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『サンダーマスク』のどこかズレてるけど普通すぎる空気感について。

 つい先日(5/26)、TBSラジオが午前中から実にマニアックな曲をオンエアした。『伊集院光とらじおと』の「アレコード」コーナーで、何の予告もなく昭和の特撮ソングが流れたのだ。

「サンダーマスク/若木ヒロシ、ザ・フレッシング・フォー、みすず児童合唱団」

 渡辺岳夫作曲(『ゆけゆけ飛雄馬』でもおなじみ)による王道のヒーローソングで「これはアレコードなのか?」という反応もあったが、「とことんまでにやっつける~↘」の半音ズレた感じと「サンダー」連呼の平坦さは以前からずっと気になっていた。
 子門真人や水木一郎、ささきいさお、ヒデ夕樹といったアニソン歌手による特徴的な楽曲と違い、これといったクセも無く実に分かりやすい。自分もソラで歌えます。

 だが主題歌ではなく『サンダーマスク』本編を語るとなると難しい。2021年現在まで一度もソフト化されず、かつての再放送時に録画された映像に頼るしか無いのだ。なんでも製作プロダクションと広告代理店との間で権利関係が複雑化し、扱おうにも手がつけられないからだとか……とはいえ特撮関係のツテは持っておくもので、何話かは十数年前に初めて鑑賞出来た。ありがたい話である。
 もっとも「面白かったですか?」と聞かれたら首を傾げてしまうのだが。

 サンダーマスクそのものは人間大と巨大化の両方で戦うヒーローであり、いうなれば仮面ライダーとウルトラマンの要素を兼ね備えたハイブリッドな存在でもある。成田マキホがデザインした魔獣も個性的で大変よろしい。

 ただその一方で本作は、
「魔王デカンダの地球侵略計画を予知し、それを阻止すべくサンダー星から地球に派遣されたが、宇宙船の速度が早すぎて1万年も早く来てしまったので長い眠りについていた」
「主人公が魔王の策略に嵌り、その頭脳を狂った魔獣シンナーマンのそれと交換されてしまう(この回のサブタイトルは『サンダーマスク発狂』)」
 といった斜め上の設定や展開でよくツッコまれる。にもかかわらず、作品全体の雰囲気は割と普通でどこか地味だ。

 特にドラマパートの物足りなさはどうやっても拭えない。主人公と彼がその一員となる高瀬宇宙研究所、そして地球防衛の任務に就く科学パトロール隊と登場人物は多めだが、研究所の人は割とドラマに関わってくるのに対して科学パトロール隊の描写は隊長格の人とその他大勢という感じにとどまり、何とも雑な印象がある

 そのせいか、例えば誰かしらがピンチに陥るシーンの場合、そういったシーンは描かれていても物足りなさを感じてしまう。もっと煽ったりこだわったりしてもよかったのになぁ、とついつい考えてしまう。「ツッコミどころがあるのに割と普通で、どこか地味」と書いたのはそのせいだ。

 とはいえ現場はかなりの低予算だった(※ウルトラよりも安くライダーよりも少し多いくらいだった)と聞く。そんな状況下で実に意欲的な設定を持つヒーローを描くとなれば、とんでもない苦労があったのではないか。

 かつて庵野秀明監督は実写版『キューティーハニー』の際に、準備段階で製作会社の都合から予算を半分以上も減額されてしまい、当初書いた脚本の内容を維持できる状態ではなかったという。しかし長らく待たされた企画だったため「今更止めるのも辛いからと無茶を承知で始めたが、当然無茶だった」。やりたいことが出来ず、やれることだけをやる日々だった、と語っている。

 もしかしたら『サンダーマスク』も同様に、こだわろうとしても出来ない状況だったのかもしれない。スタッフの中にはゴジラや東宝特撮でおなじみの本多猪四郎監督や、脚本では上原正三や藤川桂介氏の名前もある。彼らの手をもってしても難しかった、と考えると自分の述べた「割と普通で、どこか地味」という部分もどこか哀愁を帯びてくるような……

 特撮パートもやはり低予算ゆえの苦しさを感じるが、それでも毎回怪獣を登場させ、回によっては街で暴れさせミニチュアの破壊シーンもある。火薬や炎、そして少ないながら合成カットも使っている。頑張っているが、同時に「これが限界だったのかもな」と思わずにはいられない。そこもまた哀しい。

 等身大と巨大化、そして「斜め上の展開なのに、地味で普通すぎる雰囲気ゆえの哀愁」と「権利関係ゆえに封印状態という哀しさ」のハイブリッド、それがサンダーマスクである。主題歌に漂う「王道でありながら、平坦でどこかズレた感じ」はまさに作品そのものを体現しているのだ……てのは大袈裟か。

 自分も全てを観て語っているわけではないが、仮に解禁されたとしても再評価はされない気がする。先も書いた通り、普通すぎるからだ。
 21世になってから『行け!ゴッドマン』や『レッドマン』そして『チャージマン研!』といった作品がカルト化したものの、『サンダーマスク』は伝説の回こそあれど、そこまでのパワーは持ってない……というのが現時点での印象である。

 このまま埋もれてしまうのは惜しいし、ソフト化されたら買うかもしれないが、やはり首を傾げてるような、そんな気がする。

 

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