華される。

そんな衝撃から一ヶ月...
視聴後に私を襲った虚無感は、誰にも話せず、未だ気化することなく彷徨い続けている。だからせめてnoteを介し、少しでもこの感情を共有したい。
言語化できないこの感情を、言語化して届けたいという矛盾から、私は今、拙い文章でnoteを綴っている。どうか多少は目を瞑ってほしい。

ラブストーリーという枠組みから
逸脱していく韓国ドラマ

一重に韓国ドラマといえば、女性向けのキュンキュンしたラブストーリーを想起する方が多いだろう。しかし近年、数多のドラマが普及する中、他と一線を画す為、様々なジャンルへと派生を続けている。

マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜は、韓国で急増している"ヒーリングドラマ"と呼ばれるジャンル。過去に大きなトラウマを抱える者や、精神疾患の者達へスポットライトを当てた物語の名称。最近でいえば、『サイコだけど大丈夫』も該当するのではないだろうか。

あらすじ
建設会社で働くドンフンにある日、差出人不明の5000万ウォンの商品券が届く。偶然それを目にしたジアンは、それを盗む事を計画するが、ドンフンに気づかれてしまう。その後ドンフンは、彼女の過去や孤独に直面していくことになり...

■キャスト

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イ・ジアン(IU)
介護が必要な祖母と2人暮らし。ドンフンの部署で派遣社員として働いているが、過去の事件から周囲とは関わりを持たずに生きている。ある目的のためにドンフンに近づくが、彼の誠実さに少しずつ心を開きはじめる。

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パク・ドンフン(イ・ソンギュン)
建築会社で働く。社内政治に巻き込まれたことをきっかけに、ジアンと関わりをもつようになり、彼女の孤独へと触れていく。

キャストの演技

この作品はイ・ソンギュン演じるパク・ドンフンと、IU演じるイ・ジアンの二人の主人公を軸として動いていく物語だが、何と言ってもこの二人の演技力が、物語の良さをより際立たせている。

ジアンは過去の事件から孤独に生き、ある理由から借金を抱え、動けない祖母までも介護している。そんな絶望の淵を演じたIUは撮影当初、ひどい体調不良に陥り、損害を自ら弁償する条件を提示し、降板を申し出た。
監督が説得し、最後まで演じきった彼女だが、まさに演者本人の苦しみが役にそのまま投影されたのではと思う程、リアルで、圧巻の演技であった。

ドンフンは三兄弟の次男。兄弟二人が定職につかず、実家暮らしの反面、只一人大手企業に勤め、家族から最後の希望として祀り上げられる。そんな日常の閉塞感をイ・ソンギュンが見事に演じきっている。

盗聴の先に

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この物語を語る上で、切っても切り離せないのが盗聴である。
ドンフンの上司であるト・ジュニョン(キム・ヨンミン)は、ドンフンの妻であるカン・ユニ(イ・ジア)と不倫関係であり、彼にとってドンフンは、同じ会社に勤めている愛人の夫であり、謂わば邪魔な存在。ジアンはジュニョンに、1000万ウォンと引換に、ドンフンを会社から追い出すと取引を持ちかける。そしてドンフンの携帯に盗聴アプリを仕掛け、動向を探っていく。

当初はドンフンを追放する為に盗聴を続けるが、イヤホンから響く彼の足音、溜息、言葉その全てが哀しく、優しく....
盗聴を通じて芽生えた事のない感情に、人の温かさに気づかされていく。

「いい子だな 」

祖母の介護をするジアンに向かってドンフンが放った何気ない一言。
過去の事件を境に、人と隔絶したジアンにとって初めて投げかけられた優しい言葉。
日常に飛び交うようなありきたりな言葉でも、彼女にとっては救いで...
録音した盗聴アプリを介して、そのたった一言を、何度も何度も再生する姿には自然と頬に涙が伝う。

物語の転換点


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起承転結をこの物語に当て込むとすれば、間違いなく『転』は七話に該当すると考える。終始苦しい描写が繰り返された前六話。しかし、七話の最終シーンでは、そんな二人に一筋の光が差し込んだ。

「幸せになろう」

ドンフンがジアンに伝えた、この物語の糧となる台詞。そして次に映し出された二人の描写は、暗闇から未来へと舵を切る大きな転換点となった。
余りにも美しいこの場面は、私がマイ・ディア・ミスターの好きなシーンランキングで不動の1位を確立している。(僅差がたくさんあるのは内緒)

序盤の救いようのない絶望に、途中離脱してしまった方、今一度重い腰を上げ、七話まで刮目してほしい。きっと手を差し伸べてくれる。

紐解く本作の“メッセージ”


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本作のテーマを私なりに、至極簡潔に伝えると
”人と人” ”心と心”

ジアンの境遇を知り目を伏せる事もできたドンフンが、心を通わせ、ジアンの足長おじさんとなること。ドンフンを陥れ、お金を奪うこともできたジアンが、優しさに共鳴し、ドンフンに救いの手を差し伸べること。それぞれが、心と心を通わせた、
人と人との”尊い縁”だという事に気付かされる。

死にかけている俺を君が生き返らせたー
ー私はおじさんに会い初めて生きた気がします

彼が彼女に、彼女が彼に、そして私がこの作品に出会えたことは、偶然でも必然でもなく、不思議で尊い縁。本作は、縁をどうか大切に、幸せに生きていこうというメッセージが込められていると私は考える。事実、縁という単語を私が連呼しているのは、本作の最終話で語られるテーマがまさにそれだからである。

主人公を綴るOST



ここまでただ衝動的に感情を吐露した訳だが、多くの方の視聴を臨んでいる為、極力ネタバレを避け、本作の100分の1の魅力も言語化できていないのが本音である。そこで是非一度、OSTを試聴して頂きたい。

主題歌であるSondiaの「Grown Ups」(ハングルだと어른)

疲れ果てた一日の終わりに落ちる涙
私はどこへ向かっているのだろう
傷ついた分は苦しんだと思っていたのに
いまだに残っているみたいだ
この広い世界でひとりでいるみたい
誰も私の心を見ようとせず
誰も

過去に傷つき、孤独を抱きしめるジアンの人生を謳った歌詞に、この物語の全体像が垣間見える。未視聴と視聴後で全く感じ方が違うので、OSTから導入も楽しみ方の一つ。イントロで心をギュッと掴まれるので、一楽曲として好きだと語る者も多い。



余談ではあるが、Grown Ups以外にも素晴らしいOSTを紹介したい。IUが作詞を担当した、JehwiのDear Moonだ。(リンクはIU本人の歌唱)

IUは番組のインタビューで、ジアンにとってドンフンは、”日の光というより月の光だと思う”と述べている。ジアンとして生きた彼女が、月であるドンフンへ率直に書き綴った、心に突き刺さる歌詞となっている。

さいごに

最後に、私がこの物語の中で最も好きな言葉を残す。


「どうってことない」


このnoteを通じて、一人でも多くの人が
この物語に出会えますように。


Netflix、Amazonプライムから視聴可能です。


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