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きゅっきゅっ(1020文字)
4つ違いの弟がいる。
僕はチビでやせっぽっちだったけど、弟はでかくてでっぷりしていた。
僕はサッカーで補欠だったけど、弟は野球でエースピッチャーだった。
そんな弟と、小学生の頃は並んで寝ていた。
僕は繊細な子供で、眠りの世界に入るのが怖かった。
だから弟に提案した。
「手を繋いで寝ないか?」
いいよ、と弟は言った。
「手を繋ぎながら、そんでときどき、きゅっきゅっ ってやりあおう」
きゅっきゅっ? と弟は尋ねた。
「もう寝たかい? まーだだかい? って確認しあうんだよ」
寂しかったのだ、独りぼっちで意識を閉じることが。
弟は同意してくれて、僕たちは手を繋いで寝た。
1分も経たないうちに僕は、きゅっきゅっと確かめた。
弟の手が、きゅっきゅっと返してきた。
安心した。
3分くらい経って、今度は弟の手がきゅっきゅっとしてきた。
僕は、きゅっきゅっと返した。
そんなふうにして、5分も経つと弟は寝入ってしまうのであった。
きゅっきゅっとやっても、きゅっきゅっと返ってこない。
寝てしまったのだな――と思い、取り残された孤独を感じ、未練たらしくもう一度きゅっきゅっとやってみたりするのだけど、反応はなく、あきらめて、独りぼっちで眠りと対峙するのが常だった。
そんな弟も大人になり、結婚して、子供を作り――、それから僕らは仲違いをした。
母が他界したときですら弟は、僕に対して何も語らなかった。
きゅっきゅっとやっても返ってこない――。
自分の人生と向き合うしかなかった。
夜空を見渡すような気分になった。
人と人とは、星と星ほどに隔たっているのかもしれないな――。
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さっき、妻に尋ねてみた。
「そんなふうに、きゅっきゅっ ってやりながら寝ない?」
やだよ、と妻は応えた。だってあなたの手は冷たいもん――、だってさ!
冷たい女だ💦
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今夜も独り、眠りの入り口に向き合う僕なのであった。あひるのぬいぐるみのがあちゃんが入ったチビ寝袋を抱えながら。
――があちゃんは、僕の夢さき案内ダック🐣
――朝になるとがあちゃんは、あんまんみたいにあったかくなっている。
でも妻の声でこんなふうに言ったりもする。
🐣「パパのにおいがついていやだわぁ」
Σ(゚Д゚)!!
※写真:やすたにありささん
使わせてくださりありがとうございます😃✌️
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