「幻想水滸伝」の楽曲を無断でオーケストラアレンジに編曲した事件(東京地裁R4.9.8)〈著作権法判例紹介〉
「幻想水滸伝」シリーズの楽曲を、著名な作曲家・指揮者が無許諾でオーケストラアレンジしたとして、著作権者の株式会社コナミデジタルエンタテインメントが、配信の差止め、CDの廃棄、損害賠償などを請求した事案です。
被告は、「検討の過程における利用」(著作権法30条の3)に当たる、イスラエル著作権法で免責される、米国著作権法のフェアユース規定で許容されると反論しましたが、いずれも認められませんでした。裁判所は、楽曲の複製・送信の差止め、CDの複製・輸入・譲渡の差止め、CDの廃棄、165万円の損害賠償を命じました。
東京地裁令和4年9月8日
令和3年(ワ)第3201号 著作権侵害損害賠償等請求事件
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— 佐藤賢太郎 (Ken-P):作編曲家/指揮者/作詞家 (@wisemanprojectj) July 20, 2018
概要
前提事実
原告: 家庭用ゲーム、音楽CDの制作・販売。
被告: 音楽・映像プログラムの制作・販売会社とその代表社員。
楽曲: 原告楽曲に基づき被告が編曲。オーケストラ録音、ピアノ録音が行われた。
原告が主張する被告の侵害行為
編曲: 原告楽曲に依拠して譜面を作成し、オーケストラアレンジに編曲した(翻案権侵害)。
録音・複製: オーケストラ等により演奏・録音し、複製した(複製権侵害)。
譲渡・配信: 音楽配信サイト等で販売・配信した(譲渡権、公衆送信権侵害)。
輸入: 国外で制作されたCDを輸入した(著作権侵害)。
請求
著作権法112条1項に基づき、配信の差止め、CDの複製の差止め、廃棄、損害賠償を請求。
争点
争点1: 行為の主体
原告の主張
被告は楽曲の作成、録音・複製、CDの販売などの一連の行為を主導し、主要な役割を果たした。
被告らの主張
CDの制作と販売は別の会社。素材の準備や実演家の手配などを行っただけ。
争点2: 編曲行為による著作権(翻案権)侵害
原告の主張
原告楽曲を素材に編曲し、創作性を付加しているため、翻案権の侵害。
仮に創作性が否定される場合でも、複製権の侵害。
被告らの主張
原告楽曲の複製であり、翻案ではない。
「検討の過程における利用」(法30条の3)として許される。
イスラエル著作権法により免責される。
争点3: 録音・複製行為による著作権(複製権)侵害
原告の主張
浜松市でのピアノ録音は原告の複製権を侵害。
被告らの主張
ピアノ録音は検討素材であり、「検討の過程における利用」として許される。
争点4: 譲渡・配信行為による著作権(譲渡権、公衆送信権)侵害
原告の主張
音楽配信サイトで販売・配信され、譲渡権、公衆送信権の侵害。
被告らの主張
米国著作権法上のフェアユースの範囲内で適法に利用。
争点5: 輸入行為による著作権侵害(みなし侵害)
原告の主張
みなし侵害: 「国内において頒布する目的をもつて、輸入の時において国内で作成したとしたならば、著作権の侵害となるべき行為によつて作成された物を輸入する行為」(著作権法113条1項1号)
被告らの主張
CDを外国で製作し日本に送付する行為は「輸出」であり、「輸入」ではない。
ハンガリーでのオーケストラ録音は「検討の過程における利用」であり、みなし侵害には該当しない。
争点6: 原告の損害額
裁判所の判断
争点1: 行為の主体
被告は楽曲の制作において中心的な役割を果たし、編曲行為及び録音・複製行為の主体。
争点2: 編曲行為による著作権(翻案権)侵害
原告楽曲を素材として譜面を作成した。
被告はオーケストラを構成する楽器の選択やアレンジ手法に創意工夫を凝らし、新たな創作性を付加しており、「翻案」に当たり、翻案権を侵害。
被告は、譜面の作成は「検討の過程における利用」であり、イスラエル著作権法に基づき著作権者の許諾を必要としないと反論するが、譜面作成が日本国内で行われたため、認められない。
争点3: 録音・複製行為による著作権(複製権)侵害
浜松市でのピアノ録音は原告楽曲の複製で、複製権を侵害。
「検討の過程の利用」との反論は認められない。
争点4: 譲渡・配信行為による著作権(譲渡権、公衆送信権)侵害
CDの販売及び配信は著作権(譲渡権、公衆送信権)の侵害。
被告は米国著作権法のフェアユースに該当すると反論するが、日本の著作権法では認められない。
争点5: 輸入行為による著作権侵害(みなし侵害)
CDの輸入はみなし侵害に当たる。
争点6: 損害額
売上額は約378万円、制作費用は約317万円、利益は約61万円。
JASRACの使用料シミュレーションに基づき、使用料相当額は150万円。
結論
楽曲の複製・送信の差止め、CDの複製・輸入・譲渡の差止め、CDの廃棄、165万円の損害賠償が認められた。